常識破りのデータドリブン企業・モノタロウが分析から施策までを直結させ、PDCAを3倍速にできた理由
企業向け巨大EC「モノタロウ」を運営するMonotaRO。日本有数のテック企業が、分析と施策を直結させPDCAを3倍速にできた理由に迫る。
1,800万を超える豊富な品揃えと商品を探しやすいUXで人気を集め、377万人以上の会員に利用されている企業向け巨大EC「モノタロウ」。運営するMonotaROはマーケティング部門にもエンジニアが多数所属し、マーケターの多くがプログラミングを行うという日本有数のテック企業だ。データ分析基盤を内製しデータ分析とA/Bテストをやり込んできた同社が、プレイドのCXプラットフォーム「KARTE」を導入することで実現したアジャイル・マーケティングの実態に迫った。
データマーケティング部門の6割がエンジニア
2000年の創業以来、BtoB向けに間接資材を販売する通販サイトとして急成長を続けるMonotaRO(モノタロウ)。同社の強みはエンジニアだけでなく非エンジニアも高いITスキルを保持しており、データを徹底的に活用したマーケティングを実践してきたことにある。
その中心を担うデータマーケティング部門のミッションは、顧客との様々なタッチポイントに対してデータドリブンなマーケティングを行い最適な体験を届けて売上を最大化することと、データドリブンな施策を会社全体で実現していくためにECサイトを含めた各種のシステム基盤の開発・運用を行うことの2点だ。
在庫システムや物流をはじめとする基幹システムはIT部門が担っているが、データマーケティング部門は顧客体験に関わるECサイトそのものやデジタルマーケティング接点の他、データを分析やマーケティング施策に活用しやすい形で蓄積する、データ分析基盤システムを管理している。
なお、驚くべきことに約90名が在籍するデータマーケティング部門の実に約6割がエンジニアで、残りがマーケター、データサイエンティストとUI/UXデザイナーだ。
株式会社MonotaRO 執行役CTO データマーケティング部門 部門長 久保征人氏
「お客様とのタッチポイントをリアルタイムに最適化するためには、マーケティング部門にも高度なITスキルが必要だと考えています」と、データマーケティング部門の部門長を務める久保征人氏は説明する。久保氏が執行役CTOであることも、MonotaROのマーケティングがいかにテクノロジーを重視しているかを物語っている。
マーケターには大量データを操るSQLスキルと統計学の知識が必須
同社には元々、膨大な商品データ、大勢の顧客、大量のトランザクションデータなどから必要な情報をSQLで抽出できるメンバーが、マーケター以外の商品部や人事といった部署にも多い。SQLを用いて単純なデータ集計を行いダッシュボードに表示させるといったスキルは、同社のあらゆる部門においてベースラインなのだ。
だが、顧客の行動を時系列でとらえた“筋道のあるデータ”の分析が必要なウェブ改善チームでは、さらに高いレベルのSQLスキルや統計学などデータ分析の素養が求められる。
「データマーケティングは今後さらにテクノロジードリブンになっていきます。テクノロジーの必要性を理解するだけでは不十分で、実践していくマーケターが必要です」と久保氏。自分のアイデア通りに動くプログラムを作れるといったカジュアルなレベルのITエンジニアリングスキルは、同社のマーケターであれば半数程度が備えている当たり前のスキルになりつつあるという。
Google BigQueryベースでデータ分析基盤を内製
MonotaROは創業後早くから、システムを内製し高速に改善することを大切にしてきた。「汎用的に作られたパッケージソフトでは、かゆいところに手が届きません。一方、外部ベンダーにフルスクラッチで作ってもらうのでは時間がかかりすぎる。細かく実装してデータに基づいて試行錯誤していくアジャイルなアプローチをとりたいので、自分たちでコントロールできる内製にこだわってきました」と久保氏は語る。
ここ5年ほどでビッグデータを扱うための技術が進歩し、Web上のユーザー行動のローデータやユーザーの会員データ、トランザクションデータなどをデータ分析基盤に蓄積することが可能となり、顧客の行動が詳細にわかるようになってきた。
MonotaROでも2年ほど前から、サイトやアプリでの行動履歴や売上、顧客属性といったデータがGoogle BigQueryにリアルタイムに近い形で格納されるようにデータ分析基盤を整備しており、柔軟かつ高速にデータ分析を行ってユーザーに対する理解を深めてきた。
自社で構築したデータ分析基盤とつながり、顧客体験のデリバーまでがワンストップになるKARTE
しかし難しいのは、これらデータを分析に活かすだけでなく、各タッチポイントにおける顧客体験作りに活用することだ。顧客属性やウェブ行動履歴、購入履歴などから、適切なセグメントを割り出し、そのセグメントごとに適切なタイミングでコミュニケーションをとりたいのだが、アクションにつなげるための「パズルの最後のピースが足りない」状態だった。
そこでMonotaROは、膨大なデータをアクショナブルにするための最後のピースであるデータハブシステムとパーソナライズされた施策アクションを、SaaSのCXプラットフォームである「KARTE」によって実現したいと考えた。データハブシステムとなる「KARTE Datahub」を使って複数のデータソースをもとにユーザーをセグメントし、「KARTE Action」の多様なテンプレートを使って最適なタイミングでウェブ接客を行うのだ。内製にこだわってきた同社としては、異例の決断だった。
社内で分析したデータを、そのまま施策に使えることの価値
MonotaROではKARTE導入に先立ち、様々なWeb接客ツールを試してきた。だが、どのツールも社内のマーケティング用データ基盤が思うように連携できない。
「ほとんどのツールはWeb行動データと連携することだけを想定していて、Google BigQueryに格納した膨大で多様なデータを連携するのは極めて困難でした。大量のデータを定期的にアップロードするとか、HTTPリクエストをECサイト側で発生させるとか、事前の開発負担が重すぎました」と久保氏。施策のたびにデータを送り込むための開発を行うのは非現実的なうえに、リアルタイムでデータが連携できないことはあまりにも痛い。「効果から考えると見合わなかったのです」と振り返る。
MonotaROが技術力を結集させて構築した、大規模かつ整備されたデータ分析基盤とシームレスにつながり、分析データを活用できる点が、KARTE採用の決め手になった。
「KARTE Datahubによって、Google BigQueryに格納された我々のリアルタイムなデータに対してクエリを実行してセグメントを生成し、KARTE ActionでWeb接客を行えます。このシステム構成なら、パーソナライズ化されたよりよいCXを、今まで以上のスピードでお客様に届けることが可能になると考えました。汎用性と自由度が高いプラットフォームのおかげで、セグメントもクリエイティブも柔軟にできることは素晴らしいですね」と久保氏は笑顔を浮かべる。
モノタロウのデータドリブン文化をKARTEがドライブする
導入によって改善されたことの一つに、顧客ごとに伝えるべきメッセージを、適切なタイミングで通知できるようになったことが挙げられる。たとえば同社では1回の注文金額が一定以上のお客様には、同月のご注文の送料が無料になるといった、お得なサービスやキャンペーンを多数用意している。だが、顧客はサービス内容を隅々まで把握してはいないもの。
「適切なタイミングで『あなたはこのサービスの対象ですよ』と丁寧にお伝えすることで、確実に成果が出てきました」と語るのは、データマーケティング部門Web改善チームの米島和広氏だ。
株式会社MonotaRO データマーケティング部門 米島和広氏。インタビューにはWeb会議ツールで参加した
「当社は今までもデータを分析して得た知見をもとにサービス改善をしてきましたが、KARTEによって、サイト上でよりダイレクトに改善案を試せるようになりました。GCPでサービスを動かしている当社にとってKARTEは、別システムを使っている感覚がないくらいシームレスなんです。当社が昔から大切にしてきたデータをもとにCXをよくしていくという基本動作を加速できる点でも理想的ですね」(米島氏)
テンプレートのおかげで施策を気軽に実行できるように
顧客の動線やコンバージョン改善においても、施策をカジュアルに試せるようになった。これまでもキャンペーンやA/Bテストなどの施策を熱心に行ってきたMonotaROでは、マーケターが施策を実施するにあたってはデータ分析を入念に行い、仕様書を書いて関係各所のOKを得たうえで開発依頼していた。テストで改善案が成果につながらなかった場合の代替案も必要で、マーケターとしては気軽に取り組めるようなものではなかった。
「自ずと実施できるテストの数も限られてきます。試してみたいアイデアはいろいろと出てくるのですが、限られたリソースの中で試して負けてしまうと結構な痛手になるものです」と胸中を打ち明けるのは、Web改善チームの岡崎真理子氏だ。「A/Bテストには絶対に勝たなくてはいけない気持ち」で臨んでいたという。
だが、KARTE導入後は多くの施策やA/Bテストがテンプレートで実現できるため、開発が不要となり、マーケターの裁量でごく気軽に試せるようになったのだという。社内でも開発依頼はできるが、他案件との優先度調整等が必要となり、リリースまでのリードタイムが長くなる。開発しなくて済むのであれば、もちろんその方が断然速い。テストできる回数は急増した。
失敗も怖くなくなったという。テストした結果、あるセグメントでは失敗したとしても、成功したセグメントが他に見つかることがしばしばだからだ。「この属性のユーザーセグメントに対しては効果がある施策なんだな、とわかれば次回につなげられる。勝ち負けというよりは、勝った部分を卒業させていくイメージです。どこかのユーザーセグメントで必ず勝てるので、気分も前向きになりますよね」(岡崎氏)
マーケターが扱いやすいように整備されたデータ分析基盤、そしてデータ分析のスキルを持ち、仮説を打ち立てられるメンバー。だからこそ、KARTEの導入によって、PDCAの質と量を飛躍的に高めることができた、と米島氏は熱を込める。
働き方から変わり、「来月やります」が「来週やります」に
そんな岡崎氏だが、実は導入当初は使いこなせるのか不安だったという。
「ですが施策を一つ試してみると、お客様の反応がダイレクトにわかり、セグメント別の効果も明確になります。これが結構おもしろくて『次はこのセグメントではどうだろうか』と新しい仮説ができる。お客様への理解が深まるよいサイクルに入ったと思います」(岡崎氏)
株式会社MonotaRO データマーケティング部門 岡崎真理子氏
今までであれば諦めていたような、開発の負荷は軽いが改善インパクトも比較的小さい施策も、失敗を恐れずに試せるようになった。アイデアを試す回数は導入前と比べて3倍に増えたというのが、岡崎氏の実感だ。
「ミーティングのサイクルも変わってきていて、以前なら、本当はすぐにでもやりたいけど『来月やりたいです』といっていた案件が『来週やります』といえるようになってきています。開発依頼がいらないので、マーケティングのチームだけで企画内容とリリース日を決められることで、働き方も変わってきました」(米島氏)
また、分析してから試すという従来型の開発とは逆の、「試してみてからわかる」探索型アプローチが増えたという。「これまで長年お客様を分析してきましたが、知らないことはまだ山のようにあります。試行錯誤を繰り返しながらお客様をより理解できることの意義は大きいですね」と久保氏。企画したことを、マーケターが直接実行できる環境が実現したからこそ手にしたメリットといえそうだ。
久保氏は、岡崎氏をはじめとするマーケターチームの「学びの速度」がかなり上がっていると感じるそうだ。
「実際の売上ももちろんですが、学びのサイクルが速くなり、学ぶ量が増え、よりユーザーのことを理解できるようになっている。たとえ負けたとしても、負けるのがうまくなりました。何倍もの速さでユーザー理解を深められるプラットフォームなのだと、横で見ていて思いますね」(久保氏)
今後については「さらに高い解像度でお客様を理解し、施策に活かしていきたい」と語る久保氏。機械学習をもとにセグメントを作ってWeb接客を実施することも視野に収めているという。
仮説をもとに試行しデータをもとに改善を重ねるというアジャイルなマーケティングを、Web接客においても仕組み化しつつあるMonotaRO。データドリブンを極め続ける同社の挑戦は終わらない。
※この記事は、2019年9月26日公開のMarkezineより転載しています。