組織が一丸となってこそ、顧客に選ばれる店舗がつくられる。物語コーポレーションの推進する“現場に優しい”CXM
2022年7月、プレイドは「顧客ロイヤルティ向上を阻む壁の越え方」をテーマに「KARTE CX Conference 2022」を開催。新型コロナウイルス感染症や材料費の高騰など苦戦の続く同業他社も少なくないなか、直近1年間で約50店舗を新規出店した外食チェーンブランドで知られる株式会社物語コーポレーションの営業イノベーション室室長 春山陽介氏が登壇。「現場に優しいCXMの実践──物語コーポレーション流の店舗における顧客の声の向き合い方」と題したセッションでは、取り組みを支援してきた株式会社エモーションテックの佐野真啓氏とともに語りました。
2022年7月、「顧客ロイヤルティ向上を阻む壁の越え方」をテーマにしたカンファレンス「KARTE CX Conference 2022」が開催されました。
「現場に優しいCXMの実践──物語コーポレーション流の店舗における顧客の声の向き合い方」と題したセッションでは、焼肉チェーン店「焼肉きんぐ」などの外食チェーンブランドで知られる株式会社物語コーポレーションの営業イノベーション室室長 春山陽介氏が登壇。
新型コロナウイルス感染症の影響による客数減少に加えて、材料費の高騰や人手不足。さまざまな課題に直面している外食業界において、同社は直近1年間で約50店舗を新規出店。苦戦の続く同業他社も少なくないなか、着実に業績を回復させています。
その伸びの土台となっているのが「現場に優しいCXM(カスタマー・エクスペリエンス・マネジメント)」だと春山氏は言います。セッションでは、同社の実践するCXMについて、取り組みを支援してきた株式会社エモーションテックの佐野真啓氏とともに語りました。
“お客様から選ばれる店舗”に欠かせないCXM
冒頭では、物語コーポレーションが業績を回復させてきた要因について、春山氏が説明しました。
春山氏「一つ目の要因は、外食に対するニーズの変化です。多くの会社が拠点を構える都市部において、居酒屋などの飲食店を利用するニーズは減少しました。コロナ禍で会社の飲み会が減ったという人も少なくないでしょう。一方、生活圏内において家族と外食を楽しみたい人は増えているんです。身近なレジャーの一つになりつつあると認識しています。
弊社の展開する飲食店は郊外を中心に展開しており、かつ賑やかで楽しい店舗づくりをしてきましたので。ニーズの変化がポジティブに働いたと思っています。
また、業績の回復を下支えしているのは、お客様から選ばれるための店舗づくり、そのためのCXMの推進です。会社として、店舗スタッフがサービスに集中できる環境を整えてきたことで、時短営業の解除後、幸先の良いスタートが切れたと考えています」
続いて、物語コーポレーションのCXMを支援してきた佐野氏が、EmotionTechの考えるCXMの考え方について共有します。EmotionTechでは、NPS®や顧客満足を計測・分析する顧客体験マネジメントサービス『Emotion Tech CX』などのサービスを提供してきました。
佐野氏「弊社の考えるCXMとは『顧客と企業との関係を、顧客と企業との接点において生じる一連の体験として捉えなおし、体験の質を向上させることで長期的に顧客ロイヤルティを高めようとする手法・活動』です。
ユーザーとの接点の多様化やデジタル化を前提に、顧客がそれぞれの接点でどのような体験をし、何を感じているのかを分析する。体験の全体像を捉えたうえで解決すべき課題を見つけて、改善する。その積み重ねによって顧客との信頼を深め、結果として事業的な成果にもつなげる。
そうした一連の活動がCXMであり、顧客の体験をより良いものにするためには、欠かせない取り組みであると考えています」
CXMの実践は、組織全体を巻き込むことから始まる
物語コーポレーションでは、CXM推進を大きく「理念」「委任」「計測」「発見」「改善」の5つのステップに分解し、実践しています。セッション中盤では各ステップの概要が語られました。
物語コーポレーションにおける「CXM推進」の最初のステップは、組織全体の進むべき方向を示す「理念」とビジョンを明確にすることです。
春山氏「弊社の経営理念は『Smile&Sexy』です。『素敵に自由に、正々堂々、人間味豊かに自分を表現しよう』という想いを込め、会社と共に個人も成長することを目標に置いています。
その企業理念をもとに、私たちは長期経営ビジョンとして『個の尊厳を組織の尊厳より上位に置き、とびっきりの笑顔と心からの元気で世の中をイキイキさせる』を掲げています。
世の中をイキイキさせるために、個人がそれぞれの能力や個性を発揮してほしいですし、積極的に組織について考えていることを発信してほしい。『個』を大切にしたいという想いを込めています」
2つ目のステップは、経営理念・長期経営ビジョンに沿った「委任(チームビルディング)」です。これは、社員だけではなく、店舗運営において欠かせないパートやアルバイトも一丸となって、店舗改善を行うための仕組みづくりを指します。
春山氏「弊社に勤める従業員の9割強はパートやアルバイトの方。わずか1割弱しかいない正社員だけでは、よりよい店舗は実現できません。ですので、パートやアルバイトの方も一緒になって店舗づくりを進めていくための仕組みを整えてきました。
たとえば、各店の休憩室には、誰でも意見を投稿できる箱が置かれており、すべての意見について部門長全員が議論する会議が開かれています。
経営理念の浸透や接客力の向上のための教育プログラム、モチベーションを高めてもらうための従業員コンテスト(コロナ禍では中止)なども実施。こうした制度や仕組み自体も、パートやアルバイトの皆さん、社員の声をもとにブラッシュアップしています」
NPS®があぶり出す課題に、全社で向き合う
パートやアルバイトも巻き込んだ店舗改善の仕組みづくりに続く、3つ目のステップが「計測」です。各店舗における体験の質をどのような指標によって把握しているのでしょうか。
春山氏「チェックしている指標は『各店舗の売上』と『お客様による評価』です。
後者においてはNPS(Net Promoter Score:企業やサービスに対する愛着や信頼を測る指標)を重視しており、店舗でお客様に対するアンケートを実施しています。
アンケートは『あなたは当店をどれくらい周囲の人におすすめできると思いますか?』とNPSをたずねる質問、『前問の点数をつけた理由として、それぞれの項目について正直な評価をお聞かせください』とNPSの要因をたずねる質問から成ります。
2問目では『料理の質』や『接客』など複数の項目に回答いただきます。評価していただく項目については、その時々の課題などによって年間数十回前後ほど変更を加えてきました」
また、顧客が回答する手間を減らせるよう、焼肉きんぐでは伝票の裏にQRコードを記載し、スマートフォンで読み込むだけで回答できるようにしています。さらに抽選で支払額が半額になるなどの特典を用意することもあるそうです。
「計測」に続く4つ目のステップは、NPSから課題を「発見」すること。
春山氏「各店舗のNPSの推移や店舗間の差は、グラフで可視化しています。NPSが下降傾向にある、もしくは他に比べて低い数値が続いている店舗を見つけたら、アンケートをもとに数値に影響を及ぼしている項目を特定します」
課題を発見した後は、CXM推進における最後のステップ「改善」を行います。ポイントは「エリアマネジャーや店長、店舗スタッフ、本部の社員が一丸となって改善」していくこと。現場のフィードバックから指標を設計し、業態毎に活用しているそうです。
これまで具体的にどのような改善を行なってきたのか、春山氏が紹介します。
春山氏「たとえば人手不足によって配膳のスピードが落ち、お客様の満足度が下がってしまうという課題に対しては、複数のチェーンで配膳ロボットの導入を進めました。
また、お客様により美味しい料理を提供するための取り組みとして、焼肉きんぐでは各テーブルを店舗スタッフが回り、焼肉の食べ方をアドバイスする『焼肉ポリス』というポジションも導入しています。
パートやアルバイトの方に『焼肉ポリス』を担ってもらうことで、焼肉を焼く、運ぶという作業ではなく、お客様に喜んでもらうための体験を提供しているのだという気持ちを持って、業務に携わってもらいたいとも考えています」
物語コーポレーションのCXMが「現場に優しい」理由
5つのステップから成るサイクルを回すうえで、春山氏が大切にしているのが「現場に優しいCXMの実践」です。「優しさ」を構成する要素は大きく3つに分かれます。
春山氏「まずは、現場にとっての『受け入れやすさ』です。物語コーポレーションのCXMでは、実際に測定したNPSやお客様のアンケート回答などを、あらゆる意思決定において最も大切にします。エリアマネジャーや店長の主観的な意見ではなく、お客様のスコアや回答のほうが、客観的な事実として店舗スタッフにとって受け入れやすい。より前向きに改善に取り組めるのではと思っています。
さらに、NPSに加えてeNPS℠(Employee Net Promoter Score:従業員の職場への愛着や信頼度合いを測る指標)サーベイも実施。組織の状態や従業員のモチベーションも、なるべく数値で可視化し、店舗の改善に活かしています」
次の要素は、現場が「傷つかない」ことです。本部の社員やエリアマネジャーは、NPSやeNPSから見つけた課題の解決を、店舗に押しつけないように徹底していると言います。
春山氏「NPSやeNPSから見つけた店舗の課題は、本部課題や店舗課題などに整理してから、解決に取りかかります。店舗スタッフには店舗が取り組むべき改善に全力を注いでほしいと考えるからです
たとえば、とあるメニューの提供に時間がかかってしまう原因が、レシピの難易度が高すぎるからだとします。それは店舗ではなく、本部の担当者がレシピを変更するなどして解決する必要があります。『この工程を1秒短くできるよね?』と店舗に要求しても改善には限界がありますし、店舗スタッフのモチベーションにもネガティブな影響があるはずです」
そして最後の要素は、お客様の「パーミッションが取れている情報源」の活用です。
春山氏「最近では、企業が個人情報や個人データを適切に管理すること、利用について同意を得ることなど、お客様のプライバシーを尊重する動きが高まっています。私たちはお客様からいただいたアンケート回答による店舗評価が最も大切な情報と位置づけていますので、これからもお客様が自主的に回答いただけるようなアンケートの運用を心がけていきたいと考えています」
具体例を挙げながらCXM推進のステップを紹介してくれた春山氏。「今日ご紹介した取り組みは、飲食業のみならず、店舗を持つあらゆる業態で実践が可能だと思います。参考になれば幸いです」と語り、セッションを締めくくりました。
注:ネット・プロモーター、ネット・プロモーター・システム、ネット・プロモーター・スコア、NPS、そしてNPS関連で使用されている顔文字は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、NICE Systems, Inc.の登録商標又はサービスマークです。
「顧客ロイヤルティ向上を阻む壁の越え方」をテーマに、多様な業界・領域におけるCX向上の取り組みや考えを聞く「KARTE CX Conference 2022」は、アーカイブ公開もしていますので、記事をきっかけにご興味いただけましたら、アーカイブ視聴も是非お楽しみください。