AIと共に年間50万件の問い合わせに挑む――パナソニック エンターテインメント&コミュニケーションが実践するAIコンタクトセンター改革
パナソニック エンターテインメント&コミュニケーションは、テレビやカメラなどの黒物家電を展開する中で、年間約50万件にのぼる問い合わせの多くが自己解決可能な内容であるという課題に直面していました。同社はこれを「お客様体験を阻害する構造的な問題」と捉え、AIソリューションの導入を推進。AIオペレーター「QANT スピーク」やAIチャットボット「QANT Webエージェント」、VoC分析ツール「QANT VoC」を活用し、問い合わせ対応の最適化と自己解決の促進を進めました。その結果、AIによる一次対応の定着と改善サイクルの確立により、有人対応の削減とお客様体験の向上を実現しています。さらに、お客様の声を製品開発へと活かすことで、「そもそも困りごとが発生しない」サービス・製品づくりを目指しています。
2025年11月、「コールセンター/CRM デモ&コンファレンス 2025」が開催されました。本稿では、RightTouchのセッションに登壇したパナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社(以下、パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション)の講演内容を紹介します。
登壇したのは、パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション CS企画部 戦略担当主幹の建部 峰志氏です。同社では、RightTouchが提供するAIオペレーター(ボイスボット)「QANT スピーク」、AIチャットボット「QANT Webエージェント」、VoC分析ツール「QANT VoC」を導入し、お客様接点の抜本的な改革を進めています。
年間約50万件の問い合わせに向き合う同社は、生成AIをどのように活用し、カスタマーサポートの未来をどう描いているのか。その挑戦と具体的な取り組みをお伝えします。
「自己解決」可能な問い合わせがお客様体験を阻害する現状をどう解決するか

(パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社 CS企画部 戦略担当主幹 建部 峰志さん)
パナソニック エンターテインメント&コミュニケーションは、テレビブランド『VIERA』やカメラブランド『LUMIX』などを擁し、いわゆる「黒物家電」を中心に多様な製品を展開しています。
同社の相談センターには、年間約50万件もの問い合わせが寄せられますが、その実態には大きな課題がありました。「問い合わせの9割以上が電話で、そのうちの6割以上が『使用相談』と呼ばれる、取扱説明書やWebサイトを見れば自己解決いただけるような基本的な内容です」と建部氏は明かします。

さらに深刻なのは、お客様が「故障だ」と思いお問い合わせされ、実際には「テレビの後ろのアンテナが緩んでいただけ」「リモコンの電池が切れていただけ」といった「お客様が自己解決いただけるようなケース」で訪問サポートに至ってしまうことでした。これはお客様にとってストレスであると同時に、企業にとっても大きなコスト負担となっていました。
目指すは「お客様がエフォートレスに解決できる世界の実現」――3つのAI施策が織りなす改善サイクル
この課題に対し、パナソニック エンターテインメント&コミュニケーションが掲げたのは、お客様接点のあり方を根本から見直すことでした。建部氏は「基本的なお問い合わせは、24時間365日いつでもお客様ご自身で自己解決いただける世界を大きくしていく。その上で、オペレーターでの有人対応が必要なお客様には、より寄り添った対応をきっちりと行う」というビジョンを語ります。

目指すのは、Webサイトをメインの解決チャネルへと進化させ、「お客様満足の向上」と「CS業務の改善」を両立させることです。このビジョンを実現するため、同社は3つのステップでAIソリューションの導入を進めました。
ステップ1:AIオペレーター(ボイスボット)(QANT スピーク):電話での問い合わせに対し、AIが音声で一次対応し、Webサイト上のFAQへ誘導することで入電(有人対応)を削減する。
ステップ2:AIチャットボット(QANT Webエージェント):Webサイトを訪れたお客様に対し、生成AIが掘り下げ質問を行い、スマートな情報提供で自己解決を促進する。
ステップ3:VoC分析(QANT VoC):電話、ボイスボット、チャットボットなどすべてのお客様接点から得られるデータを統合・分析し、Webコンテンツや製品自体の改善につなげる。

これらの施策は独立しているのではなく、相互に連携して高速な改善サイクルを生み出します。AIオペレーター(ボイスボット)やAIチャットボットを通じて蓄積されたお客様の「お困りごと」データをVoC分析ツールで分析し、FAQやサポートサイトを改善する。整備されたコンテンツを学習することで、AIオペレーター(ボイスボット)やAIチャットボットはさらに賢く進化していく。この循環こそが、同社の描くAIコンタクトセンター化の全体像です。

短期間でのAIオペレーター(ボイスボット)「QANT スピーク」導入のリアルと高速PDCAサイクル
最初のステップであるAIオペレーター(ボイスボット)導入は、プロジェクト開始から約2ヶ月という驚異的なスピードで実現しました。その背景には「既存のFAQを有効活用すること」と「問い合わせごとの個別フローを作り込まないこと」という明確な方針がありました。

しかし、導入後の道のりは平坦ではありませんでした。建部氏は当時の苦労を次のように振り返ります。「導入初日のログを見て、愕然としました。お客様が相手をロボットだと認識されず、『もしもし、もしもし!』と、どんどん怒りの声量が上がっていく。会話がまったく成り立っていなかったのです」と語ります。
事前のテストではスムーズに動作していても、実際のお客様の反応は想定外の連続でした。人と話しているつもりで一方的に話し続けてしまうお客様、製品の品番を正確に言えないお客様など、次々と課題が浮き彫りになります。

この壁を乗り越えたのが、徹底したログ分析と高速なPDCAサイクルでした。チームでお客様のコールログを一件一件確認しながら、「ここは2秒待つべきか、3秒にしてみようか」「品番の聞き取りはストレスになるから1回で諦めよう」といった地道なチューニングを繰り返しました。RightTouch社のツールが導入企業側で直感的に改善できる仕様だったことも、この高速な改善サイクルを後押ししたと建部氏は語ります。
こうした取り組みの結果、AIオペレーター(ボイスボット)は着実に定着。現在では「全入電の約18%がQANT スピークを利用」し、「約11%の有人対応抑制」という具体的な成果につながっています。
FAQという資産を横展開――AIが「掘り下げ質問」するチャットボット
AIオペレーター(ボイスボット)導入でAI活用の基盤を構築した後、すぐさま次のステップに着手しました。それがAIチャットボット「QANT Webエージェント」の導入です。ここでもスピードが重視され、QANT スピークで活用したFAQデータをそのまま利用することで、環境構築から約2ヶ月で本番導入を果たしました。

QANT スピークが音声によるシンプルなやり取りであるのに対し、QANT Webエージェントはテキストの特性を活かした、より深いコミュニケーションを目指します。たとえば、お客様が「テレビのリモコンが効きにくい」と入力すると、AIは「リモコンがまったく反応しない」「特定のボタンだけ反応しない」といった選択肢を生成して提示。お客様のお困りごとをより具体的に掘り下げることで、最適なFAQページへと導きます。
この「掘り下げ質問」の生成は、同社が持つ膨大なFAQデータを基盤としており、お客様の曖昧な表現を具体的な課題へと翻訳する役割を担っています。

究極のゴールは「お困りごと自体をなくす」製品作り
現在は3つ目のステップであるVoC分析の本格活用を進めています。QANT スピークやQANT Webエージェント、そして有人対応のログといったすべてのお客様接点のデータを「QANT VoC」に取り込み、文脈を読み解いて自動分類。その分析結果をWebサイトの改善だけでなく、製品企画や開発部門にもフィードバックしていく計画です。

建部氏は、「究極のゴールは、お客様のお困りごと自体をなくしてしまうこと。よりお客様に寄り添う製品を作り、そもそもお困りごとを発生させない製品作りを目指したい」と力強く語ります。生成AIを活用してお客様の声を高速で製品・サービス作りに循環させることで、カスタマーサポートの枠を超えた価値創造を目指しています。

セッションの最後に、建部氏はこれからAI活用に取り組む企業に向けて、自身の経験から得た3つのメッセージを送りました。
・ 生成AIツールの導入時、最初から完璧を求めすぎない
・ 効果(実態)を早期に検証するため、利用実績を数値化する
・ お客様の利用状況を直接確認し、改善と検証を高速で繰り返す
「正直、導入はすごく怖かった」と本音を漏らしつつも、「結果として導入に至り、成果につながったことはもちろん、お客様のお役に立てたことを嬉しく感じています」と断言する建部氏。その言葉は、テクノロジーと真摯に向き合い、地道な改善を積み重ねてきたからこその重みを持っていました。