GANMA!、クラシル、patersが実践する、定着率が伸びるアプリのユーザー体験とは
登壇者:コミックスマート株式会社 取締役の福西祐樹氏、dely株式会社 マーケティング本部の栗原聖氏、株式会社paters MAUチーム リーダーの南園秀人氏。オンボーディングで重要なのは、1.ユーザーの期待を見抜き、それを最短距離で叶えること。2.LTVの最大化には、全体最適ではなく、個人のニーズに寄り添った接客が不可欠。3.ユーザーの熱狂を高めるには、サービスとの相性が良いチャネルを活用し、アプリ外からのアプローチを。
人口減少が進み、市場が成熟している日本において、月額制のサービスが数多く誕生しています。それに伴い新規ユーザーの開拓のみならず、既存ユーザーへのサポートを充実させ、定着率を高める施策が重要視されています。
同時に、「一人のユーザーが生涯にわたって企業にもたらす利益」である「LTV(顧客生涯価値)」が、重要なマーケティング指標の一つとして注目され始めました。
LTVを高めるためには、自社の強みを理解した上でユーザーから選ばれ続ける“サービス設計”と“運営”が不可欠ですが、具体的に何をすればいいのでしょうか。
今回は「ユーザーの定着」をテーマに、アプリの分析ツール「adjust」を提供するadjust株式会社との共同でセミナーを開催。「LTVの最大化」をミッションに掲げ、「adjust」やKARTEを活用するコミックスマート株式会社、dely株式会社、株式会社patersに登壇していただき、ユーザーの活性化や継続率向上のために必要なことを共有いただきました。
- 「GANMA!」を運営する、コミックスマート株式会社 取締役の福西祐樹氏
- 「クラシル」を運営する、dely株式会社 マーケティング本部の栗原聖氏
- 「paters」を運営する、株式会社paters MAUチーム リーダーの南園秀人氏
オンボーディングから、“最短距離”でユーザーの期待を叶える
イベント当日、会場に集まった参加者はおよそ100名。登壇者の入場とともに大きな拍手が会場を包み込み、ほど良い緊張感を残したまま、イベントの幕は上がりました。
序盤に語られたのは「オンボーディング体験の重要性」について。サービスを使い始めたばかりのユーザーは操作に不慣れなことも多く、使いこなせない不満から離脱するケースも少なくありません。
「patersで+αの出会いを。」をコンセプトに掲げ、1日に約25,000組がマッチングする「paters」でも、アプリを使い始めたユーザーの中には、ほとんど体験しないまま“見る専門”になる方がいるそう。インストール後すぐにアプリ内の行動を促すには、徐々に「アプリ内の文化を知ってもらうことが大切」だと南園氏は言います。
南園氏 「見る専門のユーザーの中には、『「いいね」は慎重に送らなければ』と身構えて行動を起こせない方もいます。ただ、『paters』における『いいね』は『こんにちは』、『よろしくお願いします』くらいの感覚なんですよね。初期に『「いいね」は気軽に送るもの』と知ってもらうためにも、新規ユーザーには『まずは挨拶がわりに「いいね」を送りましょう』とKARTEを使ってポップアップで提案しています」
株式会社paters MAUチーム リーダー マーケティング 南園秀人氏
2019年12月に累計ダウンロード数2,000万を突破した、レシピ動画サービス「クラシル」。同アプリでは、クリスマスやバレンタインなどの手づくりニーズが高まるタイミングで利用を開始し、イベントの終わりと同時に離脱するユーザーも少なくないそうです。
栗原氏は「イベントの時期に入ったユーザーの一定が離脱してしまうのは避けられませんが、いかに利用時のエンゲージメントを高め、日常的に使ってもらえる体験を作れるかが肝になると考えています。」と話します。
栗原氏 「例えば、『adjust』の機能から自社広告とアプリを連動させ、広告流入のユーザーには、流入元の広告で紹介した機能やレシピに早くたどり着けるよう設計しています。南園さんもおっしゃっていたように、アプリを触らないことには定着率も満足度も上がらないので、LTVの向上につながるアクションをしているかも分析しますね。最初の体験が良ければ、たとえ途中で離脱しても、料理のニーズが高まるタイミングで戻ってきてくれる。いかに最初の体験を良くして、長期的なスパンで定着を促せるかが肝心です」
200作品以上のオリジナルマンガを掲載し、2019年12月に累計ダウンロード数は1,350万を突破した「GANMA!」。「クラシル」と同じくコンテンツがサービスの肝となる「GANMA!」でも、なるべく初期に「読みたいマンガが見つかった」という体験を提供する必要があります。ユーザーの好みが把握しづらいオンボーディングの段階で、ユーザーの関心に合った作品を提案して満足度を上げるためにどんな工夫しているのでしょうか。
福西氏 「アプリ内の人気作品を紹介するのはもちろん、トップページでは書店のマンガコーナー風に表紙を見やすく設置しています。すると、『ジャケ買い』感覚で読みたいマンガを見つけやすくなる。作品を読み始めてからは、機械学習から得た『このマンガを併読すれば継続率が上がる』というモデルケースをもとに、閲覧履歴に応じておすすめのマンガを自動的に提案しています」
株式会社コミックスマート 取締役 兼 「GANMA!」プロダクトオーナー福西祐樹氏
どのアプリにおいても、アプリをインストールする瞬間、ユーザーの期待値は高い状態にあります。ユーザーがサービスに期待することを把握し、それを“最短距離”で叶えるルート設計がオンボーディングでは必要になります。
全体に最適化された接客では、LTVを最大化できない
入り口の体験は重要ですが、より肝心なのは中に入ってからの接客。ユーザーを俯瞰で捉え、全体に最適化された接客では、LTVは最大化できません。オンボーディングの体験に引き続き、登壇者が口を揃えて訴えたのは「ユーザーに最適化した接客」の重要性。それぞれ、どのような施策を展開しているのでしょうか。
栗原氏 「『クラシル』では、起動の頻度に応じて、提案する機能やレシピを変えています。起動頻度が高いユーザーは、どのようなライフスタイルを送っていて、どんなニーズを抱えているのか。一方、起動頻度が低いユーザーはどうかなどを日々考え、仮説を立てながら施策をまわしています。」
dely株式会社 マーケティング本部 プロモーション 栗原聖氏
「GANMA!」は、新規ユーザーと既存ユーザーそれぞれの特性に合わせて接客を出し分けていました。
福西氏 「まだアプリのことをよく知らない新規ユーザーには、『この機能を使いましたか』、『このマンガを読みましたか』といった提案をしますが、“事後”であれば送りません。同じ新規ユーザーでも行動履歴に応じて接客を変えます。既存ユーザーは読んでいたマンガが最終話を迎えるときに離脱が増えるので、その前にほかのマンガを好きになってもらう必要がある。ただ、すでに200話続いている連載を読み始めるのはハードルが高いので、既存のユーザーになればなるほど新連載を勧めるよう意識しています」
これらの話を受け、南園氏は今後「paters」で実現したい「ユーザーに最適化された接客」の展望と意気込みを明かしました。
南園氏 「今までにマッチングアプリを使ったことがあるかどうかで、ユーザーのアプリ内の行動は大きく変わります。経験者はこちらが何も言わずとも『いいね』を積極的に押しますが、初めての人は『そもそも「いいね」って何?』から始まるので、なかなか動き出せない。前者は基本的には見守るスタンスで、困ったときにだけサポートするほうがいいでしょうし、後者はより丁寧に寄り添う必要があります。同じ“新規ユーザー”でも一括りにせず、それぞれの学習度合いをベースに接客を変えていきたいです」
熱狂的なファンを増やすには、相性の良いチャネルを活用する
オンボーディグ、ユーザーに最適化した体験に加えて、LTV最大化のためにはユーザーのエンゲージメントを高め、熱狂的なファンを増やすことも大切です。サービスに愛着を持ってもらえれば、高頻度、高単価で商品を購入してもらえる可能性が高まります。
「エンゲージメントを高めるために、何を工夫すべきなのか」。これに関して3社の回答に共通していたのは、「アプリ外からのアプローチ」でした。
最初に紹介されたのは、「GANMA!」のクラウドファンディングによる取り組み。オリジナルグッズの開発や作品の単行本化など、これまでに実施された29件のプロジェクトは、そのほとんどが目標金額を達成。中にはパトロン1,300人以上、合計で1,300万円以上の資金を調達したものもあったと言います。
支援総額が最高だったプロジェクトは、優れた挑戦を讃える「CAMPFIRE CROWDFUNDING AWARD 2019」にもノミネートされています
福西氏 「一般販売の予定がない完結作品を、クラウドファンディングで全巻単行本化したときの反響はかなり大きかったです。『このコンテンツとユーザー層なら、どんな追加コンテンツを出せば熱狂的になるのか』は常に考えていますね。クラウドファンディングを通して、作家、ユーザー、運営が一緒にコンテンツを作る体験を共有することが、ユーザーの愛着度を高めていくのだと思います」
「アプリのインストール前から、ユーザーの体験は始まっている」と主張するのは栗原氏。2020年2月時点で「クラシル」のSNSの総フォロワー数は650万人を突破し、Instagramのフォロワー数は国内企業ランキングで5位。ユーザーにとって影響力の大きいSNSを活用し、どのようにエンゲージメントを高めているのでしょうか。
栗原氏 「エンゲージメントを高めるための視点として、Instagramでは投稿の『保存』を重要視しています。というのも、Instagramにおけるレシピコンテンツはその場で消費されるものではなく、『あとで料理をするときに見返す』という使われ方がメインになるからです。『あとで作りたい』、『いつか参考にしたい』レシピほどユーザーにとっては有益なコンテンツになる。最近では『時短でできるキャベツを使ったレシピ3選』など、レシピのまとめ投稿を増やすようにしています」
アプリ外のオンラインで施策を展開する「GANMA!」「クラシル」に対し、「paters」はアプリ外かつ、オフラインへ飛び出したアプローチを仕掛けていると言います。
南園氏 「会員限定のイベントを開催しています。リアルな場で顔を合わせることで、『paters』にはどんなお相手が実際いるのか分かりますし、運営の顔も見えやすい。ユーザーからはアプリに対する生の声を聞けるので、サービスの改善にも役立てられます。最初は参加者が集まるのか、盛り上がるのかといった不安もありましたが、結果的にイベントの満足度も高く、定期開催を望む声をいただいたので安心しましたね」
グッズ化や書籍化を目指したクラウドファンディング、短時間で見る者の興味を引くレシピコンテンツのSNS投稿、ユーザーの顔を見える化し安心感を与えるオフラインイベント。同じ「アプリ外からのアプローチ」でも、「自社サービスとの親和性が高いチャネルを活用する」点がエンゲージメントを高めるうえでは重要なのかもしれません。
限りある市場の中で、ユーザーへの価値をどう広げていくか
総務省統計局の調査によれば、日本人口は減少傾向にあります。今後はこれまで以上に新規ユーザーの獲得が困難になり、より「LTVの最大化」が求められると予測できます。国内の市場が縮小する中、各社は今後どのようにサービスを成長させていくのでしょうか。
福西氏 「現在、主要なマンガアプリは20ほど存在します。国内プレイヤーはほぼ出揃った認識でいますが、動画コンテンツにおける『Netflix』や、音楽配信サービスにおける『spotify』といった“黒船”的な存在は、マンガアプリの市場にはまだいないのかなと。『GANMA!』をさらに成長させるためにも、今後はさらにグッズや書籍などGANMA!アプリ外のコンテンツや施策を増やし、世界進出も視野に入れていきたいです」
栗原氏 「クラシルがどれだけサービスを伸ばそうと思っても、ユーザーが料理をする機会が劇的に増えることは考えづらいと思います。料理の回数が1日3回から50回まで増えはしない。ただし、全ての人にとって食は欠かせないものです。私たちにとって一番大切なのは日常生活の要素の一つとして、どれだけ『クラシル』に愛着をもってもらえるかです。最近はレシピ動画以外にミールキットなど食品のコマース事業にも力をいれています。いい意味で”レシピ動画サービスのクラシル”というイメージから脱却できるかが、今後のキーになりそうです。」
南園氏 「日本全体の人口は減少傾向にあるので、単純に考えれば市場も縮小しそうですが、私はそうでもないと考えています。現代における20〜30代の若年層はマッチングアプリで人と出会う機会が増えており、この世代が親になったとき、自分の子どもがマッチングアプリを使うことに違和感を持たなくなるのかなと。現代よりもマッチングアプリを使う層の幅が広がったときに選ばれるサービスになれるよう、今後もユーザーに寄り添ってさまざまな“出会いの場”を提供していきたいです」
あらゆるサービスでデジタル化が進み、ユーザーの顔が見えづらい現代では、一人ひとりに寄り添った接客を行うのも簡単ではありません。しかし、adjustやKARTEなどのツールを活用することで、オンラインでもユーザーの行動や特徴が可視化され、一人ひとりに合った接客が実現可能になっています。デジタルでも人を人として理解しようと努める接客こそがオンラインサービスの継続率を高め、LTVを最大化するのではないでしょうか。
パネルディスカッション終了後、イベントは懇親会へと突入。この日は、AdjustとKARTEのロゴが入ったスペシャルメニューも登場しました。
グラスを片手に談笑を楽しむ参加者のみなさん。登壇者の方にディスカッションの感想を伝え、意見を交換し合うシーンも見られました。
今後もKARTEでは、CX(顧客体験)にまつわる注目のテーマをピックアップし、さまざまな業界のナレッジをシェアし合うセミナーを企画していきます。興味のある方は、ぜひご参加ください!