デジタルで変わる百貨店。老舗「藤崎」が外商DXで目指す、深い顧客理解
百貨店のセールスでは、花形とされる「外商」。これまでは属人性高く顧客のニーズに応えてきた仕事が、デジタルによって変わろうとしています。藤崎百貨店はどう外商を変革しようとしているのか、その背景と狙いを聞きました。
仙台に拠点を持ち、創業200年を超える歴史を持つ老舗百貨店「藤崎」。コロナ禍を経て百貨店としてのモデルを更新する必要が強まり、さまざまな挑戦を加速させています。
店舗とECのデータを連携させることでのオムニチャネル化、顧客向けのスマートフォンアプリの運営、外商のプロセスをデジタル化するなど、さまざまな実践をしてきたそうです。その挑戦の一部には、KARTEも導入いただいています。
今回、マーケティング統括部長兼デジタルコミュニケーション部長 㔟田(せた)誠一さん、マーケティング統括部 課長 櫻井圭一郎さん、本店外商部 部長 丸山承秀さん、経営企画部 システム企画担当 課長 佐々木則和さん、デジタルコミュニケーション部 営業企画担当 課長 高橋伸介さんの5名にお話を伺う機会に恵まれました。
前半では、どのように組織横断してデジタル化に取り組んでいるのか、リアルとデジタルの融合をいかにして進めてきたのかについて紹介しました。後半では、KARTEを活用して挑戦している外商のDXについて、取り組みの背景と狙いを紹介します。
前半はこちら。
デジタルで変わる百貨店の「外商」の仕事
藤崎では、KARTEを活用して高額商品の購入が多い法人や個人の顧客を対象とした「外商」のDXに取り組んでいると伺っています。外商のDXにはどのような背景で取り組むことになったのでしょうか。
本店外商部 部長 丸山承秀さん
丸山:外商とは、百貨店特有の昔からの商いで、読んで字の如く「外に行って商売する」仕事です。藤崎が拠点を置いている仙台地域であれば、訪問してドアベルを鳴らせば、ほぼどのお客様も門戸を開いてくださいます。
転機となったのは、コロナ禍です。訪問が困難になり、店舗にもお客様はいらっしゃらない。「一体、どうしたらいいんだ?」と、外商のメンバーはみんな悩みました。悩んだ結果、出てきたのがデジタルのソリューションを取り入れること。
まずはハード面を整えようと、外商のメンバー全員にPCを持ってもらい、情報収集ができるようにするところから始めました。
櫻井さんはここ数年で外商を経験されたとのことですが、経験してみていかがでしたか?
櫻井:私はコロナ禍になってから外商を初めて経験したので、以前の営業スタイルは詳しくは知りません。コロナ禍以降の外商は、催事もありませんし、あったとしてもお誘いする際は時間指定が主流になっているなかで、外商として活動しました。
以前からコミュニケーションが深くとれてきていたお客様とであれば、催事にお越しいただけます。これまでコミュニケーションが深くできてなかったお客様だと「行くかもしれないが、わからない」と言われてしまうと、その後の追いかけは強くできません。
これまでと関係構築の仕方が変わるなかで、どうお客様のニーズを汲み取り、ご提案するかというのが大きな課題。また、電話がコミュニケーションの主流だった頃とは異なり、スマートフォンを通じてのコミュニケーションが格段に増加しました。
ハードから変わり、ソフトも変わっていったのですね。外商のコミュニケーションで大きく変化した点はありますか?
櫻井:年2回、外商が主催するお客様向けの「逸品会」という催事があります。以前はこの催事へのご案内は招待状をお送りしていたのですが、コロナ禍ではQRコードで逸品会へのご案内をするようになりました。どのお客様がどういう経路で参加されたか、という情報が得られるようになったのは大きな変化ですね。
また、デジタルを通じてお客様にお届けする情報を増やすと、お客様がどの情報に興味があるのかについて得られる情報が多々あります。KARTEを使うと、一人ひとりのお客様がサイト上でどのように行動していたかが見えます。オフラインだけでコミュニケーションしていたときよりも、お客様のことを深く知ることができるようになりました。
マーケティング統括部 課長 櫻井圭一郎さん
丸山:これまでも、お客様の購買情報は無数にありました。逸品会のご案内にKARTEを導入することによって、お客様が「何に興味があるのか」「何がほしいか」という情報もわかるようになり、外商にとって大きな武器になりました。
以前の逸品会にKARTEを導入した際のデータで、商品を見た人が来場する確率が高いことはわかっていました。次の逸品会では、まずQRコードを読み取ってもらってどんな商品があるのかを見てもらうことに注力しました。その結果、前回の逸品会と比較して商品を閲覧したお客様の割合が130%になりました。
逸品会への来場数も増えましたし、商品閲覧から得られる情報もかなり多くなりました。数字は嘘をつかないので、数値で振り返りができるようになったのも、大きな変化ですね。
商品閲覧のデータで顧客の「ほしい」を知り、活かす
これまでオフラインが中心だったところに、デジタルを導入していく際には抵抗もあったのでは?
丸山:もちろん、最初はみんな慣れていないので戸惑いもありました。これまで外商セールスは、職人気質と言いますか、「属人的に自分だけが売り方をわかっていればいい」というマインドセットのメンバーが多かったんです。
ただ、KARTEを導入してから徐々にデータを見ることにも慣れてきて、どのメンバーも非常に驚いていますよ。「お客様はこんな情報を見てたのか」と、外商セールスが脳内で予想していたものと違うものをお客様が欲していることが可視化された。
うまく活用することで、経験によらず成果を出だせるようになったメンバーもいます。入社3年目のセールスもKARTEを活用して、お客様の商品閲覧データを参考に、ニーズに合った商品を提案するようになりました。
他にも、なんと私よりも年上の60歳以上のメンバーもKARTEを使いこなせているんです。現在は、ほぼ全員KARTEを閲覧できる環境になりました。使いこなせるようになるまでにまだ時間はかかると思いますが、大きな変化ですね。
年齢層の幅広さがすごいですね。メンバーがKARTEに慣れるようにするために研修など実施されたのでしょうか?
丸山:実施しました。最初から全員ではなく、まずは高橋がメンバーを厳選して研修を行いました。そのメンバーが学んだことを実践している様子から、他のメンバーにも広がっていきました。
㔟田:研修も大事ではあるのですが、丸山個人の動き方が影響したと思います。便利なツールを導入して、いい仕組みをつくったとしても、現場が目的を理解して、腹落ちするまでには時間がかかります。
特に外商は、営業の中では花形のポジション。そのため、外商のメンバーも自らのスタイルに誇りを持って仕事をしています。一方的に「やり方を変えましょう」と伝えるだけでは変わらなかったでしょう。
そういう状況で、自らのプライドに固執することなく、誰よりも速くツールを使い倒していったのが丸山です。彼が「丸山塾」という勉強会を開催してメンバーに知識を共有するなど、行動で示していった影響は大きかった。彼がいなければ、まだごく一部のメンバーしかKARTEを利用していなかったでしょうね。
組織的に新しいツールやスタイルの導入を進める上で、動きをリードする丸山さんのような存在が重要だったのですね。
㔟田:また、デジタル化を推進するなかで、組織的な外商のあり方についても見直しがありました。外商は、お客様のニーズにあったものをしっかり提案する仕事です。とはいえ、現実的には一人ひとりの外商がコミュニケーションができるお客様の数は限られます。にも関わらず、一人の外商が担当できる2〜3倍くらいの数のお客様を担当している状態でした。
そうすると、当然お客様へのアプローチには濃淡が生まれてしまい、コミュニケーションが希薄なお客様のグループができてしまう状態になります。2021年に、一部外商のメンバーは自らがしっかりとコミュニケーションできるお客様の数だけを担当することに決め、それ以外のお客様は部署として対応することに変更しました。
グループを分けて、対応をするようにした現時点でもある程度成果は出ています。今後は、濃いコミュニケーションができていたお客様の購買前の行動をさらに理解しなくてはなりません。その上でセグメントを分け、チャットツールやMAツールと連動して、お客様に合わせたインサイドセールスを実施していけるように目指していきます。
また、コミュニケーションが希薄であったり、そもそもコミュニケーションできていなかったりしたお客様へのアプローチも改善できる点が多々あります。こうしたお客様も、コミュニケーションができていないだけで、店頭で商品を買ってくださっていました。購買行動は起きていたので、お客様にもニーズはあったわけです。
こうした課題については、KARTEを導入した外商限定サイトを開設し、お客様にとって有益な情報を提供できるメディアにしていくことで解消したいと考えています。
丸山:これまでは逸品会や特設サイトでのKARTE活用のみでしたが、新設する外商限定サイトではカタログで紹介しきれない商品情報を掲載していきます。われわれから情報をお届けして、お客様に商品をご覧いただいた上で、電話やチャット機能などで外商のメンバーがご説明します。外商限定サイトにもKARTEを導入することで、商品閲覧などのお客様の行動データを取得し、購買前のデータからニーズやインサイトを把握できるようにしていきます。
組織として現代に合った「外商」のスタイルを確立する
外商とお客様とのコミュニケーションの間でKARTEを活用するだけでなく、外商限定サイトとKARTEを連動させることで、さらなるお客様の行動データを取得できる状態をつくっていこうとしているのですね。
㔟田:お客様のライフスタイルや趣味嗜好を把握できないと、ニーズにあったご提案はできません。特に、大量生産大量消費の時代から変わってきている中で、百貨店が存続するためにはお客様のより深い理解とそれを前提にしたご提案が不可欠です。
これまでのように属人的なお客様とのコミュニケーションや、情報収集だけではニーズを捉えられない恐れもあります。そもそも、お客様のニーズに関する情報が社内で共有されてきておらず、それも大きな課題でした。
KARTEの仕組みを使うことで、お客様のセグメント分けもできますし、外商のメンバーがキーワードでお客様の情報を検索もできます。今後は、お客様の情報をどれだけ集められているか、というのが重要なポイントになっていくはずです。
丸山:これまではお客様のニーズを把握するというのは、一人ひとりの外商の職人技でした。今後は、「どれだけ情報をとってきたんですか?」とチームに呼びかけていきます。今年のテーマは「考える営業」としています。考える項目の一つに、「情報」があります。情報を集め、分析して、営業に活かす。その大切さを伝え続け、メンバーが実践できるように働きかけていこうとしています。
高橋:丸山の働きかけもあり、徐々に情報に対する向き合い方が変化してきています。丸山のように、これまでの外商スタイルを把握しながら、今の時代に合った外商スタイルに変化していこうという意志が感じられるメンバーが増えているんです。
情報を集めて分析することが浸透すると、「この商品情報をお客様が閲覧したけれど、購入に至らなかったのはなぜか?ということを考えるようにもなっていくはず。そういう観点でも、「考える営業」が実現できるよう、お客様のデータが見える化できるようにして、そのデータを外商のメンバーにも使ってもらえる仕組みづくりを進めていきます。
百貨店として、お客様の情報をしっかり知っている状態を目指す、と。
㔟田:そうですね。従来の百貨店では、最終的に商品を説明して販売するのは店舗の店員でした。外商限定サイトを閲覧いただくことで、われわれとしてもお客様の興味関心を把握でき、データとして蓄積できるようになります。
サイトの運営を重ねていくと、顧客データの基盤が育っていき、藤崎としての提案に対する説得力が高まるはずだ、と考えています。お取引先の方々も、お客様の深い情報には強い関心を寄せているので。
顧客データ基盤、つまりお客様をどれだけ理解しているかというのはわれわれのビジネスの柱です。ここの活動を組織的に注力していくために、情報取得自体を評価項目に入れてマネジメントしていけたらと考えています。
デジタル化により見直される百貨店の強みとは
デジタルへの取り組み全体における今後の展望やチャレンジしたいことがあれば教えてください。
佐々木:情報が膨大に存在しているものの、使い切れていない、という話を社内でよく耳にします。情報を集めることに注力したとして、それだけでは「活きたデータ」にはなりません。集まってくる情報を、現場で使える活きたデータにしていく。これがシステムを担当する立場として目指すべきこと。今回のKARTEを活用した取り組みが、それを達成するきっかけになればと考えています。
丸山:外商限定サイトを立ち上げていくなかで、お客様からわれわれの店頭にないものへのご要望もいただいています。外商限定サイトでは、店頭にない商品も含めて紹介できるようにと、いろんな業種業態のお取引先と交渉を重ねています。
例えば、自動車のような商品も扱える可能性もあります。お取引先としても、我々の強みである富裕層とつながりがあり、取り扱う商品が幅広いプレイヤーとの接点はほしいはず。外商限定サイトを通じた、取り扱い商品の拡大はお互いにWin-Winになるものだと思います。
櫻井:まずは、今の役割をきっちりと果たします。丸山の述べた多様な業種とのアライアンスを進めていき、従来の百貨店外の商品を充実させたいと思います。その先では、リアルな売り場での行動データや店頭での接客の内容なども含めてすべてを可視化することで、お客様の全ての課題解決ができる空間を実現していきたいと思います。
高橋:藤崎の全社員を外商に変えていきたいですね。現時点では、外商という藤崎のなかでも限られたスタッフだけが、KARTEなどのツールを利用しています、個人的には、KARTEを活用すれば、藤崎のスタッフ全員が外商になれる可能性があると考えているんです。
また、デジタル化が進んでいくなかで、リアルな場が持つ価値の希少性が高まっていると考えており、今後リアルな場のあり方も見直されると予想しています。外商限定サイトを通じたお客様とのコミュニケーションを重ねつつ、なんらかの形でリアルの強みをうまく活かす方法も模索していきたいですね。
㔟田:現在の取り組みの先には、さまざまな可能性が広がっています。例えば、我々が地域の良い商品をプロデュースするとなったときに、そういった商品を望むお客様のインサイトや関心事を解像度高く把握しているというのは必須です。
また、少子高齢化が進んでいくなかで、お客様たちのデジタル化の支援および生活の課題解決のようなことも必要になっていく。高齢のお客様のなかには、終活も含めた欲する情報がこれまでと異なっていく方もいらっしゃるでしょう。
もちろん、対面でのご提案は従来どおり続けながら、デジタルでのコミュニケーションにさらに注力していきたいですね。我々がお客様のためにできることはまだまだ多い、そう思いますから。