Event Report

顧客中心主義の時代に拡がる従業員体験の定義。今捉えるべきCXとEX、DXのつながりとは? #exp_day

「顧客中心主義の時代に求められるEXの再定義」と題し、CXとEXの関係性や取り巻く変化を起点に、両者を下支えするDXのあり方について意見を交わした。

モノやサービス、情報がコモディティ化するなか、企業が代替できない価値を創るには、それを生み出す人、つまり従業員の力が欠かせません。一人ひとりが創造力を活かして顧客と向き合い、アイデアを形にし、価値を磨き続ける。そうした従業員体験(EX)が、優れた顧客体験(CX)の提供を可能にします。

2021年6月23日、24日に開催されたカンファレンス「Experience Day 2021」では、CXとEXのつながりについて、多様な領域・業界の実践者が議論しました。

オープニングセッションでは「顧客中心主義の時代に求められるEXの再定義」と題し、株式会社Emotion Tech代表取締役の今西良光氏と、プレイド取締役の高柳が登壇。CXとEXの関係性や取り巻く変化を起点に、両者を下支えするDXのあり方、拡張するEXの定義について、意見を交わしました。

環境変化によって複雑化するCXとEXのつながり

セッションの冒頭では、CXとEXをめぐって今どのような変化が起きているのか、今西氏が考えを共有しました。

今西氏「新型コロナウイルス感染症の影響や、それに伴うデジタルシフトによってCXの変化は加速しています。

例えば、BtoCのアパレル小売企業では、アプリやサイトから商品を購入する人が増え、消費活動が店舗だけではなく、オンラインにも広がっています。店舗での接客や品揃えに加え、アプリやサイトの設計やデザインも、顧客の体験を形づくる重要な要素となりました。

そのなかで企業がよりよい体験を創るには、店舗のスタッフのみならず、デザイナーやエンジニアも力を発揮できる職場づくり・役割設計が必要になります。 CXのあり方が変わった結果、呼応するようにEXのあり方も変化しているのです」

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今西 良光 株式会社Emotion Tech 代表取締役
新卒で日立製作所に入社しITシステムの営業に従事した後、株式会社ファーストリテイリングに入社。自らの経験の中でサービスの現場におけるマネジメント課題を痛感。CX・EXに関する事例や論文を研究し、2013年にEmotion Techを創業。CX・EXの分析に関する独自の手法を開発し特許を取得。『実践的CXM』著者。

環境変化によってCXのあり方が変わり、呼応してEXのあり方も変化する。今西氏は、その逆も起きていると考えています。

今西氏「例えば、コロナ禍でオフィスワークからリモートワークに移行したBtoBのメーカー企業では、取引先企業への営業なども対面からオンラインになりました。

その結果、従業員が自宅にいながらどのようにパフォーマンスを発揮し、顧客により良い体験を創るのかを考えなければいけなくなっている。EXのあり方が変わった結果、CXのあり方が変化したわけです。

このようにCXとEXは、互いに作用しており、そのつながりは加速する環境変化によって、ますます複雑化しています。両者を切り離した『点』ではなく、連続した『線』で考えなければいけないのです」

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CXとEXを「点ではなく線」で考える必要があるというのは、決して新しい考え方ではないそうです。

今西氏が挙げたのは、1994年にハーバードビジネスレビューの論文で提唱された『サービス・プロフィット・チェーン』です。従業員の満足度が高まれば、提供するサービスの品質が上がり、顧客の満足度が高まる。そのサイクルによって事業が成長するという考え方を指します。

CXとEXのつながりは30年近く前から語られてきた一方、今西氏は「日頃の業務で実践したり、社内で浸透させたりできていないケースも多いのでは」と言います。

今西氏「『CXとEXが向上したら良さそう』と何となく理解はできていても、実際に収益上がるのかどうか、上げるために何に働きかけたらいいのかは把握しづらいため、取り組みづらい現状があります。

そこで鍵になるのはデータだと思っています。ブラックボックス化したCXとEXのつながりをデータによって捉えてアクションにつなげていく。それができるようになると、『点ではなく線』で考え、取り組む企業が増えていくのではと思っています

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顧客の「豊かな生活」を実現するDXのあり方

今西氏が「データ」に言及したことから、セッションの話題はデジタルトランフォーメーション(DX)のあり方へ。高柳が自身の考えるDXの重要性を語りました。

高柳「今はあらゆる事業や産業において、顧客が中心となる流れが加速していると思います。企業は、常に変化する顧客のニーズや課題を捉え、それらに柔軟に応え続けなければいけません。

その流れに対応するために、データの活用を含む、DXを進めていくことが一層求められていると捉えています」

そのうえで、高柳は「何のため、誰のためのDXかを考えることが大事」と強調します。

高柳「2004年にスウェーデン ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が発表した論文で、DXは『ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる』というコンセプトで説明されています。この論文の題名にも『Good Life』という言葉が含まれている。

この『Good Life』が私は非常に重要だと思っています。デジタル化によって人々の生活をより豊かにすること。それこそがDXの本質ではないかと考えているんです

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高柳 慶太郎 株式会社プレイド 取締役
2005年に新卒で楽天株式会社入社。広告営業、アドネットワーク事業の立ち上げなどを経験。2008年にアジャイルメディア・ネットワーク株式会社入社。取締役副社長COOを経て2018年12月に退任。株式会社プレイドには2011年の会社設立時から社外取締役として参画し、2019年1月から現職。現在はビジネスサイド全般を管掌している。

さらに顧客の生活を豊かにするためのDXは、EXにもポジティブに作用するのではと、高柳は視点を示します。

高柳「本質を捉えたDXは、デジタル化によって顧客に価値提供したいと考える従業員に届き、力を発揮する手助けをするはずです。その結果として、さらにCXが向上するという、好循環を実現できるのではないかと思っています」

「人が人らしい仕事に向き合える」という従業員体験

複雑化するCXとEXのつながり、それらを捉えるためのデータ活用、顧客の生活を豊かにするDXのあり方。今起きている変化や現状認識を共有したうえで、セッションの後半では「EXがどのように変化していくのか」について語りました。

高柳は、あらゆるものがコモディティ化するなか、「価値の差分を生み出す人の力がより重要になる」と強調し、これからのEXについて考えを共有します。

高柳「2017年にPwCが複数国を対象にした調査で、およそ75%の人が『テクノロジーが進歩しても、人の介在するコミュニケーションを重視する』という結果が出ています。国によって多少ばらつきはありますが、AIなどのテクノロジーが進歩しても、人を超えるコミュニケーションは重要であることがわかります。

また、今のような変化の激しい時代において、俊敏さをもって顧客の変化に対応するためにも、人の創造性や発想は欠かせません」

そうした人の力を最大化するために、EXは一層重要になり、その定義も広がっていくのではと問いかけます。

高柳「これまではEXと言うと『企業に対する満足度を高める』や『福利厚生を充実させる』といった議論や取り組みが中心でした。もちろんそれらも重要ですが、今後は『人が人らしい仕事に向き合えているか』も問われてくると考えています。

人にしかない力を活かして顧客と向き合い、関係を築き、価値を生み出し続ける。そうした顧客との共創こそが、人らしい仕事なのではないか。 そうした共創のサイクルが生まれることこそ、EXを高めるうえで大切なのではないかと思っているんです」

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EXの「時間軸、対象、活動」は拡張していく

今西氏はこれからのEXについて「時間軸・対象・活動」の3つを軸に拡張していくのではと、見解を語りました。「時間軸」については、「EX(Employee Experience)からLX(Life Experience)」への拡張を挙げます。

今西氏「どれだけ職場環境や福利厚生が完璧でも、出社前に家族と大喧嘩をした人が、最高のパフォーマンスは出すのは難しいでしょう。

人生と仕事はそう簡単に切り離せるものではありません。働き方が多様化するなか、EXを本気で変えにいくなら、職場内だけではきっと足りない。人生という長い時間軸のなかで、今この職場でどのように力を発揮してもらうかを考えないといけなくなると思います」

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「対象」については、「Employee Experience」から「Constituent Experience(構成員体験)」への拡張を挙げます。

今西氏「欧米を中心に、NPOやNGOの職員、あるいは自治体に住む人など、目的を共有する構成員の体験を『Constituent Experience』として捉え、向上に取り組む動きが出てきています。

雇用関係とは異なる関係においても、集まる人の力をどう最大化できるのか。そうした議論が増えてくるのではと思っています」

今西氏の発言に、高柳も「プレイドもCXを語るときに、Citizenの意味を込めて使うことがある」と語ります。

高柳「行政の視点に立つと市民は共に街をよりよくしていくメンバーです。同じCXでも『Citizen Experience』と捉えられるのではと、社内で話しています。今の『Constituent Experience』とも近い話のように感じました。

また、今後は企業においても従来の雇用関係の枠組みで語れない関係が増えていくはず。そうした変化も対応しながらEXの対象を捉え直していく必要があるのでしょうね」

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最後に「活動」については、「Employee Experience」から「Employee Transformation」への拡張を挙げました。

今西氏「以前とある組織のトップの方と話した際、その方が『CXやEXをトランスフォーメーションと捉えている』とおっしゃっていたんです。

その方は、営業部や人事部だけが見えている課題を見つけ、場当たり的に取り組んでも、大きなインパクトは出ないと感じたそうです。一番大事なのは、トップがコミットして社内を巻き込み、CXやEXを向上させるという雰囲気や風土を浸透さえることである、と。

その意識改革、つまりトランスフォーメーションが起きた先で、一人ひとりの持ち場で体験の改善が起きる。そうして初めて成果が出ると言うんです。

私自身もその捉え方には強く共感しています。社内をどう巻き込むか、そのための組織づくりなどは、CXやEXの向上において最初に登るべき一番高い山ですから」

今西氏の発言を受け、高柳も「会社や組織は人の集合体でできている。EXは全ての人に関わるものであるから、しっかり浸透させ、全社で取り組むことが非常に重要」と大きく頷いていました。

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CXとEX、DXを線で捉え、価値創出のヒントを探る

複雑化するCXとEXのつながり、顧客の豊かな生活をつくるDXのあり方、人が人らしく仕事をするというEXのあり方と、その拡張可能性——。

対話を終えて、今西氏は「CXとEX、DXを線でつなげて捉え、部分最適ではなく、全体最適を目指し、本当にやるべきことは何かを考える大切さを感じた」と改めて振り返りました。

オープニングセッション以降も、「Experience Day 2021」では、デザイナーやエンジニアが力を発揮できる組織づくりや地方都市において人の心を動かす体験など、示唆に富むセッションが行われました。レポートは随時公開していきますので、ぜひご覧ください。

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