誰でも利用できる“やさしい”チケットサイトを目指して。「Jリーグチケット」が取り組むファンとクラブのためのUI/UX改善

Jリーグとぴあが共同で運営するチケット販売サイト「Jリーグチケット」は、細かな施策をスピード感をもって検証するためにKARTEの導入を決めました。具体的にどのような変化が生まれたのか伺いました。

Jリーグとぴあが共同で運営するチケット販売サイト「Jリーグチケット」。J1からJ3各クラブの主催試合のチケットを購入でき、Jリーグ観戦には欠かせないサービスとしてリーグ全体とクラブを支えています。

使いやすいチケットサイトにするためにUI/UXを重視している同サイト。細かな施策をスピード感をもって検証するためにKARTEの導入を決めました。KARTE導入で、「Jリーグチケット」にはどのような変化が生まれたのでしょうか。

公益社団法人日本プロサッカーリーグの鈴木章吾氏と小森誠之氏、ぴあ株式会社の木村健吾氏と鈴木修次郎氏に話を詳しく伺いました。

チケットを購入するお客様を知るために生まれた「Jリーグチケット」

「Jリーグチケット」について教えてください。

鈴木(Jリーグ):「Jリーグチケット」はJリーグが主催するJ1からJ3の各試合、カップ戦などのチケットを購入できる公式のチケット販売サイトです。JリーグIDというJリーグの各種サービスでご利用いただける共通の会員IDサービスに対応しており、JリーグIDでチケット購入およびQR発券ができます。

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Jリーグチケット Topページ

「Jリーグチケット」はどのような背景で生まれたのでしょうか。

木村(ぴあ):「Jリーグチケット」の背景には、Jリーグが年間来場者数1,100万人を目指して開始した「イレブンミリオンプロジェクト」があります。

「イレブンミリオンプロジェクト」では、各種メディアでの広報やサポーター参加のイベントなど、Jリーグを身近に感じてもらうための取り組みを行っていました。時代の流れに合わせてチケット購入のデジタル化にも取り組んでいこうという話もあり、そこから生まれたものです。

というのも、「Jリーグチケット」で一括販売する以前は、複数のプレイガイドでチケットを販売していました。購入したお客様の情報は各プレイガイドが保持しており、クラブ側はどのようなお客様がチケットを購入したのかという情報を得られない状況にありました。

どのようなお客様が購入しているかがわからないと、お客様を増やすための施策を行うこともできません。

そのような背景から、“一つのIDで、全ての試合のチケットが買える”インターフェースを実現し、お客様の見える化をしていこうとスタートしたのが「Jリーグチケット」です。

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公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ) 事業マーケティング本部 マーケティング部 マーケティング担当チーフオフィサー 鈴木章吾 氏

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ぴあ株式会社 スポーツ・ソリューション推進局 ソリューション開発部 部長 木村健吾 氏

鈴木(ぴあ):ぴあがJリーグオフィシャルチケッティングパートナーとなった2012年は、「Jリーグチケット」の認知度はあまり高くありませんでした。その中で、Jリーグといろいろな取り組みをさせていただき、チケット年間売り上げは開始時の約3000万円から、現在は100億円規模にまで成長しています。現在ではクラブと連携して、「Jリーグチケット」での販促活動をできるようになっています。

Jリーグとぴあはどのように運営の分担をされているのでしょうか。

鈴木(Jリーグ):それぞれの役割を端的にいえば、サービスのインフラやUIといった面はぴあ株式会社にお願いしていて、Jリーグは各クラブに「Jリーグチケット」という売り場を提供し、クラブと連携しながらチケット売上を促進していく立場です。チケットの直接的な販売者はクラブとなるので、チケットの席種・価格・販売スケジュールを決めて商品を用意してもらい、「Jリーグチケット」に掲載してもらうという流れです。

チケットをどうしたら選びやすく買いやすくなるか、観戦体験を快適にするために機能面をどのように改善するかといった重要な意思決定は両社で協議しながら行っています。

Jリーグとしては、リーグ全体の入場者数やチケットの売れ行きを俯瞰して見ながら、チケット購入を促進するための施策を実施したり、ルヴァンカップ(Jリーグが主催するカップ戦)決勝や国立開催試合、ダービーマッチ(※1)のような「注力試合」にたくさんのファン・サポーターにスタジアムに来場いただくことに力を入れています。さらに、初回来場からリピート、定着化のためのCRM施策を実施したり、テレビCMや地上波のサッカー番組などでメディア露出を高めてJリーグの盛り上がりを世の中に発信していくことで、リーグの知覚品質を高める部分を担っています。
※1 同じ地域に本拠地を持つクラブ同士が対戦する試合のこと

木村(ぴあ):私たちはサイトのインフラやUIの部分だけではなく、各クラブのチケット担当者とのコミュニケーションも担っています。各クラブのチケット担当者からの要望も多く寄せられるため、私たちが集約してJリーグに共有し、「Jリーグチケット」の機能改修に生かしています。

チケットを購入する体験の中で重視している部分を教えていただけますか。

鈴木(Jリーグ):現在ではスポーツビジネスの世界においても、デジタルを活用したマーケティングが主流になってきています。共通IDであるJリーグIDでチケットが購入できて、入場用のQRコードの表示までワンストップで実現できている点は「Jリーグチケット」にとってサービスの根幹となりますので、この購入~スタジアム来場までの一連の顧客体験の最適化に最も力を入れています。

さらに、新規で来訪された方やライト層でもストレスなく購入できるようにUI/UXの細部を改善していくことも重視しています。サッカーのチケットの場合、席の種類や発券方法の選択など、どうしてもチケットを購入するUI/UXが複雑になってしまいます。購入のハードルをなるべく感じずに購入してもらえるようなサイト設計や導線にするために、日々ぴあ株式会社の皆さんと議論しながら、チケット購入体験のブラッシュアップに努めています。

木村(ぴあ):協業をはじめた当初はコンビニでの購入が主流で、チケットも紙での発券が基本でした。今となっては、チケットを発券される方々の約9割がQRコードで発券されていて、購入から発券までをスムーズにスマホで済ませられるようになりました。従来のファンの方々はもちろん、Jリーグチケットの購入に慣れていない方にとっての利便性も向上しています。チケットの購入経験の有無に関わらず、誰でも利用できる“やさしい”チケットサイトを目指して開発、運用を行っています。

KARTE導入により、トライしやすい環境に

UI/UXの改善を重視されていた「Jリーグチケット」にKARTEを導入された背景を教えてください。

鈴木(Jリーグ):各クラブから「Jリーグチケット」の機能や告知に関するさまざまなリクエストが挙がってきたり、私たちもサイト上で試してみたい施策がたくさんあるのですが、かなり先まで大規模な開発計画が決まっており、すぐに実現できない状況でした。また、UI/UXの最適化という観点では、開発リソースの都合もあり、スピード感をもってPDCAを繰り返すことが難しいという状況に陥りつつありました。そのため、開発とは別枠で小回りよくUI/UXを改善する運用にできないかという話題は以前からあり、スピード感をもってUI/UXを検証しやすくするためにKARTEの導入を決めました。

チケットサイトは熱量や目的を持ってサイトに訪れる方が大半であり、もともと購入率が高いので、KARTE導入後にさらに購入率を高めることができるかという懸念はありました。ただ、「Jリーグチケット」の場合は1,000を超える試合を取り扱うので、例え一つの試合で上がる購入率が1%未満でも、それが積み重なれば、全体のインパクトは大きくなるのではないか。さらに売り上げに加えて、チケット販売促進に関するノウハウを各利用クラブに横展開できるということも大きい。そうした中長期的な視点でもポジティブに感じました。

実際に導入してみて、どのような部分に良さを感じますか?

小森(Jリーグ):私が所属しているJリーグのマーケティング部は、KARTEのデータを見ながら各クラブと綿密にコミュニケーションをとって、どのような告知を出せばいいか、どのような施策を行えば売り上げにポジティブな影響を及ぼすかといった提案をクラブへ行っています。その中で、実際に試そうとしたとき、KARTEの豊富な接客テンプレートの中に試してみたい施策のテンプレートが既に用意されていたことに驚きました。施策を作ることも簡単にできますし、ユーザーをセグメントに分けて、それぞれのセグメントに適したメッセージを出せるのがすごくいいなと思いました。

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公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ) 事業マーケティング本部 マーケティング部 小森誠之 氏

鈴木(Jリーグ):例えば、「来場回数xx回以上」「カートに商品を入れているけど決済に進んでいない人」など、細かなセグメントに分けることができると効果的にクーポンを配布できるのでとても助かっています。チケットサイトにおけるクーポン配布は難しく、売れ行きに合わせて後からクーポンを出すと先に購入していた人からすれば納得できない場合もあるので、全配信はできないんですよね。従来はメールやLINEなどでターゲットを絞った上で送付していました。

KARTEであればサイトを閲覧しているお客様の状況に合わせてクーポンを出すことができます。例えば、新規ユーザーで何度もサイトに来ているし、カートに商品を入れているけど購入されていない方がいた場合に、迷っている気持ちを後押しする役割としてクーポンを提示することができるのです。

こうした施策をあるクラブのページ上で試して効果が出たら、全クラブにも共有しています。それにより、他のクラブは一度検証された施策を取り入れて試せるので、リーグ全体での大きなPDCAを回すことにつながります。

木村(ぴあ):私たちには各クラブから要請や提案が多く届きますが、その内容の良し悪しは私たちには判断できないものが多いです。KARTEがあることで、試しにA/Bテストしてみよう、このセグメントのユーザーデータを見てみようといったアクションが取れるようになりました。

UI/UXでの課題や要望が出たとき、プレイドさんとKARTEの活用支援をしていただいているメンバーズさんも解決のためのアイデアを出してくれます。各社が参加する定例ミーティングの場でもCXを良くしていこうという姿勢で一体となっているので、KARTE導入前より定例ミーティングの場での議論が活発になった印象があります。

チケットを選びやすくなることで、購入率も増加

まだ各クラブと検証されている中で、効果が出た施策はありますか?

小森(Jリーグ):クラブが作った動画やJリーグが作ったカップ戦のプロモーション動画を「Jリーグチケット」内にポップアップで表示させたところ、動画を閲覧した人と閲覧していない人で比べると、明らかに動画を閲覧している人のほうがチケットを購入する確率が高いという結果が出ました。

さらに、スタジアムの座席の種類について、文章で書かれても図で見ても分かりづらいという声が多く寄せられていたのですが、各座席からの観戦イメージの写真をチケット購入画面にポップアップで表示してあげることによって、行ったことのない人でもチケットを選びやすくなりました。この施策では、何も表示しない場合に比べて購入率は約20%増加しました。
※計測期間:2023年7月18日〜8月1日

Jリーグチケット上でのオススメ席のご案内の接客イメージ

小森(Jリーグ):動画は「Jリーグチケット」内だけではなく、今後の各クラブのプロモーションにとってもすごく可能性があると感じています。初めて来場される方にチケットの買い方やJリーグの観戦の楽しみ方を伝える動画を各クラブが作っているので、そういうものを初めて来訪したお客様やライト層に限定して表示してあげることで、より試合への興味を持っていただけるようになります。

クラブが用意するプロモーション動画の接客イメージ

また、Jリーグが主体となって特別な試合のプロモーションを行う場合には、その試合が持つ価値やこの試合を選んでおけば間違いないという情報を初めて来る方にもお伝えできます。それによってお客様も安心して試合を選べる。そういう強調ができる点がいいですね。

特定期間における国立開催試合の動画プロモーションの接客イメージ

他にも効果があった施策はありましたか?

小森(Jリーグ):「閲覧中ユーザー数の表示」の施策も効果がありました。チケット購入ページに「現在このページを◯◯人の人が閲覧しています」というメッセージを配信することで、未配信の場合に比べて購入率が約40%増加したのです。KARTEの機能ひとつで購入率が向上し、検証の材料を得られたことは大きな成果だったと感じます。
※計測期間:2023年8月6日〜9月6日

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現在の閲覧人数を表示する接客イメージ

議論のきっかけも増え、その内容もより深く

これから解決していきたい課題を教えてください。

鈴木(ぴあ):「Jリーグチケット」には毎月多くのお問い合わせが寄せられます。そうしたお問い合わせを減らすためのお客様へのサポートをKARTEで実現できないかと、まだアイデア段階ですが検討しています。どういうことをお客様が考えているのか、どういうサポートが求められているかをKARTEを通じて知りながら、お客様にとって“やさしい”「Jリーグチケット」を目指していきたいですね。

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ぴあ株式会社 スポーツ・ソリューション推進局 ソリューション開発部 ソリューション開発ユニット 鈴木修次郎 氏

鈴木(Jリーグ):単なる顧客分析だけではなく、ユーザーがなぜここで離脱してしまうのだろうとか、一次情報をもとに議論ができるのは大きいですよね。

鈴木(ぴあ):Jリーグから私たちへのUI/UXの改善要望は以前はたくさんありましたが、今ではほとんどがKARTEで解決できています。年単位で積み上がっていた機能改善のタスクが週単位ほどに短縮されたという体感すらあります。

ぴあの開発チームとは、KARTEでうまくいっている施策を、今後はシステムとしても組み込んでいきたいねという話もしています。

チケットからスタジアムまで、一貫した体験を届けたい

今後はどのようなサービスを目指していきたいですか?

小森(Jリーグ):まずは利用全クラブすべての「Jリーグチケット」ページで、KARTEの利用が広がるように普及させていきたいです。そうすることで、クラブごとのファンの動きの違いがKARTEを通して見えてくると思うので、それをもとにクラブのホームページの改善提案にもつなげたい。その他にも、クラブのHPやリーグのページやアプリなどへもKARTEを導入して、さまざまな場所でのお客様の動きを横断して見てみたいですね。

鈴木(Jリーグ):Jリーグ公式サイトではKARTE Blocksを利用しているのですが、KARTEの一連のソリューションを連動してお客様の体験をつなげていきたいというのもありますね。KARTEを活用しているのは、今はチケットを購入してスタジアムに来場するまでに留まっていますが、スタジアムでQRチケットを表示したときに、その日のイベントやキッチンカーの情報を即時に案内したり、スタジアム体験を向上するために導入しているサービスを紹介したりと、究極は現地での体験や試合後の体験までつなげられるといいですね。

木村(ぴあ):私たちのミッションとしては「全スタジアムを満員にする」ことなので、最大限「KARTE」を活用しながら、UI/UXの向上に邁進していきたいですね。

鈴木(ぴあ):数あるチケットサイトの中でも、「Jリーグチケット」は最も使いやすいチケットサイトになれると思いますし、KARTEを導入したことでより現実的な目標になったように感じます。初めて使う方も、コアなファンの方でも何不自由なく使えるチケットサイトとして、今後も改善を重ねていきたいと思っています。

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