数値だけではなく“人”が見える。大阪ガスがアプリ立ち上げ時からKARTEを導入した理由
大阪ガスが運用している子どもの学校や習い事にまつわるプリントを管理できるアプリ「プリゼロ」では、リリースタイミングからKARTEを導入。顧客がどのようにプリゼロを使っているのか理解を深め、改善につなげています。立ち上げ全般を率いた藤田敦史さん、KARTEの導入や施策を担う藤間茜さんに、導入背景や感じている利点、今後の展望などを伺いました。
「プリントのストレスを、ゼロに。親子のまいにちを、笑顔に」を掲げる「プリゼロ」は、子どもの学校や習い事にまつわるプリントを管理できるアプリ。手がけるのは、1905年にガス供給事業を開始し、国内外でエネルギー事業を展開する大阪ガスです。
同社では近年「生活者の困りごとを解決する」ための新規事業作りに注力。プリゼロはエネルギー事業とは異なる領域で展開する初めてのアプリとなりました。
開発にあたっては「お客様が困っていること、望んでいることから考える」を重視。当初からKARTEを活用し、顧客がどのようにプリゼロを使っているのか理解を深め、改善につなげています。立ち上げ全般を率いた藤田敦史さん、KARTEの導入や施策を担う藤間茜さんに、導入背景や感じている利点、今後の展望などを伺いました。
ガスに限らず「暮らしに必要不可欠なもの」をつくる
はじめに、お二人の所属するチーム、担当業務について教えてください。
藤田:ガスや電力など、国内のエネルギー販売事業の企画推進を担う部署で、新規事業の開発に携わっています。なかでもプリゼロを始めとする、エネルギー事業以外の領域における新しいサービスづくりを担当しています。
藤間:大阪ガスの家庭用事業を担う基盤会社である大阪ガスマーケティングの開発推進部デジタルサービスチームに所属しています。開発推進部では、ホームページ・会員サイト・WEBマーケティング・IoT・コンタクトセンターなどの企画運営や、CRM・CS(顧客満足度)活動など顧客体験向上のための全社的な取り組みを担当しています。デジタルサービスチームでは、当社のさまざまなデジタルサービスの企画運営を横断的に支援しており、私はプリゼロを含むデジタルサービスの運用、UXやUIデザインの改善などに関わってきました。
プリゼロはどのようなアプリなのでしょうか?
藤田:スマートフォンで、学校や習い事のプリントやスケジュール、ToDoをまとめて管理できるアプリです。プリントを撮影し、関連する行事や提出物の名前などと一緒にスケジュールに登録。家族と予定を共有したりToDoを管理したりもできます。
プリント管理のストレスをなくすだけでなく、一つひとつの行事や持ち物の準備なども、子どもの大切な成長記録として家族と共有、保管できるようにという想いを込めています。
エネルギー事業を主として展開する大阪ガスが、なぜプリント管理のアプリを立ち上げたのでしょう?
藤田:大阪ガスの使命は、お客様の暮らしに必要不可欠なものを届けること だと捉えています。その「暮らしに必要不可欠なもの」は、時代に合わせて変化し続けてきました。
特にここ数年は、お客様の暮らしにデジタル技術やそれらを活用したサービスが欠かせないものになっています。大阪ガスではIoT対応のガス機器、それらと連携して遠隔操作や使用量のモニタリングを行えるアプリなどを展開してきました。
そうしたアプリがお客様から一定の評価を得られ、次のステップを考え始めたときに「エネルギー事業とは異なる領域でも、デジタル技術を使って、お客様の困りごとを解決できないか」と思い至りました。そこから複数のデジタルサービスを検討し、その第一弾としてリリースしたのがプリゼロです。
企画や開発にあたっては、大阪ガスの事業的な強みよりも、お客様の困りごとから発想することを重視し、複数のペルソナを設定して暮らしの中の困りごとや解決策について議論を重ねました。そこで創発した20個以上の事業アイデアを比較・検討し「プリゼロ」を事業化することにしました。その後、「プリゼロ」の開発においては、想定顧客に近い子育て中の社員150人からも、随時フィードバックをもらいながら、アプリを作り上げてきました。
どのようなお客様がどういう気持ちで使っているのかを知りたかった
「プリゼロ」ではアプリ立ち上げ時から、KARTEを導入いただいています。そのようなタイミングでKARTEを導入した理由を教えてください。
藤田:今までガス機器の価値をアプリで高めるといったIoTの分野での経験はありましたが、純粋にアプリ単体で提供するのは初めてだったので、どうすれば多くのお客様に継続的にアプリを使ってもらえるのか、頭を悩ませていたんです。
近しい事例などをリサーチするなかで、継続的に使ってもらうには、お客様と仲良くなる必要があるのだろうと考えました 。私たちが一方的に「これがいいだろう」と思って改善しても、お客様が使ってくれるか、求めているかはわかりません。お客様一人ひとりがどのようなニーズや課題を抱えてアプリを使っているのか、行動から深く分析したうえで、それに応えるコミュニケーションを図る。 その積み重ねが大切なのではないか、と。
特にツールを導入しなくても、アプリをインストールして、使ってくれているのはわかりますが、何をどのようにどのような気持ちで使っていて、どのような時期に何曜日に使われているのかなどはわからず、もっとお客様のことを知りたいと思っていました。
そのための方法やツールを調べていたところ、たまたまKARTEを知りました。機能を調べてみると「ユーザーストーリー」などで、一人ひとりの行動を詳しく見ることができ、ポップアップやプッシュ通知、アンケートなども簡単に実装できる。求めていたものとぴったりだと感じ、立ち上げ時から導入することにしました。
※ ユーザーストーリー:顧客のセッションをまたいだ来訪ログと、来訪時に発生したイベントのタイムラインを見ることができる機能(詳細はこちら)
KARTEで行動を見ることで「この人たちのために頑張ろう」と思えた
顧客の行動を深く知り、コミュニケーションするためにKARTEを導入してみて、所感などはありますか?
藤田:期待していた通り、どの画面を何秒見て、どのページに移ったかなど、お客様の行動を細かく把握できる ようになりました。
特にリリースしたばかりでユーザーが少ない段階でも、一人ひとりがどのようにアプリを使っているのかを詳細に知り、改善につながる気づきを得られる のはありがたかったですね。インストール数やアクティブユーザー数など、マクロな数値の推移を見ていると、つい使わなくなったユーザーの数に意識が向いてしまう気がするんです。ですが、一人ひとりのサイトでの行動を見ていると、「実際にプリント管理に役立ててくれているんだ!」という実感を得られました。
「こんなに長い時間、使ってくれているんだな」とか「自分と近しい使い方をしているな」といったふうに、数値ではなく人間が見える。 「この人たちのために頑張ろう」という気持ちになれたのはKARTEだからこそでした。
また、簡単にアプリ内にアンケートを実装し、お客様の声を直接聞けるのも良いですね。アンケートも他のポップアップなどの施策も、一度出して反応が少なければ、文言や画像などを素早く修正できる のも魅力だと感じます。
藤間:「ユーザーダッシュボード」では、SQLを書かずにデータの可視化を行える のも助かっています。近しい機能を備えたシステムやツールもありますが「この流入元から来たお客様のうち、このステップを踏んだ人の割合を知りたい」など複数の条件を設定して、データを出力するといった作業を自分だけで完結できる。
今まで他のツールを使ったことがありますが、ここまで簡単にできるツールは初めてでした。社内にアプリの状況や施策の成果などを説明するときも、最新のデータを使って、素早く見やすいグラフを作成でき、助かっています。
※ ユーザーダッシュボード:サイトに訪問している顧客全体の傾向をグラフやチャートなどで確認することができる機能(詳細はこちら)
ローンチ時から、具体的にどのような顧客の行動を見ていったのでしょうか?
藤田:当初は「インストールしたものの継続利用しなかったユーザー」の行動を見て、どのようなネガティブな体験が理由になっていたのかを分析していきました。そうしたマイナスを減らす施策が一定手応えを得られてからは、「インストールしてから使い続けているユーザー」の行動を見て、なぜ長く使ってくれているのかを考え、施策につなげています。
あとはAppsFlyerと連携し、どの広告媒体から流入している人がよく使ってくれているのかなども、参考にしています。
KARTEを活用するなかで、印象的だった発見や施策があればお伺いしたいです。
藤田:一つは 顧客が何の機能に価値を感じているのか についての発見ですね。当初、プリゼロの価値として、プリントとスケジュール、ToDoをオールインワンで管理できることが大きいと思っていたんです。
ですが、KARTEのリテンションレポートで数値を見ていると、3種類の機能を使っている人よりも、プリント管理のみを使っている人のほうがリテンション率が高くなっていました。実際に直接お客様にインタビューした際も、プリント管理だけを使っていて、十分満足していると言っていた方もいました。
作っている側としては、つい「3つの機能とも使ってほしい!」と思ってしまうのですが。まずは「いかに最初にプリントを撮影して登録してもらうか」にフォーカスした方が、お客様に満足してもらえるのではと気づけました。
藤間:印象深いのは、リリースして間もない時期に行った、ログインまでの動線の改善 です。もともとログインまでの動線は、アプリを起動したら、チュートリアル→利用規約→プロフィール入力の順に遷移して、その後サインインしたら、トップ画面が表示されるという流れでした。
数値を見ていると、アプリのインストール数に対して、トップの画面にたどりつく人が少なくて…。最初はサインインにつまずいている人が多いのかなと思っていたのですが、KARTEで一人ひとりのお客様の動きをみていると、サインインよりもっと手前の、チュートリアルで脱落している人も一定いらっしゃったんです。
まずは、ログインまでの動線全体の個々のステップを縮めたほうがいいのではないかと考え、チュートリアル→サインイン→トップ画面に変更しました。その結果、問題なくトップであるカレンダーの画面にたどりつくお客様が増えました。
定期点検、展示会など、ガス会社ならではの接点も活かしていきたい
プリゼロを始めとする新規事業開発の取り組みについて、今後の展望を教えてください。
藤田:大阪ガスは、ガス機器のまごころ巡回や修理、展示会、ショールームなど、オフラインでもお客様と多様な接点を持っています。そこにプリゼロなど新しいデジタルの接点も増えつつある。うまく両方の良さを活かし、お客様一人ひとりがいつでも最適なサービスを利用できる状態を目指したいです。
藤間:私たちデジタルサービスチームは、さまざまなバックグラウンドを持った中途入社メンバーが中心となった専門チームです。大阪ガスには「お客様について知り、お客様のために行動しよう」というマインドが社内全体に根付いていると感じていますが、そのマインドに加えて、自分たちならではの視点や経験・スキルを活かして、お客様に満足してもらえるような体験を実現したいですね。
「お客様について知り、お客様のために行動しよう」というマインドとは、具体的にどのようなものでしょうか?体現する例などがあれば伺いたいです。
藤田:新規事業を検討する際には、プリゼロに限らず『ユーザーインタビュー』を徹底的に行っています。事業検討初期にはお客さまの理解を深めるために、ご家族のこと・朝起きてから夜寝るまでの行動・好きなこと・嫌なことなど、事業内容とは関係がないと思われるようなことまでヒアリングしています。
そこから事業内容を具体化することで、お客様起点のサービスを創っていくこと を目指しています。さらに、事業開始後も継続的にお客さまの声に耳を傾けることにより、サービスの継続的な改善を行うようにしています。このようなお客さまとの直接的なコミュニケーションによって、マインドが醸成されていると感じています。
藤間:大阪ガスでは、従来よりデータを用いた顧客理解を進め、オフラインも含めた各接点で最適な対応を行うためのCRM活動(関係づくりの活動)に注力してきました。また、デジタル領域では、プリゼロだけでなく他のデジタルサービスにおいてもKARTEやアナリティクスツールの導入が進み、「お客様について知り、お客様のために行動しよう」 とするマインドを発揮するための土台が整いつつあります。
プリゼロで得たインサイトや反応のよかった施策を他サービスのチームにも展開するなど、ナレッジの共有も今以上に注力し、お客様により大きな価値を届けていきたいです。