三越伊勢丹が進めるコンタクトセンターのDX、経験とデータを組み合わせたカスタマーサポートの実践
株式会社三越伊勢丹は、QANT Webを導入し、ECサイトでの顧客行動を可視化。ピンポイントな施策でお客様の困りごとを解決し、サイト上での顧客体験の向上を実現しています。導入の背景から具体的な成果、今後の展望を伺いました。
株式会社三越伊勢丹のオンライン事業の問い合わせ窓口を運営しているEC運営部コンタクトセンターでは、サイト上での顧客体験向上を目的として、QANT Webを導入しました。
同部署では、問い合わせにより蓄積されたお客様の声とサイト上の行動データを分析し、お客様の困りごとを特定。困りごとに合わせた施策を企画・実行し、問い合わせ件数の削減において、大きな成果を上げています。
今回は、同部(EC運営部コンタクトセンター システム企画) マネージャーの葛和弘士さんと、アシスタントマネージャーの山本さやかさんに、紙の帳票から始まったコンタクトセンターのDXから、QANT Webを活用した顧客体験向上の取り組みについてお聞きしました。
※「QANT Web」は2025年10月1日より「RightSupport」より名称変更しております
紙の帳票からデジタルへ。コロナ禍で加速したコンタクトセンターのDX
まず、貴社のコンタクトセンターの役割と、お二人の業務内容について教えてください。
葛和:私たちの部署は、三越伊勢丹グループのオンライン事業のコンタクトセンター業務を担当しています。その中でも、私はシステム企画という部署のマネージャーとして、音声基盤からCRMシステム、FAQツールなど、さまざまなシステムの導入・構築と運用を担当しています。
山本:私は主にQANT Webの運用を担当しています。お客様の困りごとを解決するために、施策の企画から実行まで行っています。
葛和:私たちが目指しているのは、お客様の困りごとをただ解決するのではなく、「感動的に解決する」こと。一般的なコンタクトセンターだと、問い合わせに答えて終わりですが、そこに百貨店ならではのプラスアルファの体験を提供していきたいと考えています。
QANT Web導入前は、どのような課題があったのでしょうか?
葛和:私は2014年の中途入社ですが、当時のコンタクトセンターは帳票も対応履歴もすべて紙で管理していました。電話もコンタクトセンター用ではなく、事務電話を活用していました。
2016年頃からコンタクトセンターのDXに取り組み始め、まず電話機をリプレイスしました。その後、思うように進まない期間もありながら本格的な変化が起きたのはコロナ禍です。オンラインストアの利用者が爆発的に増加したことに伴い、問い合わせも2倍近くに増え、キャパシティを大きく超える状況が発生しました。

株式会社三越伊勢丹オンラインストアグループ EC運営部 コンタクトセンター マネージャー 葛和弘士氏
コロナ禍での問い合わせ増加にどう対応されたのですか?
葛和:まずは問い合わせ対応のキャパシティを確保するために、第二コンタクトセンターを新設しました。加えて、別々の拠点で同じ窓口の問い合わせを管理する必要があったため、CRMシステムを導入しました。このタイミングで問い合わせ管理を紙からデジタルに移行することができ、問い合わせ履歴もデータ化されて分析が可能になりました。問い合わせが増加したことが、DXの追い風となりました。
その後、ご利用ガイドの改善、FAQツールの導入、画面共有サービス、テキストマイニングツールなどを順次導入していきました。その結果、問い合わせ件数が2021年以降、2年連続で年間2ケタペースの割合で減少していきました。
ただ、問い合わせ件数の削減はできているものの、どの取り組みがどの程度寄与したのかが明確に見えづらく、また、お問い合わせをされるお客様の声は分析できても、問い合わせに至らない潜在的なお客様「サイレントカスタマー」の声を把握できていないという課題がありました。
「呼量削減」と「売上貢献」、両面からROIを算出
QANT Webを知ったきっかけは何でしたか?
葛和:2021年秋に東京の池袋で開催されたCC&CRMデモカンファレンスで初めてQANT Webを知りました。サイト上の行動データが分析でき、お客様がどのページでつまづいているのかがわかる、一人ひとりに最適なWebサポートを出せる、というのが魅力的でした。
ただ、最終的に導入が完了するまでには約1年半かかりました。ツールの効果をイメージするのが難しく、具体的に何%くらい呼量を削減できるのかが見えにくかったんです。
社内の説得はどのように進められたのですか?
葛和:ROI(投資対効果)は2つの側面から試算しました。一つは呼量削減による対応にかかるコスト削減、もう一つはコンバージョン率の向上による売上貢献です。弊社オンラインストアのショッピングカートは、購入までのステップが5つもあり、複雑で離脱率が高い状態でした。その部分に対して、QANT Webを活用し各プロセスで最適なサポートを行うことで、スムーズな購入につながれば、売上に貢献ができると考えました。コスト削減に加え、売上貢献のポテンシャルも含めて、ROIを算出し、社内に説明しました。
また、弊社が運営する化粧品サイトでも「KARTE」を導入していたので、セキュリティ面での説明も社内で通りやすかった点も、導入を進める上で大きな後押しになりました。
実際の導入プロセスはどのように進められましたか?
葛和:2024年6月から導入に向けた準備を始め、最初の施策を8月に実施しました。タグの設置は、KARTEに知見のあるメンバーが社内にいたので比較的スムーズでしたが、私たちはWebサイト運営の知見がほとんどなく、基礎的な用語の理解からはじめました。
山本:リテラシー以外の面では、約160個あったFAQのコンテンツをQANT Webに登録する作業が大変でした。機能の説明は受けていたものの、実際の運用イメージを掴むのが難しく、準備を進めるうえでのハードルになっていました。
経験則とデータを組み合わせた施策で大幅な問い合わせ削減を実現
初期のハードルを乗り越え、最初に実施した施策について教えてください。
山本:最初の施策は、問い合わせフォームへのライブアシスト(※AIを活用し問い合わせフォームにお客様が入力しているキーワードから、回答をサジェストする機能)を実施しました。ライブアシストの公開に向けてはFAQコンテンツの登録をメインで実施し、デザインなどはQANT Webのカスタマーサクセスの方にサポートをしていただきました。
その後、他の施策を企画・公開するにあたり、コンタクトセンターに入る問い合わせ内容の分析結果から課題を設定し、段階的に対応していく方針を立てました。また、私は以前、コンタクトセンターで3年間メール対応をしていた経験があり、その感覚を活かしてお客様がつまずきやすいポイントだと確信している事に対しても施策を考えていきました。
たとえば、お中元サイトは注文方法の説明ページが別で用意されているにもかかわらず、商品ページからそのページにはたどり着けない導線になっていました。そのため、お客様が気づくことができず、問い合わせをいただいてしまう状況だったのです。他にも、食品の賞味期間や原材料などの詳細情報を確認できるリンクがページ下部に配置されており、見つけにくい情報設計だった点も課題のひとつでした。

株式会社三越伊勢丹オンラインストアグループ EC運営部 コンタクトセンター アシスタントマネージャー 山本さやか氏
特に効果が高かった施策はありますか?
山本:おせちの配送に関する施策は印象に残っています。おせちは他の商品と異なり、決まった日程で確実に届くことが重要です。そのため、「注文はうまくできているか」「いつ届く予定になっているか」とお客様が不安になって、例年多くの問い合わせが発生していました。
そこで、QANT Webを使って、おせちを注文したお客様に向けてピンポイントで配送情報を表示するという施策を実施しました。結果、前年と比較して(※)メール問い合わせは約80%削減、電話問い合わせも約30%削減できました。QANT Webでの施策は、利用したお客様から低評価・高評価がつけられるようになっており、お客様の満足度がわかる仕組みになっているのですが、この施策は約93%のお客様が高評価を選択しており、本当に響いた施策だったとわかりました。
※2023年と2024年の12月31日の問い合わせ件数同日比較
また、「サロン・デュ・ショコラ」という毎年1月に予約が開始されるチョコレートの祭典でも同様の施策を実施し、高評価が500件を超えました。お客様が注文後に忘れてしまい不安になるという課題に対して、適切なタイミングで情報を提供できたのが安心感や満足度につながったのだと思います。
VoCにもとづく購入プロセスの全面サポートで売上にも貢献
他に印象に残っている施策はありますか?
葛和:ECサイトの購入プロセスに対して実施したサポート施策は印象深かったです。当社のECサイトには、購入ステップが「ショッピングカートトップ」「お届け先入力」「ギフト設定」「お届け日入力「お支払方法の設定」と5つもあり、操作が複雑化しているという課題がありました。
そこで各ステップにおけるVoC(Voice of Customer)を徹底的に分析。そして、各画面で発生している具体的な課題に対して、注文操作サポートの施策を公開しました。
具体的にはどのような課題があり、どう解決されたのか教えてください。
葛和:まず、ショッピングカートトップ画面では、「他の商品も見たい」というお客様が、前のページに戻る方法がわからず、戸惑ってしまうケースが多くありました。戻るボタンの位置や表記がわかりにくかったため、ポップアップを活用して案内をわかりやすく表示するようにしました。
最も複雑だったのがギフト設定画面です。百貨店のECサイトならではの機能ですが、のし紙の種類、表書き、名入れ、用途(お中元、お歳暮、お祝いなど)と、設定項目が多岐にわたります。どの組み合わせを選べばいいのか迷うお客様が多く、ここでの離脱や問い合わせが非常に多く発生していました。
山本:私もコンタクトセンターでメール対応をしていたときにギフト設定に関する問い合わせは非常に多かった印象があります。「結婚祝いにはどののし紙を選べばいいのか」「名入れはどう書けばいいのか」など、お客様は慣習やマナーも含めて不安を抱えていらっしゃいました。そこで、用途に応じた選び方のガイドをポップアップで表示し、「お中元の場合はこちら」「お祝いの場合はこちら」といった具体的な案内を出すようにしました。
これらの施策を行ううえで工夫したことはありますか?
葛和:各画面でバラバラにサポートを出すのではなく、「注文操作サポート」という共通のタイトルをつけて、連続性と統一感を持たせました。お客様が「このマークが出たら、操作の助けになる情報がある」と認識できる状態を目指したのです。
また、サポートを表示するタイミングも工夫しました。最初から全ての情報を表示すると画面が煩雑になってしまうので、お客様が迷いそうなタイミングを見計らって表示するように設定しました。
購買プロセスにおける施策で最も効果が高かったのはどれでしたか?
葛和:圧倒的に効果が高かったのは、注文完了画面での施策です。お客様の多くが注文完了後に、マイページの注文履歴を確認しようとされるのですが、そこへの導線が全くなかったのです。
また、領収書の発行方法についてもわかりにくく非常に多くの問い合わせが発生していました。そこで、注文完了画面に「マイページで注文履歴を確認」「領収書を発行する」「トップページへ戻る」といったメニューをサポートアクションで表示しました。
このサポートアクションの反応率は約30%と非常に高いものでした。他の施策と比較しても約3倍の反応率で、課題として立てていた機能がお客様が本当に必要としていたものだったということがよくわかりました。
山本:購入プロセスのサポートを通じて学んだのは、お客様は、私たちが「当たり前」と感じている部分でもつまずいているということです。百貨店の従業員にとっては当然のギフトマナーも、お客様にとっては初めてのことかもしれない。そういった視点を持って、Web上で一つひとつ丁寧にサポートしていくことの大切さを実感しました。
購入プロセス全体での効果測定はどのようにされたのでしょうか。
葛和:購入プロセスの画面においては、他部署とA/Bテストを同時に実施していたため、QANT Web単体での効果測定が難しくなってしまいました。全員に何らかの施策を配信していた状態となってしまい、配信なしのグループを作ることができませんでした。そのため、施策を配信した効果の数値が取れませんでした。ただ、前年同期比でコンバージョン率は数%向上しておりましたので、何かしらの効果があったことはいえると考えています。
FAQサイトを統合し、各顧客接点をつないで常にお客様に寄り添える場に
QANT Web導入後、どのような変化がありましたか?
山本:導入当初は施策の作り方も、効果の見方も手探りでしたが、今では複数のWebサポート施策を自分たちで企画・実行し、その効果を比較してみる、といったこともできるようになりました。最近はKARTE Liveをつかって課題感の強い導線やページ上のお客様の行動を動画で確認することも可能になり、よりスムーズで的確なサポートを企画・実行できるようになってきました。
施策を上長に相談する際も、以前は自分の経験にもとづいた意見が中心でしたが「お客様がこういう行動をしているから、こういうサポートが必要なのでは」と、行動データをふまえての会話ができるようになったのは大きな進歩だと思います。
葛和:お客様のWeb上の行動が可視化されたことで、社内でも「データありきの議論」が増えてきました。ページごとに問い合わせが多い箇所や、スクロール回数やクリック数なども見えるようになり改善の優先順位がつけやすくなりました。ただ、なぜその行動につながったのか、といった背景まで深堀りして理解するには、個別の分析が必要です。今後はこうした点にも力をいれていきたいですね。

今後の展望について教えてください。
葛和:年間施策の実施計画を立てて、3つの方向性で施策を展開していこうと考えています。1つ目は年間通して出す「通年施策」、2つ目はお中元・お歳暮などの「スポット施策」、3つ目は配送遅延などへの「ピンポイント施策」です。特にスポット施策は準備が遅れると効果を最大化できないため、「終わってから振り返る」のではなく、前もって対応できるよう計画的に進めていきたいと考えています。
また、2025年5月末に、現在別サイトで運用していたFAQをQANT Webにリプレイスしました。統合後は、QANT Web内のFAQコンテンツを、サポートアクションとお客様向けFAQサイトに展開することができ、当初発生していた二重管理が解消し、FAQコンテンツのメンテナンスも回しやすくなりました。また、FAQを閲覧したお客様の行動も一貫して可視化できるようになり、どの情報が役立っているのか、どのタイミングで離脱しているのかが、より正確に把握できるようになりましたね。
(※2025年8月時点ではすでにFAQサイトとの統合は完了済み)
山本:FAQのリプレイスにあたっては、単に検索ができるだけでなく、お客様の行動に寄り添った案内ができることを重視しています。QANT Webの強みは、お客様の不安や状況に合わせて寄り添った案内ができる点です。問い合わせを削減するという企業目線の目的だけではなく、「便利でわかりやすいな」とお客様に常に感じていただけるようサイト上の顧客体験を向上していきたいです。
葛和:将来的には、QANT コネクト(旧:RightConnect)など、他のプロダクトとの連携も検討しています。Web上のサポートから電話での問い合わせ体験までの一連の流れを統合してサポートできるようにしていきたいですね。現在は社内でのQANT Webを利用して企画・施策を公開してきるメンバーは数名にとどまっていますが、今後はコンタクトセンターで実際にお客様対応しているメンバーから施策のアイデアを募集したり、アイデアをもとにした施策効果をフィードバックしたりして、組織全体でお客様の「困りごとを感動的に解決する」ことの実現を目指していきたいと考えています。