顧客第一主義の理念のもと、200年の歴史を持つ老舗百貨店「藤崎」が挑戦するリアルとデジタルの融合

仙台に拠点を持ち、創業200年を超える歴史を持つ老舗百貨店「藤崎」。店舗とECのオムニチャネル化、アプリと会員情報の紐づけなど、リアルの強みにデジタルをかけ合わせる藤崎百貨店の歩みについて伺いました。

仙台に拠点を持ち、創業204年を超える歴史を持つ老舗百貨店「藤崎」。コロナ禍を経て百貨店としてのモデルを更新する必要が強まり、さまざまな挑戦を加速させています。

店舗とECのデータを連携させることでのオムニチャネル化、顧客向けのスマートフォンアプリの運営、外商のプロセスをデジタル化するなど、さまざまな実践をしてきたそうです。その挑戦の一部には、KARTEも導入いただいています。

今回、マーケティング統括部長兼デジタルコミュニケーション部長 㔟田(せた)誠一さん、マーケティング統括部 課長 櫻井圭一郎さん、本店外商部 部長 丸山承秀さん、経営企画部 システム企画担当 課長 佐々木則和さん、デジタルコミュニケーション部 営業企画担当 課長 高橋伸介さんの5名にお話を伺う機会に恵まれました。

どのように組織横断してデジタル化に取り組んでいるのか、そしてKARTEをどう活用されているのか。藤崎のDXの取り組みを、前半と後半に分けてお届けします。前半では、㔟田さん、佐々木さん、高橋さんを中心に、藤崎がどのようにリアルとデジタルの融合に取り組んできたのか、その歩みを伺いました。

200年を超える歴史を持つ藤崎百貨店の理念と変化

まず、藤崎の取り組みについて教えてください。

㔟田:藤崎は「地域発展主義」「顧客第一主義」「創意実行主義」の3つを普遍的な理念として活動しております。今年で創業205年となる我々は、太物商(木綿業)としてはじまり、呉服店を本業としていました。その後、近代化に伴い、それまで座売りが一般的だった売り方を変え、人が自由に歩いて商品を見られる陳列式の百貨店となりました。

呉服店と百貨店、いずれも対面でお客様と接することを軸に活動してきました。リアルにおけるお客様との接点が私たちの強みでもあります。一方で、社会全体でデジタル化が進行し、お客様との接点が多様化するなかで、これまでのモデルのままでは通用しなくなってきています。

従来の百貨店のモデルにとらわれることなく創意工夫し、地域百貨店の新たなビジネスモデルをつくっていく局面でもあります。そのために重要なのは、私たちがお客様をリードするのではなく、お客様のことを知り、求められるものを提供すること。2021年3月に制定した「私たちの使命」にも、こうした想いが込められています。

「私たちは、信頼し合う皆様と、よいモノ、よいコト、よいヒトがつながる場をつくります。私たちは、時代の変化に合わせ、新しさと楽しさをつくり、よりよく暮したいと願うすべての皆様の思いがけない発見や感動をつくります」

使命を実現するために、近年はデジタル化に注力されているかと思います。どのような活動を実施していらっしゃるのでしょうか。

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マーケティング統括部長兼デジタルコミュニケーション部長 㔟田 誠一さん

㔟田:私が部長を務めるマーケティング統括部では、営業企画、プロモーション、マーチャンダイジング(MD)、催事、地域振興、オムニチャネル推進などを統括しています。

以前は、これらの組織がうまく横の連携ができていませんでした。加えて、先程も申し上げたとおり、われわれは自分たち起点で施策を考え、今売れているものをお客様にお伝えするというモデルから脱却できていなかった。

どのようにお客様の声を聞き、ビジネスに反映するか。このテーマに組織的に取り組むべく、本年度よりコンテンツデザイン部と、デジタルコミュニケーション部の2つを新設し、それぞれに担当を配置して取り組んでいます。

コンテンツデザインは、お客様が望むプロダクトやサービスを創出し提案していくことがメインです。従来のマーチャンダイジング活動とは違う価値創造に取り組んでいくことの大切さを社内に伝えていく役割でもあります。

デジタルコミュニケーションは、時代とともに変化するお客様とのコミュニケーションに対応するためのチーム。お客様のコミュニケーション手段がスマートフォン中心になっているので、ともすると、われわれはシニア層のお客様に向けたコミュニケーションに寄りやすい。あえて、デジタルコミュニケーションと名付け、お客様とのデジタルの接点をつくり、行動データをしっかり見ていこうとしています。

コンテンツデザインやデジタルコミュニケーションをはじめ、横断的にデジタル化に取り組んでおられる、みなさんの役割を教えていただけたら幸いです。

櫻井:マーケティング統括部の櫻井です。これまではコロナ禍の2年半外商セールスとして活動していましたが、今はKARTEを活用した外商のDXに携わっています。セールス経験がないとお客様の本当のニーズはなかなかわからないということで、経験を活かして外商におけるKARTE活用を専任で担当しています。

高橋:マーケティング統括部でデジタル化推進を全般的に担当している高橋です。2021年のECサイトのリニューアルから関わり、今は外商のデジタル化に関する取り組みを進めています。サイトの構築や、お客様とのフロントに立つ外商とシステムの間に立って調整を行う役割を担っています。

佐々木:経営企画部のシステム企画担当をしている佐々木です。一昨年まではマーケティング統括部で、高橋と一緒にECリニューアルを担当していました。システム面からデータの連携や、お客様の可視化をどう進めるかなどを考え、実行する立場にあります。

丸山:本店外商部の丸山です。社歴は30年以上で、長く外商として仕事をしてきました。これまでの外商におけるお客様との接点はリアルだけでしたが、近年はデジタルの導入に取り組んでいます。私はリアルとデジタルのバランスをうまく取りながら、外商のメンバーへのデジタル導入を推進する役割を担っています。

地域百貨店としてリアルの強みを活かしつつデジタルに注力

まず、これまでの藤崎におけるデジタル化の歩みを伺えたらと思います。百貨店としてECサイトも運営されていますが、どのように取り組んできたのでしょうか。

高橋:
われわれはEC専業ではありませんし、単体で価値を生み出すことも難しい。大事なのは、もともとの強みとかけ合わせることです。

㔟田:そのため、3〜4年前から弊社でもオムニチャネルと呼ばれる領域に取り組み始めました。他業種と比較すると遅いと思いますが、われわれは十分に対応できていなかったので、まずは店舗をベースにしながらオンラインの強化に着手しました。

運営とシステムが連携しなければ、オムニチャネルは機能しません。当時のわれわれの状況は、店舗とECで会員を管理する組織が別々だったり、ECとしての利便性が高いとは言えないなど、オムニチャネルを進める上での前提条件を満たせていない状況でした。

佐々木:オムニチャネル化を進める上で、コロナの影響は大きかったと思います。われわれは今年度から新しい中期経営計画が始まっているのですが、先ほど㔟田が話した「私たちの使命」は前の中経のときに立てたもの。作成したのは2019年で、2020年になってパンデミックが起こりました。激変する外部環境がデジタルへのシフトを後押ししました。

とはいえ、課題も多々ありました。お客様のデータは店舗とECでバラバラに管理されていましたし、データの分析もできていない状態でした。まずは、土台を整備しようということで、高橋と共にお客様を一元管理できるように基盤を整えていきました。

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デジタルコミュニケーション部 営業企画担当 課長 高橋伸介さん

高橋:お客様とのチャネルは、本店、地域店、外商、ECがあります。このうち、前の3つのリアルなチャネルはお客様とのつながりも強く、成熟しています。立ち上がったばかりのECは、単独のチャネルとして強くしていく必要がありました。

ECの強みは利便性にあり、リアルの強みは安心感にあります。これらの強みをいかに掛け算するかが我々の戦い方だろうと。われわれの拠点は東北の各地にあり、各地域にお客様がいらっしゃいます。この強みを活かして、ECを強化していこうと目指していきました。

㔟田:ECのリニューアルができたといっても、それだけでうまくいくわけではありません。その要因のひとつとして、店舗ではお客様の購買行動が見えますが、ECでは積極的に見ようとしていなかった。そのため、弊社のバイヤーたちも顧客接点としてのECに対して魅力を感じていませんでした。

「なぜ、ECが重要なのか」というメッセージを繰り返し伝えながら、会員基盤の一元化を進めていきました。社内の準備が整ったタイミングでECを強化。このときは、品目数の拡充や、衣類や日用品など新たな商品カテゴリーの拡大などを実施しています。

このタイミングでは、高橋が述べたように私たちの強みである東北5県に位置する17店舗の「サテライトショップ」も活かしました。我々のECで購入した商品を衛星店舗であるサテライトショップであれば、無料で受け取れる仕組みを導入しています。

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藤崎百貨店のECサイト「FUJISAKI Online

佐々木:ECというチャネルが強化できれば、今後はEC上でもお客様が商品閲覧や商品購買などの行動をするはず。そうなると、ECでどのようにお客様が行動しているかを見える化していく必要が高まります。

㔟田:佐々木が言うように、お客様の見える化は重要な課題ですね。来店情報だけでなく、催事などのリアルイベントに関するお客様のサイト閲覧なども踏まえて、お客様を識別してアプローチできないか?と考えたのが発想の始まりでした。

とはいえ、ECに関してどんな手法やツールが存在しているのかもわからない状態。わからないなりに、まずは調べてみようということで、EC業界のカオスマップを全てチェックするところから始めました。調べる過程で、KARTEと出会いました。

現場の巻き込みと共感が鍵。撤退を経てアプリに再挑戦

オムニチャネルの取り組みに加えて、2022年2月には自社アプリをリリースされています。2015年にリリースした自社アプリを2019年に閉鎖した際の学びや、新たなアプリにかけた思いなどあればお伺いしたいです。

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経営企画部 システム企画担当 課長 佐々木則和さん

佐々木:2015年に「新しいお客様との接点をつくろう」とスマートフォンのアプリを開発しました。当時は、現在よりもスマートフォンを持っている方が少ない時代。アプリの開発も今よりハードルが高く、スクラッチで開発しなければなりませんでした。

その中でいろいろと機能をつけながら、なんとかアプリをリリースしたのですが、ポイントカード「+Fカード」とリリース時期が重なったこともあって、なかなかお客様に価値を伝えきれず、ダウンロード数が伸び悩みました。

時間をかけてなんとか3万ダウンロードまでいったものの、システムの更新費や改修費などもかかり、コロナの影響もあって2019年にアプリを閉じる判断をしました。とはいえ、「藤崎のアプリ」ということでダウンロードしてくださる方は、きっと藤崎のファンのはず。そういうお客様とのつながりは重要ですので、改めて新しいアプリをリリースしました。

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新しくなった藤崎百貨店の公式アプリ。「FUJISAKI online」「FUJISAKI COSME ONLINE」「えびす文庫オンライン」などのECサイトと連携し、クーポンの配布やデジタルチラシの閲覧などの機能が盛り込まれている

新たなアプリをリリースする上で気をつけた点はありましたか?

佐々木:前回のアプリにおける課題は、仕組みというより運用だったと認識しています。われわれとしても、アプリの開発や運用は初めてでした。

例えば、当時も「クーポンなどもやっていこう!」と話は出ていたものの、クーポンのためのネタを集める体制もなく、うまく運用ができる状態になっていませんでした。

今回のアプリでは、お客様に使い勝手をヒアリングすることはもちろん、事前に運用に関わるメンバーにどんなアプリにしていくかを考えてもらいました。

㔟田:閉鎖したアプリも、当時としては最先端だったと思います。ただ、佐々木が言うように、運営体制において至らない点がありました。

クーポンのようにお客様の便益につながることのための予算も設定できていませんでしたし、運営に携わるメンバーの稼働も主務とは別で、リソースも十分に確保できていないという状況でした。

反省を活かして、新アプリでは体制面の見直しを行い、運営の人たちが使いこなせるツールであることを重視して開発しています。

現場のメンバーがアプリ開発に関わることでの変化はなにかありましたか?。

佐々木:単なるプロモーションの観点だけでクーポンを発想すると、「スタンプラリーをすると、◯百円引き」といった工夫のないものになりがちです。現場のメンバーが発想することで、こうしたコンテンツに変化がありました。

一つ例を挙げますね。われわれが動物園のスポンサーで、寅年ということもあり、「動物園のトラに、集まったスタンプの数だけお肉をあげましょう!」というスタンプラリー企画を行いました。単なる割引企画ではなく、お客様も楽しんで参加いただけました。結果、4501個のスタンプが集まり、トラに45kgの東北産赤身肉をプレゼントできたんです。

これは「どうしたら地域のためになる企画が作れるだろう?」とメンバーが考えてくれた結果です。「楽しむ」ことを大切に、いろいろと考えながら、モチベーション高くやってもらえているのではと思います。その雰囲気が伝わっている影響か、順調にアプリのダウンロード数も伸びてきていますね。

㔟田:コンテンツが「面白い」となれば共感が生まれ、お客様も「参加してみようかな」と思ってくださる。「どう商売につなげるか」という戦略や戦術とは別で、アプリの価値を上げていくためには、こうした共感が大事だと思います。

これはわれわれの「創意実行」という理念に通ずることでもありますし、共感が重要という社会の流れにも合致するもの。こうした共感の積み重ねで、購買までいかなくともお客様が藤崎のファンになってくださり、それが会社の価値になるのではと考えています。

「共感」や「楽しさ」も大切にしながら、アプリを運営されているのですね。アプリとして、今後なにか目指していることはありますか?

㔟田:藤崎には、定期的に発行している会員向けの会報誌があります。紙で閲覧することの価値を感じてくださる方もいらっしゃいますが、時代の変化もあってデジタルでいつでも閲覧できるようにしていきたいと考えています。

お客様とのコミュニケーション手段が過渡期にある中で、アプリをリリースしました。アプリを通じて、現在の会報誌の部数と同じくらいボリュームのお客様と、関係を築くことを目指していきます。

関係を構築するうえで、先ほどのように「なんか面白いよね」という体験をつくっていけば、共感をきっかけにダウンロードするお客様もいらっしゃるはず。そういったつながりをアプリでも生み出していきたいですね。

佐々木:アプリとわれわれのクレジットカード「Fカード会員」のデータを紐づけることで、お客様のデータの蓄積につなげていけたらと思っています。

また、㔟田の言うように、アプリで生み出されたお客様とのつながりの延長線上に、お客様の行動の可視化や、決済などの行動の誘発にもつなげていきたいと思います。


※後編はこちら:デジタルで変わる百貨店。老舗「藤崎」が外商DXで目指す、深い顧客理解

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