顧客が自分らしく買い物を楽しめる店舗へ、ナノ・ユニバースがチェックイン機能で提案する体験とは

2021年9月、ナノ・ユニバースはスマートフォンアプリの「チェックイン機能」を刷新。顧客がアプリでチェックインすると、一人ひとりに合わせて情報が届く機能を導入しました。さらに11月には、店頭に置かれた筐体にスマホを「タッチ」して、チェックインする仕組みも追加。この取り組みの背景や大事にしたポイント、今後の展望について、中川さん、企画・開発に伴走したプレイドの宮下巧大、高杉友莉菜に聞きました。

顧客がもっと「洋服って楽しい」と感じられる店舗を実現するために。2021年9月、ナノ・ユニバースはスマートフォンアプリの「チェックイン機能」を刷新。顧客がアプリでチェックインすると、一人ひとりに合わせて「店舗の新着商品」や「ECサイトでお気に入り登録した商品」「登録商品を使ったコーディネート」などの情報が届く機能を導入しました。

さらに11月には、店頭に置かれた筐体にスマホを「タッチ」して、チェックインする仕組みも追加。スマホ片手に気になる商品を探したり、スタッフに話しかけたりしながら、自分にとって心地よい買い物ができる体験を提案します。

二つの取り組みを率いたのは、株式会社ナノ・ユニバース デジタルマーケティング部の中川大介さん。背景や大事にしたポイント、今後の展望について、中川さん、企画・開発に伴走したプレイドの宮下巧大、高杉友莉菜に聞きました。

「なりたい自分」に近づける、店舗の価値を最大化するために

はじめに、チェックイン機能を刷新した背景を教えてください。

ナノ・ユニバースを運営する株式会社TSIホールディングスでは、ECの普及を受けて「ユニファイドコマース戦略」に注力しています。店舗とECのデータを統合して活用し、お客様がどこで買い物をしても、自分に合ったサービスを受けられる状態をつくることを目指し、ジャーニーの見直しやデータ基盤の構築を進めてきました。

そのなかで、特に2020年以降はコロナ禍でECを利用するお客様が急増し、改めて 「店舗でどのような価値を届けるのか」 が議題に上っていたんです。

私たちが店舗の価値として捉えていたのは、実際に試着し、自分に似合うかどうか、どう着こなすといいかなど、スタッフから直接アドバイスを得られ、よりよいアイテムや着こなしと出会えること。 それによって気分が良くなったり自信を持てたりして「洋服って楽しい」と感じられることでした。

では、そうした価値をお客様により一層感じてもらうために何ができるのか。取り組みの一つとして挙がったのがアプリのチェックイン機能の刷新でした。元のチェックイン機能は、入店情報をアプリに登録すると、スタンプが貯まり、割引ポイントと交換できるシンプルなものです。これをお客様とスタッフのコミュニケーションをより活発にするため、店舗での体験をより楽しいものにするために活用できないかと思ったんです。

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株式会社TSI デジタルマーケティング部 マーケティングコミュニケーション課 課長 中川 大介

プレイドが企画・開発に関わることになったのは、どういった流れで?

中川:私が4年前からECと店舗を融合したサービス開発やスタッフのデジタル活用に関わるようになり「ECの良さをもっと店舗に持ち込めないか」と考えていたことです。

多くのECサイトやアプリでは、商品の閲覧履歴や売れ筋ランキングを閲覧したり、膨大な量の商品から色やサイズを指定して欲しい商品を検索したりできる。さらにKARTEを導入しているサイトやアプリなどであれば、リアルタイムの行動をもとに、自分のニーズや状況に合った内容のポップアップやプッシュ通知を表示してくれたりもする。

こうした ECの良さを店舗で実現するならどのような形があるのか。 店舗に大量にサイネージを置くのは非現実的ですし、別の新しい方法がないかと考えていて。「WEB接客のプロであるプレイドさんとお店の体験をテーマに意見交換してみたい」と興味が湧いたのもあって相談したんです。

それまでのKARTEの取り組みを通じて、データを施策に落とし込むアイデアや柔軟性にとても信頼をおいていたので、ECと店舗の融合した体験づくりについても何か参考になるコメントをいただけるのではないかと、期待をしていました。その後打ち合わせに、宮下さんのような空間づくりの仕事をされていた方などとお話しして、話を膨らましていき、叩き台にフィードバックをもらうなどして、検討していきました。

そこから2020年以降、店舗の価値の問い直しやチェックイン機能の刷新について、社内で議論が本格化。実際にプロジェクトを動かしていくことになり、兼ねてから相談をしていたプレイドの方々とチームを組成したという流れです。仕様が決まってから依頼したというより、企画段階から関わってもらい、一緒にアイデアを形にしてきました。

お客様がスタッフに話しかけ、店舗を楽しめる環境をつくる

どのようにチェックイン機能の方針を固めていったのでしょうか?

高杉:最初はチェックイン機能も含め、オンラインとオフラインの体験を線でつなぎ、どのような価値を届けるのか について認識を合わせていきました。

ナノ・ユニバースさんは、お客様がなりたい自分に近づけること をブランドにとって重要な提供価値と捉えています。また、それを手助けするために知識豊富なスタッフがアイテムや着こなしを提案する「スタイリングストア」であることは大事なブランドのアイデンティティーであるとも。

こうした提供価値やブランドのアイデンティティーを最優先に考え、それらを表現するような機能とは何かを議論していきました。加えて、スタッフの方にも顧客に提供したい価値をヒアリングする機会を設けていただきました。そこでも真っ先に挙がったのは 「スタッフによる商品や着こなしの提案」 でしたね。

特に印象的だったのは、店舗の業績やスタッフの人事評価に「パック率」を用いていることです。パック率とは接客をした顧客のうち複数商品をセットで購入した人の割合を指します。スタッフによるスタイリングに顧客がどのくらい満足しているかを把握し、店舗の改善に活かすため、最近新たに導入したと伺いました。

掲げている提供価値やブランドのアイデンティティーが、普段の接客で体現されるよう社内の仕組みも試行錯誤されていると知り、チェックイン機能もそうした取り組みに沿うものにしたいと感じました。

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そこからどのように構想を練っていったのでしょう?

中川:当初は色々なアイデアが出ましたよね。例えば、お客様が店舗を訪れたタイミングで来店目的を聞く仕組みなども検討しましたが、現時点の体験から飛躍しすぎて、お客様にとっては先の体験がイメージしづらいのではないかという意見が上がり、考え直したのを覚えています。

発散的に議論した後、最終的には 「お客様が気になる商品を見つけてスタッフに話しかけやすくなるきっかけをつくること」 に焦点を当てました。

ヒントになったのは私自身の気づきです。基本的に店舗を訪れるお客様の多くは、スタッフから声をかけられることが苦手な方が多いですが、接客が嫌なわけではないということです。ここ数年はECサイトやアプリの利用者が増えたからか「サイトで見たこの商品の在庫ありますか?」とスマホ片手に声をかけられることも増えてきました。

より多くのお客様が、事前にオンラインで欲しいものや気になるものを検索をしたうえで、実際に商品を見て、確かめるために店舗を利用している。店舗とECの行き来を前提として体験を設計する重要性を感じるとともに、明確な目的があれば、お客様は接客を望んでいるのだな とも思いました。

そこから、お客様が欲しいものや気になるものを見つけやすく、店舗でスタッフに話しかけやすい環境を作れたなら、両者のコミュニケーションはより活発になるのではないかと着想を得たんです。チェックイン機能によって、お客様からスタッフに話しかけ、主体的に店舗を楽しんでもらえないか と構想を膨らませていきました。

具体的な機能を考えるうえで大事にしたポイントはありますか?

中川:店舗における、お客様の行動の流れを描いて、機能に落とし込むことですね。具体的には店舗でチェックインをして、アプリに届いた情報から欲しいものや気になるものを見つけ、それを見せながらスタッフに話しかけ、アイテムや着こなしの提案を受けたり試着をしたりするといった流れです。

まず、アプリにはチェックインをしたお客様だけが使える、店舗専用ページを用意しました。ページには「店内のベストセラー」や「店内の新着商品」など、その店舗を楽しむための情報を表示しています。また、「欲しいものや気になるものが見つかるか」や「スタッフに話しかけたいと思ってもらえるか」も重視し、内容を固めていきました。

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中川:検討にあたっては、お客様が店舗をどのように利用しているのか、実態を掴むためにアンケートも実施しています。

来店目的はやはり「Webサイトでみた商品の実物を確認したい」が最も多く、店舗で知りたい情報の1位は「Webサイトでお気に入り登録したアイテムを確認したい」、2位が「おすすめのコーディネートがみたい」という結果でした。これらの声を参考にして「ECでお気に入りした商品」や「おすすめのコーディネート」「おすすめのアイテム」などを表示しています。

顧客に合わせた情報を表示するだけでなく、新たに店頭のデバイスに「タッチ」してチェックインする仕組みも追加したのは、なぜだったのでしょう?

中川:お客様には、欲しいものや気になるものを見つけたい、スタッフに話しかけたいと感じたときにチェックイン機能を利用し、店舗を主体的に楽しんでもらえたらと思っています。物理的に「タッチ」する行動をとることで、何のために利用するのかを意識したり、自分で選んだという感覚を持ちやすくなれば と考えました。

また、入り口でスマホを取り出すことで、その後もスマホ片手に商品を探したり、画面をスタッフに見せながら欲しいものの雰囲気を伝えたりしやすくなればと思っています。あとは、誰かが「タッチ」する姿を見ることで、チェックイン機能を知らないお客様が「あれは何?」と買い物の流れのなかで自然に興味を持ってもらえたら嬉しいです。

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高杉:店舗から出て帰宅した後の行動も議論しましたよね。例えばチェックイン機能では配信された商品のECでの在庫状況を確認できます。それをお客様が自宅でも閲覧できるようにするかどうかなども議論しました。最終的には、時間がなく、店舗で購入せずに家でゆっくり見たり、家に帰って「今日見たあの商品やっぱり買おう」と思い立ったりすることもあると考え、チェックインした日から翌日0時までの間は閲覧できるようにしました。

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高杉 友莉菜 auコマース&ライフ株式会社でECサイトの広告・レコメンドエンジン・MA・分析などのデジタルマーケティングを中心とした企画・運用を経験のち、2020年よりPLAIDに参画。カスタマーサクセスを通じて、KARTE活用支援に限らず、お客様と共に顧客体験の企画・設計を推進

店舗の価値を生み出す源、従業員の体験向上も見据える

チェックイン機能を始めとする、TSIのユニファイドコマース戦略の取り組みについて、今後の展望を教えてください。

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中川:店舗のスタッフが事前にお客様について知っておける情報を増やし、より一人ひとりのニーズや状況に合ったコミュニケーションを図れるようにしたい です。

現在、ナノ・ユニバースは、店舗での試着やスタッフによるスタイリングをオンラインで予約できるサービスを提供しています。お客様が来店した際、ECサイトやアプリで見ていた商品などをスタッフが事前に把握できるようになれば、より一人ひとりに合った商品や着こなしを提案できるようになるのではと思っています。

高杉:今回のプロジェクトを通して、中川さんが「スタッフが『スタイリングのプロ』として価値を発揮するには」を常に意識されていたのが強く印象に残っています。プレイドとしても、スタッフの方々がお客様の理解を深めるのはもちろん、ご自身の発想や個性を生かした多様な接客をするために何が必要かを考えていきたいです。

宮下:大切にされてきた ブランドのアイデンティティーがより表現されるような機能や仕組みを作っていきたい ですよね。また、お客様が一度だけ店舗でチェックインして終わりではなく、そこを起点にどのようにスタッフとの関係を深めていくかも次のチャレンジだと捉えています。

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宮下巧大 東京藝術大学修士課程修了後、建築設計事務所で建築デザインを経験、issue採用をきっかけに2020年よりPLAIDに参画。データを活用したOMOを通じて顧客体験を創るプロジェクトの推進及びソリューション開発を担当

中川:おっしゃる通りですね。例えば、何度か同じ美容師さんにお願いしていると、自分の髪型や接客の好き嫌いを理解してくれて、仕上がりがよりよくなって、その人にずっと髪を切ってもらうことってあると思うんです。

同じように、ナノ・ユニバースでも お客様とスタッフが継続して関わりを持つことで、どんどん体験が磨かれていく状態を目指したい。 そのために、チェックイン機能を改善していくのはもちろん、ECと店舗をまたいでどのようなサービスが必要なのかを試行錯誤していきたいです。

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