“お花の保存加工”という文化を広めるために、顧客理解を深めていく。ブーケ保存専門店「シンフラワー」のCX向上の取り組み

生花をドライフラワーや押し花に変える「お花の保存加工」事業を展開するシンフラワー。店舗とECの接客を連動させ、顧客体験を改善した取り組みについて伺いました。

シンフラワー株式会社は、顧客から預かったお花を特殊なドライフラワーや押し花に加工し、自宅に届ける「お花の保存加工サービス」を展開しています。

創業当初は結婚式場や花屋からの紹介による集客がメインでしたが、コロナ禍を機にお客様との直接的な接点を増やすためにECを強化。コロナ禍でも需要が落ちなかったプロポーズで使用するお花の保存加工の訴求を強化することで、ECの売上は前年比130%を記録しました。

2022年6月には、ECへの集客が順調な中、KARTEを導入。ECの改善と店舗との連携によって、顧客体験の向上に取り組んでいます。

同社の専務取締役 COOであり、KARTE運用を担う桑山大毅さんから、シンフラワーのサービスの特徴とKARTE導入の経緯、活用事例、そして今後の展望について聞きます。

コロナ禍を機に、ECと店舗で顧客との接点を強化

まずは、シンフラワーの「お花の保存加工事業」について教えてください。

社名の「シン(Xing)」は、中国語で「幸」の発音記号です。現在進行形(ing)の意味も加えて、「幸せがずっと続くように」という思いが込められています。「幸せがずっと続く花」ということで、お花の保存加工を事業として行っています。

結婚式やプロポーズで利用したお花を一度預かり、ドライフラワーや押し花に加工し、ガラスや額の中で綺麗にアレンジ。独自に開発した密封技術により、お花は20〜30年、状態が良いものであれば半永久的に保存できます。

s-cxlp 19623

お花を加工する工房兼本社は岡山にありますが、東京の虎ノ門にもサロンを設け、お花を持ち込んでいただいたり、商品を見ていただいたりしています。結婚に合わせてご利用いただくことが多いのでサロンには提携会社のドレスも飾っており、結婚式の素敵な時間をイメージしてもらえるような空間にしているんです。

s-cxlp 19547

シンフラワー株式会社 専務取締役 COO 桑山 大毅氏

サロンの他にはどのような販売チャネルがあるのでしょうか?

結婚式場や生花店からの発注とECがあり、現在は特に後者の拡大に注力しています。EC自体は約10年前に結婚式場や生花店から注文を受け付けることを目的に立ち上げたのですが、あまり力を入れていませんでした。

しかし、コロナ禍で結婚式の開催自体が激減し、ウェディングブーケの需要も減ったことで、売り上げが10分の1になってしまったのです。従来のBtoBのアプローチだけではなく、BtoCでお客様に直接商品を販売できるようにWebでの接点を強化することにしました。

サロンを開設したのもこの時期です。ECと実店舗、2つのチャネルでお客様と直接コミュニケーションできるようになりました。

お客様にどのような価値を提供するECを目指して、強化に取り組んだのでしょうか?

一人ひとりのお客様に合った体験を提供できるECを目指したいと考えていました。というのも、ECを立ち上げた当初は結婚式場や生花店など、企業への販売を想定したサイトだったため、その先にいる一人ひとりのお客様の“顔”は見えませんでしたし、それを見るための仕組みづくりにも取り組んでいませんでした。

しかし、toCに注力するにあたり、一人ひとりのお客様を見ながらサービスを提供したいと思ったんです。そうしなければ、お客様にとって価値のあるECにはならないと考えていました。

toCへの方針転換を決定した後、ECの業績は順調に伸びていったのでしょうか。

結婚式自体の開催がストップした時期は、ウェディングブーケなどの単語での検索も減っていました。ただ、検索流入につながっている単語を見ていると、プロポーズをする方はそれほど減っていないどころか、増えている傾向が見えてきたのです。そこで、プロポーズを考えている方をメインターゲットに設定しました。

SEO施策やリスティング広告、YouTube広告なども展開し、ECの売上はどんどん伸びており、前年比130%ほどの成長が続いている状態です。

ECやサロンを介してお客様と直接やりとりができるようになったことで、シンフラワーを認識する方が増え、EC内やSNSにお客様からのレビューが増えたことも売上アップの要因だったと思います。

重要なのは「顧客の動きや特性」を理解すること

KARTEを導入された経緯を教えていただけますか?

集客は順調に伸びてきたので、次は購入や来店予約数を増やすため、Web接客ツールの導入を検討していました。

その中からKARTEを選んだのは、一人ひとりのお客様に合った体験を提供できるサイトづくりに活用できると考えたからです。よくある接客ツールのように「ポップアップを出す」といった施策がメインではなく、「お客様の行動を可視化し、分析する」こともできる。

ECには一定の勝ちパターンがあると思いますが、実際のお客様の動きや特性はサイトごとに違います。KARTEであればそれを理解することができ、私たちが理想とするサイトづくりが進められると感じたので、導入を決定しました。

s-cxlp 19540

導入時に懸念されていたポイントはありませんでしたか?

挙げるとしたら、価格でしょうか。無料でできるツールなども増えていますので、そのような他社のツールと比べると、高価ではあると思います。しかし、Google Analytics(GA)などのツールを使って分析を実施するとなれば、担当者を新たに迎え入れることが必要になり、人件費がかかります。KARTEであれば、ワンストップで行動分析、施策実行、効果分析が出来るので、人件費のことを考えればKARTEを導入したほうが費用対効果は高くなると考えました。

また、契約してから導入するまでのサポートも心強かったです。定常業務がある中で、新しいツールを導入するのは負担がかかります。あまり時間をかけたくないと思っていましたが、カスタマーサクセス担当のスピード感のあるサポートのおかげで、スムーズに導入できました。

今でも担当者の方が定期的に会議をしてくださっていますし、定例会議以外にも、簡単な相談はカスタマーサポートにチャットで質問したり、少し複雑なものは電話などですぐに対応していただけるので、本当にありがたいです。

KARTEを活用し、店舗とWebの接客を連動させる

普段KARTEにどのくらい時間を使われていますか?

だいたい毎日5〜10分くらいは管理画面をチェックして、時間がある時は分析をしたり施策を考えたりしています。

施策を考える際は、まずユーザーストーリー(※お客様一人ひとりの行動をタイムラインに沿って見ることができる機能)からお客様の行動を把握したり、GAやKARTEによってお客様がサイト上から離脱しているポイントを分析したりなどしています。

そこで浮かび上がってきた課題に対して、他社事例や施策アイデアが蓄積された「シナリオストア」を参考に施策を考え、A/Bテストを実施。その後、効果の分析を行っています。

KARTEの効果を実感した施策はありますか?

すべての施策がうまくいくわけではありませんが、繰り返している中で仮説の精度が上がっている感覚がありますね。

例えば、「お花を保存加工する」という体験が初めての方が多いため、わかりにくい部分を補足し、「お花を売っているサイトではないこと」を伝えるために、2つの施策を実施しました。

1つはECトップに「よくある質問はこちら」のポップアップを掲載し、QAへの導線を作ったこと。2つ目は、初回訪問の方に対してサービス内容を説明するウェルカムメッセージのポップアップを掲載したことです。どちらもA/Bテストを実施し、掲載したほうが効果がありました。

お花の持ち込みページで、よくある質問を表示した接客イメージ。サービスを申し込む前の不安を解消できるようにした。

よくあるご質問ページへ誘導する接客イメージ。スクロール率や滞在時間で表示タイミングを制御している。

初めて来訪のお客様への挨拶と人気商品の案内をおこなった接客イメージ。

他にも、カートに商品を入れたのに、他のサイトを見ている間に忘れてカゴ落ちしてしまうことを防ぐために、「カートはこちら」というポップアップを掲載しました。
これらの施策はいずれもECの定番施策と呼べるものなのであまり期待していなかったのですが、それでもやってみれば成果が出るものもあるというのはいい気づきでしたね。

EC以外でもKARTEを活用していますか?

プロポーズに関するコンテンツを発信する「東京プロポーズナビ」というメディアを運営しているのですが、そこの記事にECへの導線となるポップアップを掲載しました。実際に、記事からECに遷移していただくことができています。

あとは、EC上にサロンへの来店案内のバナーも掲載しました。お花の保存加工のイメージが持てなかったり、金額に躊躇したりするお客様は、来店して商品を見てから注文したいと考えているはず。本格的に申し込みを検討されているであろう「2回以上、ECに訪問した方」をKARTEで絞り込み、来店案内を表示したことで予約数が増加しました。

東京プロポーズナビからECへの誘導をおこなう接客イメージ。

来店予約だけでなく、店舗とWebの連動のためにもKARTEを活用しています。来店したお客様が注文をする際、お手持ちのスマートフォンを使って、ECからお申し込みいただくようにしています。そうすることによって、KARTE経由でそのお客様が事前にECのどこを見てきたのかがわかります。そういった情報を分析しながらECに掲載する文言を調整しているんです。

現在は、ECを見てから来店されるお客様の約99%が購入してくださっています。店舗とECの融合、とまで言えるかはわからないですが、KARTEがあるおかげでその2つをあまり切り分けをせずに接客ができています。

s-cxlp 19618

顧客理解が深まり、アイデア発想やサービス改善につながる

KARTEを導入してからどのような変化がありましたか。

お客様の理解が深まりましたね。店舗ではお客様を認識した上でコミュニケーションが取れますが、ECでは難しかった。ですが、KARTEのおかげで、お客様の行動を理解しつつ、どんな施策が成果につながるのかがわかってきたんです。

たとえば、先ほど挙げた「よくある質問はこちら」というポップアップを掲載した施策も、ECの滞在時間が長いお客様ほど購入率が高いことがわかったので実施しました。データからお客様の求めているものや課題を認識できるようになったことで、アイデアがたくさん出てくるようになりました。

KARTEを用いた分析や施策を通じて、お客様の行動について判明したことは社内にも共有しています。毎週の全社会議で、ECのどの部分が読まれているのか、不足している情報は何かなどを共有し、商品加工のやり方や電話対応の改善などにも活かしているんです。

s-cxlp 19523

今後KARTEを使って取り組んでみたいことはありますか。

お客様の興味などでセグメントに分けて、それぞれにあった情報を届けたいと思います。例えば、プロポーズや結婚式などの目的に特化したコンテンツを作り、そのページを見たかどうかでセグメントを分けて適切な情報を届けるといったことです。

もらってから1週間経過したお花を持っている、もらってすぐのお花を持っている、まだ渡す前の段階であるなど、お客様の状況はさまざまです。そうしたお客様の違いを理解した上で、適切な提案ができるような接客を実現していきたいですね。

今後、挑戦しようと考えていることがあれば、教えてください

一つは、EC自体を使いやすくしていくことです。お花の保存加工は、商品も多様ですし、カスタマイズできる要素も多く、商品の選択に迷われる方もいらっしゃいます。人気ランキングや選び方のコツなどのコンテンツを充実させることで、ECに訪問してくれた方が、商品を選びやすい状態を目指します。

もう一つは、当社のサービスを知っていただく人を増やすためのコンテンツを充実させていくこと。店舗でのアンケートやヒアリング結果から、たとえばプロポーズの最新トレンドやおすすめの場所特集などのコンテンツを作成できないかと考えています。

そのためにもEC運営の経験があり、KARTEを扱える人材の採用も必要です。特に、お花の保存加工という商材に興味を持つことができ、データだけではなく定性的な部分も考慮しながら、お客様のことを考えて施策を進められる方に来ていただけたら嬉しいですね。

s-cxlp 19600

最後にサービス全体としての展望を教えてください。

お花を保存加工するという文化を広めていきたいと思います。お花は生モノなので、日がたつと綺麗に保存できなくなってしまう。受け取ったらすぐ「保存加工をする」という選択肢が思いつくぐらいサービスの認知を高めることで、お花を残したい人がきちんと残せるような環境を整えていきたい。

それにともない保存加工をする職人さんの数も増やしたいと思います。20代後半から30代前半のお客様が多いので、近い感覚を持っている若い世代の職人さんも積極的に採用する予定です。全国に拠点を増やし、日本中の人が知っているサービスに育てていきたいと思います。

もちろん、対面でのご提案は従来どおり続けながら、デジタルでのコミュニケーションにさらに注力していきたいですね。我々がお客様のためにできることはまだまだ多い、そう思いますから。

SHARE