施策アイデアを多様な視点から発想するために。パルシステムの部署横断でのKARTE活用
2022年7月、「顧客ロイヤルティ向上を阻む壁の越え方」をテーマに開催された「KARTE CX Conference 2022」。「パルシステムが挑戦する、部署横断でのKARTEの取り組みについて」と題したセッションではインターネット開発課の橋本翔氏より部署横断で運用する際のポイント、導入から今までの役割分担や定例の改善など、実践から得た学びが語られました。
2022年7月、「顧客ロイヤルティ向上を阻む壁の越え方」をテーマに開催された「KARTE CX Conference 2022」。顧客の課題解決や体験向上、そのための組織づくりやデータ統合に取り組む方々の実践や思想が共有されました。
「パルシステムが挑戦する、部署横断でのKARTEの取り組みについて」と題したセッションでは、パルシステム生活協同組合連合会 事業本部インターネット事業推進部 インターネット開発課の橋本翔氏が登壇。
パルシステムは、首都圏を中心とした複数の生活協同組合が加盟する連合会です。組合員の出資によって運営されており、メイン事業の食品宅配サービス事業に加えて、共済・保険事業、福祉・電力事業などを展開しています。
食品宅配サービスでは、組合員が注文時に利用するWebサイトやアプリにKARTEを導入。当初は一つの部署で運用していましたが、現在はサービスに関わる複数の部署を巻き込み、施策のPDCAサイクルを回しています。セッションでは部署横断で運用する際のポイント、導入から今までの役割分担や定例の改善など、実践から得た学びが語られました。
なぜ“部署横断”でKARTEを運用するのか
パルシステムの食品宅配サービス事業では、週に一度、組合員に紙のカタログを届け、注文を受け付けています。注文方法の利用比率は、注文サイトやアプリが45%、専用の用紙が55%で、毎週およそ43万人以上が注文サイトやアプリを利用するそうです。
橋本氏は、サイトやアプリの開発業務を担うIT業務主幹に所属し、KARTEの活用やMAの運用など、デジタルの接点における組合員とのコミュニケーション施策を担当してきました。
重要な顧客接点である注文サイトにKARTEを導入した理由について「組合員一人ひとりの行動を詳しく分析できていないという課題があった」と説明します。
橋本氏「以前から使っていたアクセス解析ツールは、組合員全体の傾向をみるには便利なのですが、一人ひとりの行動について把握する機能は限られていました。
分析した行動データから組合員のニーズや課題を理解し、それらに沿って最適な施策を行い、結果を振り返り、改善する。そうしたPDCAサイクルを素早く回し、サイトやアプリでの体験を向上させていきたいという考えもありました」
活用の目的が明確だったので、橋本氏は導入後すぐ、KARTEを利用するための基盤を整えていきます。IT業務主幹とプレイドの担当者に加えて、基幹システムの開発・運用を担う情報システム部門にも参加してもらい、定例会を開催しました。注文サイトへのタグ設定など、KARTEの活用基盤を築くための開発には、情報システム部門の協力が必要だったためです。
KARTEで施策を実行するための土台が整った後は、橋本氏の所属するIT業務主幹とプレイドで実際に施策の企画や実行、振り返りを行なうための定例会に移行。導入から1年ほど経つ頃には「KARTEを使いこなせるようになってきたな」という実感を得られたそうです。
IT業務主幹とプレイドで定例会を通して、施策のアイデア出しから実行、振り返りのサイクルを回せるようになった一方、橋本氏は「一つの部署でKARTEを運用するゆえの悩み」にぶつかっていました。
橋本氏「出てくるアイデアが、どうしてもIT業務主幹の視点に偏っているなと感じていたんです。他の部署に協力を求めにいったときに『別にやる必要はないのでは』とフィードバックが入り、企画からやり直したことも何度かあって…。多様な視点から施策のアイデアを議論できていないため、実行までのスピードが落ちてしまっていました」
そこで橋本氏は、施策アイデアの幅を広げ、より素早くアクションを実行するため、企画段階から複数の部署を巻き込もうと考えます。
さっそくコンテンツ作成部門と編集室に声をかけ、以下のようにKARTE運用における役割を整理しました。
- IT業務主幹:Webサイトやアプリの開発業務を担う
- 施策全体の把握や管理 - 商品企画部門:商品の魅力を伝える特集などのクリエイティブを運用する部門
- IT業務主幹や編集室が行った分析の結果をもとに、どのようなクリエイティブを出すかの施策の検討、実行を担う - 編集室:ユーザーの分析、サイトやアプリのコンテンツ作成を担当する部門
- 組合員の行動データ分析や施策の提案をサポート
このように3つの部門の役割を明確にしたうえで定例会を再スタートさせます。
n1分析をもとに多様な視点で施策アイデアを発想
3つの部門が参加する定例会では、どのように組合員の分析、施策の検討を行ってきたのか。橋本氏が2021年4月から現在までの取り組みを紹介します。
最初に行ったのは組合員のn1分析です。
まずは組合員歴や利用金額をもとに4つのグループを作成。それぞれのグループに属する組合員にとって「1. パルシステムがどんな存在か(求めている価値)」と「2. (注文サイトやアプリでの)想定される特徴的な行動」について、以下のように仮説を立てました。
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Sグループ:
- 生活の軸、なくてはならない存在
- プライベートブランドの商品を購入、利用頻度が高いなど
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Aグループ:
- 便利な存在。時間をかけず必要な商品を注文できることが価値
- レシピコンテンツから購入、生活用品も購入など
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Bグループ:
- 他の宅配サービスと同じ存在。安価な価格や柔軟な配達スケジュールが価値
- 検索よりもカテゴリから購入、お気に入り商品があるなど
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Cグループ:
- なくても困らない存在。自宅に届けてくれることが価値
- 重いものやおむつ、離乳食を購入、利用頻度は低い、注文忘れが多い
仮説を立てた後は、KARTEの「ユーザーストーリー」で、各グループのユーザーが実際にどのような行動をしているのかをみていきました。ユーザーストーリーは、一人のユーザーの行動をセッションごとに詳しく分析できる機能です。
各部署の視点で気づきや改善点などを出していくと、「部署ごとに何を重視するかが違うので、新たな発見が多くあった」と橋本さんは振り返ります。
橋本氏「たとえば、私たちIT業務主幹は開発した機能が使われているかどうかが気になってしまうんです。『頑張って開発したけど使われていないな』とか『意外とこの機能は使われているんだな』とかですね。
一方、商品企画部門は特集企画の反応などを細かく見ている。『このグループの組合員は特集企画にあまり興味はなさそう』や『この特集はどのグループも閲覧している』などの気づきを共有してくれました」
n1分析から気づきや改善点を洗い出した後は、KARTEを使ってポップアップなどの施策を次々に実行していきました。
橋本氏「たとえばn1分析からは、サイトに設置している『カテゴリ』ボタンが、あまりクリックされていないことがわかりました。そこで『新商品・今回限り』や『コア・フード』『美容・コスメ』など、人気の高い商品カテゴリの一部を、先ほど紹介したSグループとAグループ、つまりパルシステムの組合員歴も長く、利用頻度の高い組合員にポップアップで表示。Aグループのほうが反応が良いなどの発見がありました」
「PDCAが回らない」問題は、業務分担を見直して解決
部署横断の定例会によって「組合員単位での分析」や「ニーズに合わせた最適な施策の実行」は進んでいた一方、「運用している施策に対してPDCAを効率的に回せていない」という次なる課題を発見しました。「商品企画部が施策の検討と実行を担ってくれていたが、振り返りや分析に十分なリソースを割けていなかった」と要因を挙げます。
そこで橋本氏は、施策の成果の抽出から分析をIT業務主幹が担うと決めるとともに、振り返りを目的とした「運用定例会」を新たに設けました。
橋本氏「運用定例会では、IT業務主幹が施策の実績を持ち寄り、商品企画部門と改善点をディスカッションします。振り返りに特化した場を設けたことで、施策の改善がしっかりと行われるようになりつつあると感じています」
部署横断でのKARTE活用の軌跡を振り返ったうえで、橋本氏は今後の運用における展望を語りました。
橋本氏「まずはスピード感の向上です。現在、施策の提案や承認をする会議は月1回。このペースでは、施策の提案から実装までに時間がかかってしまうので、もっとスピードを上げるための仕組みを考えたいです。
二つ目はスキルアップ。エンジニアでなくても分析や施策の実装を一定行えるのはKARTEの大きな特長です。Web開発やデータ分析の知識があれば、さらにできることは広がるはずです。そのために私自身もスキルアップを図っていきたいです」
さらにKARTEを幅広い部署で活用することも見据えていると言います。
橋本氏「KARTEでの分析データを、より多くの職員に共有していきたいと考えています。運用に関わっていない部署にも、KARTEで何ができるのか、どういう結果が出ているのかを知ってもらいたい。いずれは食品宅配サービス以外の事業にも活用が広がったら嬉しいですね。
パルシステムは『もっといい明日へ、超えてく』をスローガンに掲げています。組合員にとってもっといい体験、もっといい明日のために、今後もKARTEを使って、アクションし続けていきたいです」