Event Report

データに答えはない、「問い」から考える文化が変革を生む。マイナビウエディングが実践するCX改善の本質

2025年7月24日、プレイドは 「AI時代の価値創造を再定義する」をテーマに「X DIVE(クロスダイブ)」 を開催。株式会社マイナビ ウエディング情報事業部 メディア推進統括部 企画戦略部部長 阿部 桐子氏、デジタルテクノロジー戦略本部 ビジネスイノベーション統括本部 ウエディングITソリューション課 課長補佐 湊 翔希氏、そして株式会社SORAMICHI CXコンサルティング部 執行役員 酒井 宏平氏、CXコンサルタント 児玉 竜之介氏が登壇したセッションをお伝えします。

2025年7月24日、プレイドは変革のリーダーによる共創的対話から新しい価値を探索するカンファレンス「X DIVE(クロスダイブ)」を開催しました。初回のテーマは「AI時代の価値創造を再定義する」。

「データに“問い”ではなく“答え”を求めるのはなぜか?『“問い”が動かす改善』── 仮説に向き合う、CX改善の本質」のセッションに登壇したのは、株式会社マイナビ ウエディング情報事業部 メディア推進統括部 企画戦略部部長 阿部 桐子氏、デジタルテクノロジー戦略本部 ビジネスイノベーション統括本部 ウエディングITソリューション課 課長補佐 湊 翔希氏、そしてプレイドのパートナー企業であり、今回のプロジェクトに伴走した株式会社SORAMICHI CXコンサルティング部 執行役員 酒井 宏平氏、CXコンサルタント 児玉 竜之介氏の4名。モデレーターはプレイドのカスタマーサクセスチーム チームヘッドの佐瀬 綾奈が務めました。

KARTEはさまざまなユーザーの行動を可視化し、その行動データをもとにしてCXの改善を行うことができます。こちらのセッションでは、データを活用したより良いCX改善はどのような思考プロセスから生まれるのか、実際の事例をもとにご紹介いただきました。

データが示すのはユーザーの「過去」。未来を見るためには「問い」」が必要

セッション冒頭でSORAMICHIの酒井氏は「データに問いではなく答えを求めるのはなぜか」というテーマについて、多くの企業がデータ分析に行き詰まる理由を説明。データは過去の記録であり、未来を創造するためには「なぜこういう行動をするのか」という問いを立て、仮説を持って検証することが重要だと強調しました。

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株式会社SORAMICHI CXコンサルティング部 執行役員 酒井 宏平氏

企業変革を戦略立案から実行まで伴走するDXコンサルティング集団の株式会社SORAMICHI。今回SORAMICHIの酒井氏とCX改善に取り組んだのは、マイナビ ウエディング情報事業部 メディア推進統括部。ウエディング情報事業部は、結婚情報サイト「マイナビウエディング」を運営しており、結婚式の式場やブライダルリングの情報をユーザーに提供しています。企画戦略部では、Webサイトの改善のほか、公式LINEのアカウント運用などを担当しています。

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以前、マイナビウエディングが抱えていた大きな課題は、数年前からKARTEを導入していたものの、その活用が限定的だったことでした。阿部氏はバナーの表示や、軽微なUI改善に使うのみで、データに基づいたユーザー体験やプロダクトの改善に活かせていない状況だったといいます。

阿部氏「データ自体は蓄積しているものの、UX改善やプロダクト自体の改善といった意思決定材料に活用できておらず、PDCAを回せていないのが課題でした。そのため、施策がすごく場当たり的になってしまっていたんです」

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株式会社マイナビ ウエディング情報事業部 メディア推進統括部 企画戦略部部長 阿部 桐子氏

データはあるものの活用しきれておらず、改善の方向性も定まらないという状況は、多くの企業が直面する課題でもあります。この課題を打破するために、まずは、「課題」「仮説」「アイデア」を構造化して管理できるようにしたといいます。

しかし、構造化の第一歩として、ワークショップ形式でカスタマージャーニーマップを作成したものの、酒井氏は「どうもしっくりこなかった」と言います。さらにその原因を酒井氏は、サービス提供者側の視点で作られたマップには、本当のユーザー行動が反映されていなかったからだと振り返りました。

そこで、彼らはKARTEの「ユーザーストーリー」機能を活用し、100人以上のユーザーの行動ログを詳細に分析。ユーザーがどこで迷い、なぜ次のページに進まないのか、という“生の声”に耳を傾けました。

「当初の仮説とは全く異なる発見があったんです」と酒井氏は語ります。このn1(個人)分析から得られた気づきをもとに、真に顧客に寄り添ったジャーニーマップを再構築していったのです。

課題・仮説・結果を構造化することで生まれた、CXを効率的に改善し続けるプロセス

「課題」「仮説」「アイデア」の構造化および、ユーザー行動にのっとって制作したジャーニーマップは、素早く施策を実施するなかでも大いに役立ったといいます。本プロジェクトは5ヶ月間で、50以上の施策を実施。それぞれの施策も実施するだけで終わりではなく、きちんと効果検証をしたうえでCX改善につなげることができたそうです。

SORAMICHIの児玉氏は、思うような成果につながらなかった施策を「バージョン1」と定義し、そこからバージョン2、3、4と継続的に改善していく文化が根付いたことを紹介。一度の失敗で終わらせず、「最終的にはうまくいくはず」という前提で改善を重ねることが、成果創出につながったと説明しました。

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株式会社SORAMICHI CXコンサルタント 児玉 竜之介氏

また、大量の仮説検証をおこなううちに、検証する仮説がどの工程のCXに貢献しているか不明瞭になることも。そういった課題も、ジャーニーマップで整理することで解決されたといいます。

児玉氏「沢山の仮説検証を続けていると、今自分たちが何の仮説を検証しているのかが分からなくなることもありました。ジャーニーマップで整理することで、今はこの部分にフォーカスしているということを明確にできたのが良かったです」

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さらに、この取り組みでは、仮説と検証方法も構造化されました。「一つひとつの施策で『このセグメントのユーザーのここの部分の数字を見ましょう』ということを必ず定義し、振り返って良かったのか悪かったのかを判定していたのが、非常に良かった」とマイナビの湊氏は振り返ります。仮説と検証方法を構造化し、さらに結果も同時に考えられるようになったことで、現在の課題と効果的な解決方法が整理され、無駄のないCX改善が進む仕組みができあがっていったようです。

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株式会社マイナビ デジタルテクノロジー戦略本部 ビジネスイノベーション統括本部 ウエディングITソリューション課 課長補佐 湊 翔希氏

SORAMICHIの酒井氏はこうした整理を行ったことで、「自分たちが何をやろうとしてるのか「これはまだ試してなかったよね」といった議論も、ステークホルダーを交えてしやすくなったと振り返ります。

仮説と効果検証の構造化が創りあげた、CX改善の本質を探求する組織文化

セッション後半では、CX改善の本質について議論が行われました。酒井氏はその本質を「顧客理解」にあると話し、顧客理解を深めるには仮説を立てることが重要だと説明しました。

酒井氏「データだけで顧客理解はできません。仮説を持って実際にアイデアを試し、『自分たちの考えはお客様とずれていたんだ』ということを確かめていく。どういう変化があったのかを確かめていくことで、初めてお客様のペインやベネフィットを感じ取れると思います」

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また、仮説を立てて検証し、顧客理解を深めていくプロセスは、組織文化にも良い影響を与えたと、マイナビのお二人はいいます。まず阿部氏は、当初、効果検証結果の良し悪しに一喜一憂していたところから、まずは施策を試してみた後、結果がどうあれ、その結果と仮説を照らし合わせ、その差異に対して「なぜ」を議論する文化ができたのが大きな収穫だったと振り返りました。

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阿部氏「大量に施策を実施していく中で、施策の結果ではなく、『仮説に対してどうだったのか』、『なぜそういう結果になったのか』を考えるプロセスを何度も繰り返すことができ、『なぜ』を考える癖がつきました」

マイナビの阿部氏は、SORAMICHIが企画・実装部分を主導することで、マイナビ側は施策実施後の振り返りとネクストアクションの検討に集中できたことが、「なぜ」を考える文化の定着に大きく貢献したと述べました。この明確な役割分担により、思考をフォーカスさせることができたといいます。

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さらにマイナビの湊氏は、今回のプロジェクトでは従来のCV重視の文化から脱却し、「なぜこの結果になったのか」「なぜ外れたのか」を明らかにすることを、CV数と同等に重要な目標として設定したことを強調しました。この目標設定が、失敗を恐れずに仮説検証を繰り返す文化の醸成につながったといいます。

湊氏「これまで、目標にはどうしてもCV数などの指標を置いていました。今回のプロジェクトでは、もちろん定量的な成果も重要だと考えつつ、『なんでこの結果になったのか』『なんで外れたのか』を考えるきっかけを生むことも、同じくらい重要な目標に定めていました。それによって、得られる学びは多かったと思います」

多様化する結婚準備のニーズに対応し、一人ひとりに寄り添う「伴走するパートナー」を目指す

セッションの最後に、マイナビの阿部氏は今後の展望を語りました。

「結婚準備のニーズは多様化しています。一人ひとりのユーザーに寄り添い、共に最善の選択を探す『伴走するパートナー』のような存在になりたい」と述べ、WebサイトとLINE公式アカウントをシームレスにつなぎ、ユーザーが「マイナビウエディングは自分たちに寄り添ってくれている」と感じられる体験の創出を目標に掲げました。

そのために現在、メンバー一人ひとりが日々の業務から疑問や仮説を自発的に持ち寄り、月1回の議論で共有する取り組みを試行中です。これにより、チーム全員の自律的な参加を促し、「なぜ」を問う文化をさらに定着させていくことを目指しています。

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最後は、今回のトークセッションのテーマにのっとり、SORAMICHIの酒井氏からCX改善に取り組むうえでのデータ分析の心得が語られました。

酒井氏「あくまでデータはお客様の『過去』が可視化されたものです。みなさんが顧客体験として創造していくのはお客様の『未来』だと思いますので、お客様を信じ、問いを立てて仮説を愛そう、とお伝えしたいですね。そのためにまずは、みなさん自身のビジネスで問いを立て仮説検証を試していただければと思っています」

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