N1を深く知り、新規事業開発の高速化と効率化を目指す。リクルートの取り組むDXとは
株式会社リクルートで次世代事業開発室のグループマネージャーを務める瀬沼裕樹氏にご登壇いただいたセッションでは、KARTEを活用したCX、DXに関する取り組みが語られました。瀬沼さんは業務にどのような課題を感じ、その課題をどう解決したのでしょうか。
2019年11月11日、KARTEの最新事例を通じてCX(顧客体験)の「最前線」と「可能性」を知ることができるカンファレンス「KARTE CX Conference 2019」を開催しました。
株式会社リクルートで次世代事業開発室のグループマネージャーを務める瀬沼裕樹氏にご登壇いただいたセッションでは、KARTEを活用したCX、DXに関する取り組みが語られました。瀬沼さんは業務にどのような課題を感じ、その課題をどう解決したのでしょうか。
“ノウハウの蓄積されない仕組み”が効率化のボトルネックに
リクルートの次世代事業開発室は、社内の新規事業の戦略立案や運営のサポートなどを行っている部署です。瀬沼さんは、さまざまな新規事業の開発に取り組む中で、「どうすれば開発サイクルの効率を上げられるか」という点に課題を感じていました。
瀬沼氏 「これまでは、各新規事業ごとに使いたいツールを自由に導入している状況でした。そうすると、事業ごとに一からノウハウを蓄積しなくてはなりません。また、事業からの撤退が決まった場合、蓄積したノウハウが失われてしまうデメリットがあります。継続して新規事業の開発をする上で、非効率な仕組みとなっていたんです。
特にUI・UXやWebマーケティングはノウハウを持つ担当者が少なく、ナレッジも蓄積されない。こうした状況を改善するため、すべての新規事業にKARTEを導入しました」
KARTEで実現したCX改善のプロセスとは
KARTEを導入した次世代事業開発室は、「リアルなユーザー行動に基づく事業開発」を掲げました。このテーマのもと、3つのポイントに焦点を当てて新規事業の開発を進めていったそうです。
瀬沼氏 「CX改善プロセスでは、まず観察や調査を行い、得たデータを分析して施策を計画、実行・改善に移すといったPDCAサイクルを回します。新規事業開発において、CX改善プロセスの中でも特に3つのポイントが重要だと考えました。その3つとは、『N1を深く知る』『まず試してみる』『仮説検証のプロセスを高速化する』です」
新規事業開発は、参照できるユーザー数が少ない状況がほとんど。「N1を深く知る」では、こうした特徴を踏まえ、「広く知る」ではなく「深く知る」に取り組んだそうです。
瀬沼氏 「成熟した事業における観察・調査プロセスでは、オーディエンスデータやPV、CVRといった統計的なデータが重視されます。しかし、新規事業開発においては、こうしたデータが十分集まっていないケースも多いため、全体ではなく一人ひとりのユーザーに関連するデータを重視してきました。
個別のペルソナや訪問頻度、サイト内での行動などです。ユーザーそれぞれがどのような動きをしているかは、他の解析ツールでなかなか分析しづらい。KARTEの良いところは、これらのデータが直感的に把握できる点にあります。観察や調査に知見のない社員でも、KARTEなら『N1を深く知る』ことができました」
2つ目のポイント「まず試してみる」では、こちらも新規事業ならではの課題となりやすい「感覚で次の施策を回してしまう」「エンジニアのリソース不足によりすぐに施策を実行できない」といった課題を解決する方法として、KARTEが役立ったそうです。
瀬沼氏 「KARTEには、施策ナレッジのデータベースがあります。この機能では、事業が直面するさまざまな問題に応じて、施策アイデアを比較、検討できます。
豊富なテンプレートもあるため、エンジニアの工数を割かずに施策が実行できるようになりました。成果がすぐに確認できるため、効果が不明確なまま次の施策へ動き出すこともありません。『まず試してみる』を実現する上で、KARTEが担った役割は大きいですね」
3つ目のポイント「仮説検証のプロセスを高速化する」にも、KARTE導入の効果があったと、瀬沼さんは話します。
瀬沼氏 「新規事業では、サービスの価値がまだ不明瞭であることも多く、施策の方向性が明確になっていないケースも少なくありません。このような場合、事業の新しい価値やインサイトを見つけ出すために、PDCAサイクルを効率的かつ高速に回す必要があります。
このとき、PDCAサイクル内に複数のプラットフォームが存在していると、メンバー間での情報共有やデータ抽出からの計画、実行までに多くの時間を取られます。これらのプロセスが1つのプラットフォーム内で完結できる点も、KARTEのメリットだと感じました」
開発パフォーマンスを最大化したデータの“見える化”
KARTEの導入によって、CX改善プロセスを効率よく実行するための環境ができた次世代事業開発室。一方で、「CXの磨き込みだけでは、生産性の高い事業開発を行えない」と、瀬沼さんは考えたそうです。
瀬沼氏 「CXはユーザーの体験にフォーカスした考え方です。価値ある新規事業の開発という視点では、各事業責任者が俯瞰した目線で事業を捉える必要があります。そこで、私たちはKARTEの活用を通じたDXの取り組みとして、事業全体の“見える化“を図りました」
開発にDX(デジタルトランスフォーメーション)の概念を取り入れたのは、事業全体を俯瞰で捉えるため。DXでは「データドリブンな運営で事業の開発精度を向上する」をテーマとし、施策と事業戦略の一貫性を担保することに注力したそうです。
瀬沼氏 「KARTE導入以前の事業開発においても、全体のデータを“見える化”しようとする動きがありました。しかし、多くの問題によってうまく実現できていませんでした。
KARTEの接客サービスによって得られたユーザーデータは、GoogleやFacebookの広告管理画面、Google Analytics、Google BigQueryなど、さまざまな場所に蓄積されます。これらのデータを活用するには、それぞれのツールにアクセスする必要があり、場合によっては集計軸の調整といった工数もかかります。計算方法が人により違うなど、精度も課題となっていました。そこで、『KARTE Datahub』を活用することで、データを一元管理できるようにしました」
KARTE Datahubの導入により、「事業責任者が全体の売上やKPIの動きを見つつ、ユーザーや広告のデータを追えるようになった」と、瀬沼さんは話します。こうした取り組みの結果、仮説・検証のサイクルは以前よりも早くなり、開発の精度も向上したそうです。
瀬沼氏 「新規事業開発という予算の限られた部署において、CXとDXのための環境が構築できたことが私たちの強みとなっています。事業開発で他社と競争になったとき、こうしたプラットフォームの優劣が勝負をわけるのではないでしょうか。ずっと課題だった施策と事業戦略の一貫性をクリアし、私たちは自信を持って前に進めています」
KARTEの活用を通して実現した、事業開発の高速化と効率化。瀬沼さんは、「KARTEには、さらなる可能性を感じています。今後は、Integration(統合)、Personalize(個別最適化)、Automation(自動化)にも取り組んでいきたいですね」と語りました。
“ユーザーの声”がCX改善におけるただ1つの正解なのか
瀬沼さんは、Apple共同創業者であるスティーブ・ジョブズの「顧客が何を求めているかを探すのは顧客ではない」という言葉を引用し、セッションを締めくくりました。
瀬沼氏 「世の中にはユーザーの望みに沿う形でサービスを改善するケースがよくあります。ユーザーアンケートの回答をサービスに反映するといったケースですね。しかし、ユーザーが自身の潜在的な望みに気づいていない場合もあれば、本当の望みを書かない場合もあるかもしれません。ユーザーの望みにそのまま応えていれば、本当に価値のあるCXが提供できるかは疑問です。
さらに、ゼロからサービスを作り上げる新規事業開発では、サービスが形となっていない場合が多いため、そもそもユーザーの反応を参考にできません。だからこそ、より多くの施策を仮説・検証できる仕組みを作り、提供者側からCXを作り込んでいくことが質の高い事業開発を行うポイントになると感じています。CX時代に求められる新規事業開発には、パフォーマンスを最大化できるプラットフォームが必要不可欠となるのではないでしょうか」