Event Report

実店舗のおもてなしをデジタルでも実現——三井住友銀行とトランスコスモスが取り組む、顧客起点のデジタルマーケティング

2023年7月に開催された「KARTE CX Conference 2023」にて、株式会社三井住友銀行リテールIT戦略部の長嶋優氏と、トランスコスモス株式会社CX事業統括DI事業本部マーケティングコミュニケーション統括部の吉房秀哲氏が登壇。両社が進めてきた顧客起点でのデジタルマーケティングについて共有しました。

業界を問わず、さまざまな企業が新規事業を生み出し、顧客に新たな価値を届けようとしています。しかし、その成否は「サービスの内容」だけでは決まりません。

「事業成長をCXのデジタル変革で牽引する」をテーマに開催された「KARTE CX Conference 2023」では、株式会社三井住友銀行リテールIT戦略部の長嶋優氏と、同社を支援するトランスコスモス株式会社CX事業統括DI事業本部マーケティングコミュニケーション統括部の吉房秀哲氏によるセッションが開催されました。

三井住友銀行はかねてより「顧客起点」のデジタルマーケティングに注力し、ホームページやアプリのリニューアルに取り組んできたといいます。セッションでは、三井住友銀行がトランスコスモスと共に推進してきたデジタルマーケティングの内実が語られました。

三井住友銀行におけるKARTEを活用した2つの「パーソナライズ」事例

三井住友銀行は「お客様の人生や日々の生活に寄り添い、いつでもお客様のそばにいるような存在になる」という考えのもと、顧客視点を持ってサービスを開発すべく、開発基盤とデータ基盤の強化に取り組んできました。

そういった改善策の一環として、2021年にKARTEを導入。より一人ひとりのユーザーに適した体験を提供すべく、2021年3月にコーポレートサイトを、同年7月にはインターネットバンキングサイトを、さらに同年8月には銀行アプリのリニューアルを実施しました。

こうした取り組みを進めるなか、重要になったのが顧客データの扱いでした。さまざまな形で顧客との接点を持つ同行は、どのようにデータを管理・分析しているのでしょうか。

三井住友銀行ではKARTEやSalesforceなどに蓄積されているユーザーの行動ログなど、銀行内外の多様なデータを、CDP(Customer Data Platform:顧客データの管理・活用を目的としたプラットフォーム)のTreasure Dataに集約。このプラットフォーム上でデータを加工し、各種配信や分析に活用しており、トランスコスモスの運用チームはKARTEの配信の設定やクリエイティブ制作をサポートしています。

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同行のさまざまな取り組みの中で、KARTEをはじめとするプロダクトたちはどのように活用されているのでしょうか。トランスコスモスの吉房氏から、2つの事例が紹介されました。1つ目の事例は、既存のWebサイトをブロックの集合体として捉え直し、ノーコード/ローコードでブロックを編集することで直感的なサイト改善を可能にするKARTE Blocksの活用です。

吉房氏「2021年3月、コーポレートサイトのリニューアルに際し、KARTE Blocksを導入しました。目的は、トップページのパーソナライズです。リニューアル前は、ホームページに来訪したお客様全員に対して一律の情報を見せていましたが、ホームページに訪れるお客様の目的はさまざまで、どのような情報を求めているかはお客様ごとに異なります。

そこで、サイトのログ分析やユーザー調査を実施し、ホームページに訪れるお客様を4つのセグメントに分けて、情報を出し分けるようにしたのです。この情報の出し分けにKARTE Blocksを使っており、トップページ全体のコンテンツをセグメントに合わせて入れ替えています。

セグメントごとにキービジュアルとおすすめコンテンツ、おすすめキャンペーン情報を設定。それらをセグメントに合わせてトップページにて配信することによって、リニューアル前後でトップページから各商品ページへの遷移率が全体で1.0%改善しました」

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トランスコスモス株式会社 CX事業統括DI事業本部 マーケティングコミュニケーション統括部 吉房秀哲氏

また、同行が運営している『三井住友銀行アプリ』には、2021年8月のリニューアル時にアプリのデータ分析から施策実行までをワンストップで提供する「KARTE for App」が導入されています。その目的は、「アプリにパーソナライズされた領域を導入すること」だったといいます。

吉房氏「アプリのトップ画面に積み立てNISAのご案内をするエリアを設け、KARTEを活用してそこに表示する情報をパーソナライズしたのです。用意した施策はA〜Dの4つとなり、施策Aではお客様の属性情報に応じてセグメントを設定し、積み立てNISAのラーニングコンテンツを案内しました。

施策B以降ではシミュレーションやキャンペーンを訴求することで、お客様の温度感を高め、投資信託口座の開設に誘導しました。もちろん、各施策でもお客様の行動に応じて掲示する文言は変化させています。これらの施策を講じた結果、投資信託の口座開設のコンバージョン率が約5%にアップしました」

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実店舗での「おもてなし」を、コーポレートサイトでも

セッションの後半では、三井住友銀行リテールIT戦略部の長嶋氏も登壇。吉房氏からの質問に答える形で、同行におけるKARTE活用の裏側を明かしました。

まず、吉房氏から投げかけられたのは、ホームページにおけるKARTE Blocksの活用に関する質問です。「どのようなコンセプトで、KARTE Blocksを活用したパーソナライズ施策を実施したのか」という問いに対して、長嶋氏はこう答えました。

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株式会社三井住友銀行 リテールIT戦略部 長嶋優氏

長嶋氏「『実店舗と同じようなおもてなしを』というコンセプトで、パーソナライズ施策を実施しました。私たちは全国各地に支店を構えており、そこには日々さまざまな悩みや課題を抱えたお客様が来店されます。

そんなお客様に対し、実店舗では『本日はどのようなご相談ですか』とお声掛けをし、一人ひとりに合ったソリューションを提案しています。そんな実店舗でのおもてなしを、ホームページでも実現したいと考えました。

ユーザー調査などを踏まえて、ホームページに訪れるお客様のニーズは『お金を増やしたい』『お金を借りたい』『お金を大切な人に残したい』『事務手続きをしたい』の4つに分けられると考えました。これらの選択肢をトップページ上に用意し、お客様に選択していただいた上で、お客様のニーズに適したコンテンツを表示する施策を行ったのです。

また、先ほど吉房さんが言及していたお客様のセグメントを分け、パーソナライズした情報の表示も行いました。具体例には『新規のお客様』という1つのセグメントと、既存のお客様を年代で分けた3つのセグメントを用意し、そのセグメントごとにキービジュアルやおすすめキャンペーンなどのコンテンツを入れ替えています」

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「セグメントに応じてコンテンツを出し分けるなど、顧客起点のサービスづくりが進んでいるのではという印象を受けました。手応えはいかがでしょうか?」という吉房氏の言葉に対し、長嶋氏はこう応じました。

長嶋氏「そう言えるかもしれませんが、まだまだやるべきことはたくさんあると感じています。実際、お客様がある目的をもってホームページを訪れたものの、目的の情報がどこにあるかわからず、結局コールセンターにお問い合わせをされるケースは少なくありません。

さまざまな課題を持ったお客様が、その解決をホームページ上で自己完結できる仕組みを整えていきたいと思っています。そういった顧客起点のサービスづくりが、結局は私たちの業務の効率化にもつながるのではないかと考えています」

グループ全体での「顧客起点のマーケティング」推進を目指して

吉房氏との質疑応答を経たセッション終盤で、三井住友銀行のみならず、SMBCグループ全体として「顧客起点のマーケティング」に向き合っていきたいと述べる長嶋氏。今後の鍵は、「マーケティングツールやシステムの高度化」と「データ分析体制の構築」だと語ります。

長嶋氏「グループを挙げて、一人ひとりのお客様に向き合ったマーケティングを実現しなければならないと思っています。そのためには、引き続き導入しているマーケティングツールやシステムの高度化に挑まなければなりません。

地道にさまざまなデータを集め、整理し、活用することも重要です。そして、その活用範囲を広げ、データをうまく活用できる人材も増やしていかなければなりません。トランスコスモスさんを中心としたパートナー企業の力も借りながら、高速でPDCAサイクルを回せる体制を構築していきたいですね」

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さまざまなチャネルで顧客と接点を持ってきた三井住友銀行が顧客起点のマーケティングを実現するためには、顧客データを集めて分析し、各チャネルでパーソナライズしたコミュニケーションが欠かせません。

長嶋氏は「銀行はATM、支店、アプリ、コールセンターなど、さまざまなチャネルを持っています。それぞれのチャネルで一人ひとりのお客様が必要としている情報を届けられているかというと、まだそうではありません。さまざまなチャネルから得たデータを活用することで、『顧客起点』のマーケティングを追求していきたい」と語り、セッションを締めくくりました。

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