Event Report

EC化の先を見据え、新たな消費スタイルを創る。百貨店発ファッションサブスク「アナザーアドレス」のKARTE活用

2023年7月に開催された「KARTE CX Conference 2023」にて、アナザーアドレスの事業責任者を務める田端竜也氏に登壇いただき、開発背景や実現したい体験価値、事業立ち上げ当初から“使い倒してきた”KARTEの活用法を共有しました。

百貨店業界初のファッションサブスクリプションサービスとして2021年3月にローンチした「AnotherADdress(以下、アナザーアドレス)」。創業400年を超える大丸松坂屋百貨店の
運営する同サービスは、2023年2月時点で売上成長率300%、総登録会員数は約15,000人と順調な成長を遂げています。

2023年7月に「事業成長をCXのデジタル変革で牽引する」をテーマに開催された「KARTE CX Conference 2023」ではアナザーアドレスの事業責任者を務める田端竜也氏が登壇。開発背景や実現したい体験価値、事業立ち上げ当初から“使い倒してきた”KARTEの活用法を共有しました。

ファッションの新しい消費スタイルを創造する

アナザーアドレスは「Maison Margiela」や「MARNI」など、国内外270以上の有名デザイナーズブランドの洋服を自由に選び、レンタルできるサービス。月額5500円から利用でき、借りたい洋服の着数に応じてプランを選択、レンタルして気に入った洋服の割引価格での購入も可能です。

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アナザーアドレスの立ち上げ背景には百貨店業界の変化があります。田端氏曰く「百貨店は1980年代後半〜1990年代初期には約10兆円の売上を誇る“小売の王者”と呼ばれていたが、売上高はコロナ禍では4兆円前後まで減少」するなど厳しい状況に置かれています。

中でも苦戦を強いられているのがファッションです。大丸松坂屋百貨店において、1990年の売上全体のうち約50%をファッションカテゴリの商品が占めていましたが、現在は約10%までに落ち込んでいます。

大きな要因の一つはEC化の波に乗り切れなかったことだと田端氏は話します。

田端氏「百貨店は、お客様に店舗で商品を手にとり、試し、買っていただくという体験への思い入れが強いからこそ、オンラインで商品を売ることに消極的でした。その結果としてお客様に新たな価値提供の機会を逃してしまったと捉えています。

反省を活かし、次の“波”には乗り遅れまいと展開してきたのがアナザーアドレスです。音楽や映像などのサブスクリプションサービスの成長、消費行動のトレンドなどを鑑みて、モノのサブスクリプション化は次の消費の転換点になると考えています」

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ECの次の潮流を見据えたアナザーアドレスは、顧客にどのような価値を届けていこうとしているのでしょうか。

軸となるのが事業パーパスの『FASHION NEW LIFE』です。事業パーパスには「サブスクリプションという仕組みを通じて、新たな洋服との出会いを増やし、より多くの人にファッションによってエンパワーされる体験を届けたい」といった思いとともに、ファッション業界の大量製造・大量廃棄が環境に及ぼす影響が懸念される中で「環境の観点でも持続可能なビジネスモデルを構築したい」という意志が込められていると言います。

田端氏「身につけた人に元気や自信を与えるというファッションの本質的な価値の提供、そして環境にとって持続可能なビジネスモデルの構築。両者を実現することで、新しいファッションの消費スタイルの創造を目指しています」

さらに田端氏は顧客に届けたい価値を「4つのコア」に整理しています。

田端氏「1つ目は『Sustainable』。私たちが取り扱う洋服は“布だけになるまでリサイクル”できるようクリーニングやリフォーム・リペア事業者とのネットワークを築いています。洋服の寿命を延ばすことで廃棄による環境負荷を低減します

2つ目は『Creative』。アナザーアドレスでは、店頭での試着の代わりに、お客様は1ヶ月間、実際に洋服を着て過ごすことが可能です。周囲の反応なども得ながら、自分に似合う服や好きなブランドを発見する機会を創ります。

3つ目が『Intelligence』。洋服を『借りる』という選択肢が増えることで、お客様はクローゼットの中身を減らしたり、お財布の中身を節約したり。より賢くファッションを楽しむことができます。

4つ目に『Dress code』。アナザーアドレスはファッションが好きな人だけではなく、『おしゃれをしたいけれど何から手をつければいいかわからない』と悩む人も対象としたサービス。半歩先の着こなしやアイテムを提案し、ファッションを楽しむきっかけを増やします」

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顧客が洋服を自由に選び、楽しむためのサイト体験設計

4つのコアに沿ってサービスを開発してきたアナザーアドレス。特にサイトの設計においては「お客様が自由に洋服を選べる体験」を重視してきたと言います。来月会う人や訪れる場所、着用するシーンを思い浮かべながらサイトを眺め、悩む時間にも「洋服を身にまとう時間と同じくらい、ファッションの醍醐味が詰まっている」と考えるからです。

ファッションの醍醐味を実感してもらうために、サイトではどのような工夫を凝らしているのでしょうか。田端氏は、2つのポイントを挙げて説明します。

田端氏「一つ目に商品の一覧画面には価格を表示していません。せっかく月額定額のサービスなので、価格にとらわれず、純粋にピンと来るかで服を選んでほしいからです。

二つ目に、一覧画面や詳細画面の文言やデザインにおいてレディースとメンズといった区別を必要以上に強調しないように意識しています。性別や『女性らしさ』や『男性らしさ』といったステレオタイプに縛られず、自由に好きな服を選んでほしいと考えています」

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実際にサービスを利用する顧客からは「おしゃれが楽しい」「新しい扉を開いた気がする」といった声が寄せられているそうです。さらにサービスの解約率も平均1%程度で推移しており、顧客満足度の高さが伺えます。「自由に洋服を選べる体験を楽しんでもらえている手応えを感じる」と田端氏は言います。

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その結果、アナザーアドレスは急成長を遂げています。2022年度の売上成長率は前年比300%以上増加、総登録会員は15,000人、総合レンタル着数は約15万着を超えました。「第1回日本DX大賞」の大企業部門で「優秀賞」を受賞するなど、DXの取り組みとしても注目度が高まっています。

KARTEを中心に据えた“アジャイル”なサービス改善サイクル

アナザーアドレスでは、顧客のフィードバックをもとに短いサイクルで仮説検証を回すアジャイル開発の手法を取り入れ、サービス改善を重ねてきました。

改善のPDCAサイクルを回すために、アナザーアドレスは立ち上げ当初からKARTEを活用してきました。KARTEを中心にUXを設計し、「KARTE Talk」「KARTE Action」「KARTE Message」「KARTE Insight」などの機能を活用していると話します。

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アナザーアドレスでは、改善に欠かせない顧客のフィードバックを気軽に送ってもらえるよう、お客様とのやりとりをすべてLINEで行っています。この重要な接点における顧客体験向上をKARTE Talkで実現しました。

KARTE Talkでは、サイトでの顧客行動を把握し、チャットやメール、SMS、LINEなどのチャネルで多様なカスタマーサポート施策を実行できます。

田端氏「KARTE Talkのおかげで、LINEでお客様から問い合わせがあった際、その方の閲覧していたページや過去の問い合わせのデータから背景や状況を深く理解し、的確なサポートの提供が可能になりました。

また、返信にはテンプレートを使うことで対応の質を維持しながら、スピードを向上できました。KARTE Talkは問い合わせタスクの割り振り機能も充実しているため、個人だけではなくチーム全体の業務最適化も進んだと感じます。

立ち上げ初期から問い合わせ対応の質とスピードを高められたことで、お客様からはちょっとした汚れがあったといった報告や具体的な機能の改善要望など、色々な声が集まるようになりました」

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集まった声をサービス改善に反映する上でもKARTE Actionが活躍しました。KARTE ActionではWebサイトやアプリなどで多様な接客アクションの実装やABテストによる検証をノーコードで行えます。

田端氏「サイト上でテキストの文言やボタンの色や位置などの改善を行う際、エンジニアの開発工数を挟まず、クイックに仮説検証を回せるようになりました。一定期間、成果が確認できたらサイトへの実装を依頼するといった流れで改善を行っています。

また、HTMLやCSSを勉強すればテンプレートをカスタマイズして多様な施策を形にできるのも魅力。先日実施した診断コンテンツ施策も簡単に実現できました」

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顧客にサービスをより楽しんでもらうためのキャンペーンのお知らせなどは、KARTE Messageを活用して配信しています。KARTE Messageは、メールやプッシュ通知などサイト外のチャネルにおいて、顧客の属性や行動に合わせたパーソナライズ配信を支援するパッケージです。

田端氏「ページの閲覧や購買といった行動を元にしたセグメント作成や、配信のABテストを簡単に行えるため、若手担当者が中心となってキャンペーンの仮説検証を回し、お客様の理解を深められています」

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行動データを蓄積した先には、サイトやアプリにおける顧客の行動をリアルタイムに解析し、多様な軸や切り口から集計・分析が可能な機能「KARTE Insight」の活用も検討していると言います。これらのサービス改善における活用法を踏まえて、田端氏はKARTEの魅力を2つの観点から説明し、KARTEが成長の土台になったと振り返ってくださいました。

田端氏「1つ目は高速かつ的を得たシステムアップグレード。KARTEでは3ヶ月に一度以上のペースで新しい機能のβ版がリリースされる印象です。担当の方にお勧めされて試しに活用しているうちに、自然と施策の幅が広がりました。

2つ目が丁寧かつ的確なカスタマーサクセス体制。カスタマーサクセスの方が対面やSlackで手厚くサポートいただけたおかげで導入から運用まで円滑に進みました。

アナザーアドレスの成長は、KARTEのシステム面での進化とプレイドの“人”による手厚いサポートに支えられてきたと感じています」

ファッションに限らない、“モノ”のサブスクリプションプラットフォームを目指して

セッションの最後は、田端氏が更なるサービスの成長に向けて、アナザーアドレスの展望を示しました。見据えていたのは、単なる「百貨店によるファッションサブスク」を超えたサービスの実現です。

田端氏「アナザーアドレスが目指すのは新しい消費スタイルを創ること。サブスクリプションというビジネスモデルに囚われず、より多くの人に新しい消費スタイルを生み出し、伝える“メディア”としてサービスを育てていきたいです。

また、ファッションに限らず、モノのサブスクリプションプラットフォームとして取り扱う商品を広げていく構想も動いています。百貨店で培ったブランドとのネットワークを活かして、お客様への提供価値を広げていきたいです」

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カンファレンス後の2023年8月には現代アート作品のレンタルの開始を知らせるリリースが公開されました。「老舗の百貨店もデジタルを活用して新たな試みを始めていると知っていただけたら」と田端氏が語った通り、今後も「新しい消費スタイルを創造」するアナザーアドレスの挑戦は続きます。

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