コメ兵らしいCXの発見は“顧客理解”から。独自の体験価値を問い、施策に落とし込むプロセスとは?
2022年7月「顧客ロイヤルティ向上を阻む壁の越え方」をテーマに開催した「KARTE CX Conference 2022」では、「私たちの事業ドメインは『好奇心製造業』です」と事業ドメインの再定義した株式会社コメ兵のゼネラルアドバイザー諏訪弘樹氏が登壇。事業ドメインの再定義の背景から、n1分析によるCXの言語化、CDPの構築、OMOの取り組みまで。「KOMEHYOらしい体験」を発見し、実装するプロセスを紹介いただきました。
「私たちの事業ドメインは『好奇心製造業』です」
そう自社を紹介するのは株式会社コメ兵のゼネラルアドバイザー諏訪弘樹氏。コメ兵は日本最大級のリユースデパート「KOMEHYO」を実店舗とオンラインで展開し、宝石や時計、バッグ、衣服などブランド品の買取・販売を行っています。
同社は、商品そのものや価格帯での差別化が難しくなる中、コメ兵が実現したい価値や体験を捉え直し、マーケティング戦略や施策に落とし込んでいます。
2022年7月「顧客ロイヤルティ向上を阻む壁の越え方」をテーマに開催した「KARTE CX Conference 2022」では、株式会社コメ兵のゼネラルアドバイザー諏訪弘樹氏が登壇。事業ドメインの定義から、N1分析によるCXの言語化、CDPの構築、OMOの取り組みまで。「KOMEHYOらしい体験」を発見し、実装するプロセスを紹介いただきました。
なぜコメ兵は事業ドメインを再定義したのか?
2022年に創業75周年を迎えたコメ兵では、2022年3月期の売上と粗利が、過去最高を記録。なかでも新規出店や買取イベントにより、個人買取と小売りが好調です。
しかし数年前は、市場や顧客の購買行動の変化にどう対応するのか、そのためのデータ基盤や体制をどう築くのかなど、いくつもの課題にぶつかっていたと言います。
諏訪氏「市場に商品やサービスが溢れるなか、モノだけでなく、モノを取り巻く体験や経験に価値を感じる方々が増えています。
ですが、その中でKOMEHYOが届けられる体験とはどのようなものか。部署を超えて目指す価値や体験とは何かなど、社内で言語化、共有できていませんでした。
また、データ基盤が整えきれておらず、オンラインのデータとオフラインのデータを正確に統合できていない。オンラインストアやアプリで施策を行なっても、結果を確認するまでに時間がかかるなどの課題もありました」
そこでコメ兵は事業ドメインの定義から始めることに。社員へのインタビューやワークショップを東名阪の3カ所で行い、仕事内容や実現したい未来について議論を重ねました。
そしてたどり着いた言葉が、冒頭に紹介した「好奇心製造業」です。
諏訪氏「コメ兵の主力事業は買取・販売事業であり、モノを工場で製造しているわけではありませんが、精緻な目利きや丁寧なメンテナンス、的確なリメイクによって“信用“をつくり、お客様の『あれを持ちたい』や『それを着てみたい』という気持ちに応えてきました。
そうした『何かが欲しい』という気持ちはただの物欲ではなく、この商品と一緒に何をして、どこへ行き、誰に会うかという好奇心を湧き上がらせるもの。ひいてはお客様にとって日々のエネルギーになり得るものだと信じています。
コメ兵では、そうしたお客様の好奇心を生み出し続けていきたい。ですから私たちの事業ドメインを『好奇心製造業』と定義したのです」
さらに「好奇心製造業」として顧客に価値をいかに届けていくのか。顧客視点で考えたときのコミュニケーション戦略の全体像を円状の図で整理しました。
諏訪氏「『好奇心製造業』の中心はお客様です。その外側に実現したい顧客体験があり、さらに体験を下支えするマーケティング基盤がある。基盤を活用するための戦略や施策が最も外側に位置します。
顧客体験から施策までを考えるうえで軸となるのは、お客様にKOMEHYOとのつながりを深めてもらうこと、つまり顧客エンゲージメントを高めてもらうことです。この全体像を踏まえてCX向上のために試行錯誤してきました」
n1分析から見出したKOMEHYOらしい体験とは
事業ドメインを定義した後は、実現したい顧客体験を言語化していきました。
まずは、KOMEHYOのオンラインストアを利用する顧客がどのような体験をし、価値を感じているのかを知るため、KARTEを使って「n1分析」を行います。n1分析とは一人のユーザーの行動を詳しく分析し、ニーズや課題を深掘りする手法です。
今回は購入頻度や利用頻度などが高く、オンラインストアと店舗の両方を利用する「ロイヤルユーザー」に着目。どのような理由でオンラインストアを訪れ、どのくらいの頻度で商品を買っているのか。ストアでの行動や訪れる日時などを見ていきます。
その分析をもとに顧客がどのような体験をしているのか、大きく二つのパターンに整理しました。
諏訪氏「一つ目は、掘り出し物を探し、見つけ、心がときめく体験です。新商品の入荷する21時頃、お客様がオンラインストアを訪れ、新しい商品を閲覧する。気になった新商品を『お気に入り』に登録し、欲しい商品をそのまま購入する、あるいは店舗で実際に確かめて買う。特にロイヤルユーザーほど、こうした行動をとっていることがわかりました。
二つ目は、欲しいものに出会える体験です。お客様が欲しい商品を検索し、KOMEHYOを知る。特定の商品が見つかるまで、一定期間ストアに来訪を続け、見つかったら購入し、お目当ての商品を購入する。こちらの行動パターンは、利用頻度・購入頻度の低いライトユーザーに多い傾向がありました」
さらに店舗スタッフを全国から集め、プレイドと共同でワークショップを開催。「KOMEHYOらしいCX」を構成する要素を「3つの“いいね”」と「3つの“一緒”」に落とし込みました。
諏訪氏「『3つの“いいね”』は、『欲しい商品』『掘り出し物や欲しいものが見つかるショッピング』『取り寄せなどのサービス』へのいいねから成ります。いずれもKOMEHYOでお買い物を楽しんでもらうために欠かせない要素です。
『3つの“一緒”』は、一緒に『探す』こと、『コーディネート』すること、『買う』ことを指します。これらは店舗スタッフがお客様と日々どのように関わっているかを示しています。
たとえば、店舗スタッフがお客様から欲しい商品をお伺いした後、LINEでやりとりを続け、入荷があった場合にご案内をするなど、商品を一緒に『探す』ことも珍しくありません。着用イメージを伝えたり『コーディネート』を一緒に考えたりもします。商品を『買う』段階でも、どうすればお客様がお得に購入できるのかを考え、時には下取りなども提案します。
このように『3つの“いいね”』に『3つの“一緒”』が掛け合わさってKOMEHYOらしい体験が生まれているという共通認識を、店舗スタッフとの間につくることができました」
さらにKOMEHYOがCXの指標としていた「LTV(一人の顧客が取引期間を通じて企業にもたらすトータルの価値を指す)」の考え方にも変化があったと言います。
諏訪氏「以前からコメ兵ではCXに取り組む目的をLTVの向上と捉えていました。KOMEHYOにしかない体験を提供することによって、お客様に選び続けていただけると考えるからです。『単価×収益率×頻度×継続期間』で計算する一般的なLTVを用いていました。
ですが、以前から定量的なLTVだと『好奇心を生み出すには弱い』、『具体的なアクションに落とし込みづらい』といった声が、店舗スタッフから挙がっていました。今回ワークショップを開催した背景にも、定性的なLTVを設けることで、スタッフにモチベーション高くCX向上に取り組んでもらいたいという考えがありました。
ワークショップからは、次のような定性的、感情的なLTVの式がみえてきました。それは、『3つの“いいね”』と『3つの“一緒”』によってKOMEHYOのファンになってもらう。その結果としてLTVも高まるという図式です。CXの指標を見直し、ワクワクできるLTVの考え方が見つかり、現場と考え方が一致した点も大きな収穫だったと思っています」
最適なタイミングで人が介在するための基盤を築く
n1分析や店舗スタッフとのワークショップを通して見えてきた“KOMEHYOならではの体験”。後半ではそれらを実現するためのデータ基盤や取り組みが語られました。
まず、諏訪氏は「CDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)」の構築について紹介します。KOMEHYOは現在、顧客データや行動データ、実績データなどを一つの基盤に集約し、サービスの企画開発や顧客接点でのコミュニケーションに活用する環境を整えているそうです。
諏訪氏「KOMEHYOならではの体験を実現するにあたって『最適なタイミングで人が介在すること』は重要なポイントだと考えています。
いつも同じスタッフが対応をしているとロイヤルユーザーになっていただきやすい、オンラインストアでもスタッフがチャットなどでご案内やご提案をすると売り上げが増加するなどの傾向が、これまでにもみられました。
CDPの導入によって、複数のデータからお客様の行動や文脈を知ることができれば、より最適なタイミングで人が介在しやすくなると期待しています。実績データと行動データを掛け合わせてお客様の『愛着度』を分析し施策に活用するなどの取り組みを進め、手応えを感じているところです。
また、CDPの構築に合わせて、収集したデータをわかりやすく可視化し、店舗に共有する仕組みも整えているところです。購入履歴などの最新データを店舗からいつでも確認できるようにしたいと思っています」
CDP構築に加えて、以前から力を入れているのがOMO(Online Merges with Offline)の取り組みです。オンラインとオフラインにある複数の接点でどのように顧客とつながり、価値を感じてもらうのか。現在の取り組みや展望を共有してくださいました。
諏訪氏「オンラインストアでは『KARTE Talk』のチャット機能を利用し、サイトでお客様の困りごとや要望を聞き、サービスの改善に活かしてきました。お客様から『チャット隊の皆さん、ありがとう』という言葉をいただいたこともあり、親近感を抱いてもらえているのではと嬉しく感じます。
店舗では、オンラインストアのデータを店舗での接客に活かすことのできる「KARTE for staff」を活用しています。取り寄せや取り置きのサービスを利用する方など、事前にご来店がわかる場合は、KARTEの行動データを確認し、接客に活かしています。
さらにオンラインストアや店舗などのチャネルにおいて、お客様が『またあの人に相談したいな』と感じ、継続的にスタッフとLINEや電話、メール、SMSなどで連絡を取る関係になることもあります。
OMOのゴールは、まさにそうしたお客様と“人と人”の関係を構築していくこと。お客様が各チャネルにおいて人の介在価値を感じ、スタッフへの信頼や親しみを抱きやすい状態を目指しています」
コメ兵は“心をときめく探索”を届けたい
最後に、諏訪氏はこれから取り組みたい施策と“好奇心製造業”としての展望を語り、セッションを締めくくりました。
諏訪氏「一つは、NPS(Net Promoter Score:企業やサービスに対する愛着や信頼を測る指標)の取得です。愛着や信頼など感情にまつわるデータを既存のデータと掛け合わせ、お客様が抱える課題をより詳しく理解していきたいです。複数チャネルを横断した体験に対してのお客様からの評価を把握し、改善に活かしたいと考えています。
また、チャットをもっと活用して、オンラインストアでも人の介在が感じられる体験を実現したいです。対応のスピードなども継続的に向上させていく予定です。
最後は先ほども言及したOMOの推進です。特に、店舗はモノや人の数にどうしても限りがある。これをデジタルの活用によって解決するとともに、人の介在価値を最大限に活かせる仕組みづくりに注力したいです。オンラインストア同様に、商品の情報にとどまらず、お客様の好奇心にお応えできるような情報や、セレンディピティをお届けできる店舗をつくっていきたいと思っています。
今後もオンラインとオフラインそれぞれの良さを生かし、好奇心製造業として、お客様に心をときめく探索を届けたい。80周年、100周年と、よりお客様や社会に必要とされる企業に成長していきたいです」
「顧客ロイヤルティ向上を阻む壁の越え方」をテーマに、多様な業界・領域におけるCX向上の取り組みや考えを聞く「KARTE CX Conference 2022」は、アーカイブ公開もしていますので、記事をきっかけにご興味いただけましたら、アーカイブ視聴も是非お楽しみください。