自動車会社からモビリティカンパニーへの転換の中で、トヨタ自動車WEBサイトが目指す「対話型」のサイトの価値とは

トヨタ自動車WEBサイト「toyota.jp」は、従来のカタログのような商品情報を網羅的に並べたサイトから、販売店のような接客が受けられるサイトを目指し、コンテンツの充実、改善に努めています。KARTEを活用した診断コンテンツや有人対応のチャットなどで、これまで販売店でしかできなかったヒアリングに基づいた提案やより深い商品説明の提供を、サイトでも実現しつつあります。

2年連続で販売台数世界一となった「トヨタ自動車(以下、トヨタ)」。もともと全国で5000店舗を超える販売店網と高い提案力を強みとしてきましたが、顧客の購買行動の変化に伴い、現在は自社サイトでの情報提供にも注力。トヨタ自動車WEBサイト「toyota.jp」は、従来のカタログのような商品情報を網羅的に並べたサイトから、販売店のような接客が受けられるサイトを目指し、コンテンツの充実、改善に努めています。

2017年11月から同サイトにKARTEを導入。KARTEを活用した診断コンテンツや有人対応のチャットなどで、これまで販売店でしかできなかったヒアリングに基づいた提案やより深い商品説明の提供を、サイトでも実現しつつあります。

その活用方法について、2021年1月に設立されたトヨタ・コニック・プロ株式会社でWebを中心としたデジタル活用を担う皆さんに聞きました。

今回お話を聞いた方々
トヨタ・コニック・プロ 株式会社 ビジネスプロデュース本部第1ビジネスアクティベーション部 第1DX推進ユニット
● ユニットリーダー:樋口 雅信さん
● リードプランナー:夏井 英樹さん
● プランナー:平田 直記さん
● プランナー:白崎 龍弥さん

販売店のように目の前の一人ひとりにカスタマイズされた接客を目指したい

はじめに、toyota.jpが目指している顧客体験について教えてください。

樋口:もともとtoyota.jpは、紙版の商品カタログをWebに落とし込んだようなサイトでした。カタログに掲載された多種多様な新車のスペックやグレード、オプションなどの情報を整理して掲載していたんです。

しかし、ここ1、2年はWebサイトの運営方針を大きく変えています。目指しているのは、「販売店のような接客」 。店舗で販売員と話しながら自分に最適な車種や所有方法を見つけていくような体験を、toyota.jpで実現したいと考えています。

全国のお客様に訪問いただいているtoyota.jpは、多くの顧客接点を持っている店舗の一つ のようにとらえています。重要な顧客接点になるサイトとして、今まではいかに新車の魅力を伝えるかに注力してきました。ですが今後は、「顧客の移動を便利にしていく」ことを軸に、新車の情報はもちろん、トヨタが提供するその他のモビリティサービスも含めて選択肢として提示し、個々にカスタマイズして接客していきたいです。

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トヨタ・コニック・プロ 株式会社 ビジネスプロデュース本部第1ビジネスアクティベーション部 第1DX推進ユニット ユニットリーダー 樋口 雅信さん

なぜ、toyota.jpの運営方針を変更されたのでしょうか。

平田:顧客の行動に変化が生まれているからです。以前ですと、クルマを購入する際には2、3回ほど販売店に来店し、様々な車種の説明を聞きながら意思決定する方が多かったんです。

それが今は販売店を訪れる前に、オンラインで情報収集や比較検討をして、店を訪れるのは契約のときだけという方も増えました。「サイトでより詳細な情報を知りたい」「異なる車種を自分で比較検討したい」という方も多い。おおまかな商品のスペックを掲載するだけでは、顧客が必要とする情報を提供できなくなってきたんです。

樋口:方針を変更した背景には、顧客行動の変化に加えて、トヨタが自動車メーカーからモビリティカンパニーへの転換を試みている こともあります。今までのトヨタは、新車販売に特化してきました。そのためWebサイトも、いかに新車を魅力的に感じていただけるかに重きをおいて運営されてきたんです。

しかしこれからは、「クルマの所有」だけにフォーカスするのではなく、移動を便利にすることで生まれる幸せや生活の豊かさ を軸に、顧客に価値を提供していきたい。そのために、トヨタ認定中古車や、サブスクリプションサービス「KINTO」なども含めて、幅広い提案をしていきたいと考えています。現在のWebサイトでは、顧客一人ひとりにあったクルマをカスタマイズできる接客を目指してどんどん変えていっている状況です。

目指している「販売店のような接客」とは、どのようなものなのでしょう?

夏井:顧客のライフスタイルや用途を伺いながら最適なクルマを提案したいと考えています。販売店では、「ご家族は何人ですか」「通勤で使いますか」「どのような趣味を持っていますか」など顧客の生活スタイルや思い描いているクルマのある生活についてヒアリングしていくんです。その内容を元に、暮らしをより豊かにできるクルマを選定して提案します。

Webサイトでも同様に、顧客の理想に沿ったクルマを提案できる ことが理想です。刷新されたtoyota.jpでは、店舗に行かずとも「自分に合ったクルマを選べるような視点や情報」を提供したいと思っています。

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トヨタ・コニック・プロ 株式会社 ビジネスプロデュース本部第1ビジネスアクティベーション部 第1DX推進ユニット リードプランナー 夏井 英樹さん

きっと、クルマがある生活を思い描きながら「どの車種にしようかな」「カラーはどれにしようかな」と選ぶのは楽しいことだと思うんです。ですが、Webサイトでグレードやスペックなどの細かい情報を見ていると何をどう選んだらいいのか混乱してしまい、だんだんと面倒に感じてきてしまうこともあります。

私たちは、クルマ選びの体験を「楽しいな」と感じてもらいたいんです。特にトヨタは展開しているクルマが40車種以上と、他メーカーと比較しても多い。その選択肢の広さをポジティブなものに感じてもらうためにも、クルマ選びのハードルを下げて、心を踊らせながら見られるWebサイトにしたい ですね。

診断コンテンツと有人チャットでそれぞれに合わせたクルマを提案

なぜtoyota.jpにKARTEを導入したのでしょうか。

樋口:販売店の接客のように、顧客のニーズに合った情報をレコメンドしたい。さらに、顧客の行動と実施した施策を総合的なデータとして蓄積し、接客の改善だけでなく多方面に活かしていきたいと考え、KARTEの活用を決めました。今は KARTEでWEB訪問者の行動を確認しながら、一人ひとりに合った接客 を実現でき始めています。

より良い体験を生み出すため、KARTEをどのように活用しているのでしょうか。

夏井:主に取り組んでいるのは三つです。

一つ目は、販売店のように顧客に合ったクルマを提案するための クルマ診断 というコンテンツです。欲しいクルマのイメージややりたいこと、こだわりなど販売店でも聞くような質問に答えていただき、約40種類のラインアップから最適なクルマを提案しています。

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クルマ診断のイメージ画像

この診断は、オプションのサポートプランとして、KARTEのテンプレートをベースにつくっていただきました。レコメンドのロジックや車種データ、画像データなどもKARTEで管理しており、集計や情報更新などがしやすいです。新車発売や、車種情報の変更があった際にも、即座に最新情報に入れ替えられるようになっています。

二つ目が、顧客に合った情報を 最適なタイミングでご案内するためのポップアップ です。カタログページに何度も来訪したり見積シミュレーションをじっくりと閲覧したりなどの行動履歴を元に、その人が興味を持ちそうな情報の提供や、より深くクルマを知るためのカタログ請求の案内をしています。

三つ目は、より顧客ごとの知りたいこと、聞きたいことに答えるための チャット です。KARTEを活用した取り組みの中で特に力を入れていて、かつ 顧客の満足にもつながっています 。これは数字にもあらわれていて、2020年度のチャット応対の満足度が78%だったのに対して、2021年度は91%と向上しました。

前年と比べて満足度がそれだけ向上した背景には、どのような工夫があったのでしょうか。

白崎:まず、販売店のようなお客様に寄り添った接客をオンラインで実現することを考え、もともと自動対応だったチャットを、有人対応に切り替えました。また、販売店にいらっしゃるのはある程度購入意欲が高い方だと想定できるため、オンラインでも同様にある程度検討度が高いと思われる方に対してチャットを表示するという仕組みにしています。

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チャットでのやりとりのイメージ画像

その結果、購入意欲の高い方からより具体的な質問をいただくようになり、「自分に合った情報を知りたい」というニーズに応えられるようになりました。「はい or いいえ」で答えられるような二者択一の質問ではなく、オペレーターによる説明が不可欠な質問をよくいただきます。15分ほどやり取りが続くこともあり、顧客とオペレーターとの間で、いいやり取りができているなという印象 です。

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トヨタ・コニック・プロ 株式会社 ビジネスプロデュース本部第1ビジネスアクティベーション部 第1推進ユニット プランナー 白崎 龍弥さん

あとは、オペレーターが顧客に提供できる情報を拡充しました。以前はカタログに掲載している情報の範囲で質問にお答えしていましたが、販売店のスタッフが使っている詳細な商品情報をオペレーターに事前に学習してもらい、回答できる質問の幅を広げてもらっています。

実際にチャット対応のなかでもかなり深い商品知識が必要になる場面が多く、インプットした知識を接客に活かせるため、オペレーターの能力向上ややりがいにもつながっている と聞いています。

夏井:質問にお答えするだけでなく、販売店の接客を参考に、ライフスタイルや用途を顧客にヒアリングした上での提案も取り入れています。そうすることでチャットでも一人ひとりのニーズに寄り添う接客を実現できるのではと考えています。

白崎:検討度合いが高い方に対しては、大まかな居住地域も伺って、近くの販売店をご案内しているんです。ご自身で調べていただくことももちろんできますが、満足度の高い接客って、一歩踏み込んで情報提供や提案していくこと なのかなと考えていて。

有人チャットを始める前に、「最高の接客って何だろう」と、それぞれの体験をベースにブレストしたときに共通していたのが「一歩踏み込んでくれる人がいいよね」という部分でした。「お客様にとって必要だな」と感じたことについては積極的にお伝えするようにしているのも、奏功しているのかなと思います。

KARTEだから即時的にフィードバックや反応を得られ、コンテンツ改善に活かせる

KARTEを活用したことで大きく改善できたと感じる点はありますか。

夏井:そもそもクルマの購入は販売店経由になるので、直接顧客の声を聞ける機会は多くなかったんですね。。調査会社を通して利用状況や満足度の調査はしていたのですが、Webサイトのコンテンツなどに対して細かいフィードバックを得にくかった。

それがKARTEを活用するようになってからは、顧客の声を直接聞けるようになりました。例えばクルマ診断を試してくださった方からは「ぴったりなクルマが出てきて嬉しい」「思っていたものと違ったクルマが出てきたけど、検討しようと思った」などの声をいただきました。定性面も含めたフィードバックをリアルタイムでいただけるようになったのは大きいですね。

白崎:チャットを活用することで、細かい質問や要望も気軽にご連絡いただけるようになりました。 以前だったら「問い合わせするほどでもない」と感じてなかなか質問できない方もいたのではないかなと。

チャット後にはアンケートをとるようにしています。良い評価があった際にトーク履歴を見返していて。どのような対応をしたのか最初から最後まで確認すると、チャットでおすすめした内容を参考にして、試乗予約をしてくださる方がいたりするんです。KARTEを導入していると、自分たちの働きかけが顧客の行動にどう影響したのか追えるのがいいですね。

いただいた顧客の声は社内でどのように活用されているのでしょうか。

夏井:各車種のWeb担当者がコンテンツを企画する際に、いただいた声を参考にしています。チャットでの質問や要望を「車種に関する問い合わせ」「それ以外に関する問い合わせ」などにカテゴライズ。各担当者が参照しやすく、使いやすい形にまとめて共有しています。

例えば、特定の車種に関する問い合わせで「内装を詳しくみたい」という方がいました。それを担当者に伝え、内装にフォーカスしたコンテンツを企画検討するなど、いただいた質問や要望を元にWebサイトを改善しています。

顧客の声から必要とされている情報を汲み取り、コンテンツの改善に活かしているんですね。

樋口:そうですね。ただ、改善に着手はできているものの、まだできてないことが多いなという感覚です。Webサイトで直接お客様のニーズの一部を知れるようになったのはここ一年ほどの話です。

WEB訪問者の行動データやチャット接客履歴など、KARTEで確認できる情報から顧客のニーズを拾い上げていく。そしてそれらを元に、その人のライフスタイルやパーソナリティに合ったクルマの選び方、使い方をレコメンドできるようなそれぞれに合わせた接客を実現したいです。将来的には商品の企画などtoyota.jp外の活動にも生かせれば と思います。

オンラインならではの体験づくりも視野に入れ、改善をスピーディーに繰り返し、より使いやすいサイトへ

日々の運用面でKARTEがお力添えできていることはありますか?

夏井:ABテストなどの 定量的なフィードバックと定性的なフィードバックが同時に得られる のがありがたいです。調査会社を通していると結果を確認するまでに1〜1.5ヶ月ほどかかってしまって、スムーズに施策を改善していくのが難しくて。施策とフィードバックが“分断”されてしまっている感覚があったんです。

でも今は、クルマ診断やチャットをお使いいただいた後に掲出するKARTEアンケートで直接ユーザーに意見を聞くことができ、改善施策を考えて、スピーディーにチューニングできています。

平田:施策の振り返りでは、全体感を把握しながら、Web訪問者の行動を見て、コンバージョンに至った経緯を細かく確認。そこから施策の効果や改善のヒントを見つけています。

例えばチャット専用のツールだと、「購入相談に行きます」と言っていただいて予約につながったとしても、そのWeb訪問者がチャットを始める前にどんな行動をしていたのかまではわからないんですよね。でもKARTEはWeb訪問者と行動を紐付けて見られるので、どんなページを見てチャットを開始し、どんなやり取りを経て予約に至ったのかまでわかる。そういった一連の流れを確認することで、顧客をより解像度高く理解できています。

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トヨタ・コニック・プロ 株式会社 ビジネスプロデュース本部第1ビジネスアクティベーション部 第1DX推進ユニット プランナー 平田 直記さん

施策・分析・改善が迅速に実施できているんですね。改善していく中で印象的だった施策があれば教えてください。

夏井:複数回サイトに来訪してくださっていて、より詳細な情報を求めていそうな顧客に「カタログ請求」か「試乗予約」をポップアップでご案内するABテストをしてみました。

そこでカタログ請求の方がよい結果と出たので、クリエイティブを数パターン用意して、再度テストを行う。結果を受けて、さらに訴求コピーなどを変更したパターンを作ってテストする、というように結果を見てすぐに改善する流れをスムーズに繰り返せたのは印象的でした。

白崎:チャットを開始するアイコンも数パターン作成して、ABテストを実施しました。文字が多いもの、文字が少しでシンプルなアイコンを入れたもの、その間ぐらいのものでテストして。結果、少しの文字とシンプルなアイコンが一番押されたので、すぐさまそのアイコンに切り替えることができました。

素早い改善をたくさん積み重ねているんですね。

樋口:そうですね。こういった 小さな積み重ねが、接客の質を高めてくれる のかなと考えています。今ようやくWebでも販売店に近い体験を作れるようになってきて、足りなかったことを補えてきたという状況です。

ただ、今後のWebサイトのあり方を考えたときに、店舗とまるっきり同じような体験を再現するのは違うなと思っています。オンラインには、オンラインならではの体験があるはず。 その可能性を模索しながら、販売店とは違った価値を高めていきたいです。

例えば、現在は有人チャットを取り入れることで、クルマの購入に関する具体的な疑問に個別にお答えできるようにしていますが、まだすべての顧客にこういったチャット応対を提供できているわけではありません。サイトのコンテンツと、チャットを通した人による接客をどのようなバランスで組み合わせれば、サイトに訪れる方にとってのより良い体験を実現していけるのか、今後も改善を重ねながら最適解を見つけていきたいと考えています。

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