Event Report

顧客の声と行動データから描いた、80万人が集まるコミュニティサイト「マイネ王」の成長モデル

2023年7月に開催された「KARTE CX Conference 2023」にて、株式会社オプテージ コンシューマ事業推進本部 モバイル事業戦略部 モバイル事業運営T サブマネージャーの岡本真治氏とプレイドの CX プランニングユニットの天田卓良が登壇。マイネ王が実践するファンとの関係づくりやコミュニティ活性化のアプローチについて語られました。

昨今、サービスの成長には、ロイヤリティの高いユーザーとの関わりが重要になっています。こうした背景から「コミュニティマーケティング」への注目が高まり、様々な実践が行われています。従来のマーケティングとは異なる、コミュニティにおける取り組みは、どのように定量の評価を行い、戦略を描けばいいのでしょうか。

2023年7月に「事業成長をCXのデジタル変革で牽引する」をテーマに開催された「KARTE CX Conference 2023」にて、株式会社オプテージ コンシューマ事業推進本部 モバイル事業戦略部 モバイル事業運営T サブマネージャーの岡本真治氏とプレイドの CX プランニングユニットの天田卓良が登壇。

株式会社オプテージでは、格安スマホ/格安SIMサービス「mineo(マイネオ)」のユーザー80万人以上が集うコミュニティ「マイネ王」を運営。本セッションでは、マイネ王が実践するファンとの関係づくりやコミュニティ活性化のアプローチについて語られました。

「ファンコミュニティ」が事業にもたらす効果を定量化する

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サービスと併せて運営するコミュニティの価値は、どのように定めているのでしょうか。セッション冒頭では、岡本氏からmineoユーザーの集うコミュニティ「マイネ王」が参加者に対して、提供している価値を運営側はどう捉えているかについて紹介されました。

岡本氏「マイネ王がコミュニティを通じて提供しているのは、社会的価値と情緒的価値です。

私たちは、ユーザー同士のコミュニケーションをうながす掲示板やQ&A、写真の共有機能などの機能が提供しているのは『他者とのつながりを得る』という情緒的価値だと捉えています。

また、マイネ王では他のユーザーに貢献できるシステムを用意しています。代表的なのが、余ったパケットを他のユーザーと共有して保管し、必要に応じて誰でも引き出せる『フリータンク』という仕組み。こうした相互扶助を促す仕組みは、社会的価値につながっています。

こうした価値につながるコミュニティを運営するために、事務局メンバーは全員マイネ王のアカウントを保有しており、一人ひとりがユーザーとのコミュニケーションを図るようにしています。さらに、問い合わせや、個別メッセージへの対応の他、コミュニティを健全に運営するための役割も担っています。

また、オンラインイベントや、ユーザーとのオフ会も積極的に開催し、交流を深めることも事務局の役割。イベントでの交流は、ユーザーから直接サービスに対するご質問やご提案をいただく機会にもなっているんです」

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株式会社オプテージ コンシューマ事業推進本部 モバイル事業戦略部 モバイル事業運営T サブマネージャーの岡本真治氏

マイネ王のファンが増えることは、事業にとって「mineoへの紹介が増える」「継続利用してもらえる」「サービスへの提言が得られる」「ユーザー同士の助け合いが起こる」「外部発信・口コミにつながる」といったメリットがあると岡本氏はいいます。一方で事業にあたえる影響を定量で評価することが難しく、経営陣に事業貢献度を説明することに苦労していたそうです。そこで考えたのが、ユーザー目線ではエモーショナルな取り組みをしつつ、経営にはロジカルに価値を説明するというアプローチでした。

岡本氏「マイネ王の価値を数字で示すために、定量評価を行いました。かなり大変だったのですが、解約した方も含めた約200万回線分のデータを集計して、分析しました。その結果、『マイネ王での活動量が高いユーザーほど解約率が低く、紹介数も多い』という傾向がわかったのです。この分析により、マイネ王を利用していない場合と比較した利益の金額を想定で算出し、経営陣にも説明できるようになりました」

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コミュニティの成長戦略を描くためにユーザーの声を聞く

コミュニティの価値を定量で示した岡本氏は、続いて「今後のコミュニティ戦略をどう描くか」という課題に向き合いました。

コミュニティは単一の目的を設定するものでもなく、ユーザーの楽しみ方もそれぞれ。複数の要素が関係しており、KPIツリーなどの従来のフレームで整理するのには適しておらず、「グロースモデル」を用いて整理することにしたそうです。

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このグロースモデルを検討する上での前提となったのが、n1分析によって定義したファンの成長ロジックでした。

岡本氏「プレイドの協力を得て実施したn1分析プロジェクトでは、KARTE上のデータを活用しながら、約10名のユーザーのマイネ王での活動内容を観察し、そこから12個ほどのインサイトを抽出。このインサイトを整理し、ファンの成長を『利用』『差し入れ』『交流』『自治』の4つのステップに定義しました」

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この分析から戦略の検討をサポートしたのが、マーケターやアナリスト、プランナーなどが所属し、KARTEを駆使した顧客分析や顧客戦略の策定、施策実行など、さまざまな支援を行うプレイドのCX プランニングユニットでした。同チームに所属する天田は、取り組みについてこう振り返ります。

天田「このn1分析に加えて、グロースモデルを構築する過程にも伴走いたしました。まず、岡本さんの考えた仮説を踏まえて、ユーザーインタビューを実施。その内容を踏まえてグロースモデルをブラッシュアップしていきました。

岡本さんが元々作っていたモデルは網羅的であるがゆえに、『コミュニティの状態』や『ユーザーの気持ちや行動』『事務局の施策』など、さまざまな要素が絡み合った複雑なものになっていました。そこで『コミュニティの状態』を中心にしたモデルとして 整理することを提案しました。

しかし、『何がユーザーの熱量を上げるトリガーになり得るのか』『コミュニティ内でつながりを作ろうとするきっかけは何なのか』など、データを分析するだけでは不明な点もありました。そこでユーザーの生の声を聞かせてもらうことにしたんです」

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ユーザーインタビューでは、特にマイネ王で活動する熱量を把握することに焦点を当て、90分ずつ4名の方にヒアリングを実施。

岡本「実施前は90分も時間が持つのかと不安でしたが、実際にはどのユーザーの方も時間が足りなくなるほど熱量を持って話をしてくださいました。

おかげでインタビューを通じて、様々なインサイトが得られました。例えば、『熱量の素=リアクションの楽しみ』です。マイネ王には投稿に対して『ナイス』を付ける機能や、自分の通信容量10MBを相手に贈ることができる『チップ』機能があります。

他のユーザーに『ナイス』や『チップ』を送ってばかりでは、アクションは続きません。継続的にアクションを続けているユーザーの多くは、自らも他のユーザーから何かしらのアクションを『してもらっている』んです。以下の図のように整理したこのインサイトは、n1分析の際にも見えていたことなのですが、インタビューを経て相関性があると確信を深めました」

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他にもユーザーインタビューを通じて得られたインサイトには、「ユーザーのコミュニケーションは『相談から雑談へ』変化していくこと」というものもありました。

天田「マイネ王の掲示板は、『モバイル・IT関連』と『交流スペース』の二つに分かれています。マイネ王はmineoが入口ということもあり、参加した直後のユーザーは、モバイル・IT関連の掲示板で携帯電話などに関する相談をします。

マイネ王を活用するうちに、どんどん交流スペースに流れ、雑談を楽しむようになる。以下の図のような『相談から雑談へ』という流れも、n1分析の際に立てた仮説の一つだったのですが、インタビューを通してその仮説が正しかったことが証明されました」

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他にも、ユーザーインタビューで確認できたインサイトには、「コト軸から『ヒト軸』へとコンテンツの楽しみ方がシフトする」というものもあったそうです。

岡本氏「コミュニティ内で自らイベントを開催しているユーザーの方にもお話を伺いました。その方いわく、マイネ王でイベントを開催するモチベーションは、『みんなが喜んでくれること』だそうです。特に印象的だったのが、マイネ王に『師匠』と慕うユーザーがいること。『師匠は私よりもずっと楽しいイベントを開催しているんです』と熱く語っている様子が印象に残っていますね。

ユーザーの多くは、コンテンツそのもの、つまりコトを楽しむところからスタートします。それから次第に『このコンテンツを投稿していたのは誰なんだろう』と興味を持って、その人のマイページを確認しにいく。

そして、『面白そうだからフォローして、この人の投稿をチェックしよう』とヒト軸で楽しむようになっていくんです。この『コト軸からヒト軸へ」という変化も、マイネ王にハマる方の特徴の一つだということがわかりました」

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「エモロジ戦略」がコミュニティマーケティングを変える

ユーザーインタビューを通して、グロースモデルの仮説を確かめた後、どのようにグロースモデルをブラッシュアップに着手。まず、マイネ王の「背骨」となる3つの要素とつながりを整理し、最小モデルをまとめていきました。

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岡本氏「3つの背骨のうち、まず大事なのは、ユーザーの活動量が増えること。ユーザーの活動量が増えて価値を実感すると、他のユーザーの投稿に対するリアクションも増えていきます。コミュニティに心理的安全性を感じ、活動に対するリアクションが増えると、マイネ王がより温かい空間になります。そうなると、よりユーザー同士のつながりが増え、習慣的にマイネ王を利用するように、と変化していきます。このサイクルが最小のグロースモデルだと定義しました」

情報の解釈と言語化を繰り返しながら、最小モデルをさらにアップデート。より詳細なモデルとして構築したのが以下の図です。

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岡本氏「分析の結果、他のユーザーとのつながりを楽しみたい方のニーズは大きく二つに分かれていると考えました。それぞれのニーズに合わせてルートを分け、『ワイワイコース』と『しっぽりコース』と名付けました。

『ワイワイコース』とは、不特定多数の方とのつながりを持ち、みんなでわいわい楽しむことを喚起するルート。『しっぽりコース』は、DMなどを用いて特定のユーザーとつながり、その方との交流を楽しんでもらうためのルートです。

この2つのコースがしっかり循環しているかを確認するための定量的な指標を設定。現在はそれらをモニタリングしながら、施策立案につなげています。これまでは感覚的に行っていた施策を、グロースモデルと指標に基づいた形で実行できており、大きな手応えを感じています」

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ロジックとエモーショナルを組み合わせてコミュニティを運営する

グロースモデルを構築するプロセスは順風満帆だったわけではなく、たくさんの苦労もあったそうです。岡本氏は、その過程をこう振り返ります。

岡本氏「データ分析やインタビューによって得られたインサイトを、グロースモデルに落とし込む過程で最も苦労したのは『言語化すること』です。グロースモデルを描くことができたのは、プレイドさんのおかげだと思っています。プレイドのみなさんは、本当に言語化がうまい。大いに助けてもらいました」

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プレイド CX プランニングユニット 天田卓良

天田「ありがとうございます。インタビューやデータ分析から得られた情報をしっかりと解釈し、言語化しなければ次のアクションに移ることはできません。だからこそ、私たちのチームは言語化に力を入れています。岡本さんたちとの取り組みで、その成果が表れたのは非常に嬉しいですね」

セッションの最後に、岡本氏は今回のプロジェクトで得られた成果を振り返り、今後の展望について語りました。

岡本氏「グロースモデル全体はロジカルに構築されていますが、それを構成する一つひとつの項目には、エモーショナルな要素が詰まっている。この2つの要素を組み合わせた『エモロジ戦略』によって、コミュニティを成長させられると確信していますし、このモデルと戦略をコミュニティを運営するみなさんにも参考にしていただければ幸いです」

事業成長のためには、ときにロジックでは説明が難しい要素に向き合うことも重要です。今回、マイネ王が実践したロジックとエモーショナルを組み合わせたグロースモデルは、きっと他の業種業態でもヒントになるはず。ファンとの交流や、情緒的価値の提供を大事にしている方は、ぜひ参考にしてみてください。

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