リクルート次世代事業開発室の全社的事業ナレッジシェアの方法とは?お客様の見える化が、お客様に向き合える組織をつくる
株式会社リクルートの次世代事業開発室では、新規事業の創出・育成において事業を横断したナレッジの蓄積や共有が思うように進まない課題がありました。
一定以上の規模の企業や組織において挙げられる課題のひとつに「社内のナレッジ共有」があります。特に新規事業では、本質的なサービス価値を高めるために限られたリソースを注ぎ、スピード感を持って前進させたいもの。有益な知識、手法が一部の人や部門に留まることを減らし、関連するメンバー全員が同じ目線、意識を持つことは極めて重要です。
株式会社リクルートの次世代事業開発室では、社内における新規事業の創出、育成を担っています。同部署が手掛けるすべての新規事業の共通の開発基盤として、KARTEおよびKARTE Datahubを導入いただいています。
その背景には、「リクルート」という共通の箱がありながら、事業を横断したナレッジの蓄積や共有が思うように進んでいなかった課題がありました。導入後は、データを元に相互的に学びを深める土台が築かれ、部署全体としてCX(顧客体験)の改善ヘ挑む意識が高まったと言います。
KARTEやKARTE Datahub各ツールを活用し始めたことで、組織や事業にどのような変化があったのでしょうか?今回は、新規事業のひとつ「knowbe(ノウビー)」での取り組みに焦点を当てながら、リクルートの次世代事業開発室の瀬沼裕樹様、清水佑一朗様にお話を伺いました。
社内で年間5〜10個の新規事業の立ち上げと、グロースを担う
リクルートの次世代事業開発室は、どのような部署ですか?
瀬沼: リクルートには「Ring」と呼ばれる新規事業の提案制度があり、この最終審査を通過した一部の案件の事業開発を担っています。年間で約5〜10の新規事業に関わっています。
各事業に対して、私がマーケティングを、清水がセールスを中心にグロースを支援します。私がKARTEの主担当として、清水がセールスフォース・ドットコム社の営業支援ツール「Salesforce」の主担当として、利用を推進しています。
リクルート次世代事業開発室 瀬沼裕樹様(左)、清水佑一朗様(右)
「リクルート」という共通の“箱”がありながら、頻発した”車輪の再発明”
次世代事業開発室ではKARTEやKARTE Datahubを新規事業の共通の開発基盤として採用していただいていますが、導入を決めた主な理由は何でしょうか?
瀬沼: 利用するツールから運営ナレッジまで、各新規事業ごとに独立していたことですね。「リクルート」という共通の“箱”があるにも関わらず、新規事業同士を横断するようなナレッジの蓄積や共有が、ほとんどできていませんでした。
以前は、新規事業が立ち上がるたびに採用するツールを決め、ツールに合わせてイチからオペレーションを構築していました。新規事業はすべてが成功するわけではありません。毎年、惜しくも撤退する案件もあるのですが、その過程で培われたナレッジも撤退と同時にまるっとなくなってしまう状況だったんです。
お客様のデータやインサイトを得て、プロダクトや業務の改善に生かす、といったことは当然、各事業で行われますが、どこかアナログで経験値に左右されやすいものでした。「その料金検討、以前に他の事業でもやったよね?」と、似たような議論が行われる……。まさに、“車輪の再発明”が起こっていたんです。
多くの新規事業開発に関わるからこそ、各事業で効果のあった事例を横展開できれば全体のパフォーマンス向上にもつながりそうですね。
瀬沼: その通りです。部署として3〜4年前から危機感が広がり始め、まずは事業ごとに分散していたツールの整理を始めました。整理する中で「どの事業にとっても重要となるサイト内施策や、UI・UXをサポートするサービスはないかな?」と探していたときに、KARTEを紹介していただける機会があり、導入に至りました。
決め手は何だったのでしょうか?
瀬沼: 新規事業との相性の良さですね。新規事業は規模が小さくユーザー数も限られています。その中で短期間でのどれだけ成長できるかを考えると、お客様のインサイトを見出し、スピーディーにサービスの価値に転換することが求められます。
その点、KARTEはユーザー一人ひとりのサイト内行動をリアルタイムで見られるなど「一人のお客様」と向き合う機能が充実しているので、ニーズや課題を発見しやすかった。また、分析から施策の実行まで複雑な開発作業も不要なので、試したいことをすぐにできる。スピード感を持ってPDCAを回せるのが魅力だなと感じました。
KARTE Datahubも合わせて導入したのでしょうか?
瀬沼: はい。例えば、Facebook 広告やGoogle広告などでもお客様の情報は得られていました。それらも全て一元化したいと思い、KARTE Datahubさえ見れば、複数のツールにアクセスせずにお客様のデータを総合的に分析でき、効率化の面で大きく改善が図れるだろうと考えました。
KARTE Datahubの導入によってできること
knowbeのコンタクトセンターでは、KARTEとAmazon Connect連携で、お客様にも組織にもプラスな問い合わせ体制を実現
貴社の新規事業の中でも「knowbe」のコンタクトセンターでは、KARTEとAmazon Connectの機能連携の実証実験という形で導入いただいています。knowbeについても教えていただけますか。
清水: はい。knowbeは障害福祉施設、事業所向けの運営支援ソフトです。具体的には、利用者の通所や面談、支援記録が単純な操作で自動的に溜まり、日々の記録業務が効率化されます。請求書に代表される月次の書類作成も、ワンタッチで作成できる機能を備えています。
当初、knowbeでは営業面での課題に対しSalesforceを導入していました。おかげさまでセールスの成長基盤は築けたものの、マーケティング面は手薄だったため、KARTEやKARTE Datahubを活用しました。
活用事例についてお聞きしたいです。導入以前、具体的にどのような課題を抱えていたのでしょうか?
清水: お客様からの問い合わせ対応に課題を抱えていました。これまでは、お客様から問い合わせの電話がかかってきても、その質問に対応できるメンバーが現場にいないと、あとで折り返すしかなくて。お客様を待たせてしまうことも多々ありました。また、どんな問い合わせが何件来ているかも把握しきれず、課題の発見や改善に繋げられずにいたんです。
これらの課題を解決するために取り組んだのが、KARTE Datahubによってクラウド型のコンタクトセンターであるAmanzon Connectや、Salesforceなど他社のSaaSと連携して新しいオペレーションを構築することでした。
参考:KARTEと Amazon Connect が機能連携を開始
詳しく教えてください。
清水: これまでは独立していた電話対応を、FAQやチャットと合わせて、Webサイト上に集約したんです。具体的には、問い合わせ時にポップアップを出し、電話対応を希望する場合は電話番号を入力していただきます。さらに、問い合わせの種別を選択してもらうことで、内容に応じてメンバーがすぐにコールバックする仕組みです。
これにより、まずはお客様の待ち時間が削減されました。疑問の解消の精度も上がるので、お客様にとっての煩わしさを抑制することができます。knowbeのサービスの性質上、ITリテラシーの高いお客様ばかりではなく、電話対応へのニーズは強くあります。そこに丁寧に向き合えるようになったと考えています。
そして我々にとっての大きな効果は「どんなお客様が、どんな問い合わせを、いつしたのか」といった情報がすべてKARTE Datahubに入るので、これをもとにオペレーションの改善に繋げられる点にありますね。
瀬沼: 例えば、「この種別の問い合わせが多いけど、回答できる人が少ないから、対応の育成が必要だね」といった判断ができるんですよね。根拠のあるデータから課題点を見つけ、一定の自信を持って次のアクションに繋げられる。今後は、お客様ごとの問い合わせの有無や種類に応じて、一人ひとりに適した問い合わせ対応のポップアップを出すことも検討しています。
お客様の心理的な負担をケアしながら、さらに組織体制の改善にも繋がる。双方にとってプラスになる形にたどり着けたんですね。
清水: KARTEやKARTE Datahubの導入後も、この形に落ち着くまでは瀬沼とふたりで何度も議論を重ねました。「チャットボットのほうが便利なんじゃないか」とか「いや、お客様の層や傾向を考えると電話は外せないよね」とか……。
結局、「ツールを導入して、はい終わり」の世界ではないんですよね。KARTEを導入したからと言って、お客様の体験が勝手に良くなることはありえない。重要なのは、そのツールによって「誰に、どんな体験を届けたいか」を自ら考え抜くことなんだと、この一件から学びました。
お客様の見える化が、社内メンバーの挑戦を後押しする
今お話いただいたように、顧客体験の考え方がアップデートされたり、お客様への向き合い方が変わったり、組織内でのポジティブな変化もあったのでしょうか?
瀬沼: かなりありましたね。これまでは「外部のツールを活用しながら、お客様ごとに適した接客をして、サイト体験やCVRを改善する」という発想を持っているメンバーが少なく、アイデアが煮詰まることがしばしばありました。
それが、部署全体でKARTEを導入したことで、「他の事業でも使われている便利なツールがあるらしいから、自分たちも試してみよう」という流れが生まれやすくなって。挑戦の幅が広がった分、それぞれの事業が大きく前進し始めたなと感じています。
清水: お客様のサイト来訪時に「誰が」「いつ」「どんな経路でCVしたのか」「どのホワイトペーパーをダウンロードしたのか」など、具体的なデータが見えるようになり、マーケティングに詳しくないメンバーもお客様の行動に興味を持ち始めましたよね。「ホワイトペーパーのダウンロード数を上げるために、こんなポップアップを表示すれば?」といった具体的な施策の会話がチーム内で生まれるようになったのは、大きな成長だなと思います。
サイト来訪者に資料ダウンロードを促すポップアップを表示
これまでは取れなかったデータが見える化されたことで、できることが増え、チーム全体でやりたいことの幅がグッと広がったと。
瀬沼: 誰もがデータを根拠に話を進めるようになったので、個人の経験値やスキルセットに関わらず、一様に提案の説得力が生まれましたね。事業メンバー全員の目線も合わせやすくなりましたし、何より一人ひとりのメンバーが「このデータをもとに、自分はどう動くべきか?」を考える機会が増えたように思います。
お二人の話を聞いていると、部署内のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進し、メンバーの業務体験(EX)を改善することが、お客様の体験価値(CX)をアップする上で重要な役割を果たしている印象を受けます。
瀬沼: そうですね。以前と比べて、より本質的な課題に向き合えていますし、それはつまり、お客様の体験に還元できる部分も大きい。「データ」という確固たるファクトや、そこから得られるインサイトを誰もが平等に見られる仕組みを作り、実行面でも無駄を減らして、PDCAを早く回せる状況を作るのが、事業開発における自分たちの使命だと信じています。
挑戦と失敗を繰り返し、“新規事業ならではの価値”を全社に広げていく
KARTEの導入から1年。当初の課題であった「組織を横断したナレッジの共有」において、何か進展はありましたか?
瀬沼:私たちが配属されたとき、新規事業の運営に関するナレッジはほとんど皆無でした。その頃に比べると、ナレッジを共有することへの意識の高まりとともに、メンバー同士の関係性も含め、大きく成長しているように感じます。最近では部署内でラジオ配信を始めたんですよ。直近のテーマは「撤退した案件から学べること」でしたね。部署全体で、ともに切磋琢磨し、高め合う雰囲気が浸透してきているのかなと感じます。
今後、どのようにKARTEを活用していきたいですか?
瀬沼: 今後は、KARTEの運用を含めた事業運営のノウハウ自体をパッケージ化し、誰もが積極的に活用できるよう整備していきたいです。ほかのSaaSとも連携しながら、KARTEの真価を探求していきたいです。
リクルートは「SUUMO」や「HOT PEPPER」のような大規模な事業もありますが、新規事業はスピード感を持って小さな挑戦を繰り返していける。失敗もあるかもしれませんが、臆することなく挑戦を重ね、新規事業の価値を全社的に広げていきたいです。
清水: 瀬沼の言う通り、次世代事業開発室がリクルートの「実験場」になれたら面白いですよね。先日、社内で毎年開催される表彰会で、knowbeの事業ナレッジを発表したところ、既存事業の担当者から「発表会のスライド、もらってもいいですか?」「Amazon Connectとの連携、うちの事業でもやりたいです」といった連絡がくるようになりました。
KARTEの力を借りて新規事業でフットワーク軽く挑戦できたことの学びから、既存事業のメンバーに刺激を与えられるなら、次世代事業開発室の価値や可能性はもっと広がると思います。第一に目指すべきは担当事業のグロースですが、今後は部署内に留まらず、全社的にプラスになるような働きかけをしていきたいです。