サイレントカスタマーの声などの潜在的なVoCを可視化し、全社で解決に取り組む。auじぶん銀行が推進するVoC改善

auじぶん銀行は、KDDIグループのデジタル銀行としてスマートフォンを中心とした金融サービスを提供しています。同社は、保有口座数に対して電話問い合わせが多い一方で苦情が少ない状況から、表面化していない「潜在的不満」の存在を課題と捉えました。そこでVoC(顧客の声)分析ツール「QANT VoC」を導入し、電話・メール・チャットなどの顧客の声を網羅的に収集・分析。潜在的不満の可視化と改善を進めた結果、クレームは月平均で約35%削減され、CX(顧客体験)向上につなげています。

auじぶん銀行株式会社は、保有口座数に対する電話問い合わせ数が競合他社と比較して非常に多いという実態に直面していました。

同社はこの状況を、表面化していない「潜在的な不満の現れ」と捉え、VoC(Voice of Customer)改善強化プロジェクトを始動しました。RightTouchが提供するVoC分析ツール「QANT VoC」を導入し、顧客の声を起点とした事業改善に取り組んでいます。

同社で執行役員CS本部長を務める堀野 和明さんに、プロジェクトの背景から具体的な成果、そしてカスタマーサポートの未来像までを伺いました。

顧客の悩みに適したマッチングで約4,000件の自己解決を実現。サポートから全社CX向上を目指すauじぶん銀行のRightSupport by KARTE活用

カスタマーサポートは「顧客の翻訳家」──VoCを起点に顧客理解を深めてタッチポイントの最適化を推進するauじぶん銀行

問い合わせは多いものの苦情は少ない。埋もれた「潜在的不満」をどう捉えるか

まず、VoC改善強化プロジェクトが立ち上がった背景についてお聞かせください。

堀野: 体制が大きく変わったことが背景にあります。経営体制の変更、KDDI・三菱UFJ銀行からKDDIの100%子会社になるという資本構成の変化、これらがほぼ同時期にお起こりました。お客さまにはより一層の安心と信頼をお届けしたく、これまで以上にお客さまのニーズを深く理解する必要性が高まりました。

さらにテクノロジーの進化です。音声認識技術によって、オペレーター個人のバイアスに依存せず、公平な基準ですべてのお客さまの声をテキストとして抽出できるようになりました。これらの変化が融合し、2024年に発表されたauじぶん銀行パーパス「デジタルを駆使する。お客さま視点で考える。そして、期待を超える金融へ。」を体現していくプロジェクトが動き出しました。

プロジェクト開始以前は、具体的にどのような課題があったのでしょうか。

堀野: 当社は保有口座数に対する電話問い合わせ数が競合他社と比較して多いというデータが出ていました。その一方で、苦情やご意見としてあがってくる改善要望は非常に少なかったのです。これは、お客さまが何かしらの不明点や不満を抱えているにもかかわらず、その声を適切にキャッチできていない、課題が埋もれてしまっている状態を示唆していました。センターが多忙でオペレーターが声をあげる余裕がなかったという実態もありました。

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そうした課題に対し、VoCをどのように捉えていこうとしたのでしょうか。

堀野: 人の本心は、必ずしも言葉として表に出てくるとは限りません。相手への配慮や期待値の違いから、言葉にならない本心(インサイト)があります。ですから、「あがってきた声だけがVoCではなく、あがってこないところにこそVoCが埋まっている」という考え方をベースにしました。ハインリッヒの法則(※1)やグッドマンの法則(※2)を論拠に、発せられた声だけでなく、Web上の行動データや第三者評価なども含めて「VoC」として捉える必要があると考えています。特に重要なのが、この「潜在的なVoC」をいかにして拾いあげるかです。

※1:1件の重大事故の背後には29件の軽微な事故と300件のヒヤリハット(事故寸前の出来事)が隠されているという経験則

※2:顧客の「クレーム(苦情)」と「再購入」には強い相関関係があることを示す法則

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数あるツールの中からQANT VoCを導入した決め手は何だったのでしょうか。

堀野: 意思決定が属人化することを避けるため、ツールに求めるべき姿として4つの要件を事前に定義し、それを満たすかを基準に比較検討しました。具体的には、「1. VoCの定義・課題分類・重要度付与などが自動でできること」「2. すべてのタッチポイントの声を収集できること」「3. 改善を提案してくれること」「4. 快適に閲覧・分析できること」です。

QANT VoCは、これまで職人技だった分類作業を自動化し、電話だけでなくメールやチャットなどさまざまなチャネルに届くすべての声を統合でき、AIが改善の示唆を提供してくれる点を評価しました。銀行としてガバナンスが重視される中、個人の意見ではなく、定義と比較に基づいた客観的な選定プロセスを重視しました。

潜在的不満が可視化され、VoCの改善スピードが加速

QANT VoCの導入後、どのように活用しているのでしょうか。

堀野: 当社ではVoC改善のプロセスを「収集(Accept)」「分析(Analyze)」「共有(Acknowledge)」「実行(Act)」の4つのAで構成されるサイクルとして整理しています。収集フェーズではVoCを人手ではなく音声認識による自動テキスト化を行っています。その後の分析フェーズでQANT VoCを使って潜在的不満を抽出・分類しています。

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堀野: 「共有」フェーズでは単なる報告ではなく、VoCで重要な「網羅的に捉える」を軸にAIによる改善の示唆や経営インパクトを含めて伝え、「実行」フェーズでは優先順位をつけて、QANT Webやチャットボットなどで施策を打ちます。このサイクルを回すことで、点ではなく線での取り組みを実現し、経営インパクトにつなげることを目指しています。

QANT VoCによる成果は生まれていますか?

堀野:苦情・クレームに分類されるVoCは、月平均で約35%削減できている見立てです。社内の意識改善とともに、着実に成果が出ています。VoCの削減は、単に件数が減るだけでなく、関連コストの圧縮にも直結しています。長時間の顧客対応、レポート作成、発生原因の分析といった業務負荷が軽減され、その分のリソースを本質的な改善活動に振り向けられるようになりました。

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QANT VoC導入後、どのような変化が現れていますか。

堀野: ひとつは、VoCの収集方法が大きく変化しました。従来は、オペレーターが応対後に内容を整理・要約し、その中から、応対の中で気づいた点や重要だと判断した内容を個別に共有していました。その結果、オペレーターの視点や判断によって情報にばらつきが生じやすく、会話の背景や文脈まで十分に捉えきれない側面がありました。現在は音声認識でテキスト化したすべての会話をそのまま入力しています。これにより、バイアスのかからない、ありのままのお客さまの声を収集できるようになっています。

特に「潜在的不満」という分類が効果を発揮しています。従来は通常の銀行業務、お客さまへのご案内としてVoC抽出対象ではなかった業務も、お客さま側に立つと潜在的不満として抽出され、顧客視点に改めて気づかせていただくことも往々にありました。QANT VoCを導入してからは、毎月のVoCのラインナップが劇的に変わりました。所管部門にとっては、これまで共有されてきたものとは全く異なる事実が見える状態になったのです。その結果、「こういう課題があるなら、まずはスクリプトを改善しよう」といった具体的なアクションにつながっています。

もうひとつは、なりたい姿に向けた準備です。預金・為替領域については、コールシステム自体が刷新され、2025年11月からデータ収集が可能になりました。まだ大きな差異は生まれていませんが、全量のデータを投入することで潜在的不満の抽出が進んでいます。AIによる改善の示唆も出始めており、4Aサイクルでいえば「共有」のフェーズが整ってきた段階です。現在は、ESM(エンタープライズサービスマネジメント)の観点から、改善実行に向けてどのようなプロジェクト体制・組織で進めるかを検討しています。

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VoCについて、どのように社内で共有していますか?

堀野:VoC改善強化プロジェクトの開始時から、役員報告会やVoC定例会などの会議体を設け、各部門からの改善検討を新たに設置したVoC相談窓口へ集中させる一本化も進めてきました。

従来の定例会では「こういう声があがりました」という報告が中心で、改善策を検討しても個々人の裁量では判断が難しく、全員で意見を出し合っても良い案が出なければ保留になることが多かったのです。VoC改善は、思考が回らなければ前に進みません。

QANT VoCを導入してからは、AIが改善の示唆を提示してくれるため、議論の質が変わりました。もちろんAIの提案をそのまま取り入れるわけではありませんが、「それなら検証してみよう」「まずは試してみよう」という動きが生まれやすくなったのです。示唆があることで、それをベースに考えを深められる。結果として、今できる改善が素早く進むようになりました。

また、経営陣にはテキストだけでは伝わりにくいお客さまの温度感を、実際の音声を聞いてもらうことで直接届けられるようになりました。一度、音声で「激昂」のレベルを体験してもらうと、その後はテキストの書きぶりからでもその緊急度や重要性を理解してもらえるようになるものです。このハイブリッドな活用が、企画、リスク、財務といった各部門を巻き込んだ全社的なVoC改善プロジェクトへと発展するきっかけにもつながっています。

従来もCSから経営へ課題の起案は行っていましたが、テキスト中心の共有では顧客の温度感や緊急度まで十分に伝わらず、経営としてどこに優先的に取り組むべきかを判断する材料が不足していました。

現在は、CSが中心となって顧客の声を構造化し、AIが提示する示唆を起点に議論を進めています。示唆があることで論点が整理され、背景や影響範囲まで踏み込んだ本質的な議論が可能となりました。緊急度や重要性を含めた共通認識が形成されることで、優先順位を明確にした意思決定が行われています。

VoCはCS部門内で完結するものではなく、CSが起点となって全社の改善を動かす基盤として機能しています。

CSが企業と顧客をつなぐ「翻訳家」に。カスタマーサポートが経営の中心になる未来に向かって

QANT VoCとQANT Webの連携など、今後の構想についてもお聞かせください。

堀野: CXデザイン(タッチポイント最適化)とシフトレフト(※)の実現に向けた一連のサイクルの構想があります。QANT Web・QANT VoCに加えて、QANT コネクトなども導入しています。

大事にしているのは、タッチポイントの最適化です。従来、お客さまのお困りごとやその状態に応じた適切なサポートチャネルが用意できておらず離脱されたり、用意していても最適なサポートではなく未解決のまま離脱されるケースがありました。そうした状態を可視化し、データをもとに改善へつなげていく。そこをさらに高度化していこうと取り組んできたものです。

※ シフトレフトは、顧客がサポートを必要とする前に、できるだけ早い段階で問題を解決できるようにするアプローチ

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Rightシリーズは2025年10月1日(水)よりQANTシリーズに名称変更しています。QANT Web(旧 RightSupport)

堀野:具体的には、お客さまが自己解決できる流れを強化していきます。たとえば、Webやアプリにアクセスしたお客さまが口座開設に取り組む際、チャットボットでコミュニケーションしながらお客さまの背景を確認し、本当に知りたいことを把握していきます。
そこからFAQで自己解決に導くこともあれば、QANT コネクトで電話誘導することもあります。対応した後は、そのデータをQANT VoCに投入し、改善サイクルを上流に持っていく。この流れを回していくことが大切だと考えています。

2025年度からは私の管掌範囲にアプリとWebも加わりましたので、シフトレフトの実現がこれまで以上に目指しやすくなりました。VoCから得た課題をWebサイトやアプリのUI/UX改善に直結させることができます。すぐにシステム改修ができない場合でもQANT Webで上書きしたり、ページ自体を書き換えたいときにはRightTouchのグループ会社であるプレイドのプロダクトKARTE Blocksを導入しているのでそちらで対応したりと、一気通貫で推進できる体制になります。

AIオペレーターの進化についてはどうお考えですか。

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堀野: 当初、AIオペレーターは品質度外視でコスト重視の企業が選ぶものと捉えていましたが、技術の進化は想定よりはるかに早いですね。抑揚やコミュニケーション能力を持つAIモデルが登場し、認識を改めました。

人にしか作れない体験価値は残しつつ、テクノロジーでできることは拡大していくべきです。インテリジェントスウォーミング(入口対応をAI、複雑な対応を専門人材が担うモデル)の実現も近いでしょう。24時間365日対応や海外展開を考えると、AIオペレーターの活用は不可欠であり、2026年には具体化が必要だと考えています。

今後の展開として、2026年1月から預金・為替領域のコールセンターデータ収集が本格化し、全センターでバイアスのかからない潜在的不満の抽出が可能になります。現在は、ESM(エンタープライズサービスマネジメント)の観点で、改善実行に向けたプロジェクト組織の立ち上げを準備中です。

最後に、堀野さんが考えるカスタマーサポートの未来像とはどのようなものでしょうか。

堀野: カスタマーサポートの役割は、従来のサポートやサービス提供から、お客さまの成功を導く「カスタマーサクセス」へと劇的に変化すると考えています。生成AIを活用すれば、お客さまの行動履歴や発言、潜在的な不満から、その方が何を求めているか、お客さまが求める成功の姿を極めて高い解像度で理解できます。私たちはその理解を基に、お客さま本人以上に顧客を理解し、「翻訳家」として、企画部門に必要な商品設計などを提言していきます。そうしてカスタマーサポートは、経営の中心に位置する存在になっていくはずです。

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