Event Report

顧客体験を高めるWebサポートをどう実現する?問い合わせ“前”に眠る改善のヒント

2023年5月25日開催されたHDI-Japanと株式会社RightTouchが共催した『Web Support Summit』のイベントレポートです。カスタマーサポートをめぐる顧客のニーズの変化や効果的なセルフサービスを実現するためのポイントをお届けします。

近年、カスタマーサポートの領域において、顧客がFAQなどを活用して自ら課題解決を行う「セルフサービス」を拡充する企業が増えています。一方で「FAQやチャットボットを充実させたのに利用されない」「問い合わせ数も減らず、顧客満足度も上がらない」といった悩みを抱える例も少なくありません。

2023年5月25日にHDI-Japanと、プレイドの100%子会社である株式会社RightTouchが共催した『Web Support Summit』では、カスタマーサポートをめぐる顧客のニーズの変化や効果的なセルフサービスを実現するためのポイントについて共有されました。

登壇者は、HDI-Japan代表取締役CEO 山下 辰巳氏、auじぶん銀行株式会社CS本部長 堀野 和明氏、プラス株式会社デジタル統括部門長 山口 善生氏、株式会社SBI証券カスタマーサービス部長 河田 裕司氏、株式会社RightTouch代表取締役 野村 修平です。

顧客が努力なく解決できるよう、問い合わせ“前”に着目する

HDI-Japanは、カスタマーサポート業界における世界最大のメンバーシップ団体であり、国際認定資格制度や複数のトレーニングプログラムを運営しています。

その中でも「公開格付け調査」では毎月1業界、年に12業界の企業を対象に、Web上でのサポートの有効性と問い合わせ窓口のサポート内容について、一般消費者の評価をもとに格付けを行っています。

イベントの冒頭では、HDI-Japanの山下辰巳氏が『Webサポートのトレンドについて、三つ星10のポイント最新版』と題し、2022年度の公開格付け調査からわかる顧客の変化や企業に求められる取り組みについて共有しました。

はじめに、山下氏が挙げたのは、顧客が利用するチャネルをめぐる変化です。顧客は、緊急度や状況、使うデバイスに合わせて、チャネルを使い分けています。「FAQやチャットボットなどで解決できないときは、有人チャットや電話サポート」といったチャネルの行き来をスムーズに行えることが、今後はより大切になると言います。

また、調査結果からは、テキスト主体のチャネルを好む顧客が増えている傾向もみえてきたそうです。

山下氏「テキスト主体のチャネルにおいて、顧客は従来以上にスピーディーかつ臨機応変な対応を求めています。かつては『メールの問い合わせはテンプレートを使って、じっくり丁寧に回答』なんて考え方もありましたが、今は顧客の意図を理解して、素早く、少ないやり取りで解決できるかが顧客の満足度を左右します」

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HDI-Japan代表取締役CEO 山下 辰巳氏

テキスト主体のチャネルへのニーズは増しているとはいえ、山下氏は「コールセンターへの呼量削減だけを目的としたDXは顧客を失う」と念を押します。実際に、調査では「チャットボットでは解決できず、電話もつながらず他社に乗り換えた」といった声もあったそう。

コールセンターのリソース削減だけではなく「複数のチャネルをまたいで、顧客にどのような価値、体験を届けるのか、そのために、どのようなコンテンツが必要かといった検討が大切です」と語りました。

そうした検討において、山下氏が注目すべき概念として挙げたのが「シフトレフト」です。「顧客に提供できる価値の大きさ」を縦軸、「顧客の問題解決のための努力度合い」を横軸とした図をベースに山下氏が説明します。

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(出典:HDI-Japan

山下氏「顧客にとって最も良い状態は、図の一番左。『問題解決のための努力度合い』がゼロの段階です。

その次に、自動的に解決できる、セルフサービスで解決できる段階があります。ここでスムーズに困りごとを解消できれば、顧客はそこまで大きなストレスは感じないでしょう。

そして、最後の問い合わせなければいけない段階では、顧客は相当な努力を強いられており、満足度はかなり下がってしまいます。

ですから、よりよいサポート体験のためには、なるべく顧客の体験を図の左に寄せていくことが重要です。

サポートチャネルの拡充も重要ですが、そもそも問題を発生させないか、努力なく解決できるよう、問い合わせ“前”のセルフサービスを充実させていくことが、顧客の体験向上につながります。」

問い合わせ“前”のセルフサービスを拡充するためには、FAQやサポートページなどコンテンツの品質を高めることが求められます。

そのために有益な方法論として、山下氏が紹介したのが「ナレッジ・センター・サービス(以下、KCS)」です。

山下氏「KCSでは、業務の中でリアルタイムに、ナレッジコンテンツを作成・更新し続けていきます。顧客に公開するFAQやサポートページも、オペレーターが参照する社内ナレッジも、『完成形はなく常に変化を続けるもの』と捉えます。

オペレーターがお客様から問い合わせを受けたら、まず社内ナレッジを検索。見つからなければ新たなコンテンツを作成します。その後、別のオペレーターが同じ内容の問い合わせを受けた際は、そのコンテンツを参照して対応、足りない内容があれば随時追記・修正を加えます。

これを繰り返すことで、コンテンツは利用とともに改善され、品質が高まっていきます。そして、あるレベル(例えば5回見直し後など)に達したものは、FAQで顧客に向けて公開します。

このように『KCS』では、顧客の生の声をベースに、ナレッジコンテンツの信頼性を高められます。

かつ、問い合わせ対応業務の中で随時コンテンツを更新していくため、FAQを一から作成する従来の方法に比べて、制作期間も短縮できます。」

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最後に、山下氏は、セルフサービスの拡充やKCSによって「コールセンターは、顧客の質問に応える場所から、新たなナレッジや付加価値を提供する場所に変わっていくだろう」と語り、講演を締め括りました。

“シフトレフト”を取り入れ、体験向上と効率化を両立

イベント後半では「顧客体験/従業員体験における効果的なセルフサービスとナレッジ共有」をテーマに、auじぶん銀行の堀野 和明氏、株式会社SBI証券の河田 裕司氏、プラス株式会社の山口 善生氏、RightTouchの野村 修平が、パネルディスカッションを行いました。モデレーターはHDI-Japanの山下 絵里香氏です。

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最初のトピックは「効果的なセルフサービス実現のための取り組み」について。まずは、auじぶん銀行の堀野氏が、4年ほど前から同社で行ってきたセルフサービスの取り組みを共有されました。

auじぶん銀行では、基幹システムと顧客データベースの刷新に合わせて、Webサポートのあり方や仕組みも見直しました。そこで重視してきたのが、先ほど山下氏が紹介した「シフトレフト」の考え方です。

堀野氏「かつて、セルフサービスはコスト削減を目的に行うもの、お客様のなかでも特にITリテラシーの高い人が必要としているものだと捉えていました。

ですが、シフトレフトの考え方を知り、顧客が努力なく問題を解決できる体験が提供価値を高めるのだと再認識。経営陣にも図とともにその旨を伝え、問い合わせ以前のセルフサービス、とりわけWebサイトやFAQの改善に着手してきました」

WebサイトやFAQの改善のために、auじぶん銀行ではKARTE RightSupportを導入、活用しています。

KARTE RightSupportは、問い合わせ前の顧客のつまずきを収集・解析し、顧客一人ひとりに合ったFAQや問い合わせ方法を提示して自己解決に導く、Webサポートに特化したプロダクトです。

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auじぶん銀行ではKARTE RightSupportで、ページの離脱などのサイトでの行動から顧客のつまずきを把握し、それらに合わせて参考になるFAQへのリンクを先回りして表示する施策などを行っています。

また、KARTE RightSupportの施策とは別に、入力フォームの最適化やチャットで解決にいたらなかった顧客の分析や振り返りなどにも力を入れています。

さらにKCSを取り入れることで、表示するナレッジコンテンツもブラッシュアップし続けています。

堀野氏「お客様から届いた問い合わせをもとに、社内のナレッジコンテンツを随時更新していくので、表現や内容もよりお客様の生の声に近いものになります。

そのため、オペレーターが対応中にコンテンツを検索した際、該当するものを見つけやすくなるという効果もありました。また、そこからピックアップして社外にFAQとして公開するので、FAQの中身も、よりお客様にとって身近な表現や内容が使われたものになっていると思います。

実際にKCSを始めてから、問い合わせ数は減っていますが、FAQのPV数は明らかに上がってきています。」

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auじぶん銀行株式会社CS本部長 堀野 和明氏

こうした取り組みの結果、HDI-Japanの公開格付けではサポートの質について消費者から高い評価を獲得。Webサポートのあり方や仕組みを見直す以前と比較し、入電は年間で4割減少するなど、顧客体験の向上とサポートの効率化の両方に一定の手応えを感じています。

FAQを「いつ、どのように届けるか」を見直し、自己解決を促進

SBI証券の河田氏も、KARTE RightSupportを活用し、お客様のつまずきに合わせたセルフサービスを実現してきました。

もともとSBI証券では、扱う商品の種類が多く内容も複雑であることから、セルフサービス用に数千ものFAQページを用意していたそう。

しかし、手間と労力の割には、顧客に読まれない状態が続いていました。

河田氏「『サイトのこの場所にFAQがあったらいいだろう』と判断して表示しても、お客様から『これ邪魔なんですけど』と指摘されたこともありました。

お客様が必要なときに、適切な情報を提供しなければ意味がない。そう気づいてからは、KARTE RightSupportで顧客のつまずきを分析しながら『いつ、どのように届けるのか』の試行錯誤を重ねてきました」

具体的に行った施策の一つが、特定のエラーメッセージを受け取った顧客に対してチュートリアルを表示するもの。

顧客がWebサイトで株を注文する際に、「注文株数が必要な売買単位に満たない」という旨のエラーメッセージを受け取ったことを検知。受け取った顧客に対し、解決方法を伝えるチュートリアルを表示しています。

顧客の画面上に表示されるわかりやすいチュートリアルによって、顧客の自己解決を促進。それまで多かった売買単位にまつわる問い合わせは大幅に減少しました。

参考記事:「顧客の状況に合わせたスムーズなサービス利用をサポート。カスタマーサポートでのKARTE活用事例9選

他にも、顧客が「投資信託」にまつわるページを見た直後に問い合わせページに遷移した際、投資信託に関するFAQへのリンクをポップアップで表示する施策などを行っています。

さらにSBI証券もKCSをもとに、お客様の声をナレッジコンテンツに反映する仕組みを整えているそうです。

河田氏「弊社では、オペレーターが直接修正する代わりに、加筆や修正の必要性を感じたら、修正依頼を出せる仕組みを採用しています。

修正依頼は、管理者にメールでリアルタイムに配信されるので、そこから修正依頼の多いものを洗い出し、社内ナレッジやFAQを修正します。

お客様の“生の声”、それらと常に向き合っているオペレーターの声を、なるべく反映することを心がけています」

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株式会社SBI証券カスタマーサービス部長 河田 裕司

セルフサービスの先進企業に共通する、お客様の声を聞く姿勢

堀野氏、河田氏の取り組みを聞き、KARTE RightSupportを開発・運営する株式会社RightTouchの野村は、「優れたセルフサービスを実現している企業は、主語が自社ではなく、お客様にある」と話します。

野村氏「『お客様がなぜここでつまずいたのか』といったトピックについて、日頃から沢山議論されている企業が多い印象です。

お二人のように、1日に数十万人、数百万人と訪れるようなサイトだと、一人ひとりを見るのはなかなか難しいかと思います。それでも、特定のページごとに数人から十人くらいの単位では、行動を一人ひとり分析し、改善に活かしていらっしゃる。

そうした姿勢で日々改善するからこそ、よりよいセルフサービスを実現できているのだと感じます」

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株式会社RightTouch 野村 修平

野村の話を受け、株式会社プラスでカスタマーサポートを含むデジタル戦略を担う山口氏は、セルフサービスにより集まる声をプロダクトや事業にも活かすことの重要性を指摘します。

山口氏「コールセンターやサポートを担う部署が、セルフサービスを導入して、効率化や体験向上を実現できるのは素晴らしいことです。ですが、そこで満足して、情報が寸断されてしまうのはもったいない。

自己解決のための仮説検証で集まったデータや顧客の声を、マーケティングやプロダクト開発にも反映することで、より顧客に価値を還元できるはずです。

プラスでは、そのためのデータ戦略やシステム改修も含めて検討を進めています」

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プラス株式会社デジタル統括部門長 山口 善生氏

実際にプラスでは「『VOC(Voice of Customer)』を聞く会議と題し、顧客の声をもとに、サービスやプロダクトの改善にまつわる意思決定を行ってきました。

山口氏「数千本の問い合わせ電話を1ヶ月ごとに棚卸し、会議では特にニーズの高い問い合わせをピックアップし、経営陣含む50名ほどで聞きます。

聞くだけではなく、改善策の決定まで行います。たとえば『Webサイトのここがわかりづらかった』といった声を受け、その場でユーザーインターフェースの改修を決めたこともあります。」

最後に選ばれるのは、“本当に困ったときにサポートしてくれる”企業

当日のパネルセッションは、カスタマーサポート業務に携わる参加者からの質問も取り入れながら、進行しました。なかでも数多く集まっていたのが「『コスト削減』以外のセルフサービスの価値を、どのように経営陣、社内にも共有していくのか』という質問です。

山口氏は、活動を通して「コスト削減以外に何が起きるのか」を明瞭化する重要性を指摘します。実際にプラスでは、ビジュアルを用いてセルフサービスの拡充によるメリットを提案したそうです。

山口氏「これからどのような未来が訪れるのか、とりわけDXが進むことで、私たちの取り組むべきことがどう変わるのか。デザイナーの力も借りて、4コマ漫画のような形で経営陣に伝えました。文字以外の方法も用いてコミュニケーションを図ることで、理解してもらいやすくなると思います。」

また、auじぶん銀行の堀野氏は、顧客の満足度向上ひいてはどのくらいの収益効果につながるのかといったアウトカムについて、経営陣に共有することを大切にしています。

堀野氏「CS本部では、ブランド構築やブランド貢献を本部の目標・役割として掲げています。ですので、私たちは顧客からの評価に貢献しているのだと伝えていくことは重視してきました。HDI-Japanの格付けのような外部評価も、社内に品質を証明し、必要なリソースを確保する上で役立っています。」

同じくSBI証券の河田氏も、カスタマーサポートが一つのブランドになると捉え、社内に価値を証明していこうと取り組まれています。

河田氏「究極、提供する商品も手数料もほぼ一緒となったとき、お客様が何を基準に会社を選ぶのかというと、本当に困ったときに、ちゃんとサポートしてくれるかに尽きると思うんです。その意味で、オペレーターの電話対応一つひとつは、私たちの商品の一つです。

だからこそ、コスト削減という観点だけで経営陣を説得するのではなく、お客様に届けるサービスをよくするために必要だという認識を、社内に広げていくことが大切なのだと思います。」

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当日は、参加者も交えてWebサポートやKCSなどのテーマ別にディスカッションも行われ、各テーブルで熱い議論が交わされていました

イベントの内容からは、問い合わせ前の顧客行動を把握し、最適なサポートを提供すること、問い合わせをした顧客の声を聞き、改善に活かすメカニズムをつくること、一つひとつの対応が“最終的に選ばれるか”を決めるという認識で取り組むことなど、顧客体験の向上に寄与するセルフサービスのためのヒントが伺えました。

今後もRightTouchでは、サポート体験向上に取り組む実践者が、学び、交流する機会を作っていきます。イベントやセミナーへの参加に興味をお持ちの方、あるいはKARTE RightSupportの導入に関心をお寄せの方は、以下のURLから気軽にお問い合わせください。

https://rightsupport.karte.io/#form

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