日経電子版・radikoが語る、データ文化の醸成やユーザー熱量の高め方|メディア・サブスクリプション業界限定勉強会レポート
2025年9月、プレイドオフィスにてメディア・サブスクリプション業界限定の勉強会を開催しました。今回、ゲストとして登壇いただいたのは、日本経済新聞社デジタル編成ユニット開発グループ部長の東 弘行さんと、株式会社radikoのプロダクトマネージャーの帆苅 晃太さん。サブスクリプションビジネスにおける組織運営の課題や、プラットフォームの成長戦略など、両社の実践的な取り組みが語られました。
2025年9月、プレイドオフィスにてメディア・サブスクリプション業界限定の勉強会を開催しました。
今回、ゲストとして登壇いただいたのは、日本経済新聞社デジタル編成ユニット開発グループ部長の東 弘行さんと、株式会社radikoのプロダクトマネージャーの帆苅 晃太さん。サブスクリプションビジネスにおける組織運営の課題や、プラットフォームの成長戦略など、両社の実践的な取り組みが語られました。
組織においてデータドリブンな意思決定プロセスの構築や、ユーザーの熱量を高める施策など、各社の知見が共有された勉強会の様子をレポートします。
透明性の高いプロセスで組織の壁を乗り越え、データドリブンに議論

最初に登壇した東さんは、2010年の日本経済新聞電子版(以下、日経電子版)創刊時から携わり、現在はデジタル編成ユニットで様々なプロダクトやサービスの戦略を担当しています。
日経電子版は、デジタル編成部門に加えて、編集部門や広告部門など複数の部署が関わって運営されています。編集部門は記事の執筆や配信タイミングを決定し、広告部門は紙とデジタルの広告を一体で扱います。
同じ日経電子版でも、それぞれの部署が異なるKPIを持ち、やりたいことも異なるため、その過程では「組織の壁」という課題に直面してきたといいます。今回の登壇では、こうした壁にどのように向き合ってきたのかが語られました。

日本経済新聞社 サブスクリプション事業 デジタル編成ユニット 企画グループ長 東 弘行氏
まず、語られたのはプロダクト開発におけるリソース配分についての課題です。ツールの導入により、マーケティング単体で進められる施策を増やす体制を作っているものの、完全に開発への依頼をゼロにできるわけではないため、組織内のコンフリクトの調整と組織外との調整が発生しているそうです。
東「プロダクトに対して、マーケティングがやりたいこと、営業がやりたいこと、開発がやりたいことがあり、エンジニアのリソースの取り合いというのが発生します。こうした調整は、簡単に言うと優先度付けだと捉えていて、優先度を付ける仕組みについて考えてきました」
この課題に対し、日経電子版ではデータドリブンな意思決定プロセスの構築を推進。四半期ごとの数字レビューや半期ごとの提案会を設け、透明性の高い議論の場を作ることで、組織間の調整を円滑化しているといいます。
東「特に心がけているのは、透明性を高めて、関係者みんなが言いたいことが言えるようにすること。提案会の場を設けて、何かやりたい場合にはここに持ってきて、『いや、それは違う』などコンフリクトが起きそうだったら、その場できちんと議論するようにしています」

優先度付けを行う際の判断基準も明確化されています。ROIが見込めるもの、A/Bテストの結果で効果が実証されたもの、ユーザーの声や行動の変化、外部環境の変化など実施に伴うコンフリクトなどを総合的に判断しているそうです。
特に重要なのは、感覚ではなくデータで語る文化を醸成することだと東さんは強調します。
東「データで語る方がお互い納得感が生まれます。データドリブンに進める方針を掲げることで、『誰々さんが言っているから』という判断をする機会も少なくなってきています。
ただ、デジタル編成部門のメンバーも上長も、必ずしもデジタルの経験が豊富というわけではありません。新しい上長はデータに詳しくないかもしれない。そのとき、上長を教育するようなマインドも必要になります」
壁を乗り越えるための様々な工夫をこらしてきても、難しいのが部門ごとのKPIの違いです。
東「広告部門とサブスクリプション部門は、最終的な到達目標であるKGIは共通していますが、KPIは異なります。私たちのようなサブスクリプション部門では、読者のエンゲージメントを高めて継続率を伸ばすことが重要です。また、新規の読者の方が入会してから、どれだけスムーズに有料課金の壁を越えられるかというオンボーディングの質も成果を大きく左右します。
一方で、広告部門では異なる観点が求められます。PVをどれだけ獲得できるか、どのような属性のユーザーがどの場所に存在しているかを把握し、そのうえでトラフィックを生み出すことがKPIの中心になります。そのため、注力すべき施策の質や量もサブスクリプション部門とは大きく異なります。
このようにKPIの構造が異なるため、両部門のKPIを同列に比較してもあまり意味がなく、調整もしづらいのが現実です。そこで、売上や利益といったより上位のKGIに指標を引き上げ、共通の評価軸として比較・検討していくことが望ましいと考えています」
ユーザーの熱量を高め、radiko独自の体験の創出へ

続いて登壇したのはradikoのプロダクトマネージャーを務める帆苅さん。帆苅さんは、月間850万人のアクティブユーザーをさらに拡大する野心的な目標に向けた戦略を語りました。
帆苅「かなり高い数値目標を設定したので、コンテンツプラットフォームとして何ができるのかについてよく考えないと、達成は難しいだろう考えていました」
この高い目標を達成するためには、キードライバーが必要です。キードライバーとは、ここを押さえれば、ユーザー数も伸びる、全体の売上や収益も伸びる、そして収益が還元できてさらにユーザー数が伸びるという循環のきっかけになるような要素です。
帆苅さんがキードライバーとして着目したのは「ユーザーの熱量」です。「オードリーのオールナイトニッポン」のライブイベントが東京ドームにて開催され、会場に約5万3千人が来場し、約15万6千人の視聴者を集めたことを例に挙げ、収益構造の変化に触れます。
帆苅「今までは、リーチ(どれだけ多くの人に聞かれるか)ということが収益のもとになっていました。ですが、直近はリーチが大事なのは変わりませんが、それに加えてファン一人ひとりの熱量や購買みたいなものも要素として捉えて、これらの掛け算が収益につながるという意識が大事だと思っています」

株式会社radiko プロダクト推進チーム リーダー 帆苅 晃太氏
現在、radikoではプロダクトミッションを「熱量の高いユーザーを増やす」と定め、3つのアプローチで施策を展開しています。
帆苅「まず、『冷まさない』こと。番組を探したのになかなか見つけられなかったり、聞きたいのに音が途切れたりしてしまうと、熱量が下がってしまうので、当たり前品質というのが最初のテーマです。
そして、『コンテンツに出会えるシーンをつくる』こと。radikoを開いて、まず番組を探す際に適切に求めているコンテンツを見つけられる体験を作っていけるかが次のテーマ。
あとは、『加熱する』こと。他のプラットフォームでは経験できない、radiko独自の体験があると、ユーザーの熱量が高まります。この3つが熱量の高いユーザーを増やすためのアプローチです」
こうしたアプローチを整理した後、実際に何を行うかを検討するために、ユーザー調査を実施。その結果、特定の番組名や自分の好きなタレント名が頭にある状態でradikoにアクセスするユーザーが多いことが判明したそうです。
そこで、目的のコンテンツに素早くアクセスできるよう、アクセシビリティの向上を優先的に推進しました。
さらに重要なのは、他サービスと比較してradiko独自の価値をどう創出するかがだと言います。
帆苅「radikoのユーザーが潜在的に求めていて、日本のプラットフォームだからこそできることを探っていくのが重要です。プラットフォームとして放送局とリスナーの橋渡しをしていきたいと考えています」

交流会でさらに業界ならではの知見や悩みを共有
事例共有の後は、参加者同士のディスカッションタイムへ。サブスクリプションビジネスの運営における課題や、組織体制、データ活用の方法など、各社の取り組みについて活発な意見交換が行われました。
その後の交流会では、軽食と飲み物を楽しみながら、参加者同士がより深い議論を展開。業界特有の課題への対応策や、新たな施策のアイデアなど、実践的な知見が共有される場となりました。


メディア・サブスクリプション業界は、デジタル化の進展とともに大きな転換期を迎えています。日経電子版の事例が示すように、組織の壁を越えたデータドリブンな文化の醸成は、迅速な意思決定と効果的な施策実行の基盤となります。また、radikoの取り組みからは、ユーザーの熱量という新たな指標に着目することで、プラットフォームの成長可能性が広がることが示されました。
プレイドは、今後もメディア・サブスクリプション業界の皆様の挑戦を、KARTEをはじめとしたソリューションでサポートしていきます。