お客様の期待を超えて感動を生み出すために。創業期から進化を続けるairClosetのUX改善プロセス
月額制でプロのスタイリストが選んだお洋服が手元に届く、女性向けのオンラインのファッションレンタルサービス「airCloset」を運営する、株式会社エアークローゼットでは創業から続く理念の中に、UXへのこだわりが埋め込まれており、お客様のために様々な改善を重ねてきています。社長室長 執行役員 CSO 兼 マーケティンググループ責任者を務める石川桂太さんに、同社の顧客体験における考え方、KARTE導入の背景や効果について伺いました。
株式会社エアークローゼットが運営する「airCloset」は、月額制でプロのスタイリストが選んだお洋服が手元に届く、女性向けのオンラインのファッションレンタルサービスです。
創業から続く理念の中に、UXへのこだわりが埋め込まれており、お客様のために様々な改善を重ねてきています。さらには、「airCloset Data Science Collection」で公開しているように、データを活用した顧客体験をより良くする取り組みも展開しています。
創業間もない頃に参画し、現在は株式会社エアークローゼット 社長室長 執行役員 CSO 兼 マーケティンググループ責任者を務める石川桂太さんに、同社の顧客体験における考え方、KARTE導入の背景や効果について伺いました。
すべては、お客様に感動体験を届けるために
airClosetがリリースされたのは、2015年2月。ユーザーは、自身のお洋服のサイズや好きなコーディネートの系統や色などを登録し、その情報や独自のオンラインシステムに蓄積されたデータをもとに、スタイリストが一つひとつのアイテムを選びます。
届いたお洋服を利用したあとのクリーニング代や返送料も不要。感想を伝えると次回のコーディネートに生かされ、より自分にフィットするアイテムを選んでもらえるようになっていきます。
airClosetが生まれた背景には、「何を着れば良いのか分からない」「お洋服を選ぶ時間、買いに行く時間がとれない」といった女性の悩みを解消したいという願いがありました。
石川「共働き世帯の増加などもあり、多忙な女性が増えて、なかなか買い物に行く時間が取れなかったり、子どものいるママだと抱っこ紐をしたまま試着室に行けなかったりと、女性は何かと行動の制約が多い。そういった背景から、ファッションを楽しむことが億劫になっている方々に、新たなサービスを提供できれば喜んでもらえるのではないか。この考えが創業の起点でした」
こうした女性の悩みを解消しようと、エアークローゼットは「誰もがワクワクする、新しい『あたりまえ』をつくろう。」という理念を掲げて創業。石川さんがエアークローゼットに参画したのは、まだユーザー数が100人にも満たない頃。その当時から、今も続く行動指針がすでに存在していました。
石川「『9 Hearts(ナインハーツ)』 という行動指針が創業間もないころからありました。中でも一番目立つ位置にある指針が『お客様の感動が第一』です。UXが最も重要だというのが、創業期から行動指針に組み込まれていたんですよね。
お客様が満足するだけでなく、その期待を超えることを大事にしているんです。常に、お客様の期待を超えるような感動の体験を届けることに思いを込めている。それを自分たちなりに全力で楽しむという点がエアークローゼットという組織の特徴かもしれないですね。
僕たちにとって、仕事はとにかく楽しんでやるものなんです。僕らが楽しんでいたら、その気持ちはお客様にも伝わります。お客様の感動を起点に、どうスピード感を持って動き、僕ら自身が楽しんでサービスを提供するのか。行動指針には、初期からそんなことが書いてありました」
お客様に感動体験を届ける。airClosetは、そこを起点にすべてが駆動しています。サービスを開始した当時では、珍しかったファッションのレンタルやサブスクリプションというビジネスモデルも、どうしたらお客様に感動を届けられるかを考え抜いた結果のものだったそうです。
石川「airClosetは、『感動するお洋服と出会いをつくる』という思いが最初にあって、あとは全てそれを実現するための手段です。だから、弊社におけるUXとはそういう捉え方ですね。
感動体験のために、なぜレンタルなのか。レンタルだと買うよりも気軽に試せますよね。しかも、第三者が選ぶのであれば、普段は自分が着ないようなお洋服にも出会える。さらに、お出かけしたときに周囲から『いつもと雰囲気が違っていいね』と言われたら、自分はこういうファッションも楽しめるというのがわかる。
こういうお洋服との出会いを作り出したいから、レンタルなんです。こうやって、お客様に感動を提供するために、一つひとつ考えています」
感動を生むために、お客様の反応から地道な改善を積み重ねる
創業から存在する理念と行動指針。airClosetは、お客様に感動を届けるために、どのようにサービスを運営してきたのでしょうか。airClosetでは、お客様の声に耳を傾け、地道にサービスを改善してきたと、石川さんは語ります。
石川「スタイリングを決定するため、お客様に質問していくのですが、当初はお洋服の好みや、どんな印象のスタイリングにしたいか?といったことを伺っていました。あるとき、体型のお悩みを抱える方がとても多いことが分かり、体型に関することも項目に加えるなど、少しずつ改善を重ねています。
質問の際には、苦手なお洋服やNGなお洋服についてもお尋ねするのですが、この『NGなお洋服』というのもなかなか難しい。『これは着たことがないから、ちょっと嫌です』というものも、NGになってしまう可能性があるんです。でも、そういうものをすべてNGにしてしまうと、本来僕たちが届けたい『お洋服との出会い』や『新鮮な驚き』は届けられなくなってしまいます。
ただ、ウールでアレルギー反応を起こす方に、アンゴラのニットをお送りするのはNG。こうしたNG項目はしっかりと伺いながら、お客様の好みを少しだけ広げられるようなスタイリングをご提案しています」
お客様の声を聞いた上で、お客様の想像を超えていく。そのために、セレンディピティを生み出すことを目指し、スタイリング体験の改善をしてきたと、石川さんは語ります。さらに、サービスの核となるスタイリング以外にも、airClosetはお客様の声に耳を傾け、よりよい体験を提供できるようにと地道な試行錯誤を重ねてきたといいます。その一例が、お洋服の届け方です。
石川「創業当時は、お洋服を箱に入れてお届けしていました。箱の方がお洋服との出会いがワクワクするものになると考えて、かなりこだわった専用ボックスを作成したんです。返却する際もその箱に入れて返してもらう仕組みでした。
実際にサービスがスタートすると、返却する際に箱を持つのが大変だと分かりました。なので、今度は持ち運びやすいように真っ赤な袋を入れるようにしました。
すると、今度は『赤は恥ずかしい』という声が上がって。現在は返却用のみ白い袋に変更しています。これは一例ですが、こういう細々とした改善を積み重ねてきています。
お客様は、あらゆる場面でサービスの価値を感じます。核となる価値以外の部分でもお客様の声を聞き、改善する。airClosetは、あらゆる場面でUXにこだわってきました」
お客様の声を聞くために、定性と定量の調査を徹底
UXの改善のために欠かせないお客様の声。airClosetは、どのようにこれだけお客様の声を取り入れてきたのでしょうか。airClosetにはお客様がお洋服を返却する際に、感想をフィードバックしてもらう仕組みがあり、このやりとりを通じてお客様の声をサービス改善に取り入れてきたと、石川さんは語ります。
石川「『書いてくれたら何ポイント』のようなインセンティブは一切ないのですが、多くの方が定性・定量で評価してくださっています。感想を伝えることで、次のセレクトに生かされることをお客様が知ってくださっているからだと思います。
このフィードバックが蓄積していくと、病院のカルテのようにお客様のカルテが出来上がってくるんです。これだけお客様の情報に触れて、お客様のことを知っているサービスは、他にはなかなかないと思いますね。お客様のために毎回のスタイリングを行い、そのフィードバックをいただく。この積み重ねによって、相当のデータが溜まっています」
サービスへのフィードバックで得られるデータに加えて、対面での定性調査も頻繁に実施してデータを集めていると石川さんは語ります。
石川「月に何十件という数の定性調査を各部署ごとに実施しています。明治神宮前にある『airCloset×ABLE(エアクロエイブル)』というパーソナルスタイリングが楽しめる店舗では、スタイリストが対面でお洋服のコーディネート提案をします。
対面の強みはありますね。対面接客であれば、その場でお客様との感覚をすり合わせたり、提案に対する言葉やちょっと首かしげるなどの所作も含めて、得られる反応の情報量がとても多いです。なので、店舗でのデータも取り入れてサービスを改善しています」
ただ、非対面でのコミュニケーションでは、対面では伝えにくいネガティブなフィードバックをしてもらいやすいという利点もある、と石川さん。さらに、最近では定性と定量の間のような調査も実施。さらにお客様の理解を深めるためのアクションをしているといいます。
石川「どういうお客様が、どのような経路で流入し、画面を操作して登録まで至っているのかをGoogle Analyticsを使って見ていましたが、最近はKARTEのユーザーストーリーの画面で見ています。
定性調査を定量的に実施するって表現がいいんでしょうか。KARTEのユーザーストーリー機能は、ユーザーインタビューとデータ解析とのちょうど中間点って感じなんです。特にサイトをリニューアルした後や、キャンペーンを打った後、テレビで取り上げられた後などに、10人ほどのお客様の行動を見ています。その動きから仮説を立てて、定性のインタビュー調査を実施することもありますね」
ユーザーストーリー画面イメージ
鍵を握るのはパーソナライズ。一人ひとりのお客様に合わせた感動を届ける
airClosetは、様々な顧客接点で得られるフィードバックを記録してデータ化し、地道にサービスを改善してきました。サブスクリプションサービスで、継続してお客様との関係を築いているからこそ得られる信頼性の高いデータ。これをさらに活かすために、3年ほど前からデータサイエンスに取り組み、スタイリングにおける価値をさらに向上させようと取り組んでいます。
石川「スタイリストさんとお客様にも相性があります。その相性に応じて、お客様とスタイリストさんをマッチングしています。スタイリストさんは、毎日数百人規模で選定されているので、その都度ログイン中のスタイリストさんと相性の良いお客様をマッチングするのが『Styling Matching System』です。」
スタイリストとのマッチングを支援するシステムに加えて、スタイリストのアシスタント役を担うAI『Styling Support AI』を開発。『このアイテムは、このユーザーさんに提案するといいですよ』とAIがレコメンドして、それを参考にしながらスタイリストがユーザーにコーディネート提案をしているそうです。
石川「パーソナルなスタイリングのためには、スタイリストの匠の技と、AI活用のハイブリッドが必要だと考えています。お客様の要望には、先述のようにNGや苦手なものなど細かな項目もあります。例えば、『色味や形は良さそうだけど、丈感が気になるので合わない』ということも、AIによるレコメンドだけだと起こりえます。
なので、丈感のような項目はスタイリストが目で調整して、提案するようになっています。とにかくデータを活用することを目的としているのではなく、お客様に対して最も良いものを提案する方法を考えた結果、データと人のハイブリッドのようなアプローチは重点的にやっています」
スタイリングはairClosetにとってサービスの核。スタイリング以外の場面においても、パーソナライズを徹底することがサービスのブランディングにつながる。石川さんはそう考えているそうです。お客様とのコミュニケーションにおけるパーソナライズにも取り組んでいると石川さんは語ります。
石川「airClosetは、スタイリストさんとお客様がOne to Oneでコミュニケーションを行っています。サービスを通じたコミュニケーションの全てがパーソナライズで、一つひとつ手厚く行っているのが、僕らのサービスのブランディングになっていると考えています。
それが、キャンペーン情報はパーソナライズされずに、何でも届くとなってしまうと、UXはよくないですよね。なので、KARTEをつかってお客様に対して最適な情報を、最適なタイミングに届けることで、サービスが提供する体験の全体の整合性も出せるなと考えています」
希望のスタイルをリクエストすることから始まり、お洋服が届き、返却し、フィードバックする──。airClosetは「お客様とのコミュニケーションが多いサービス」だと石川さんは話します。さらに、webとアプリ、そしてLINEと、顧客接点も多岐にわたりますが、KARTEによってこれらを統合し、パーソナライズされた顧客体験を設計しています。
石川「お客様は、お洋服が届けばマイページで詳細やスタイリストからのコメントを読みますし、返却の際や購入する場合もまたコミュニケーションが生まれます。どのお客様に対して、どこで、どの情報を提供するべきかが重要です。
それが、KARTEではエンジニアに頼らずともできる。先程の箱から袋への改善やお客様からのフィードバック含め、とにかくスピード感を持ってまずやってみることを相当意識しています。まず試してみて、よかったら導入し、失敗であれば変えていく。KARTEがあることによって、より一層スピード感を高められていると感じています。
KARTEはCX(顧客体験)を大切にしているツールだと思いますが、UXを重視するairClosetと非常に近しいものを感じています。KARTEの活用でパーソナライズとスピード感はより高まったと感じています。
顧客目線を徹底し、感動体験を生むための改善を続けるairCloset。今後も理想を追い求めて、お客様の感動を届けていきます」