Event Report

数値にとらわれず「ユーザーの求めている体験」を考え抜く。ラクマ、Makuake、Creemaによる顧客視点のアプリ改善 #APPDIVE

「マッチングモデルアプリの『しくじり』から学ぶユーザー視点のプロダクト改善とは」をテーマとしたAPP DIVEでは、「ラクマ」や「Creema」「Makuake」の改善に携わる担当者が登壇し、過去の“しくじり”を通して得た気づきや、ユーザー視点でプロダクトを改善するための考え方を共有しました。

プレイドではアプリをグロースさせるためのヒントを企業横断で学び合う場「APP DIVE」を主催しています。

2020年10月7日には、第3回目となる「マッチングモデルアプリの『しくじり』から学ぶユーザー視点のプロダクト改善とは」をオンラインで開催。「ラクマ」や「Creema」「Makuake」の改善に携わる担当者が登壇し、過去の“しくじり”を通して得た気づきや、ユーザー視点でプロダクトを改善するための考え方を共有しました。

注目アプリがプロダクト改善の「しくじり」から学んだこと

ユーザーへの「思い込み」で的外れな施策を行ってしまった

イベント前半は、各社がプロダクト改善の「しくじり」についてライトニングトークを行いました。

一人目に登壇したのは、総合型フリマアプリのラクマを運営する楽天株式会社、C2C事業部マーケティング課の岩崎陸央氏です。

岩崎氏は「ユーザーへの“思い込み”に気づかぬまま施策を行ってしまった」しくじりを共有してくださいました。

1年ほど前、岩崎氏は新規ユーザーの出品を増やす施策を任されたそうです。さっそく、アプリの起動から出品画面の閲覧、出品完了までのファネル分析を行うと、「出品画面の閲覧」から「出品完了」にいたるユーザーの割合が、新規ユーザーは既存ユーザーに比べて低いと気づきます。

岩崎氏「その差をみて、きっと新規ユーザーは出品画面で課題や困りごとがあるから、離脱しているのだろうと考えました。そこで、出品にまつわるFAQページへ案内するポップアップを出品画面に配信したんです」

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しかし、想像していたよりもポップアップはクリックされませんでした。ポップアップの見た目や文言を改善しますが結果は変わりません。

そこで岩崎氏は「そもそも新規ユーザー全員が、出品目的で出品画面を訪れているわけではないのでは?」と、自身の“思い込み”に気づいたそうです。

岩崎氏「アプリをダウンロードしたばかりのユーザーのなかには、特に出品したいものはなく『どんなアプリなんだろう?』と画面を見ていただけの人もいたかもしれません。

そういったユーザーには、出品の具体的なHOWよりも、ラクマの魅力や価値を伝えたほうが、結果的に出品につながるかもしれないですよね。

にもかかわらず、私は『新規ユーザーは全員が出品目的で出品画面にいる』と思い込んで、『出品をサポートしよう』と施策を打ってしまった。データから施策の仮説を立てるときは、自身の思い込みにとらわれないようにしなければと痛感しました」

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ユーザーの体験を妨げ得る形で情報を届けてしまった

続いて登壇したのはハンドメイド作品のマーケットプレイス「Creema」を運営する株式会社クリーマ、マーケティング Div. ゼネラルマネージャーの名古屋考平氏。「伝えるべき情報をユーザーの邪魔になり得る形で伝えてしまった」しくじりについて語りました。

Creemaでは、アクセサリーやファッション、インテリアなど、多様なクリエイター作品が販売されています。購入側のユーザーは、作品を出品する「クリエイター」をフォローし、新着作品をチェックできます。

フォローしたときにクリエイターからお礼のメッセージが届けば、購入側のユーザーは作家とのつながりを感じ、利用するモチベーションが高まるのではと考えた名古屋氏。ポップアップでメッセージを表示する施策を行います。

しかし、期待していたような成果にはつながりませんでした。名古屋氏は、「表示したポップアップが小さく、内容が把握しづらいものだったのでは」と振り返ります。

名古屋氏「そもそもユーザーがポップアップに気づかなかった可能性もあると思います。また、気づいていても内容が把握しづらいため、パッと見て『閲覧の邪魔だな』と認識していたかもしれません。伝えたい情報は、ユーザーの閲覧を妨げない形で伝えなければいけないと改めて感じました」

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施策を“運用する中の人”の体験を考えていなかった

3人目に登壇したのは、アタラシイものや体験の応援購入サービス「Makuake」を運営する株式会社マクアケ、プロダクトマネージャーの木村涼平氏。

木村氏は「サービスの“中の人”の体験をないがしろにしてしまった」しくじりを共有してくださいました。

Makuakeでは「実行者」の提案する新しい製品やサービスなどの体験を、つくられた背景や想いを知った上で「サポーター」が購入し、プロジェクトを応援できます。木村氏は、サポーターの購入率を向上させるための施策を担ってきました。

購入率を高めるには、実行者がプロジェクトページで伝える情報や、情報の伝え方に改善の余地があると考えた木村氏。実行者からプロジェクトについて情報を提供してもらいながら、プロジェクトページを中心に改善を行いました。

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PDCAを回した結果、いくつかの施策で購入率の向上に成功。しかし木村氏は「社内のオペレーション負荷が高まっている」と気づきます。

木村氏「今回、僕の提案した施策を運用するには、社内のメンバーに、実行者とのコミュニケーションなど追加でいくつかのタスクを行なってもらう必要がありました。その負担を意識できていなかったので、施策を続けるなかで、運用の問題がいくつも発生してしまって。無理なく行える体制にするために、多くの施策を実施することになりました。

プロダクト改善においては、サービスの外に目が向きがちです。けれど、サービスの中にいる人、つまり営業やコンサルタント、法務担当のメンバーなど“体験の作り手”の体験をないがしろにしてしまうと、継続的にサービスの外に良い体験を届けることはできません。プロダクト改善においては、サービスの中と外、両方に携わる人の体験を考えなければと痛感するしくじりでした」

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ユーザー視点のプロダクト改善に必要なKPI設定とは?

イベントの後半では、3社がユーザー視点のプロダクト改善についてパネルディスカッションを行いました。

登壇者は、楽天株式会社 C2C事業部 マーケティング課 大野義博氏、株式会社クリーマ マーケティングDiv 兼 新規事業推進室 マネージャー 高島潤一朗氏、株式会社マクアケ アプリマーケティング高橋優氏。モデレーターはプレイドの杉浦が務めました。

登壇した3社のアプリは異業種でありながら、購入者と出品者、作家と購入者、プロジェクトの実行者とサポーターなど、異なる目的を持つユーザーをマッチングするモデルを採っている点は共通しています。

異なる目的やニーズを持つユーザーにより良い体験を届けるため、どのようにユーザーを捉え、施策を行なっているのでしょうか。ユーザーのセグメント分けとKPI設定について伺いました。

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高橋氏いわく、Makuakeでは新規ユーザーと既存ユーザー、離脱ユーザー、休眠ユーザーに分けて、分析や改善を行なっているそう。流通総額をトップにしたKPIツリーを作成し、MAUやCVR、新規のアプリインストール数、決済頻度など、複数のKPIを定点観測しています。

施策を考える際は、定量的な数値を参照しつつも「Makuakeの創りたい体験」を忘れないよう心がけています。

高橋氏「Makuakeでは、心から『欲しい』とか『応援したい』と共感し、応援するように買い物する体験を実現したいと思っています。

なので、KPIとして追っているとはいえ『決済頻度』などは、ただ上がれば良いというわけではない。例えば、ユーザーが週4回も、心から応援したい製品や体験に出会えるかというと、現実的ではないことの方が多いんじゃないかなと思います。企業の都合だけで、ユーザーの体験に沿わないKPIを押しつけることがないよう、意識しています」

クリーマでは「素早く改善すること」を優先するため、購入頻度でセグメント分けをし、施策を行っているそうです。

高島氏「セグメント分けやKPIが複雑になりすぎると、施策の改善のスピードを下げてしまう。一応、健康状態の把握を目的に、細かく因数分解をした指標を観察してはいます。

一方で追うべきKPIや施策のゴール指標については、そこまで細かくセグメント分けをせずに設定しています。細かく因数分解されたツリーに沿ってアクションを考えるというより、顧客育成のストーリーに則って、施策を設定し、それぞれが設定している指標にどれくらい貢献するかを評価しています」

ラクマでは「購入と出品を両方利用するユーザーも多い」ことから、どちらも行き来するユーザー行動を踏まえ、セグメント分けやKPI設定を行なっています。

大野氏「セグメントは、購入者と出品者ごと、そのなかで継続ユーザーと新規ユーザー、休眠ユーザーに分けていました。最近はアプリへのロイヤルティなども考慮したセグメント分けを検討中です。

KPIは、流通総額を主に購入者の行動にかかわる指標にブレイクダウンしたKPIツリーを作成し、施策に活かしています。加えて、ラクマは購入と出品どちらも行う方も一定数いらっしゃるので、そうした方の割合や行動なども追っています」

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数値成果だけでなく「ユーザーに届けたい体験」から逆算する

セグメント分けやKPI設定に続いて話題に上ったのは、マッチングモデルのアプリにおける「需要と供給のバランス」について。

3社のアプリでは、購入者と出品者、作家と購入者、プロジェクトの実行者とサポーターなど、供給側と需要側のユーザーがいます。両者にとって優れた体験を届けるには、供給と需要のバランスが鍵になります。

3社はどのようにバランスを考えて施策を行なっているのでしょうか。ラクマの大野氏は「過度なネガティブ体験をなくすこと」を意識しているそうです。

大野氏「本来は、需要と供給が100%マッチングしている状態が理想です。ただ、そのためだからといって、無理に購入や出品を勧める施策をしても、購入者と出品者双方の体験を損なってしまう。なので、施策を実施しているときのマッチング率は、平常時に比べて過度にネガティブになっていないかを見ています。

例えば、大々的な出品キャンペーンを行うときなどは、購入者も一緒に増えなければ、出品者は『出品したのに売れない』体験をしてしまう。そうしたときは、購入者にもアプローチする施策を行い、バランスを取ろうと試みます」

Creemaの高島氏も、需要と供給のバランスは一定意識しつつ、ユーザーの体験を損なわないよう心がけているそうです。

高島氏「Creemaのお客様のなかには、自分しか知らない作品、自分だけしか持っていない作品と出会いたい、あるいはそうした作品との偶然の出会いを楽しみたい人も多くいます。

実際にKARTEなどで、アプリでのユーザーの行動を見ていると、流入時の作品とは全く異なる作品を購入されている人も多くいらっしゃいました。

なので、需要と供給のバランスも意識しつつも、『この購入者はこの作品が欲しいはず』といった直球な提案ばかりにならないよう、作品の幅を持たせてみたり、気づきを与えるような切り口を混ぜ込んだ提案を意識しています」

アプリのコアとなる体験を邪魔にしないようにしているという二人の意見にMakuakeの高橋氏も大きく頷きます。

高橋氏「私たちも、サポーターが実行者のストーリーや思いや背景に出会い、共感し、応援する体験を大切にして施策を考えています。ユーザーに対して押しつけのKPI、提案のKPIではなく、ユーザーに向き合い、想像することが大事だとチームで話し合っています。

需要と供給のバランスや売り上げを考慮して、トップページに表示するプロジェクトをCVRの高い順に入れ替えたりレコメンドを表示したりといった施策も、やろうと思えばできます。ただ、そうするとユーザーの求めている体験からはズレてしまう。

サポーターが心から応援したいと思える出会いを創出するために、どのような内容のレコメンドやメールが適切なのかは、今も試行錯誤を続けているところです」

届けたい体験を考え抜く姿勢がプロダクト改善の鍵

3社のディスカッションからは、定量的なKPIにもとづいて改善を行うとともに、顧客に届けるべき定性的な価値を考え抜く大切さが伺えました。時には“しくじり”から素早くラーニングしつつ顧客視点で改善を回し続ける。そのたゆまぬ努力がアプリのグロースには欠かせないと言えるでしょう。

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