あらゆる問い合わせをRightConnectで。オペレーターの生産性を大幅改善して目指すSBI証券の次世代CS構想
SBI証券は、コールセンターの活動における「コール最適化」と「用件把握」という生産性向上につながる大きな課題を解決するためにRightConnect by KARTEを導入。導入背景、導入の手応え、今後の展望を伺いました。
カスタマーサポート分野における働き手不足は深刻化しています。とりわけ、商品の複雑性も高い証券業界では、オペレーターの採用・育成が容易ではありません。
株式会社SBI証券では電話とノンボイスの連携を強め、理想の顧客体験を実現するべくRightConnect by KARTE(以下、RightConnect)を導入。先行して導入を進めていたRightSupport by KARTE(以下、RightSupport)と合わせて、コールセンターが抱える課題を解消し、顧客の体験を高めていくための取り組みを始めています。
本記事では、SBI証券カスタマーサクセス推進部長 河田 裕司さんにRightConnectの導入背景から活用方法と成果、そして今後の展望を伺いました。
人材が不足するコールセンター運営における課題を解決する
──まず、部署の役割を教えてください。
河田: SBI証券のカスタマーサクセス推進部は、約1,100万口座のお客様からの電話、ノンボイスのメールとチャットなどのお問い合わせに対応するのが主な業務です。
インターネット証券におけるお客様との唯一の接点として、経営や関係各所に連携しつつ、サービス全体の向上を図ることをミッションとしています。
──部内ではどのようにチームが分かれているのでしょうか。
河田: 大きく分けると、四つの部門があります。電話対応をするカスタマーリレーション課、メールとチャットボットのノンボイスを担当するデジタルタッチポイント室、各取引業者と密に連携を取り、業務を拡張していくカスタマーアライアンス室、センター全体の品質や業務知識の底上げを担うクオリティマネジメント室です。
お客様との接点が変化しつつあることもあり、部全体として最適なカスタマーサポートの体験を構築し、それを会社の収益につなげていくことを目指して活動しています。その状態を実現するべく、RightSupportを導入し、お客様の自己解決を促進するための取り組みも進めてきました。
(関連記事)SBI証券のサイトが顧客の自己解決を促せる理由 最終手段「電話問い合わせ」の前に何ができるか | プレイド | 東洋経済オンライン
──目指す状態を実現する上で、どのようなギャップが存在していたのでしょうか。
河田: コールセンター運営で目指すべき応答率は90〜95%だと思います。オペレーターの人余りも発生しないし、コスト的にも適正な状態で回る。その上で、我々が扱っている金融商品であるため、価値が流動します。そのため、かかってきたお問い合わせはその場ですべて対応する、というのが会社の基本的なスタンスです。
ただ、コロナ禍以降採用が難しい状況にあり、なかなか十分な人材が確保できていない実態がありました。加えて、扱う商品が多様化し、お客様も増加するなか、サポート体制が追いついていない状況。こうした課題感を抱えていたなか、人材の採用を急ぐのはもちろん、ツールをうまく活用することでお客様の体験をより良いものにできるのではないかと考えていたのです。
コール最適化と用件把握、生産性向上につながる大きな2つの課題をRightConnectで解決
──そうしたギャップを解消するべく、RightConnectを導入いただきました。具体的にはどのような活用を想定されていますか。
河田: お客様のコール最適化と正確かつスピーディーな用件把握ですね。前者に関して、現在私たちはプッシュ型のIVR(Interactive Voice Response:コンピューターによる音声自動応答システム)を使っているのですが、サービスが多様化する中、お客様のお問い合わせに対して正しい対応が可能なスキルや知識を持ったオペレーターにつながっていないという課題があります。
これにより、お客様をたらい回しにしてしまう状況が発生したり、場合によってはオペレーターがお客様のニーズにしっかり回答できないことがありました。
後者(用件把握)についても課題感があり、「用件がわかればすぐに答えられるけど、お客さまがいまどういう状況でどのような用件なのかがわからない」という問い合わせが非常に多く、応対時に用件把握で多くの時間をかけていました。
RightConnectを用いて、お客様のコールに応じた適切なオペレーターに振り分け、最短で用件把握を行うことでコールセンターの生産性と顧客体験の向上を図ろうと考えています。
──マッチングの最適化によりどのような価値を生み出せるのでしょうか。
河田: お困りごととオペレーターのマッチングの精度を向上できれば、現場に出るまでにオペレーターが身につける技術や知識を減らすことができます。新人でも対応できるお困りごとは新人に、ベテランでなければ対応できないお困りごとはベテランに、ということが可能になるはずです。
例えば、私たちの業種では一歩踏み込んだ商品のご案内をしようとすると、証券外務資格が必要になります。有資格者を採用するのは難しいため、基本的には未経験の人材を採用し、育成して資格をとってもらうまでに2年程度かかります。これまで、オペレーターの研修に時間をかけていましたが、RightConnectを活用すれば新人オペレーターにマッチした問い合わせしか来なくなるので、研修期間が1/3に短縮できる見込みです。
これは人材育成にかかる費用を減らせるだけではありません。離職率の低下や従業員満足度の向上にもつながると想定しています。例えば、IVRを選択して入ってきたお客様にオペレーターが対応して、「わかりません」となってしまうと、当然お客様から叱責を受けることがあります。そうした経験が起こると、電話に応答する際の心理的なハードルも上がってしまいますから。
コールセンターの生産性を向上し、30人のオペレーター採用と同等の効果を発揮
──実際にRightConnectを使ってみて、どのような手応えを感じていますか?
河田: ものすごくいいですね。実際に活用してみると、RightConnectにより、お客様からのご質問内容が事前にオペレーターに連携されることで用件把握が非常にスムーズになる点が助かるポイントです。
コールセンターでは、お困りごとを把握して、回答をし始めるフェーズに入ると、誰が対応しても大きな差は生まれません。初期の応答において、お客様の用件やニーズの把握をいかに自然に早くに実行できるかというのが一番のポイントだったのです。
また、これまではお電話での対応中に、お客様が見ている画面の把握をするために別のリモートアクセスツールを使っていましたが、お客様にわざわざ接続いただく手間がかかっていたんです。RightConnectと連携するKARTE Liveを使うことで、現在のお客様が閲覧している画面が見えるため、お客様とのやりとりがスムーズに進められるようになりました。
これはオペレーターの生産性が向上するのみならず、お客様にとってのストレスも減ることになります。顧客体験向上の観点でも、非常に手応えを感じています。
──どの程度、生産性が向上したのでしょうか。
特定の問い合わせ種別でATT(平均通話時間)が5分ほど短縮されました。これは全体では45%程度の削減に値します。(※1)まだ特定の窓口にてテスト的に使っている段階ですが、フリーダイヤルまでの通話まで広げていけば、さらなるATTの短縮化が見込まれます。
※1 2023/10/16~10/30の実施期間における集計
他の観点も含めて費用対効果を考えると、RightConnectの導入はオペレーターを新規で30名程度採用したのと同等の効果があると見込んでいます。採用の難易度が上がっている状況において、これだけの効果が見込めるのは非常に大きいですね。
導入後に管理者である私たちが、しっかりとオペレーターにRightConnectの活用を促すことが拡大における重要なポイントになるだろうと想定しています。
──実際に利用しているオペレーターの目線ではいかがでしょうか。
河田: 私たちはお客様の体験はもちろん、オペレーターたちのユーザビリティにも目を向けなくてはなりません。オペレーターたちが使い勝手の悪さを感じたら、ツールを使わなくなるのは目に見えています。その意味で、複数のツールを立ち上げる必要がなく、一つの画面で完結するというのはオペレーターにとってもユーザビリティが高いですね。
コールセンター運営のあらゆる導線にRightConnectを
──今後、実行したいと考えている施策はありますか?
河田:まだ検討段階ではありますが、お問い合わせを一問一答で終わらせないことです。例えば、パスワードの再発行のお問い合わせがあったとします。その背景として、お客様はパスワードを再発行した上で、何かしらの取引がしたいのかもしれません。
つまり、お客様の行動の背景に別のニーズがあるはず。RightConnectではお客様のWeb行動から興味領域を可視化することもできるので、それに則した提案ができる可能性があります。一歩踏み込んだ対応が行えるようになれば、お客様の満足度も上がるはずです。
また、先行して導入していたRightSupportとの連携も進めることで、さらにお客様の負担を減らせるはずなので、そこも取り組みたいですね。
──今後、部として取り組んでいきたいことや、お客様に提供したい体験があれば教えてください。
河田: コールセンター運営における課題を解決し、お客様に価値を提供するために様々なツールを組み合わせて利用しています。これまではその都度必要になったツールを導入してきたため、十分に連携できているとは言い難い状況です。RightConnectの導入時は、コンタクトセンターソリューション「Genesys Cloud CX」とも連携しました。これを機に、ありとあらゆるシステムをしっかりと連携していくことを目指していく方針です。
新プロダクト「RightConnect by KARTE」がクラウド型コンタクトセンタープラットフォーム「Genesys Cloud CX®」と連携を開始(プレスリリースより抜粋)
以前は、ちょっとしたコールフローを一つ変えるにもSIerに依頼する必要があり、期間も3か月ほどかかり、費用もかかっていました。コールセンターとしてはお客様の声に対してタイムリーに施策を打ちたいと考えており、以前までの仕組みだと遅いという所感もありました。そうした背景もあり「Genesys Cloud CX」を導入しました。
RightConnectを導入する際、「Genesys Cloud CX」との連携はSIerに依頼することなく自社だけで実施できたのは非常にありがたい点でした。内製化することで、アジャイルに内容を変更していけるので、お客様の声にタイムリーに対応していける状態にできました。
──最後に、今後のRightConnectへの期待を教えてください。
河田: お問い合わせをいただく際に、先にWeb上で本人認証を実施する流れにしていけたらと考えています。コールバックを行う際はもちろん、ウェブチャットや問い合わせフォームでの対応の際などにも本人認証のステップを入れていけると対応がさらにしやすくなるので。また、お客様によって音声で直接お問い合わせしたい方もいれば、テキストでのやり取りを望む方もいますので、RightConnectの仕組みをウェブチャットにも適用できれば、よりお客様に最適なサポートができるよう、幅が広がっていくなと思っています。
今後、コールセンターの運営におけるあらゆる導線の中にRightConnectを入れていき、Webからの電話はすべてRightConnectから、という形を考えています。また、システム同士の親和性もさらに増すことで、拡張性の広がりも期待しています。
(取材に同席したデジタルタッチポイント室と、カスタマーリレーション課のみなさん)