商品相談窓口の18%をAIオペレーター化し有人対応を11%抑制。営業時間外5,000件の自己解決を実現──パナソニック エンターテインメント&コミュニケーションがAIと共に目指すCS改革
テレビやカメラ、インターホンなど幅広い製品で「感動と安らぎ」を提供するパナソニック エンターテインメント&コミュニケーション。CS部門では電話を中心に年間約50万件の問い合わせが寄せられ、お客様をお待たせしてしまう課題を抱えていました。そこで、お客様をお待たせすることなくいつでも自己解決いただけるお客様満足度の高いサポートを目指しながら、3年間で有人対応を半減させるという高い目標を掲げ、FAQ資産を活用した自己解決型サポートへ転換。その一環としてRightTouchのAIオペレーター「QANT スピーク」を導入。今回は、導入の背景やプロセス、そしてAIを起点としたCS部門の未来像について伺いました。
テレビやオーディオ、カメラ、電話機、インターホンなど、幅広い製品を通じて人々に「感動と安らぎ」を提供するパナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社。同社のCS部門は、従来の「アフターサービス」という枠組みを超え、製品の購入前から購入後、そして買い替えに至るまで、全てのお客様接点をマネジメントする役割を担っています。しかし、そのコンタクトセンターには年間約50万件もの問い合わせが寄せられ、その大半が電話チャネル、内容は製品の基本的な使用方法に関するものが多く、結果としてお客様をお待たせしてしまう状況でした。
同社は、この状況に対し、お客様をお待たせすることなくいつでも自己解決いただけるお客様満足度の高いサポートを目指しながら、3年間で有人対応を半減させるという高い目標を掲げ、電話を起点とした問い合わせ構造そのものを見直すことにしました。Web上のFAQ資産を活かしながら、電話でお問い合わせいただいたお客様に自己解決の可能性を提供する。その実現手段のひとつとして導入したのが、RightTouchのAIオペレーター(ボイスボット)「QANT スピーク」です。今回は、CS部門の戦略を担うCS企画部の建部 峰志さんと川上 浩介さんに、導入の背景とプロセス、そしてAIオペレーター「QANT スピーク」を起点としたCS部門の未来像について伺いました。
「アフターサービス」から「全てのお客様接点のマネジメント」へとCS部門の役割を再定義
まず、CS部門が担うミッションと、現在の組織体制についてお聞かせください。
建部:私たちCS部門の役割は、製品をお買い上げいただいたお客様に対するアフターサービスが起点ですが、現在はその範囲を大きく広げています。購入前から、実際に製品を使いこなし、最終的に買い替えていただくまで、お客様との一連のサイクル、その全てのタッチポイントをしっかりとマネジメントすることがミッションです。いかにお客様に気持ちよく製品をお使いいただくか、お買い上げいただくかを追求しています。
組織体制としては、私たちが所属するCS企画部が全部門を横断する形で戦略立案やデジタル施策を推進し、各事業(テレビ、コミュニケーションネットワーク、コンシューマーイメージング)に紐づく3つの事業CS部が、それぞれの製品特性やお客様層に合わせた実務を担っています。CS企画部が全体のマネジメントを行い、各事業CS部と連携しながらプロジェクトを実行していく体制です。

コンタクトセンターの現状について、具体的な数値や目標を教えていただけますか。
建部:コンタクトセンターへのお問い合わせは、年間で約50万件に上ります(2024年度実績)。チャネルとしては電話が9割超を占め、内容の6割以上が製品の基本的な使い方に関する「使用相談」です。製品によっては7割を超えることもあります。

建部:こうした状況を踏まえ、CS部門では「3年間で有人対応を半減させる」という目標を掲げています。これは、電話がつながりにくい、簡単な内容でも待たされてしまうといった、お客様のご負担を減らすための取り組みです。お客様が困られた際に、できるだけ早く、そしてご自身のペースで解決できる環境を整える。その先に、サービスレベルを落とすことなく、より寄り添ったサポートを実現したいと考えています。
スピードと拡張性でQANT スピークを選定し、わずか2ヶ月で本番リリース
有人対応半減という目標達成のため、様々な施策が考えられる中で、なぜ最初にAIオペレーター(ボイスボット)「QANT スピーク」の導入から着手されたのでしょうか。
建部:当時の課題は、電話でお問い合わせいただいたお客様に対して、チャネルの選択肢を十分に提供できていなかったことでした。電話での問い合わせは、混雑状況によってはお客様をお待たせしてしまうこともあります。一方で、内容によってはお客様にFAQをご確認いただくことで、より早く解決いただけるケースも少なくありません。
WebサイトにはFAQコンテンツを整備していますが、Webを閲覧するよりも、まず電話でお問い合わせいただくケースも多く見られます。
どれだけWeb上のコンテンツを充実させても、電話というアナログな動線から入ってこられたお客様には届かない。この分断された動線をつなぎ、電話を起点にしても、お客様がご自身で早期に解決いただける選択肢を広げたい。その思いが、QANT スピーク導入を検討する大きなきっかけでした。

パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション CS企画部 建部 峰志さん
数あるボイスボットソリューションの中から、QANT スピークを選定された決め手は何だったのでしょうか。
建部:お客様のお困りごとのパターンは、無限に近いほど多様です。たとえば「テレビが映らない」という一つの事象をとっても、アンテナ線の抜け、電源コンセントの問題、リモコンの電池切れ、あるいは本当に故障している場合など、原因と解決アプローチは様々です。従来のシナリオ分岐型のボイスボットでは、こうした無数のパターンに対応するフローを個別に作り込む必要があるため、初期構築や、リリース後の運用観点からも現実的ではありませんでした。
「QANTスピーク」は、聞き取った品番やお困りごとをもとに表示するFAQをAIが自動的に最適化してくれるため、個別フローを作り込む必要がありません。
また、これまで蓄積してきたFAQ資産を新たなデータ整備を行うことなくそのまま活用できるため、短期間で導入・運用を開始できました。さらに、フローのレポートで具体的な改善ポイントが可視化され、実際の会話ログと紐付けて確認ができるため、運用を始めてからも無理なく改善を重ねていくことができます。公開しているFAQを活かしながら、改善が回っていく。この「導入して終わらない」設計が、スピード感を持った取り組みを可能にしています。
5ヶ月で120回の改善。リリース後に見えた「本当のお客様のつまずき」への対応
「約2ヶ月」という非常に短期間で本番導入を実現されていますが、導入プロセスで工夫された点や、逆に苦労した点はありましたか。
川上:私はプロジェクトの途中から参加したのですが、専門的なITスキルがあったわけではありません。それでも、QANT スピークは非常に直感的で、デモを見せてもらった段階で「これなら自分でもできそうだ」と感じました。実際に触ってみると、特別なレクチャーを受けずとも、日常的にスマートフォンを操作するような感覚でフローを構築できました。この使いやすさが、スピード感を持った導入を可能にした大きな要因だと思います。
また、RightTouchの担当者が、私たちと同じ目線、つまりエンドユーザーであるお客様の体験をどうすればより良くできるかという視点で伴走してくれたことも大きかったと感じています。単にこちらの要望を受け取るのではなく、「そのお客様は、どんな状況で困っているのか」「どこでつまずきやすいのか」といった点まで踏み込み、常にお客様の立場に立って改善案を提案してくれました。
私たちがお客様起点で出したアイデアに対しても、「そうですよね」と共感するだけでなく、「であれば、こうしたほうがより迷わず使えるのではないか」と一歩踏み込んだ形でプロダクトに反映してくれる。見ている方向が同じだからこそ、議論も意思決定も非常にスムーズに進みました。

導入後のチューニングや改善サイクルはどのように回しているのでしょうか。
川上:導入して初めて、お客様がどこでスムーズに進めなくなっているかという、本当のボトルネックが見えてきました。導入前のテストでは、社員などシナリオをある程度理解している人間が検証するため、スムーズに進みがちです。しかし、実際にリリースしてみると、「オペレーターと話したい」というご要望が想定以上に多いことが分かりました。
そこで、応対ログを分析し、お客様がつまずいているポイントを特定しました。フローの至るところに「オペレーターと話したい」という発話があった場合に有人対応へご案内する選択肢を追加するなど、細かなチューニングを重ねました。改善作業自体は専門的なIT知識がなくても使えるプロダクト設計になっているため苦労なく取り組め、現在も週に1回程度のペースでリバイスを行っています。この5ヶ月間で、合計約120回の改善を重ねてきました。リリース当初はデイリーで修正をかけることもあり、本当に少しの言葉の変更で数字が改善していくことを実感できました。

パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション CS企画部 川上 浩介さん
印象に残っている施策はありますか?
川上:あります。あるメディアのアプリが切り替わった際、当社のテレビでアプリが更新されるまでにタイムラグがあり、一時的に「見られない」というお問い合わせが殺到しました。この時、すぐさまQANT スピークのフローを修正し、該当するアプリに関するお問い合わせかどうかを確認し、「12時以降に利用可能になります」と自動でご案内する仕組みを数十分で追加しました。これにより、通常のお問い合わせで電話がつながりにくくなる事態を防ぐことができました。このスピーディーな対応は、社内でもボイスボット活用の有効性を証明する貴重な実績となりました。
全入電の18%が利用、有人対応を11%抑制。営業時間外に5,000件の自己解決を創出
QANT スピーク導入後の定量的な成果について、詳しく教えてください。
建部:現在、全入電の約18%のお客様にボイスボットをご利用いただいており、その結果として約11%の有人対応を抑制できています。これは、ボイスボットを選択され、その後、再度有人窓口へかけ直されることのなかった割合をトラッキングした数値です。
また、これまでアプローチできなかった営業時間外の対応が可能になったことも大きな変化です。リリースから約4か月の累計で5,000件以上のお問い合わせに営業時間外で対応できています。
営業時間外の利用について特に告知せずスタートしましたが、お客様が「この時間でもつながる」と気づいてくださり、利用数はじわじわと増えています。これは、お客様の利便性向上に直接貢献できた、非常に価値のある成果だと捉えています。

これらの成果は、当初の目標に対してどのように評価されていますか。
建部:3年間で有人対応半減という大きな目標に対してはまだ道半ばですが、現時点での進捗としては、おおよそ想定通りです。重要なのは、単に有人対応の件数を下げることではなく、お客様体験を向上させることです。たとえば、現状では固定電話からお問い合わせされるお客様も一定の割合見られ、QANT スピークからそもそもSMSを送られない / お送りしてもSMSが開封されていないケースも応対ログから見えており、お客様の行動を深く理解しながら、日々改善を重ねている最中です。その中の一つとして、SMSでWebに誘導するだけではなく、FAQに記載された内容をボイスボット上で回答するRAG(※)の検証も進めています。
※Retrieval-Augmented Generation の略で、大規模言語モデル(LLM)が回答を生成する際に、外部データベースから関連情報を検索・取得して組み込むことで、回答の精度と信頼性を高めるAI技術。

各プロダクトを連携し、お客様の声を新しい価値やサービスの創出につなげる循環の構築へ
QANT スピークに続き、AIチャットボットやVoC活用といった今後の展望についてお聞かせください。
建部:すでにAIチャットボット「QANT Webエージェント」も導入し、サポートサイトの一部で展開を始めています。今後はこれを全製品サイトに広げ、お客様が困られた際に最適なチャネルをご選択いただける環境を整えていきます。将来的には、お客様の行動に合わせて能動的にサポート情報をポップアップ表示するなど、一人ひとりにカスタマイズされたサポートを実現したいと考えています。
さらにその先に見据えているのが、VoC(お客様の声)の活用です。「QANT VoC」を用いて、QANT スピークやQANT Webエージェントの応対ログ、有人対応のログなど、全てのVoCデータを分析し、お客様のお困りごとに対して不足しているFAQをはじめとした情報を特定・整備する。これにより、お客様からいただいた声をもとに、自己解決ツールの回答精度が自動的に向上していくという循環を作り出したいのです。

プロダクト間の連携によって生まれる、そうした「循環」への期待が大きいということですね。
川上:その通りです。ソリューションが一つひとつつながることで、お客様に最適な解を「出す」だけでなく、その最適な解を「備える」ことができるようになります。昨日応えられなかったことが、明日には応えられるようになる。このサイクルを回していくことが、お客様体験の継続的な向上に不可欠だと考えています。

最後に、こうした循環が完成した時、CS部門はどのような価値を提供しているとお考えですか。
建部:究極の目標は、お客様がそもそも困らない製品づくりに貢献することです。CS部門に蓄積されたVoCという“宝”を、製品企画や開発など全部門で活用し、製品そのものを改善していく。そして、新しい価値やサービスを創出していく。そのためのビジョンとして、2027年までに「全従業員がお客様の声を活用する」状態を目指しています。
お客様が困られた際には、有人対応よりも早くて正確なサポートをデジタルで提供し、お客様ご自身で全てを解決いただける世界を創る。そして、その先には、そもそもサポートが不要になるくらい、お客様が困らない製品とサービスをお届けする。それが私たちの目指すCS部門の未来像です。