作り手目線に偏らないために、お客様の声を聞き続ける。電話をDXする「IVRy」の“KARTEが起点となる”プロダクト開発

近年、さまざまな業界・領域の課題を解決するSaaSスタートアップが登場しています。なかでも私たちの生活に欠かせないコミュニケーション手段である「電話」に着目したのが、IVRy(アイブリー)。具体的なKARTEのBtoB SaaS向けソリューションの活用方法や、アーリーフェーズのSaaSがKARTEを使う意義について、CEO兼プロダクトマネージャーの奥西さんと、カスタマーサクセス担当の藤崎瞬さんに伺いました。

近年、さまざまな業界・領域の課題を解決するSaaSスタートアップが登場しています。なかでも私たちの生活に欠かせないコミュニケーション手段である「電話」に着目したのが、IVRy(アイブリー)です。

たとえば、スタッフが豊富にいるわけではない町のクリニックや飲食店では、電話がかかると現場の接客がいったん止まってしまうこともあります。そんなとき、電話に自動で対応できたら。しかも紋切り型の応答ではなく、電話をかけてきた人の状況や困りごとに合わせて効率的に案内できたら——。

そうしたニーズに応え、導入数を着実に伸ばしているのが、同社の開発・運営する電話自動応答(IVR)サービス「IVRy」です。CEO兼プロダクトマネージャー奥西亮賀さんは「お客様の役に立つことが、まさに私たちのエネルギー源なんです」と話します。

IVRyは2021年12月、プレイドとフェムトパートナーズから資金調達を実施。さらにKARTEのBtoB SaaS向けソリューションを活用しています。当初は「IVRy」導入時のセルフオンボーディング促進が目的でしたが、今ではプロダクト開発やマーケティング、カスタマーサクセスにも活かしているそうです。具体的な活用方法や、アーリーフェーズのSaaSがKARTEを使う意義について、奥西さんと、カスタマーサクセス担当の藤崎瞬さんに伺いました。

どうせ使われなくなる?今あえて「電話」の課題に着目した理由

はじめに、「IVRy」がどのようなプロダクトか教えてください。

奥西:「IVRy」は、中小企業やスモールビジネスを対象とした電話自動応答(IVR)サービスで、2020年11月にリリースしました。企業や店舗に電話をかけた際、自動音声で「〇〇について聞きたい場合は1を押してください」といった案内を聞いた経験のある方は多いかと思います。「IVRy」では、そうした自動応答の設定、電話履歴や録音音声の確認、SMSの自動送信などによって電話対応を効率化します。

特徴は月額3000円からという手頃な価格や、最短60秒でアカウント登録が済むスピーディーな手続き、管理画面の使いやすさ、多様なユースケースに対応するカスタマイズ性の高さなどです。2022年7月現在、全47都道府県、2,000以上の企業で活用いただいています。

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IVRyが顧客に提供したい価値や体験を教えてください。

奥西:電話対応を効率化することで、企業や店舗の生産性を高め、従業員の皆さんがより楽しく、いい仕事ができるよう支援したいと考えています。IVRyの会社としてのビジョンである「We make “Work is Fun” from now(『働くことは、楽しい』を常識に変えていく)」にも、そうした想いを込めています。

サービスの構想段階では「どうせ電話なんてなくなるのだから、解決しなくていいのでは?」と、よく言われました。ですが、都市部のIT・スタートアップ業界を除くと、電話はまだまだ使われていて、電話対応が業務効率化のボトルネックになっている企業や店舗はとても多いんです。電話窓口の専任スタッフがいないメーカーさんや、町のクリニックや薬局、飲食店などですね。

そうしたスモールビジネスにこそ、電話の自動応答が有効ですが、従来のIVRサービスは大企業での導入を想定していて、イニシャルコストが数百万から数千万円、ランニングコストも月額数十万円以上と非常に高かった。中小企業やスモールビジネスには手が届きづらかったんです。

電話対応について、中小企業やスモールビジネスの方々は、具体的にどのような困りごとを抱えているのでしょうか?

奥西:お客様や取引先からの電話は大事ですが、営業電話などの場合、現場の接客を優先したいですよね。でも事前にわからないから、応答するしかない。

逆に業務で忙しくて手が離せず、大事な電話を取りこぼしてしまうという悩みも非常に多いです。例えば人手不足の飲食店で、接客中の電話に出られず、結果として予約電話やアルバイト応募の問い合わせを逃してしまったり。

藤崎:他業務と並行して電話対応に追われ、従業員が疲弊しているケースも少なくありません。ある医療機関の方からは、「IVRy」を導入してから「従業員が休みを取りやすくなった」といったお話も聞きました。嬉しい反面、それほど電話対応が業務負荷になっていたのかと、驚きもありました。

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電話対応の課題解決が、働き方の改善になっているのですね。

奥西:そう思います。同時に、エンドユーザーの体験の向上にもつながっている手応えがあります。

マッサージ店や美容院などで、せっかくリラックスしていたのに、スタッフの方の電話対応でしばらく待たされることってありますよね。そんな状況がなくなれば、お客様はストレスなくサービスを利用でき、その場の雰囲気や体験をより楽しめます。実際、こうした業態でのニーズも多いんです。

また、営業時間の確認などの問い合わせは、自動音声やSMSで素早く確認できたほうが便利です。それらも「IVRy」が対応しています。

アーリーフェーズSaaSの“かゆいところ”に手が届くのがKARTE

IVRyでは2022年2月から、KARTEのBtoB SaaS向けのソリューションを活用されています。導入の背景をお聞かせください。

藤崎:第一には、「IVRy」を使い始めたお客様のうち、ご自身で初期設定を行い、必要な機能を使いこなせる人の割合を増やすこと。つまりセルフオンボーディング率の向上が目的でした。

先ほど説明した通り、「IVRy」は競合に比べて単価を安く抑えています。事業として成長させるには、できる限りセルフオンボーディング率が高くなるように作り込み、人件費を抑える必要がありました。

ですが、ローンチから日の浅いフェーズでは顧客層を広げることにまず注力していて、セルフオンボーディング率を高めるための機能開発には、あまりリソースを割けていなかったんです。これを進めるにはどうすべきか、自社開発や外部ツールの活用などを比較検討した上で、KARTEを選びました。

比較検討した際に、何が決め手になりましたか?

奥西:一番大きかったのはコスト効率の良さですね。KARTEのBtoB SaaS向けのソリューションは、利用目的に合わせて必要な機能のみを導入できるので、設定や運用にかかる手間や料金を抑えられました。

それから、まさに私たちの状況だった“アーリーフェーズのSaaS”ならではの課題解決にフィットする、かゆいところに手が届く感もありました。

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アーリーフェーズのSaaSの課題、とは?

アーリーフェーズのSaaSは、開発もセールスもカスタマーサクセスもカスタマーサポートも、最小限の人数で回しています。だから「管理画面で顧客にこういう通知を出したい」といった施策に割ける開発工数は限られます。そのためだけに機能開発するなら、顧客層を広げるための新機能に注力すべきと考えることが多いからです。

ですが、本来はその両方に取り組みたい。アーリーフェーズだからこそ、既存ユーザーの困りごとや要望を聞いて対応したいし、プロダクト開発やセールスを巻き込み、新機能開発や改善も進めたい。それによって、事業成長に弾みをつけることができます。

そんな私たちのような企業に、KARTEは非常に有益だと思います。管理画面などでお客様とコミュニケーションを図るための施策も簡単に設定できますし、機能開発のためのインサイトを得るためにも役立ちます。

さらに、企業のフェーズや顧客の規模の変化に合わせて、KARTEの機能から必要なものを素早く追加し、使い始めることができる。これも、日々状況が変化するアーリーフェーズのスタートアップにとって、使いやすいポイントだと思います。

顧客とのコミュニケーションが新機能のヒントにも

現在、IVRyの顧客向けに、KARTEでどのような施策を行っているのでしょうか。

藤崎:セルフオンボーディングの促進施策としては、既存ユーザー向けの管理画面から、チャットでの問い合わせができるようになりました。チャットはメールよりも気軽に返信してもらえるので、ユーザーの困り具合や緊急度などが感覚的に伝わってくる。対応の優先順位などもつけやすくなりました。

電話などと違って複数の問い合わせに同時に対応したり、他のメンバーと相談しながら回答を練ったりできるのも利点ですね。

また、チャットの内容を社内Slackの専用チャンネルに自動的に流れるよう設定しています。カスタマーサポート担当に閉じず、顧客接点にかかわる複数のメンバーが、ユーザーの生の声にいつでも触れ、課題を共有できているように思います。

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問い合わせチャネルを案内するポップアップを表示して、それぞれの状況や目的に合わせてチャネルを選べるように

もちろん、電話やメールで問い合わせをしたい方もいます。なので、今は管理画面の左下に、チャットと電話、メールでの問い合わせを案内するポップアップを表示して、それぞれの状況や目的に合わせてチャネルを選べるようにしています。

また、電話でのサポートでは、IVRyとKARTEの連携機能も使っています。ユーザーから電話がかかってきた際、「IVRy」の管理画面からKARTEに遷移し、その方のサイトでの行動データを確認できます。過去とリアルタイムの行動データを見ることで、ユーザーの状況をより素早く詳しく理解し、サポートできるようになりました。これによって、ユーザーは状況を一から説明する手間をかけず、より適切な案内を受けられる。非常に便利な機能だと感じます。

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奥西:私が手応えを感じているのは、KARTEのウィジェットを使って、既存ユーザーが使う「IVRy」の管理画面に新機能追加のお知らせを表示する施策です。表示すると、ウィジェットを見たユーザーから「新機能について教えてほしい」と問い合わせが届くんです。普段あまり接点のない方から問い合わせが入ってくることもあります。

それに対して、プロダクトの担当者が新機能を説明する機会を設けて、1対1で話をします。新機能の説明はもちろん、必要に応じてアップセルの提案もしています。直接お話ししてみると、活用における課題をより深く理解できたり、意外な新機能のアイデアの種を得られたりもするんです。

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KARTEを活用し、お知らせやアンケートのお願いを表示

日頃から顧客の声を積極的に聞きにいったり、それを社内で共有したりして、改善に向けたインサイトを得ているのですね。

奥西:声を聞き続けることは、作り手目線に偏りすぎないためにも欠かせないと思っています。電話対応に課題を持つ方々は、東京のスタートアップで働く私たちが想像もできない課題を抱えているし、デジタルツールへの慣れも全然違いますので。ユーザーの方々とコミュニケーションを図ることから、皆さんのリテラシーや置かれている状況、困り具合などの感覚を社内で共有し、改善に活かせていると感じます。

藤崎:例えば最近も「機械音声に違和感がある、抵抗感がある」という既存ユーザーの声が増えていたので、品質向上施策として優先度を上げて対応しました。日頃からお客様の声が共有されているので「対応できるといいよね」という認識が社内でそろっていて、素早く企画から開発、リリースまで完了できました。お客様にも対応の速さ含めて喜んでいただけて、嬉しかったですね。

数多くの声を聞くなかで、開発する機能の優先度などは、どのように決めているのでしょうか?

奥西:非常に難しいところですが、基本的に守るもの・作るものについては、「既存ユーザの業務プロセス」 「新規セグメント獲得のための新規機能」「新しいプロダクト開発」の順に優先度をつけて検討、意思決定しています。

電話SaaSは、障害リスクが本当に大きいサービスだと捉えているため、新規機能のリリースでは、既存業務プロセスへの影響が出ないかどうかを慎重に検討しています。

また、SaaSの事業としての成長を見据え、3ヶ月ごとに力を入れるポイントを設定し、一気に機能開発をしていくこともあります。

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社員の誰もが当たり前にKARTEを使う状態を目指したい

お二人は、今後どのようにKARTEを活用していきたいとお考えですか?

藤崎:直近では、「IVRy」の活用を促すためだけでなく、チャーンを抑えるためにも使いたいです。例えば「IVRy」で転送機能を多く使うと通話料が高くなり、業務効率化も進まないため、解約につながるケースがあるんです。そういう方には、SMSの自動送信機能を使って転送の回数を減らす方法など、より業務効率化が進む使い方をKARTEで案内したいと思っています。

奥西:社内のメンバー全員が、KARTEを扱えるようにしたいですね。今は、サービスに障害が起きると開発担当が通知を出していますが、手が離せないときや休暇中などを考えると、気づいた人が出せた方が良いはずです。

チャットの問い合わせも、今はカスタマーサポートやセールスが回答していますが、誰が答えたっていい。SaaSにとって、お客様が一番集まっている場所はウェブの画面上です。そこでのコミュニケーションに会社全体で取り組むことで、業務の効率化はもちろん、お客様にとってさらなる価値も提案できると思っています。

SlackやGoogleのツールと同じように、みんなが当たり前にKARTEを使う状態を目指していきたいです。

最後に、会社としての展望を教えてください。

奥西:資金調達を経て、事業の大きなスケールに向けてエンタープライズや大企業への導入も検討していますが、まずはスモールビジネスや中小企業の業務効率化に注力していきたいです。

私たちにとって、お客様がエネルギー源であり、モチベーションです。生の声を聞き、改善し、反応を得られることが一番嬉しいし、社内のメンバーも、顧客の役に立てることをピュアに楽しんでいる人が多いんです。そうやって自分たちが「Work is Fun」を体現し、価値を生み出した先で、会社として出せるインパクトを大きくしていけたらと考えています。

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(撮影は移転したばかりの新オフィスにて実施。写真は「リモート時代でも来たくなる、楽しいオフィスに。」というコンセプトを象徴するボルダリングスペース)

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