分析と施策をつなげてKPI達成に貢献。介護・医療領域の求人プラットフォーム「ウェルミージョブ」におけるKARTEフル活用術
エス・エム・エスが運営する求人プラットフォーム「ウェルミージョブ」において、どのようにしてKARTEの活用を本格化させ、応募数に占めるKARTE経由の割合を倍以上にまで成長させたのか。また、そのプロセスが組織にどのような変化をもたらしたのか。詳しくお話を伺いました。
株式会社エス・エム・エスは、「高齢社会に適した情報インフラを構築することで人々の生活の質を向上し、社会に貢献し続ける」をミッションに掲げ、医療・介護/障害福祉・ヘルスケア・シニアライフの領域で事業を展開しています。同社が運営する求人プラットフォーム「ウェルミージョブ」では、求職者と事業者の双方にとってより良いマッチング体験を提供するため、KARTEを活用したさまざまな施策に取り組んでいます。
どのようにしてKARTEの活用を本格化させ、応募数に占めるKARTE経由の割合を倍以上にまで成長させたのか。また、そのプロセスが組織にどのような変化をもたらしたのか。求人PFマーケティング推進部 求人PFメディアグループの佐藤 剛史さん、小池 俊介さんにお話を伺いました。
リブランディングを経て、より多様な業界の「人材不足」の解消を目指す
はじめに、お二人が所属されている部署と、それぞれの業務内容について教えてください。
佐藤:私は「ウェルミージョブ」のメディア責任者として、事業全体の拡大をミッションに、主に求職者の会員獲得や応募促進、法人に対する求人広告の掲載獲得に向けたマーケティング全般を担当しています。また、プロダクトマネージャーも兼務しており、エンジニア陣とも連携しながら、toC/toB問わず最適な顧客体験は何かを常に模索しています。

株式会社エス・エム・エス 求人PFマーケティング推進部 求人PFメディアグループ グループ長 兼 クライアントマーケティンググループ グループ長 佐藤 剛史氏
小池:私は「ウェルミージョブ」のマーケティングを担当しています。現在の主務はマーケティングですが、BPR推進部というDX推進・業務改善の部署も兼務しており、元々はそちらが主務でした。システム開発の文脈で培った知見を活かして、KARTEと各種データを連携させる役割などを担っています。

株式会社エス・エム・エス 求人PFマーケティング推進部 求人PFメディアグループ メディア開発 兼 BPR推進部 EA推進グループ システム開発 小池 俊介氏
お二人ともマーケティングとシステム開発の両面に携わられているのですね。現在、マーケティングチームはどのような体制なのでしょうか。
佐藤:プロモーショングループやメディアグループなど複数のチームで構成されています。なかでもメディアグループは今期発足した比較的大所帯の組織なのですが、グループ内はWebプロダクトの改善やSEO分析を通じて顧客体験を向上させる企画を行う「メディア開発チーム」、オウンドメディアやYouTube、TikTokなどのコンテンツマーケティングを担う「コンテンツ企画チーム」、そして各SNSアカウントの活用を考える「SNS企画チーム」の3つに分かれています。
ほかにも法人向けに特化したグループも構え、これらの体制で、「ウェルミージョブ」というメディアの価値をいかに作っていくか、ウェブ上でどのような顧客体験を提供できるかを追求しています。
貴社が事業を通じて解決したいと考えている社会課題と、そのための具体的な目標についてお聞かせください。

佐藤:当社は創業以来20年以上にわたり、「高齢化社会に向けた情報インフラを構築する」というテーマに取り組んでいます。そして、2025年7月、介護職向け求人情報サイト「カイゴジョブ」を「ウェルミージョブ」へとリブランディングし、介護職だけでなく医療・障害福祉・保育など、より多くの職種を対象とした求人サイトに生まれ変わりました。
「ウェルミージョブ」が対象とする介護や医療などの業界は、深刻な人手不足という課題を抱えています。たとえば、介護従事者はあと15年で約60万人が不足するとも言われており、この課題を解決することが事業としての目標です。
介護や看護の現場で働く魅力を発信し、この業界で自分らしくいかに長く働いてもらうか。そのために、私たちは社内に蓄積された豊富な情報を「ウェルミージョブ」というサービスに統合し、求職者が自分に合った職場を探せる体験を創出することで、事業者の人手不足解消とミスマッチの削減に貢献したいと考えています。業界の中で選ばれるサービスになることで、社会課題の解決に貢献していくことが私たちの目指す姿です。
目標達成に向けて、現在どのようなことに注力されていますか?
佐藤:「ウェルミージョブ」へのリブランディングを実施したとはいえ、介護や医療、障害福祉、保育など、各ジャンルで求人を探す求職者に対して、もっと最適な仕事探しの体験を提供できると考えており、異なる転職理由をもつ求職者一人ひとりの体験を磨き込んでいく方針です。
具体的な一例ですと、特に求職者の方々は多忙な中で転職活動をされています。そうした状況で重要なのは、サイトに会員登録したら、家の近くの希望にマッチする条件の求人がすぐにレコメンドされたり、スカウトが届いたりする体験を提供すること。一つひとつの体験を磨き込み、登録してすぐに「ここで働きたい」と思えるような求人を、なるべく早く、多く提供できる状態を実現したいと考えています。
開発組織に依存せず、マーケター完結型の体制へ
KARTEを導入していただく以前、顧客体験の向上などを目的にした施策を実施する上で、どのような課題を抱えていたのでしょうか。
小池:私が5年前に入社した時点で、すでにKARTEは導入されていたので、導入前の状況については伝聞になってしまいますが、施策の大部分を社内の開発部署に依頼せざるを得ない状況だったと聞いています。
また、せっかく開発工数を割いたにも関わらず、成果が出なかったときのことを考えると、新しい施策を思いついてもチャレンジしにくい状況があったと聞いています。
当時システム開発の部署も兼務されていた小池さんからすると、こうした状況は施策のボトルネックになっていると痛感されていたのではないでしょうか。
小池:そうですね。KARTEなら、開発に頼らずマーケティング部門主導で施策を迅速に実行できると気付き、積極的に活用するようになりました。
入社後にKARTE活用を推進する上でありがたかったのは、施策を手軽に始められるプリセットが豊富に揃っている点です。私が入社してから最初に取り組んだのが「トリガーメール」という、ユーザーの行動を起点にメールを自動配信する施策でした。KARTEにはもともとメール配信機能が備わっていたため設定もスムーズで、私が着任した翌日にはもうメールを送れる状態にまで持っていくことができました。
このスピード感が組織内に広まり、「KARTEを使うと、何だか分からないけどすごく早く施策を実施できるらしい」という認識が醸成され、組織全体でKARTEを活用しようという機運が生まれました。

佐藤さんは2年前に入社されたとのことですが、当時のKARTEの活用状況をどのようにご覧になりましたか?
佐藤:小池が入社して活用が進んだとはいえ、正直に言うとまだまだ活用の幅は広げられると感じていました。前職でもKARTEの導入責任者を務めており、KARTEをうまく活用すれば事業にインパクトを与えられることはわかっていたので、入社してすぐに早速アカウントを発行してもらい、自分で接客を作成しました。
その中でさまざまな改善点が見えてきましたが、特に伸びしろがあると感じたのが、先ほど小池が話したトリガーメールです。当時も実施はされていましたが、企画面でまだまだ不十分だなと。「この条件やタイミングで求人情報を配信すれば効果が出るはずだ」というデータ分析結果による仮説があったので、小池に相談し、すぐに実行に移しました。結果、非常に大きな反響を得ることができ、応募数も大幅に増やすことができました。
データに基づいた仮説検証で、顧客体験を磨き込む
KARTEの活用を本格化させたことで、具体的にどのような成果が出ていますか?
佐藤:数字で申し上げると、KARTE施策経由の応募数は、昨年比で倍以上も伸長しています。また、メールからのCVRは150%ほど向上しています。
昨年はKARTEを活用したメッセージ送信はメールのみでしたが、昨年末からSMSも追加しました。具体的には、KARTE上で取得したユーザーの行動データをKARTE Craftを使って『Accrete』というMAツールに取り込み、SMSを配信しています。
なぜ、SMSでのメッセージ配信に取り組み始めたのでしょうか。
佐藤:特に介護職に就いている方々は、メールよりもSMSを通してさまざまな情報を受け取っている傾向があるとわかったからです。この特性が見えたとき、SMSでもメッセージを配信すれば、確実に応募数が上がるという確信を持ちました。
とはいえ、それなりのコストがかかる施策なので、決裁者にしっかりとこの施策の投資対効果を証明する必要がありました。その際、大きな説得材料になったのが、メール配信の効果です。KARTEを活用したメール配信によってメール経由の応募者が150%増加したことを示して、SMSでもメッセージを発信すればさらに大きな効果が期待できることを説明し、施策の実行にこぎ着けました。
その結果は期待通りで、この施策はメールでは反応がなかったユーザーの応募喚起につながり、事業にインパクトを与えることができています。現在、この仕組みをLINE配信にも応用しています。
各施策が大きな成果につながっていることがうかがえます。実行する施策を決定する上で、どのようなことを意識しているのでしょうか。
佐藤:求職者のフェーズごとに存在する課題を特定し、その課題を解消するための施策を講じることです。「応募前」「選考中」「選考後」の各フェーズにおけるユーザーの動きを分析してそのなかから課題を抽出。それらを解決するための施策を実行しています。
たとえば、「応募前」のフェーズ。ユーザーのジャーニーを分析すると、求人を探す際に「あとで見る」ために求人を保存する「キープ機能」が重要な役割を果たしています。特に、求人詳細ページでキープされる傾向が強かったため、詳細ページを何度か閲覧したユーザーに対して「キープしませんか?」と促すポップアップが表示されるようにすることで、キープ数の約8割を詳細ページで獲得できるようになり、その後のスカウト送信や応募促進にも大きく貢献しています。
小池:もう一つは、レコメンド求人の配信です。まず、KARTE Datahubを活用し、社内の分析を担当する部署が持つ求職者や求人のデータをKARTEに取り込みます。そして、そのデータを参照しながら「この求職者には、この求人が合っているのではないか」というマッチングのロジックを導き出し、KARTEでポップアップとして表示する仕組みを構築しました。
この施策は現在、月間数百件の応募に寄与しており、非常に効果の高い施策の一つとなっています。ユーザーのセグメントに応じて、社内データを活用した打ち手の検証サイクルをスピーディに回せるのもKARTEの特徴の1つです。
佐藤:その他にも、一度はスカウトメールの受け取りをオフにしたユーザーが、転職活動を再開したいタイミングでスムーズに情報を受け取れるようにする施策も実施しました。
具体的には、サイトを再訪した際にポップアップを表示してワンクリックでスカウト受け取りを再開できる仕組みを構築したところ、想定以上に再開してくれるという効果が出ています。求職者の方にとって、設定を一つひとつ変更するのは手間がかかりますが、こちらからナビゲートすることで、体験価値を損なわずに機会を創出できているのではないかと考えています。

「選考中」あるいは「選考後」のユーザーを対象とした施策はありますか?
佐藤:前提として、「ウェルミージョブ」は、成果報酬型の求人プラットフォームなので、入社決定数が事業にとって重要な指標になります。
そこで、選考を進めているユーザーのマイページに各社の選考状況を尋ねるポップアップを表示し、リアルタイムに「書類選考中」「面接中」「合格」といったステータスを把握できるようにしています。ここで得られた回答結果をもとに、社内のCS(カスタマーサクセス)チームとも連携しながら、リアルとテックの両面から最適なコミュニケーションに取り組んでいます。

求職者に対して選考状況を尋ねるポップアップの例
あとは「応募後」、より正確に言えば面接が始まる前のフェーズにいる求職者に対して、履歴書のテンプレートや、正しい書き方を伝えるコンテンツなども提供していきたいと考えています。
KARTEを使うことで得られた、新たなインサイトはありましたか?
佐藤:これまではGoogle Analyticsなどをベースに分析していましたが、KARTEのコホート分析などを活用することで、自分たちの仮説に確証を得られるようになった点は大きいですね。
たとえば、「会員登録からN日以内に応募が集中する」という仮説について、KARTEで実際のユーザー行動を分析したところ、やはり一定期間がピークであることがデータで裏付けられたんです。この確証が得られたことで、「ならば、会員登録直後の一定期間内でのアプローチをもっと強化しよう」という意思決定がしやすくなりました。
求職者の行動がデータで可視化され、その行動を起点にトリガーを設計してアプローチできる。この「分析」と「施策実行」がシームレスにつながっている点が、KARTEの大きな価値だと感じています。
積極的な発信が生んだ、開発部門との理想的な連携体制
KARTEの活用が広がる中で、社内の体制やメンバーの意識に変化はありましたか?
小池:以前は、プロダクト開発部門のエンジニアはKARTEのような外部ツールにあまり関与していませんでした。しかし最近では、佐藤や私がチャットやSlackで「KARTEでできること」を発信し続ける中で、状況が変わってきました。
開発側でも「KARTEなら、工数を抑えながらさまざまなことができるらしい」という認識が広まってきています。その結果、開発側から「これってKARTEでできますか?」と相談されるケースが増え、細かな改修はマーケティング側で巻き取り、開発部門はよりコアな、大規模な開発にリソースを集中できるようになりました。これは事業全体にとって非常にポジティブな変化だと感じています。

佐藤:KARTEでまず試してみて、成果が出たものを本格的に開発に持っていく、という流れも生まれています。A/Bテストで良い結果が出たという実績があれば、開発側も安心して実装に動けるため、彼らの意思決定のモチベーションにもつながっているようです。
チーム内のメンバーの意識になにか変化は生じていますか?
小池:週次で各チャネルのオーナーが集まる定例会があるのですが、そこで「自分の担当領域でもKARTEが活用できる」という意識が広がってきたと感じます。たとえば、SEOの担当者であれば、流入してきたユーザーに対してCTAボタンの色を変えて応募率を上げるといった施策を考えたり、LINEの担当者であれば、求人の閲覧をトリガーにLINEを送るといった施策を企画したり。チーム内で「KARTEを使ってチームのKPI達成に貢献できるのではないか」という認識が広がりつつあります。
佐藤:「これ、KARTEでいけるよね」という会話が、重要な会議の場でも自然に出てくるようになりましたね。KARTEという言葉がいい意味で「一人歩き」していると感じます。施策を実行して成果が出ているからこそ、メンバーから「もっとKARTEを使いたい」という声が上がり、それがSMSやLINEといった新たなチャネルへの活用拡大にもつながっています。
「KARTE専任担当」を配置し、活用を加速させる
今後の展望についてお聞かせください。
小池:現状の施策は、転職活動に意欲的な顕在層へのアプローチが中心になっています。今後は、まだ転職を具体的に考えていない潜在層や、活動意欲が低いユーザーに対してもアプローチしていきたいです。まずはどのようなセグメントが存在するのかを洗い出し、それぞれに対してどのようなアプローチが有効かを検討していく予定です。
佐藤:toCとtoBの両方で、スコアリングを強化していきたいと考えています。求職者に対しては、アクティビティに応じて点数をつけ、その点数を引き上げるためのコミュニケーションを職種や資格などとの掛け合わせで自動化していくなどをイメージしています。
法人に対しても同様に、採用意欲が低下している事業者に向けたサポートなどを自動配信していきたいですね。スコアリングを活用したコミュニケーションの自動化を推進することで、よりきめ細やかな体験を提供できると考えています。

最後に、これからKARTEの活用を検討している企業へ向けて、アドバイスをお願いします。
小池:KARTEは、本当に何でもできるツールだと感じています。何でもできすぎて、逆に使いこなすのに苦労してしまうほどです(笑)。
ですので、まずはDX推進担当のような形で、KARTEを専門で担当する人材を社内に置くことをおすすめします。そうして、まずは個人がKARTEに対する解像度を上げ、その人を起点に組織的な活用を進めていく方法が効率的だと思います。
佐藤:自社の顧客体験を本気で突き詰めたいと考えているのであれば、KARTEは検討の価値があるツールだと思います。ユーザーの特性やアクションを起点に顧客体験を改善したいけれど、開発リソースは限られている。そうした状況において、素早く試して、素早く検証できるKARTEは非常に有用です。
ただ、小池も言うように何でもできすぎてしまうがゆえに、逆に使いこなすのが難しいという側面もあるかもしれません。それでも、さまざまなことを試しながら習熟度を上げていけば、価格や労力に見合う、あるいはそれ以上のリターンが得られるのは間違いありません。