すべての人に「最高の日本茶体験」を。カスタマーサポートから始まる“すすむ屋茶店”のDXとCX
2022年7月、「顧客ロイヤルティ向上を阻む壁の越え方」をテーマに開催されたカンファレンス「KARTE CX Conference 2022」。『老舗茶屋“すすむ屋茶店”が目指すカスタマーサポート最適化のためのIVRy×KARTEの活用法とは』と題し、すすむ屋茶店が抱えていた課題から、「電話」という接点を中心としたCX向上の取り組みと、電話対応ログとオンラインストアでの行動ログを掛け合わせた取り組みについて、株式会社すすむ商店・新原製茶株式会社 代表取締役社長の新原光太郎氏と株式会社IVRyのカスタマーサクセス、セールス担当の藤崎瞬氏のお二人よりお話しいただきました。
新型コロナウイルス感染症の拡大により不要不急の外出自粛が叫ばれていた2020年の初め。私たちは暮らしのなかで様々な“あたりまえ”を見直す必要に迫られました。日々のお買い物もその一つ。これまで実店舗での買い物を好んでいた方のうち、新たにECを利用する方が増えました。創業100年以上の老舗、新原製茶のお客様のなかにも慣れないECを使う方が増加。これまで店頭で行っていた細やかな接客を求めるお客様からの電話に、スタッフは対応しきれずパンク寸前に——。そんな状況を打開する一助となったのが電話自動応答サービス「IVRy」の導入でした。
「コロナ禍で、電話が顧客との重要な接点だったと気づいたんです」
そう話すのは、株式会社すすむ商店・新原製茶株式会社 代表取締役社長の新原光太郎氏。KARTE CX Conference 2022では、『老舗茶屋“すすむ屋茶店”が目指すカスタマーサポート最適化のためのIVRy×KARTEの活用法とは』と題し、すすむ屋茶店が抱えていた課題から、「電話」という接点を中心としたCX向上の取り組みと、電話対応ログとオンラインストアでの行動ログを掛け合わせた取り組みについて、株式会社IVRyのカスタマーサクセス、セールス担当の藤崎瞬氏とともにお話しいただきました。
電話対応の優先度を下げた過去、向き合えていなかった顧客の声
新原氏は、ユナイテッドアローズのスタッフを経て、2007年に帰郷、家業である創業100年以上の製茶問屋、新原製茶を4代目として引き継ぎました。2012年には、「最高の日本茶体験を日常化する」をビジョンに掲げ、新たに”すすむ屋茶店”を創業。同年、鹿児島に実店舗の1号店とオンラインストアをオープン、2016年には東京の自由が丘に出店、スポーツブランド「デサント」との共同店舗や、茶葉と茶具を体験するための新業態「すすむ屋茶店L」なども展開してきました。最高品質の茶葉を幅広い世代の顧客に体験して、日常に取り入れてもらうための試みを進めています。
新原氏「創業当初から、すすむ屋茶店を通して、日本茶に馴染みの薄い若者に魅力を知ってほしいという思いが強くありました。そのため、若年層の利用が少ない『電話』での問い合わせ対応は、目の前のお客様への接客を中断してまで応えていませんでした。多くの電話問い合わせの内容が、ホームページで案内している営業時間や駐車場の有無についてであったことも、電話対応の優先度を下げていた一因です」
電話対応の優先度を下げ、店舗での接客中心に売り上げを伸ばしていた、すすむ屋茶店。大きな変化が訪れたのは、2020年の新型コロナウイルス感染症の拡大による外出制限でした。これにより、店舗を訪れる代わりにオンラインストアを利用する顧客が急増したといいます。
新原氏「実店舗のように相談をしながら商品を購入したい人をはじめ、年配層の顧客から、商品や注文方法にまつわる問い合わせの電話が増えたんです。その多くは、商品購入への意欲が高い方や、長年店舗を利用しているファンの方でした。電話越しに皆さんのお困りごとを聞くなかで、コロナ禍以前も、オンラインストアでの注文方法につまずき、注文できていない方がいたのではと気づかされたんです。重要なコミュニケーションをおろそかにしてしまっていたと大いに反省しました」
優先度を下げていた電話対応を通して見えてきた、これまで向き合えていなかった顧客の声。それらに応えたい気持ちが強まる一方、店舗スタッフは電話対応に追われるようになり、既存の仕組みに限界を感じ始めます。
新原氏「大量の問い合わせに答えきれず、電話先のお客様や、店頭にいらっしゃるお客様をお待たせしてしまうこともあり、電話対応の効率化は急務でした。加えて、電話で問い合わせてくださるお客様のなかには、商品について相談したり、会話を楽しんだりされる方も少なくありません。効率化することによって、そうしたお客様とスタッフが直接話し、丁寧に状況やニーズを伺う時間を、もっと大切にしたいという思いもありました」
IVRy導入で電話をとる回数は半減、対応の質も向上
電話対応にまつわる課題を抱えていた折、新原氏が偶然再会したのが、高校時代の同級生である藤崎氏でした。中小企業やスモールビジネスを対象に電話自動応答(IVR)サービスを開発・運営するIVRyの立ち上げに関わっていると知ります。
藤崎氏「企業や店舗に電話をかけた際『〇〇についてのご相談は1を押してください』といった自動音声のガイダンスを聞いた経験は少なからずあるのではと思います。そうした自動音声の設定をスモールビジネスでも使えるようにし、日本中の企業や店舗の生産性を高めるために立ち上がったのが、IVRyです。
当時のすすむ屋茶店のように、日々電話対応に追われ、より集中したい業務に時間や人員を割けていない企業や店舗は少なくありません。ツールやシステムにかけられる予算も限られるスモールビジネスほど、そうした悩みを抱えています。
IVRyでは、電話の自動応答の設定や電話履歴・録音再生の確認、顧客管理機能などの機能を、月額3000円という他社に比べて手頃な価格で使うことができます。最短5分の設定で利用を始められる手軽さや、多様なユースケースに合わせてカスタマイズできる柔軟さも特徴です」
手頃な価格や、電話対応を効率化する機能に惹かれ、新原氏は新原製茶の総合電話窓口、すすむ屋茶店の問い合わせ窓口にIVRyを導入。聞かれることの多い営業時間や定休日、駐車場の有無にまつわる質問を自動応答できるよう設定しました。
その結果、スタッフが応える必要のある電話対応は半減。電話履歴・録音再生の確認機能も合わせて使うことで、対応の質も高められるようになりました。
新原氏「正直、それまでスタッフが直接応えていたものを自動音声に代替したら、お客様からクレームが入るのではという懸念もあったんです。ただ、今のところクレームはゼロ(2022年12月時点)スタッフの直接応答でなくても、求めている情報が得られたら問題ないと感じるお客様は多かったのだと気づかされました。
また、店舗での接客中で対応できなかった場合も、自動音声で電話を受けて電話番号を記録。後で時間が空いた際に、スタッフが折り返しています。折り返した際に感謝の言葉をくださるお客様もいらっしゃいます。わざわざ時間を割いて電話をくださるお客様は購入意欲の高い場合が多く、注文につながることも多いんです。
IVRyの導入は電話対応の効率化はもちろん、お客様の体験向上や売り上げ増加にも寄与していると感じます」
「電話」と他の顧客接点のデータを統合し、体験向上に活かす
電話対応の効率化や質の向上に手応えを感じると同時に、新原氏は電話という接点での顧客理解について課題を感じるようになります。
新原氏「問い合わせてくださるお客様は、商品への関心や購入意欲も高いにもかかわらず、その方がどのようにお店を認知し、どのようなチャネルで番号を見つけたのかなど、把握する方法がなかったんです。
また、当時は電話とWebサイトでお客様の情報や行動データを別々に管理していました。ですが、両者をかけ合わせて分析することで、問い合わせ前後のお客様の行動について知り、店舗やWebサイトでの施策に活かせるのではないかと思っていました」
電話をかけてきた顧客の理解を深めること、電話以外の顧客接点のデータを統合していくこと。新原氏が両方に取り組む方法を検討していたタイミングで、IVRyがKARTEとの連携機能を発表しました。
IVRyとKARTEの連携機能では、顧客から電話を受けた際にIVRyの管理画面からKARTEに遷移し、その方のサイトでの行動データを確認でます。お客様がどのように行動して問い合わせたかがわかるため、困りごとを素早く把握し、より精緻なサポートを提供できます。
顧客に問い合わせ用の電話番号と識別用の番号が示されたポップアップを表示し、電話をかけた際にその番号を入力してもらうことで、IVRyとKARTEのデータを紐づける仕組みです。
連携機能に興味を持ち、新原氏は2022年4月からKARTEを導入。「活用はまだまだこれからだが、着実にデータを蓄積できている」と期待を込めて語ります。
新原氏「Webサイトを見て店舗に電話をかけてくださるお客様のなかには、お茶へのこだわりが強く、専門家に直接相談して選びたいという方も一定数いらっしゃいます。サイトの情報もなるべく充実させるよう努めていますが、絶妙な風味の違いなどテキストだけでは伝えきれない情報もある。
IVRyとKARTEの連携機能によって、そうした方々のサイトでの行動データや過去の電話でのやりとりも参照しながら、より細やかな対応ができるようになりました。さらにKARTEを使ってチャットでの問い合わせ機能も実装したので、より気軽に相談しやすくなったのではと思っています」
あらゆる世代の人に「最高の日本茶体験」を届けるために
IVRyやKARTEを駆使し、電話対応の効率化や質の向上、顧客理解に取り組んできた新原氏。顧客だけでなく社内のスタッフにも年配層が多く、デジタルツールの導入は大きなチャレンジだったと語ります。
新原氏「電話対応のリーダーを務めているスタッフが60代なのですが、決してデジタルツールの活用に慣れているわけではありません。多少なりとも苦手意識はあると思うので、それをどう払拭していくかは試行錯誤を重ねました。
特に意識していたのは、いきなり難しいことに挑戦するのではなく、スモールステップで成功体験を積んでもらうこと。たとえば、電話を受けるときは受話器ではなく、イヤホンで受けてもらい、両手を動かしながら対応する便利さを感じてもらうなど。些細な成功体験を積み重ねて、徐々に慣れてもらっています」
セッションの最後には、これからIVRyとKARTEを活用して実現していきたい体験を語っていただきました。
新原氏「KARTEやIVRyを使いこなしてもっとお客様を深く知り、一人ひとりのニーズや好みに合わせた接客を探究していきたいです。
かつて私が店舗スタッフとして関わっていた洋服に比べて、お茶は年齢層や好み、ニーズを整理しづらいと感じます。洋服であれば「このブランドは若年層向け」といった形である程度分類がありますよね。ですが、お茶はあらゆる世代の方が飲むものだからこそ、誰が、どのようなニーズを抱えているのかを把握し、それに合わせた接客や体験を考えるのが難しいと感じていました。
ですが、IVRyやKARTEを活用し、電話やオンラインサイト、チラシ、実店舗など、複数の顧客接点のデータを分析することで、一人ひとりのお客様のニーズや好みが見えてくるのではないかと期待しています。今後もあらゆる世代にお茶を楽しんでもらえる体験を届け、『最高の日本茶体験を日常化する』を実現していきたいです」