アプリグロースのヒントはユーザー理解にあり。観察から始めるフレームワーク「OODA」をアプリグロースに取り入れる方法のご紹介

モバイルアプリの有用性やグロースのつまずきポイントを整理した上で、効果的なシナリオ設計と適切なKPI設定のヒントを提示します。

顧客接点が多様化する昨今。ユーザーの身近なデバイスでコミュニケーションを図ることのできるモバイルアプリは、体験設計の自由度の高さからも注力すべきチャネルと言えます。一方でモバイルアプリ内の体験が向上し続けなければ、継続利用や休眠ユーザーの掘り起こし、コンバージョンの促進が見込めず、真価を実感することはできません。本稿では、長年アプリマーケティングに従事するプレイドの矢ノ目氏を取材。モバイルアプリの有用性やグロースのつまずきポイントを整理した上で、効果的なシナリオ設計と適切なKPI設定のヒントを提示します。
(この記事は、翔泳社「MarkeZine」で2023年7月12日に公開された記事を転載し、タイトルを変更しています)

25%のアプリはインストール後に一度しか開かれない

長年アプリマーケティングに従事する矢ノ目さんから見たモバイルアプリの現状をお話しください。

今や日本人のスマートフォン所持率は85%を超え(出典:総務省)、ユーザーは一日あたり5時間をモバイル端末の利用に費やしています(出典:data.ai)。利用時間の内訳を見ると、アプリとWebブラウザが9:1の割合を示しており(出典:ニールセン デジタル)、ユーザーの可処分時間の多くをアプリが占めていることは明らかです。

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プレイド プロダクトマーケティングマネージャー 矢ノ目亮氏 ソーシャルゲームのプランナーとしてキャリアをスタートした後、アプリのグロースマーケティングなどを経験して2021年にプレイドへ入社。カスタマーサクセスとしてアプリ系のクライアントを中心に担当し、2022年7月よりモバイルアプリ向けCXプラットフォーム「KARTE for App」のプロダクトマーケティングマネージャーを務める。

また、マーケティング観点で温度感の高いユーザーがアプリを使う傾向にあることもわかっています。コンバージョンの定義にもよりますが、アプリのCVRはWebサイトの2.3倍、購入金額も2.7倍と高いです(出典:AppsFlyer)。これらのデータから、モバイルアプリはビジネス上無視できないインパクトを持つチャネルであることがわかります。

モバイルアプリがWebに比べて高い効果を期待でき、マーケティング担当者が注力すべきチャネルであることは理解できました。一方で、休眠ユーザーの掘り起こしやコミュニケーションの磨きこみなど、アプリのグロースに課題を感じる担当者は多いと思います。

Localyticsの調査によると、25%のアプリはインストール後に一度しか開かれないことがわかっています。どうしてこのようなことが起こるのか。考え得る理由は大きく二つあります。

コミュニケーションは点ではなく線で考えよ

一点目の理由は、アプリの体験設計におけるコンバージョン偏重の思想です。これまでは「いかに課金/購入してもらうか」を重視する風潮が続いていました。その考え方ではユーザーとの関係が1回きりで終わってしまうため、最近ではLTVの概念と合わせてアプリの分野でもエンゲージメントの重要性が理解されつつあります。しかしながら、エンゲージメントを高めるための打ち手が思いつかなかったり、思いついたとしてもリソース不足によって実装や継続的な改善ができなかったりするのです。

もう一点の理由は、アプリの成長や施策の良し悪しを評価するためのKPIが適切に設定されていないことです。KPIの意味を意識できず、数字ばかりに気を取られると、ユーザーの態度や行動を変えられるような本質的なアプローチが実行しづらくなります。

わかりやすく極端な例ですが、プッシュ通知の開封率を追うあまり“釣り”っぽいタイトルをつけた場合、開封はされるかもしれませんが、継続利用やコンバージョンにはつながらないでしょう。ユーザーは小手先のテクニックに敏感なため、その施策きっかけで通知自体をオフにしてしまう可能性もあります。

ユーザーと継続的な関係を構築するためには、どうすれば良いのでしょうか。

「商品の購入」や「キャンペーンへの参加」といった“点”ではなく、それまでとそれ以降のユーザーの態度、意識の変容を捉えた“線”のコミュニケーションを考えることが大切です。エンゲージメントは適切なコミュニケーションが積み重なった結果として醸成されます。ユーザーの行動を時系列で捉え、適切な条件分岐をともなう線のコミュニケーションを届けるべきです。それを可能にするのがシナリオ設計だと思います。

いくつにも分岐したシナリオをどう作る?

シナリオの設計および改善のポイントと、具体的な方法について教えてください。

ユーザーの状況によって最適なシナリオは当然異なります。「アンケートでポジティブな回答をしたユーザーには、プッシュ通知で有償版を訴求する」「ネガティブな回答をしたユーザーには、ポップアップで新商品を訴求する」という具合に、分岐を含めるとシナリオは複雑を極めます。

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KARTE for Appに搭載した新機能「Journey」では、シナリオの設計と配信を画面操作で完結できます。「24時間以内にアプリをインストールした新規ユーザー」や「購入経験が一度もないユーザー」など、条件を設定してプラスボタンで分岐を作る流れです。ポップアップの画像挿入や文言の修正、リンクの埋め込みなども、エンジニアの手を借りずに操作できます。

KARTE for Appのデモ動画。直感的なUIでシナリオの設計・配信を可能にする

一方で、最初に設計したシナリオがベストプラクティスになるケースはほとんどありません。Journeyなら一人ひとりのユーザーがシナリオのどこで何をしていたかがすべて見られるため(n1分析)、良質な仮説を基にした振り返りと改善が可能です。たとえば、ポップアップのクリック率には問題がなく、クリックした先のLPで離脱するユーザーが多い場合。「クリエイティブに問題はなく、遷移先のLPに魅力がないのでは」といった仮説が立てやすくなります。

改善のための仮説を立てる際は、データを読み解く力も求められると思います。どのようにして読解力を身に着ければ良いのでしょうか。

n1を見て仮説を立てて検証する──その繰り返しによって、データから手触りのある仮説をあぶり出すセンスが磨かれていくのではないでしょうか。PDCAを小さく高速に回転させることのできる環境が用意できれば、顧客理解の近道になる。私自身の経験からもそう思います。

KPIは抽象度が高すぎても具体的すぎてもダメ

アプリをグロースさせるためには、KPIの設定も鍵になると思います。モバイルアプリのKPIを適切に設定するためのコツを教えていただけますか。

悪いKPIの一例として、KGIに近すぎる、つまり抽象度が高すぎるものが挙げられます。たとえば「MAU●人」をKPIに設定した場合。多種多様な要因が影響するため具体的な打ち手をイメージしづらく、当月の数字は翌月にならないとわからないため振り返りまでのタイムラグが発生します。では「プッシュ通知の開封率●%」をKPIに設定するのはどうでしょうか。具体的な打ち手はイメージしやすいものの、本質的にKGIにインパクトするかは評価が難しいところです。

すべてのKPIはユーザー行動の結果であるという原則を踏まえ、“ちょうど良い”KPIを見極めるためには「キーアクション」に着目すると良いです。キーアクションとは、重要KPIに直接結びつき、インパクトを与えるキーとなるユーザー行動のことを指します。

たとえば、アプリをインストールした初日に5回以上「いいね」をするユーザーの継続率が高いとわかったとしましょう。この場合「インストールした初日に『いいね』」がキーアクションとなり「5回以上」がマジックナンバーに相当します。ここからKPIを導き、キーアクションが増える打ち手を発想すれば良いわけです。アプリのモデルによっては「マンガアプリのインストール初日に読んだ話数」「商品の閲覧数」「カートイン数」「他ユーザーのフォロー数」などもキーアクションになり得ると思います。

キーアクションを見出すにあたり、様々なデータを参照して各キーアクション候補のインパクトを見比べる必要があります。KARTE for Appの「イベント発生回数別リテンションレポート」は、継続率を特定のイベントの発生回数ごとに可視化・比較可能な機能です。この機能を使えば、継続率の向上に寄与するキーアクションが簡単に導き出せます。

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KARTE for Appの画面。継続率を特定のイベント(行動)の発生回数ごとに比較するレポート

観察から始めるフレームワーク「OODA」

KPIの見直しに有効なフレームワークはありますか?

よく使われる改善フレームワークにお馴染みのPDCAがあります。PDCAは、継続的に計画と現実の差分を縮める上でとても優れたアプローチですが、私の経験上最初の「P(Plan)」が最も難しくボトルネックになりがちなステップです。プランは情報や仮説なしに立てられません。アプリグロースを取り巻く環境下では、情報収集や仮説立てに時間を割いている間に前提が変わってしまうこともあります。

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そこで私が推奨しているのが「OODA(ウーダ)※」というフレームワークです。Observe(観察)→Orient(方向づけ)→Decide(意思決定)→Act(行動)の順に進めていきます。OODAの特徴は、状況が常に変わることを前提にしている点です。今を捉える観察から始め、観察した実態と現状の差分に注目して打ち手を考えていきます。

※1970年代にアメリカ空軍の戦闘機パイロットであったジョン・ボイドの提唱した空軍戦術が発祥とされている。OODAループによって素早い意思決定が可能となり、戦況を優位に進められた戦術が注目を集め、のちにビジネスや教育、スポーツ分野などでも応用されるようになった

KARTE for AppではOODAに沿ったKPIの改善が可能です。たとえば、お気に入り登録をしたユーザーの継続率が高いとわかった場合、改善KPIは「継続率」に、キーアクションは「お気に入り登録」になります。ネクストステップとして、お気に入り登録をしているユーザーとしていないユーザーのグループそれぞれでユーザー行動の傾向をリサーチしていきます(観察)。

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KARTE for Appの画面。お気に入りをしているユーザーとしていないユーザーの行動を観察し、両者の違いを探ることができる

もし両者が閲覧している商品数には差分がないとわかった場合、お気に入り登録をしていないユーザーがそもそもお気に入り機能に気付いていない可能性が考えられます(方向づけ)。機能に気付いてもらうための施策として、お気に入り登録をしたことがないユーザーが商品詳細ページを訪れた際に、お気に入り機能を紹介するポップアップを表示することにします(意思決定)。そしてこの施策をKARTEで設定し、配信します(行動)。これら一連のOODAの過程をKARTE for Appの画面上で完結することができるのです。

アプリグロースのヒントはユーザー理解にあり

Observe(観察)のポイントがあれば教えてください。

一人ひとりのユーザーを細かく観察する前に、グルーピングをすることが大切です。個人単位で見ると雑多すぎて傾向がうまく見出せないため、グループ単位で大まかな傾向を把握してから個人を見るほうが仮説を深めやすいと思います。

KARTE for App上では「累計購入金額が●円以上の人」「このジャンルの商品をお気に入り登録している人」などのグループをつくることができますし、すべての計測ユーザーを対象にしたn1分析が可能です。セグメントごとに観察してからn1を見て改善のヒントを探ってみてください。

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KARTE for Appの画面。任意の行動条件でユーザーを検索することができるため、仮説を深めやすい

ここまで、アプリグロースのポイントをたっぷりうかがってきました。最後に矢ノ目さんから読者に向けてメッセージをお願いします。また、KARTE for Appにおいて今後チャレンジしたいこともあわせてお聞かせください。

当社に問い合わせをしてくださる方々の興味がリテンションという結果指標から顧客理解に移りつつあり、ユーザー理解を踏まえた本質的なアプローチを重視する風潮が高まっているように思います。そして、アプリグロースのヒントはまさにユーザー理解にあるはずです。KARTE for Appはユーザーを深く知るための機能性を備えたプロダクトですから、より顧客中心で本質的なアプローチを望む企業のご担当者様を今後サポートできると思います。

アプリのネイティブの要素を充実させようとすると、開発の難易度や負担はやはり上がってしまいます。しかしながら、ユーザーファーストでリッチな機能や体験を実現するプロダクトも増えているため、KARTE for Appでも幅広い機能をカバーしたいと考えています。

モバイルアプリの市場競争は激化し、ユーザーが求めるモバイルアプリ体験の水準がますます高まる昨今。世のアプリデベロッパーの皆様がアプリの本質的価値の磨きこみに集中し、成果を上げるための支援をKARTE for Appで実現していきたいです。

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