KARTEを活用し、全社デジタル化を推進。三菱UFJ信託銀行の新たなステージへの歩み
三菱UFJ信託銀行 デジタル戦略部は全社的なデジタル化を推進するために各部門に働きかけています。金融業界ならではの課題にどう向き合っているのか、全社的なデジタル化にKARTEはどう貢献しているのか。KARTEの導入背景から活用法と成果、今後の展望を伺いました。
三菱UFJ信託銀行株式会社は、預金や資産運用をはじめ、相続、不動産、住宅ローンなど、顧客がそれぞれのライフステージで必要なサービスを幅広く包括的に提供しています。同社では、全社的なデジタル化に注力しています。
DXの推進はすべての企業にとっての至上命題ですが、金融業界においてデジタル化の余地は大きく、その必要性は明確です。同社では、この大きな課題に挑み、全社のデジタル化を進めるうえで、KARTEシリーズを導入し、活用しています。
本記事では、三菱UFJ信託銀行 デジタル戦略部 DX統括推進室の西潟 裕介さん、厚澤 宏紀さんにKARTEの導入背景から活用方法と成果、そして今後の展望について伺いました。
対面での顧客接点を重視しながらも、全社的なデジタル化を推進する
お二人が所属するデジタル戦略部の役割について教えてください。
西潟:デジタル戦略部のミッションは、全社的にデジタルで提供できるサービスの品質を向上させることで、お客さまとより密接な関係を築くことです。そのために、まず私たちの部署が全社に先駆けて、PoCのような形でデジタル関連の取り組みを実行し、上手くいったものを他の部署に展開する形で、全社のデジタル化を推進しています。
また、各事業部それぞれがお客さまのデータを持っていても、社内でバラバラになっていては非効率です。データの形式などが異なっていては、データをやりとりしてもうまく整合ができません。「この仕組みを活用してください」と、データに関する統一指針を全社に広げるのも私たちデジタル戦略部の役割です。
お二人の役割を教えてください。
西潟:デジタル戦略部に在籍し、2020年から全社的なAI活用・データ活用の推進を担当しています。前職は金融系のSEで、当行には2019年に入社しました。こうした背景から、入社当初は外部の家計簿アプリとオープンAPIで当行のネットバンキングをつなぐ仕組みづくりに携わっておりました。
その後、デジタルマーケティング業務の立ち上げを担当し、厚澤にバトンタッチしてからは、全社的なAI活用やデータ基盤整備に注力しています。近年、精度が高まってきた生成AIとデータを組み合わせれば、より高度な業務改革が期待できると考えて、試行錯誤しています。

三菱UFJ信託銀行 デジタル戦略部 DX統括推進室 西潟 裕介氏
厚澤:同じくデジタル戦略部に在籍して、リテール領域の事業リーダーとして、さまざまなツールを使った業務効率改善の検討や推進をしています。たとえば、KARTEのようなプロダクトの有用性を具体的に検証したうえで、それを各事業部に使ってもらえるよう推進するのが主な業務となります。
2016年に入社して営業を経験し、2022年に社内公募制度に手を挙げてデジタル企画部に異動。LINEなどを活用したお客さまとのチャネルの運用を通じて、「Webを通じてお客さまに何を提供できるのか」というテーマで業務を行っていました。
全社的にデジタル化を推進しているとのことですが、現在はどのような状況なのでしょうか?
厚澤:まだまだ、実現できていないところも少なくありませんが、活動を始めた当初と比べると進展していると感じています。インターネットバンキング以外でもお客さまとのデジタル接点を増やそうと、各事業でアプリやLINEなどのさまざまなチャネルを通じて、お客さまとのつながりを強化する取り組みを進めています。
金融業界のお客さまサービスのデジタル化は、他業種に比べると遅れていると考えています。ですが、Webサイトをリニューアルしたり、コンテンツを刷新したりすることで、お客さまのデジタル活用を促進する金融機関も増えてきました。
こうしたデジタル活用の促進には、コロナ禍などの影響もあります。ただ、他の業種では、一度オンライン中心になったお客さまの体験が、最近ではまたオフラインへと回帰してきている側面もあります。
一方、金融業界においてはデジタルを活用するお客さまは継続して増えています。コロナ禍をきっかけに潜在的にあった非対面での対応ニーズが、顕在化してきているのではないかと考えています。

三菱UFJ信託銀行 デジタル戦略部 DX統括推進室 厚澤 宏紀氏
西潟:とはいえ、金融サービスにおいて、お客さまから対面での対応ニーズがなくなるわけではありません。たとえば、相続の話となると、信頼する担当者と直接会って、何度もやり取りを重ねたいという方が大多数でしょう。こうしたサービスでは、オンラインで完結しないことを前提に、「お客さまとの最初の接点をデジタルでつくって、スムーズに対面営業に引き継ぐ」という方向性の方がお客さまにとって好ましいのではないかと考えています。
お客さまとのコミュニケーションをどこまでデジタル化するのが最適なのかを考えなければなりません。この問いを検討するだけであれば、私たちデジタル戦略部である程度進めることができますが、課題となるのは、デジタル化の施策をいかに全社に浸透していくか。各部署が自走してデジタル化を進められる仕組みの構築が大きなテーマでした。
KARTEを活用して顧客の行動データを踏まえた、適切なポップアップ施策を実行
KARTEを導入した背景には、どのような課題があったのでしょうか。
西潟:お客さまの非対面と対面データを統合し利活用を進める一環として、非対面の顧客接点を強化したいという考えがありました。
具体的には、お客さまのWeb上での行動データを可視化できるツールを探していました。PoCとして試行錯誤を重ねられるツールが良いと考えて、「行動データが蓄積できる点」「お客さまに向けたアクションもできる点」を重視した結果、KARTEに決めました。弊社の基幹システムとの連携もスムーズですし、大手銀行の導入実績があったのも選んだポイントのひとつです。

実際に導入してみていかがですか?
厚澤:事前のオンボーディングで「こういうことができます」というのをいくつか頭にインプットした状態で、実際にわからないことがあればKARTEのサポートサイトを読んだり、チャットで質問したり… というのを繰り返していました。
管理画面からチャットにアクセスしやすいのは便利ですね。問い合わせをするためにメールソフトを立ち上げて、質問を書いて、返事が来たらメールの画面と操作画面を行ったり来たりしながら確認して…という煩わしさがないのは助かっています。
KARTEについては管理画面から「これ困っています」とチャットでお尋ねするだけでいいので、トラブルシューティングにかかる負荷はかなり小さいですね。カスタマーサポートの方にも教えていただきながら、KARTEの使い方やコツをつかんでいきました。
KARTEを利用してどのような施策を実行しているか教えてください。
厚澤:KARTEを活用して、Webサイトを訪問したお客さまを銀行口座開設や来店予約にご案内するポップアップの表示をしています。
たとえば、信託銀行では、取り扱っているサービス、商品も多くどれが自分にとって最適なのか、Webサイトだけでは判断することが難しいケースもあります。そのため過去の営業経験から、このサイトを閲覧しているお客さまは、別の関連する商品にもご興味があるのではないかと考えポップアップを表示させています。
関連する商品を過去閲覧したお客さまへ案内する接客例。
また、KARTEを活用して来店予約以外にも非対面で相談ができる「MUFGマイカウンター」をご案内するなど、お客さまにとって最適な相談場所をご案内をしております。
WEB相談室の案内をする接客例。※2025年2月19日現在の情報です。表示のキャンペーンは終了している可能性があります。詳しくはMUFGマイカウンターのHP(https://www.tr.mufg.jp/mufg_mycounter/)をご確認ください。
他にも実行している施策はありますか?
厚澤:ほかには、KARTEを活用して、お客さまが購入した商品に合わせて、次におすすめする内容のシナリオを組み、スムーズに次のステップへご案内する仕組みを整えています。たとえば、法人マーケット統括部が運営する資産運用商品の金銭信託を購入可能な「マネフィット」では、オンラインで完結する商品を扱っています。そのため、営業担当がおらず、KARTEを活用して「次はこの商品がリリースされますよ」といったお知らせをポップアップで表示し、営業担当の代わりを担ってもらっています。
商品のお知らせする接客例。※2025年2月19日現在の情報です。表示のキャンペーンは終了している可能性があります。詳しくはmonefitのHP(https://www.tr.mufg.jp/tameru/monefit/) をご確認ください。
厚澤:お客さまへの働きかけ以外のKARTE活用では、インターネットバンキングにおけるお客さまの行動データ分析に注力しています。たとえば、お客さまに発生する複数の行動を1つの流れとしてまとめて定義できる行動チェーン(β) 機能をつかって、どこのポイントでお客さまが離脱してしまったのか、といったことのチェックも行っています。
また、事業部が持っていた属性データと、KARTEを通じて取得できたお客さまの行動データを統合した分析にも取り組んできました。だいぶデータがまとまってきたので、今後はKARTEを通じてお客さまに向けたアクションにも取り組んでいこうと考えています。
データドリブンにスピード感ある施策を実行可能な環境に変化
データが見られるようになったことで生まれた変化はなにかありますか?
西潟:最近は、データが表示されるダッシュボードを頻繁に確認するようになりました。上司からも「お客さまの動きをしっかり見てから施策を考えよう」という声があがるようになり、大きな変化だと感じています。部署では普段から「データドリブン」を口にしていましたが、実際にお客さまのデータを活用するまでに時間がかかり、なかなか具体的な施策につなげられずにいました。
しかし、KARTEのダッシュボードをつくって定期的にチェックするようになってからは、「この指標ではなく、ここを注目してみよう」「こういうデータがわかったから、次はこうしよう」というように、データ分析から得られた結果を具体的な施策に結びつけられるようになったんです。データを起点とした施策検討が着実に進んでいると感じています。
たとえば、リテールの担当部署など、他部署でもKARTEを使ってA/Bテストを行い、結果をもとに「ここはこう変えてみよう」という動きが出てきています。以前は勘に頼る部分も多かったのですが、実際のデータを見ながら判断するようになり、より解像度の高いデータの活用が進んできたと実感しています。データドリブンが言葉だけでなく、具体的な成果につながる行動へと移行しつつあるのは、大きな前進だと思います。

そのほかにKARTEで実感する効果があれば教えてください。
厚澤:施策を実行するまでのスピードには驚きましたね。ある施策を出した際は、意見が出てから数日で公開できました。他部署とも連携して意見を集めて要件を決定し実行したのですが、かなりスピーディに進められました。
以前であれば、Webサイトの変更には確認や動作テストなども含め、多くの時間が必要です。そのため改善には時間が掛かってしまうため、通常業務を逼迫させてしまう状況が発生しております。
KARTEを導入して以降、ポップアップで情報を表示する施策であれば、短時間で非常に簡単に実装できるようになりました。おかげで改善に対するハードルは大幅に下がりましたね。
西潟:肝となるのは「自分たちでできる」という環境だと思います。KARTE導入前は、パートナー企業に制作や実装をお願いしていて十分に尽力してもらっていましたが、KARTEのスピードは圧倒的です。
クリエイティブを制作するスピードもそうですが、自社で完結させることで確認のプロセスが圧縮されるので、その日のうちに実装して結果を確認できます。次第に「速くて簡単ならウチもやりたい」と声をかけてくれる部署も現れて、良い循環が生まれています。

厚澤:社内確認も簡潔になりました。以前は、Excelにイメージ画像を貼り付けて関係者に展開し、確認と承認というステップが必要でしたが、KARTEであればそのステップが簡素化できました。
事前にKARTEで施策を簡単に作成しておいて、そのプレビューURLをそのまま関係者に送っています。もちろん文言のチェックなどは入りますが、イメージを共有して承認をもらうまでのスピードは格段に上がりましたね。
もちろん複数人でチェックしたり議論したりすることも重要ですが、やろうと思えば施策の考案から制作・実装までが一人で完結できる環境は魅力的です。これはKARTEを導入したことによる、インパクトの大きな変化だと思います。
KARTE活用を他の事業部にも展開し、全社的なデジタル化を推進
KARTEを活用するためのプレイドのサポートについてはいかがでしょうか
西潟:今は隔週で会議をお願いしています。新しくリリースされたテンプレートの中から当社でも使えそうなものがあればご紹介いただいたり、取り組んでいるダッシュボード関連のブラッシュアップについて、提案やフィードバックをもらったりしています。
厚澤:この会議がデジタル戦略部に加え、リテール企画推進部、ダイレクトバンキング部など他部署のデジタル向けの施策を担当するメンバー全員が集まる場になっています。KARTEを使って効果のあった施策や得られた知見を全体に共有しながら、分からないことはプレイドさんに質問する時間になっています。私たちが実行したい施策に関して、プレイドさんからも詳しく補足説明しながら各部署に伝えてもらう場にもなっているので、頼りにしています。
KARTEの活用は他の部署にも広がっているのでしょうか?
厚澤:そうですね。少しずつ広がっています。ただ、広げるためには工夫も必要でした。どの部署も、既存の業務もある中で、「こういうツールを入れたからとりあえずやってみて」と伝えるだけでは定着しません。KARTEで何ができるのかを具体的に伝えていく必要があります。事前に私たちが試してみて、具体例を提案し、一緒に行うことで、初めて価値を分かってもらえるというか。
KARTEを導入して2年経過した今は、私たちも使い方がイメージできますし、行動データも十分に蓄積されています。現在では部署によっては自分たちで接客施策を設計して実施しているところもあります。

少しずつ時間をかけて、他部署にも広げてきたのですね。
厚澤:そうですね。UIが分かりやすいのもKARTEの特徴であり、他部署に利用してもらううえでも役立つと考えています。KARTEは、ITツールに苦手意識のある人でも、新しいアイデアを発案できるくらいには理解しやすいというか。私自身も営業担当のときは、業務を通してPCを触るのは1日に数時間程度でしたが、そんな私でもできそうな施策やフローが想像しやすいUIになっています。
私の経験にはなりますが、プロダクトで実現できることのイメージが湧きやすいと、ふとしたアイデアから施策につながることも起きやすくなります。現在増加の一途を辿る特殊詐欺のなかに「サポート詐欺」というものがあり、その防止方法を検討する会議で、たまたまKARTEでできそうな施策のアイデアが思い浮かんで、ふと会議で共有したことがありました。その後、すぐに実行まで進めることができました。使いやすいプロダクトでアイデアが浮かびやすく、すぐに実行まで進めやすいことは、全社での活用を推進する上で重要な点だと思います。
西潟:この特殊詐欺の防止の例は、マーケティングの施策ではないんですよね。現場の業務を担当している人にも、使いやすいツールだからこそ、攻めにしろ守りにしろ大胆で効果のある施策を生み出せると感じました。これは社内でも評判の良い事例で、KARTEはマーケティング以外にも活用する余地があるという発見につながりました。
対面を含む、すべてのチャネルがシームレスにつながる環境を目指して
最後に、今後の展望について教えてください。
西潟:収集したデータを最大限に活用するために、過去の分析だけではなく未来の予測を踏まえた提案も行っていきたいですね。集めたデータをAIにインプットして、今後どこまで活用できるかも楽しみです。
また、お客さまの行動は一人ひとり異なるため、お客さまそれぞれに合った伝え方を追求したいと考えています。最新の生成AI技術を活用すれば、これまで以上に個々のお客さまに合わせた提案が可能になると考えています。データがシームレスに連携し、リアルタイムに更新され、お客さまに適切な案内ができる仕組みを作ることを目指せたらと思います。
人手不足の中で効率化は避けられませんが、無機質な応対でお客さまの体験を損ねるようなことはしたくありません。しかし、KARTEや生成AIを活用した仕組みを構築できれば、一人ひとりのお客さまに寄り添ったサービスを提供できると確信しております。

厚澤:現場で営業をしていた立場からすると、対面での営業を行いながら並行して非対面のお客さまの動きを把握することは難しかったです。たとえば、今日面談をして、次の面談が1ヶ月後だったとします。お客さまがこの間にどのような情報収集をしたのか、どのような選択肢を検討したのかが分かれば、提案の幅も広がると思います。従来より短い準備時間で、質の高い提案を行えると期待しています。
最終的には、非対面で得られたデータを対面の営業に活かし、営業の質と提案力を向上させることが目標です。反対に対面営業で得られた情報を参考に、Webサイトの改善にも取り組んでいきたいです。
西潟:金融業界もようやく、デジタル化に本腰を入れ始める段階に入ってきました。ここで注意すべきなのは、独自のチャネルを作りすぎてそれぞれがたこつぼ化するのを避けることです。
たとえば、当社ですとWebもありますし、店舗もありますし、最近では「MUFGマイカウンター(Web面談サービス)」というWeb面談のサービスも開始しました。しかし、お客様からすれば、どれも同じ三菱UFJ信託銀行の窓口なので、均一なサービスを提供する必要があります。
こちらにいったらAの情報しかない、こちらはBしかない、Cしかない、となると、お客さまにはご満足いただけないでしょう。「Webで解決しなかったので店舗に行ったが、また最初から説明しなければならない」といった事態が起こらないような円滑な仕組みが必要です。対面を含むすべてのチャネルがシームレスにつながっている環境を目指していきたいと思います。