グロースハックとは?顧客に向き合い、短期間での成長を目指すアプローチ
インターネットサービスでは、プロダクト開発と売り方の境目が薄くなりました。ニーズが多様化しており、変化も激しい時代では、何がヒットするかはわかりません。そのため、プロダクトの作り方のみならず、売り方にもPDCAサイクルを導入し、成功の確度を高めようという動きが増えてきました。今回は、そうした背景から登場した「グロースハック」について紹介します。
インターネットサービスでは、プロダクト開発と売り方の境目が薄くなりました。ニーズが多様化しており、変化も激しい時代では、何がヒットするかはわかりません。そのため、プロダクトの作り方のみならず、売り方にもPDCAサイクルを導入し、成功の確度を高めようという動きが増えてきました。今回は、そうした背景から登場した「グロースハック」について紹介します。
お金をかけず、急成長を目指す「グロースハック」
グロースハックとは、成長に焦点を当てたマーケティングにおける新しい概念です。
成長を意味する英語の「growth」と、コンピューターのプログラムを書くという意味のある英語の「hack」をつなぎ合わせた造語。この言葉は、2010年にアメリカにあるQualaroo社のCEOショーン・エリス氏によって提唱された「グロースハッカー」という職種が元となって生まれました。
参照:Find a Growth Hacker for Your Startup(2010.7.26)
同氏が提唱した「グロースハッカー」とは、事業やサービスの爆発的成長に資するキーパーソン。高度な情報分析、迅速なサイクルでの仮説・実践・検証、プロモーション手法の提案と実践、等々を実現する人物を指します。「ハッカー」というと「ハッキング」などのネガティブなイメージがあるかもしれませんが、ここでは「高度や知識や技術を持つ者」といった意味合いを持っています。
グロースハックは、元々スタートアップから始まったこともあり、できるだけ少ない予算で短期間に成長を目指すことを基本としています。初期はスタートアップを中心に注目が集まり、次第に大きな企業でも取り組むケースが増えてきました。
最近のグロースハックの傾向
実際に「グロースハック」に関する求人内容を見ていると、職務内容として以下のような内容が記載されています。
- UI・UX改善
- SEOやLPO等を用いた集客からコンバージョンまでの最適化
- 自社サービスにおける各種施策や機能等のKPI設定
- KPIモニタリングに基づいたPDCAサイクルの運営
会社によっては、事業戦略策定や遂行なども職務に含まれているケースもあり、マーケティングコミュニケーションの部署の中に位置づけられていることもあります。グロースハックについてもう少し理解を進めるために、基本的な特徴について確認してみましょう。
「グロースハック」の基本的な特徴
Uberや Airbnbといった世界的に広がっているサービスを提供しているプレイヤーもグロースハックに取り組んできました。ここではグロースハックの特徴をいくつか紹介します。
広告などの予算をかけずに成長する方法を発明する
従来であれば、プロダクトが完成したあとに、予算をかけてマーケティングを行なっていました。ですが、グロースハックは先述の通り、スタートアップから始まったこともあり、基本的に「お金をかけない」で成長する方法を考えます。
グロースハックは短期的な施策ではなく、ユーザーの反応を見ながら継続的に実施するもの。長く続けるためにも、できるだけコストがかからないのが望ましいのです。
プロダクト開発から売り方まで
グロースハックでは、売り方だけではなくプロダクト開発にも関わります。特にインターネットサービスは、売って終わりとなるケースが少なく、サービスをリリースしたあとも継続的な改善が必要です。
グロースハックでは、こうしたプロダクトの改善も視野に入ります。例えば、サイトの文言の改善、機能追加、A/Bテストなど。顧客と向き合いながら、どうすればプロダクトがより顧客に求められるかを考え、売り方だけでなく、プロダクト自体を改善していきます。
顧客の反応を見ながら短期間で改善する
売り方も、プロダクトも、顧客の反応を見ながら改善していきます。この際、重要なのが改善のサイクルを短くすること。グロースハックは短期間での成長を目指すので、反応を見て改善するサイクルは一週間単位などになります。
顧客が求めているものが最初からわかっているわけではありません。実施したことの中にはうまくいかないこともあります。素早く失敗して、素早く改善する。それを続けていくことで、短期間での成長が可能になります。
飛躍的に成長した「グロースハック」事例
では、こうしたグロースハックの特徴を体現した事例にはどういったものがあるのでしょうか。アメリカ・サンフランシスコに本社を置くオンラインストレージサービス「Dropbox」の事例がわかりやすいので紹介します。事例の数字については、同社創業者のドリュー・ヒューストンが公開しているスライド「Dropbox Startup Lessons Learned」を参照しています。
まず、「お金をかけない」という特徴について。Dropboxは顧客が顧客を呼ぶという「友人紹介」を中心にユーザーを増加させました。「Dropbox」は、ユーザー層の拡大にあたって、既存ユーザーが新規ユーザーにサービス紹介をした場合、双方が追加容量をもらえる紹介プログラムを用意。これによって広告を投下していないにも関わらず、ユーザー数がサービス公開直後の10万人から1年あまりの14ヶ月の間に40倍の400万人を超える成果を得られたのです。
続いて、売り方だけではなく、プロダクト開発まで関わるという特徴や、顧客の反応を見ながら短期間で改善するという特徴について。「Dropbox」は紹介プログラムを公開して反響が一気に増加した直後から、プログラムを紹介する文章、特典の詳細、メールの招待状などあらゆる要素を分析し、プログラムのさらなる最適化を図る実験を始めました。一つの実験を実施するごとに週に2回結果を確認し、すぐに次の実験に反映させることで次第に結果が良くなり、毎月280万件以上の招待状が送られる結果につながりました。
「Dropbox」では、紹介プログラムの反響に応じた細部の変更や、トップページにおける機能紹介の方法の変化がこれに当たります。顧客へのヒアリングやデータ分析によってその変化をいち早く把握し、マーケティング戦略だけでなく製品の改善や設計変更をも視野に入れて、効率的・効果的に製品やサービスの改善を行ったそうです。
グロースハックに活用できる重要なフレームワーク「AARRRモデル」
グロースハックは発想を柔軟にし、ある程度職務の範囲も越えながら考えることが求められます。では、はじめて自社のグロースハックを考える際にはどうしたらいいのでしょうか。
グロースハックを考える際に活用できるフレームワークが「AARRR(アー)モデル)」です。これはベンチャーキャピタリストのデイブ・マクルーア氏が提唱したデータ分析の基本戦略。
このフレームワークは、製品やサービスにおける課題を突きとめて、洗い出された課題に対していくつもの改善策の企画・実装・検証を短期間で実行する際に有効です。AARRRモデルの各ステップから成長のボトルネックを見つけるために、確認すべき指標の一例を把握しておきましょう。
①ユーザー獲得(Acquisition)
新規のユーザーを獲得するステップです。②のステップに至ったユーザー数の対比となる数値なので、ダウンロード数、ページ訪問数、サイト訪問数、広告クリック数、離脱数、登録数、問い合わせ数などの数値を指標にします。
②ユーザー活性化(Activation)
「Activation」とは「利用開始」を意味します。利用開始しただけでは⑤の収益化に到達しないため、継続的な利用を図るべく、継続トライアルユーザー数、会員登録率などが指標となります。
③利用継続(Retention)
製品やサービスを利用開始したユーザーが、一定期間経過しても利用を継続しているかどうかを確認するステップです。メルマガの開封率とクリック率、リテンションユーザーの訪問数とセッション時間などが指標になります。
ほとんどのサービスは①のユーザー獲得に着目しがちですが、サービスの収益化においてはその後のステップである②ユーザー活性化や③利用継続によって既存顧客をリピーターにしていく過程が重要です。
④紹介(Referral)
利用を継続しているユーザーが製品やサービスを口コミやSNSなどで紹介し、新規のユーザーを獲得するステップです。満足度が高くなければこのステップに到達しないため、製品やサービスのファンを増やす上で重要な段階だと言えます。ここではユーザー数、メディア掲載数などが指標になります。
⑤収益化(Revenue)
継続利用しているユーザーが製品やサービスに対して料金を支払う段階です。これまでの全てのステップを踏まえた上で初めて収益化に到達できるので、このステップを単独で考えることは適切ではありません。
ここで見るべき指標として、1ユーザーあたりの収益、金額にかかわらず収益の発生に至った割合、LTV、会員登録から一定期間内に収益になる行動をしたユーザー比率、商品ごとの売上と利益などが挙げられます。
フレームワークを使うメリット
AARRRモデルを活用するメリットとしては、顧客を得て収益化に至るまでの各段階にKPIを設置して分析できるので、どの段階に課題が存在するのかが明確になり、最適な施策を打つことが可能になります。
ただ、フレームワークに沿っていれば必ずしも結果が出るわけではなく、あくまでも参考です。顧客の反応に向き合い、継続的な改善を大切にしましょう。
顧客に向き合い、成長を目指す
グロースハックという言葉は、しばしば数値だけをみて事業成長のための施策を高速で実施するという印象を抱かれることもあります。ですが、本来のグロースハックは顧客と向き合うもの。顧客の反応に向き合い、こまめな改善を重ねることで、顧客とともにサービスの成長を実現していきましょう。