アプリグロースの鍵!改善が回りやすいKPI設計とは
「アプリグロースの鍵となるKPI設計」について、「KARTE for App」のPDMを務める矢ノ目がご紹介します。
こんにちは、プレイドで「KARTE for App」のPMM(プロダクトマーケティングマネージャー)を務めております矢ノ目と申します。約10年のキャリアの中で、モバイルサービスのグロースやマーケティングに携わってきました。特に、マンガアプリを5年ほど運営していたこともあり、私の経験も活かしながら「アプリグロースの鍵となるKPI設計」について、皆さんのお役に立つ情報をご提供できればと思っています。
KPI設計の意義を理解する
まず、一般的にKPI設計にどんな意義があるのかからあらためて考えていきましょう。
アプリの基本的な(簡略)KPIツリー
こちらの図は、アプリの基本的なKPIツリーです。
アプリビジネスの多くの場合は、最終的に一番左側の 「売上」 という指標をKGIとして掲げています。その売上を構成する要素として、「ユーザー数」・「課金額」といったKPIに分解しています。
そして、上部のユーザー数は「新規に獲得できるユーザー数」とそのうち何人が継続利用してくれるかを表す「継続率」に分解することができます。
また、下部の「課金額」に関しては、ARPU(アベレージ・レベニュー・パー・ユーザー:1人あたりの課金額)と「購入率」に分解して表すことができます。
このようにKPIをツリー状に紐解いていくと、右側にいくほどより具体的な指標へと分解されていくことがお分かりいただけるかと思います。
KPI設計の意義
上記の例のようにKPIツリーを実際に描いてみると、KPI設計には下記の4つのような意義あることがわかります。
1.KGIの構成要素を網羅的に把握できる
重大な抜け漏れがあるとビジネス上のチャンスを見落とすことにつながるため、ツリー状に書き出し関係者で把握することが重要
2.KGIへのインパクトの優劣を判断できる
KPIは数値化できることが前提で、設定したKPIがどの程度KGIにインパクトを与えるものなのか判断することができる
3.KGIに対する打ち手を発想しやすくなる
「ユーザー数」や「課金額」といった粒度のKPIだと具体的な施策イメージを持ちづらいが、分解したKPIをもとにすれば「プッシュ通知の開封率をあげるには?」「広告経由のユーザー数を増やすには?」といった発想が簡単になる
4.KGIに対する打ち手のインパクトを評価しやすくなる
打ち手を実行した後、期待した効果が出ているのか、費用対効果があっているのか振り返る際にも、KPIを分解していると適切な指標でその施策を評価できる
良いKPI設計のポイント
では、どのようにKPI設計に向き合えばいいのか。仮想のECファッションアプリ「CARTE」を例に解説します。利用ユーザー数に効きそうな施策を検討しているとき、どこにKPIを置くのがベストでしょうか。
例えば、「MAU」のような抽象的な(KGIに寄りすぎる)KPIを設定するのは良くありません。なぜなら、
- 影響する要素が多数(ノイズが多い)
- 具体的な打ち手がイメージしづらい
- 効果検証が難しい
- ノイズが多い
- 検証サイクルが長期になりがち
一方で、「プッシュ通知の開封率」といった具体的すぎるKPIを置くのも良手とは言えません。なぜなら、
- KGIへの結びつきが評価しづらい
- KGIへのインパクトが小さい(ことが多い)
- 個別最適化に陥りやすい
- 打ち手の思考の幅を狭めてしまう
「キーアクション」を定義しよう
“ちょうど良い”KPIを設計するために、「キーアクション」の定義をおすすめします。
耳慣れない言葉かもしれませんが、「KGIはKPIの結果でありそれぞれのKPIはユーザー行動の結果である」という大切な原則に基づいた上で、キーアクションとは、 重要KPIに直接結びつきインパクトを与えるユーザーの行動 と定義します。
キーアクションの例:
- ECアプリであれば「商品のお気に入り追加数」
- SNSアプリであれば「他ユーザーのフォロー数」
- マンガアプリであれば「漫画作品の購読数」
- フードデリバリーのアプリであれば「お店を探す検索数」
- 銀行のアプリであれば「残高のチェック回数」
いずれの場合も、そのアプリを使う本質的な理由、アプリの根源的な価値と結び付いている点が重要です。
そのようなキーアクションの発生頻度やその質を高めることができれば、継続率や課金率など重要KPIを向上させていくことができます。KPIとしてのキーアクション発生頻度やその質の評価指標は、抽象的すぎず、なおかつ具体的すぎず、施策の発想や評価がしやすいといった利点があります。
キーアクションの見つけ方
キーアクションの見つけ方について、「継続率にヒットするキーアクションを探す」というケースを想定して解説します。
一般的には下記のステップで施策の対象とするキーアクションを特定するステップを踏むことになります。
- 継続率に影響し得るユーザーの行動を、仮説に基づきながら列挙する
- 各キーアクション候補の継続率への影響度を可視化する
- 特にインパクトが大きい行動を「キーアクション」として施策の対象にする(キーアクションは必ずしも1つに絞らなくてもOKですが、優先度をつけられるとベスト)
2の計測方法については、キーアクションの発生回数と継続率との相関を評価することになりますが、「KARTE for App」ではイベント発生回数別リテンションレポートという機能で確認することができます。
キーアクションの選定だけではなく、いわゆるマジックナンバーの発見にも寄与する機能になっています。
KARTE for Appは、SDKを通じてアプリのユーザー行動をリアルタイムに解析。アプリ内外のコミュニケーションに活かすことができる
リテンション発生回数別リテンションレポート機能により、ユーザーの行動の発生回数ごとにリテンション率を可視化。
ECアプリ「CARTE」において、仮に「お気に入り」がキーアクションの候補に挙がったとします。上記は、初回起動から1日以内のお気に入り(いいねを押す)が発生した回数とリテンション率を日別にみたレポートです。キーアクションの発生回数が増えるごとにリテンションレートが高まる傾向が見られるため、キーアクションとしては可能性がありそうです。
一方で、黄色の折線(いいね数5回)と赤の折線(いいね数4回)の間にリテンション率のジャンプが見られることから、マジックナンバーを「5回」と定義して「初回起動から1日以内にお気に入り数5回以上したユーザーの割合」をKPIとして設計することができそうです。
アプリグロースのアプローチ「OODA」
このセクションでは、キーアクションをKPI設計に活用した上で、それを本質的かつ継続的に改善するアプローチを考えます。
改善サイクルを回す上で最もお馴染みなのが、「PDCA(プラン・ドゥー・チェック・アクション)」かと思います。しかし私自身、モバイルサービスを7〜8年運営していて、PDCAを完璧に遂行できていたと自信をもっていうのは難しいと感じています。
仮説を作る情報がないままプランすることがそもそも難しいなかで、プラン作成および修正に時間がかかりなかなか実行に進めなかったり、激しい変化に晒されるアプリ市場においてはプランの前提がすぐさま変わってしまうことが多く、立てたプラン自体が無効になってしまうことも考えられます。
こうしたプラン周りの難しさを解消するためにおすすめなのが、「OODA(オブザーブ・オリエント・ディサイド・アクト)」による改善サイクルです。PDCAがプランから始まり計画と現実の差分を埋めるアプローチだとすると、観察から始まるOODAは常に変化する環境下で継続的に実体からのフィードバックを解釈して、実体にアジャストしていくアプローチだと言えます。
OODAを使ってKPIにつながる「キーアクション」を改善
先ほどの例を使って、「お気に入り」をキーアクションとした継続率の改善を、OODAのアプローチを用いてKARTEで実践してみたいと思います。
1.Observe(観察)
お気に入りをしているユーザーとしていないユーザー、両者にどんな違いがあるのかを観察します。
KARTEでは、特定の行動条件に合致した人を簡単にリスト化(セグメント作成)でき、各セグメントでの滞在時間や平均PV数、流入元、OS名などの情報を可視化することができます。
お気に入りをしているユーザーとしていないユーザーそれぞれの中から具体的な数人をピックアップし、どんな属性をもったユーザーか、アプリでどんな行動をしていたか、どんなタイミングで離脱したか、それぞれの行動傾向を掴んでいきます。
このような定量的なデータと、定性的なn1分析の結果を加味してOrient(方向づけ)の材料とします。
2.Orient(方向づけ)
Observe(観察)の結果として、お気に入りししているユーザーは初回セッション内で、複数の商品をお気に入りしていることが多い一方、お気に入りを全くしていないユーザーは初回のセッションでお気に入りをしていないということ、また初回セッションでのPV数は、お気に入りをしている場合としていない場合で、大差なかったということが分かりました。
このことから、「そもそもお気に入りをしていないユーザーはお気に入り機能の存在に気付いていないのでは」という仮説が生まれました。これを踏まえて、施策を決定していきます。
3.Decide(意思決定)
Orient(方向づけ)での仮説を受けて、「初回セッションで初めて商品詳細画面を見た人にお気に入りの機能を紹介する」という施策を考えました。ポップアップでお知らせして機能の紹介ページに誘導したいと思います。
4.Act(実行)
次はいよいよ実行です。KARTEでは、何を・誰に・いつ・どのように表示するかを決めることで施策を実行できます。
①何を:豊富なデザインテンプレートのなかから選択し簡単な画面操作でビジュアルを作成することができます。デザイナーやエンジニアスキル不要で設定可能ですが、アプリの世界観に合わせてhtmlやCSSを調整して柔軟にカスタマイズすることも可能です。
②誰に:初回セッションでまだお気に入りを利用していないユーザーを選択します。
③いつ:どのタイミングでお知らせしたいかを設定します。今回は、商品詳細画面にきた時にお知らせしたいので、トリガーとなる行動は、「商品詳細ページを閲覧した時」となります。
④どのように:ポップアップが連続で表示されるとユーザーが本来やりたい行動を意図せず阻害してしまうリスクがあるため、1セッションごとに1回までといった制御をすることができます。
実行したら、再びObserve(観察)に戻って改善を回していきます。
5.Observe(観察2周目)
一部未配信のグループを設定することで、効果を計測することができます。
施策配信の結果、どのような人に効果が良かったか・または悪かったかを分析することも可能です。例えば、OSがAndroidの人は効果が良い、滞在時間が1分未満の人には効果が悪い、といった示唆を得ることができます。
また、ファネル分析によって、「ポップアップを表示>クリック>機能紹介ページ>お気に入り」といった順序でボトルネックを特定することも可能です。
以上のように、観察から入って実行し、また観察に戻るOODAの流れでKPIを改善する流れをKARTEの機能を使いながら解説しました。
まとめ
KPIをドライブするキーアクションを見つけ、OODAのアプローチでKPIが改善していくイメージを持っていただけたでしょうか。
日々アプリ運営に向き合っていると、改善の打ち手に行き詰まったり、思うような効果が得られず壁に当たることもあるかと思います。そんな時は、闇雲にデータを見るよりも、結果指標としてのKPIにインパクトしているユーザーの本質的な行動(キーアクション)が何であるかを追求し、そこにアプローチする目線で考えると、今まで思いつかなかった発想が浮かびやすくなるかもしれません。
「KARTE for App」は2023年3月にメジャーアップデートを行なって、カスタマージャーニー機能やインボックス機能などパワーアップしています。以下の記事も参考に、ご興味がある方はこちらからお問い合わせください。