バックオフィスツールにKARTEを導入。OMOに欠かせない、高度な「在庫連携」を実現したオンワードの取り組み

株式会社オンワード樫山は、OMOを加速させるため、店舗在庫連携システムにKARTEを導入し、在庫管理に必要な店舗スタッフとのコミュニケーションを強化。本記事では、導入の背景から活用法と成果、今後の展望を伺います。

オンライン上での購買体験が一般化するなか、顧客体験の向上や競合との差別化のために、オンラインとオフラインのサービスをつなぐOMOに注目が集まっています。

『23区』『ICB(アイ・シー・ビー)』『自由区』『J.プレス』『五大陸』など、さまざまなアパレルブランドを展開する株式会社オンワード樫山(以下、オンワード)も、 OMOを推進する企業の一つ。2021年から、OMO型店舗「ONWARD CROSSET STORE/SELECT」を相次いで出店しています。

2019年にはOMO推進の一環として、自社ECに用いているシステムをリプレイス。ECと店舗在庫の連動性を高めるために、ダイアモンドヘッド株式会社(以下、ダイアモンドヘッド)が提供する店舗在庫連携システム「ROS」を導入しました。そして、店舗スタッフと本部とのコミュニケーションの円滑化を目的に、ROSにKARTEを導入。

本記事では、オンワードのDX推進およびEC支援を担当する株式会社オンワードデジタルラボの猪狩喜弘さん、高橋秀樹さん、ダイアモンドヘッドの金親真人さんから、オンワードが推進しているOMOについて、そしてバックオフィスツールにKARTEを導入した背景と活用方法、成果、今後の展望を伺いました。

OMOに向けて、店舗とECのデータ連携を模索

まず、オンワードデジタルラボのミッションについて教えてください。

猪狩:オンワードデジタルラボは、オンワードグループのデジタル領域を担う子会社として2020年に設立されました。グループ会社のDXを推進する会社として、オンワードグループ各社のECのシステム開発や、ROSやKARTEのような外部プロダクトの導入、マーケティングなどを支援しています。

アパレル業界でデジタル領域に特化した部門を分社化する事例はそう多くはありません。業界を牽引する意識を持ち、DX推進に力を入れています。

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株式会社オンワードデジタルラボ CX推進Div. デジタルソリューションSec.  猪狩喜弘さん

オンワードにおける「DX推進」とは具体的にどのようなことを指すのでしょうか?

猪狩:中長期経営ビジョン「ONWARD VISION 2030」の中で掲げられている「OMOストアの進化」「会員基盤の拡大とコミュニケーションの強化」という2つのミッションを指します。
オンワードは、2021年4月にOMO型店舗「ONWARD CROSSET STORE/SELECT」(※1)を本格スタートさせ、2022年3月には「クリック&トライ」(※2)の取り扱いブランドと導入店舗を大幅に拡大して本格展開。お客さまにとって、より便利なお買い物体験を提供してきました。

その結果、店舗・ECを問わずお客さまの属性情報がわれわれの手元に蓄積されてきています。私たちオンワードデジタルラボが担っているのは、このデータを活用して、よりお客さまのことを深く理解した上でコミュニケーションを取る方法や、お客さまにとってより快適なサービスの提供手段を探る役割です。また、そういったコミュニケーションや一連のサービスは、ウェブだけで完結するものではなく、当然店舗スタッフとの共同作業によって成り立つものなので、サービスや仕組み(システム)を従業員フレンドリーなものに育てていく役割も担っています。

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ONWARD CROSSET STORE/SELECT

※1:オンワード樫山が展開する多数のブランドやネット限定商品をワンストップで購入できる複合型店舗
※2:公式ECサイト「ONWARD CROSSET」上で気になる商品を選択し、お好みの店舗に取り寄せし、試着してから購入を決定できるサービス

店舗・EC間の在庫連携で、100億円規模のインパクトを実現

OMO施策の一環として、店舗在庫連携システムである「ROS」を導入していると伺いました。ベンダーであるダイアモンドヘッドの金親さんから見て、導入前のオンワードはどのような課題を抱えていましたか?

金親:店舗とECを展開するアパレル企業の多くは、店舗倉庫、EC倉庫、それ以外のフリー倉庫など、チャネルに合わせた倉庫を保有しています。各チャネルからのお客様の注文に合わせて、それぞれの倉庫にある商品を柔軟にやりとりすることは、アパレルビジネスにとって不可欠な要素です。

オンワードさんには、弊社の提供する在庫情報管理システム「SCS」を導入いただいていました。店舗在庫をECで販売するにあたり、SCSが直接それぞれの店舗のPOSシステムと個別に連携するのは、特に店舗数が多いオンワードさんでは現実的ではないと考えたのです。

そこで、2019年から始められた自社ECに使用していたシステムのリプレイスに合わせて、さらなる効率化を実現するためにROSを導入いただきました。ROSはSCSと連携することで、ECでの店舗在庫の引当、店舗での客注業務(店舗に在庫が無い商品を、他店舗などから取り寄せること)の際に、店舗やEC倉庫在庫を含む、あらゆる拠点から効率的に商品を取り寄せることができるシステム。POSシステムを介することなく、店舗のタブレットから全体の在庫情報を確認し、業務を進められることが大きなメリットです。

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ダイヤモンドヘッド株式会社 システム&サービス部 副部長 金親真人さん

ROSを導入したことで、どのような変化がありましたか?

猪狩:店舗への取り寄せ、商品の取り置き、お客様への案内業務が、タブレットで完結させられるようになりました。それまでは、お客様への案内はすべて電話かメールで対応していたので、大きな進歩です。また「クリック&トライ」でもROSの仕組みを一部活用しており、OMOストア開発の基盤となっています。

事業上の成果はどうでしょうか?

高橋:ROSの導入前は、基本的に店舗在庫がECで売れることはありませんでした。導入後、あるメンズブランドの売上を調査したところ、店舗在庫の約50%がECで売れていることがわかったんです。店舗間での商品のやりとりも含めると、その売上インパクトは年間100億円ほどなのではないかと試算しています。

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株式会社オンワードデジタルラボ CX推進Div. デジタルソリューションSec. リーダー 高橋秀樹さん

スタッフとの「コミュニケーションツール」として、KARTEを導入

現在はROSにKARTEを導入して利用されているそうですね。導入の経緯を教えてください。

猪狩:ROSの活用が進むにつれて、運用に関わるスタッフと伝えるべきメッセージが増えていきました。たとえば、「棚卸の期間中は、取り寄せは禁止です」「カレンダーに休日を設定してください」といったものです。ROSには掲示板のような機能があり、全スタッフに対して共通のメッセージを表示していたのですが、3つの課題がありました。

1つは、メッセージが全員に伝わりきっていなかったこと。スタッフのITリテラシーに差があり、こういったシステムを使い慣れていないスタッフからの問い合わせがメッセージの量と比例して増えてしまっていたんです。

2つ目は、メッセージをROSに表示する際にダイアモンドヘッドさん側へ依頼する必要があり、両者の負担になっていたこと。そして最後は、ROSに問い合わせの頻度や内容を分析する機能がなかったことです。

金親:ROSはメッセージを伝えることに特化したツールではありません。掲示板機能を活用したコミュニケーションは可能ですが、オンワードさんほど店舗数や利用されるスタッフさんの数が多いと問い合わせがどうしても増えてしまう。その対応の負荷が大きくなっていました。

猪狩:そこで、問い合わせのタイミングや頻度、内容を分析したり、ポップアップや通知によって店舗別にメッセージを送ったりするために、すでに「ONWARD CROSSET」に導入していたKARTEを、ROSにも導入できないかと考えました。

バックオフィスツールにKARTEを導入するのは初めてでしたが、KARTEの有用性を知っていた上長からもすんなり承認が取れ、金親さんに相談したんですよね。

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相談を受けて、金親さんはどのように対応されたのでしょうか?

金親:弊社としても初めての取り組みでしたが、KARTEの導入はオンワードさんの課題を解決するために適した手段だと思いました。ROSの機能を強化することも考えましたが、ポップアップのようにメッセージを見てもらう機能をつくるのは時間がかかってしまいますから。

加えて、問い合わせ内容を分析するとなると、データベースやインフラを用意することも必要になります。緊急度が高い課題であることは知っていたので、無理にROSの機能強化で対応すべきではないと思いました。

ランニングコストや、すでにグループ内でKARTEを使用されていたこと、そしてROSと組み合わせることでシナジーが生み出せる可能性を考慮し、オンワードさんの意見を後押しさせてもらいました。

「必要な情報を、必要とする人だけに伝える」ことで、従業員体験が向上

導入以降、どのような体制でKARTEを運用しているのでしょうか?

高橋:基本的に私が一人で運用しています。ECを運用していたこともあるので、画面の設定、メッセージの表示、ポップアップの設定などは問題なく実行できていますね。

猪狩:私は導入する際や、KARTEに蓄積されているデータをもとに、マニュアルやQ&Aなどのコンテンツを開発する際のサポートをしています。

KARTEをどのように活用し、どのような成果が得られましたか?

高橋:店舗全体に対するメッセージ発信をメインに活用しています。ROS上に通知を表示したり、必ず認知してもらう必要がある内容の場合は、ポップアップを表示したりしています。

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ログインのIDやパスワードが分からずログインできない従業員向けに、ログイン画面でIDとパスワードのヒントをお知らせする接客例。

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画面の表記が変わったことをお知らせする接客例。

猪狩:全社的なニュースがポータルサイトに掲載された際も、KARTEのポップアップ機能を用いてROSに表示しています。ポップアップからポータルサイトに遷移してもらう導線をつくることで、導入前の10〜20倍はアクセス数が増え、大切な情報を見てもらえるようになりました。

高橋:KARTEを通じて得られたデータを元に店舗をセグメント分けし、セグメントごとに情報発信もしています。たとえば、浸透が必要なオペレーションを周知するために、特に実施の強化が必要な店舗に向けて、実施を促すポップアップを掲載するんです。

具体的には、他の店舗から在庫を取り寄せた際、お客様がその商品を「試着したか」「購入したか」といったステータスを、ROS上で変更してもらうことでデータを蓄積したいと考えていたのですが、KARTE導入前は約半数の店舗がこのオペレーションを実施していませんでした。

そうした店舗を抽出し、実施を促すメッセージを送るようにしたことで、現在ではほぼ100%の店舗がステータス変更をしてくれるようになったんです。

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猪狩:他にも、KARTEで得られるデータを元に非推奨ブラウザを使っている店舗を割り出し、そういった店舗に向けて推奨ブラウザで利用してもらうような注意喚起をしています。

必要な店舗だけに必要な情報発信ができることは、スタッフの働きやすさにとってもプラスになる。タブレットを開くたび、自分に関係ない情報ばかりを見せられるのは、いい体験とは言えませんからね。

高橋:ROSに実装した新機能の検証にも活用しています。これまで在庫確認をする際は、ROSで品番を検索していました。その際、同じ商品のカラーやサイズごとに在庫が見られるのですが、取り扱いが多い商品の場合、検索してもデータが重すぎてすべて表示されないという問題があったんです。

そこで、検索時に品番だけではなくカラーやサイズも指定できる機能を追加。在庫をより細分化して検索できるようにしたわけです。KARTEでイベントを設定し、その機能が使用されているかどうかを調査した結果、多くのスタッフが使ってくれていることがわかりました。

データ連携を強化し、理想のOMOを実現させる

KARTE導入によって、猪狩さんと高橋さんが所属しているチームにはどのような変化がありましたか?

高橋:スタッフからの問い合わせ数が激減しました。一つの問い合わせに対する対応も、今までは電話やメールでコミュニケーションを取っていましたが、KARTE上で完結させられることも多くなったので、工数はかなり削減できています。

今後はどのような活用を考えていますか?

猪狩:店舗スタッフのROS上での行動データがたまってきたので、それを活用してよりよい接客を実現するための改善施策や、新機能の開発などを進めていきたいですね。

高橋:私たちの役割は、店舗スタッフに適切な情報を発信することを通して、お客様によりよいお買い物体験を届けることだと思っています。そのためにも、引き続き店舗スタッフをサポートしていきたいと思います。

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猪狩:具体的に言えば、バックオフィス側のデータと、フロント側のデータの突合にチャレンジしていきたい。お客様がEC上で何をどのように注文し、それを試着、あるいは購入した店舗ではどのような体験をしたのかを分析したいと考えているんです。

現在はROS上で得たデータを、フロント側のKARTEで検索する手間が発生しているので、突合できればよりスムーズにできるのではないかと考えています。

社内では、店舗とEC共通の「顧客情報カルテ」のようなものをつくり、オフラインとオンラインをしっかりとつなぎ合わせることで、一人ひとりのお客様を立体的に知らなければならないという機運が高まっています。

そうした全体の大きな流れのなかで、バックオフィス側、フロント側関係なく、KARTEで取得したデータを活用していきたいですね。

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