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顧客の体験向上と売り上げアップを両立するには?アダストリアとZOZOによるKARTE活用のポイント|Apparel Night

2023年6月15日、アパレル業界のKARTE Friends向けのミートアップ「アパレルナイト 売り上げアップにつながるお客様の体験づくりって?」を開催しました。株式会社アダストリアの上田航大さんと藤田智貴さん、株式会社ZOZOの坂間譲二さんにご登壇いただき、二社がECサイトやアプリでどのようにKARTEを使って成果につなげているのか。KARTEの活用において大切にしている考え方や、具体的な施策の事例を共有いただきました。

2023年6月15日、アパレル業界のKARTE Friends向けのミートアップ「アパレルナイト 売り上げアップにつながるお客様の体験づくりって?」を開催しました。アパレル業界に特化したオフラインミートアップは約4年ぶりです。

今回登壇してくださったのは、株式会社アダストリアの上田航大さんと藤田智貴さん、株式会社ZOZOの坂間譲二さん。

二社がECサイトやアプリでどのようにKARTEを使って成果につなげているのか。KARTEの活用において大切にしている考え方や、具体的な施策の事例を共有いただきました。

「本当にお客様のためになるのか?」を念頭に置いて施策を実行

アダストリアは、衣料・雑貨・家具など30以上のブランドを展開しています。各ブランドの出店する公式WEBストア「 .st(以下、ドットエスティ)」も運営しており、2023年5月時点で会員数は1600万人、アプリのダウンロード数は2023年1月時点で約800万DLに上ります。

上田さん、藤田さんの所属する「パーソナライズデータチーム」では、ドットエスティのサイト全体のUX改善からMAの運営、Web接客、データ分析などを担ってきました。

チームでは、パーソナライズを推進する取り組みのコンセプトに「十人十色の接客が提供されているECサイトを作る」を掲げています。

上田さん「お客様のニーズを把握するのはもちろん、それらを超える接客を提供したいと考えています。単に私たちの売りたいものを訴求したり、他社のやり方を闇雲に真似したりするのではありません。『本当にお客様のためになるのか?』という観点を忘れず、お客様の声を聞き、ニーズに寄り添う施策を行うことを意識してきました」

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“本当にお客様のためになる”施策を実現するために、アダストリアでは3年前にKARTEを導入。現在では、大きく二つの目的でKARTEを使っていると上田さんは話します。

上田さん「一つ目は、サイトでのお客様のサポートです。セールやクーポンの訴求、お気に入り機能や店舗スタッフのコーディネートをフォローする機能の案内など。お客様がお得かつ便利にサイトを使うための情報を、さまざまな施策を通して届けています。

二つ目は、データの活用です。KARTEに蓄積されるお客様の行動データをもとに詳細なセグメントを作成。KARTEやMAツールで、よりお客様のニーズや状況に沿った施策を実現するために活用しています」

体験の全体像を捉えるカスタマージャーニーの活用

二つの目的に沿って、KARTEを使ってさまざまな施策を行ってきた上田さん。手応えや成果を感じると同時に、1年ほど前から新たな課題も感じていたそうです。

上田さん「施策のアイデアは湧いてきますし、KARTEを使ってやりたいことも増えている。けれど、それぞれの施策を“点”で捉えてしまっているなと感じていました。一つひとつの施策がお客様の“線”の体験にどうつながるのか、体験全体がよくなっているのかという観点が足りていないと思っていたんです。

加えて、1年前から藤田もWeb接客の担当としてKARTEを使い始めました。施策を考案してもらうにあたって、『お客様にどのような体験を届けたいのか』という全体像を共有する必要があるとも考えていました」

そこでチームが取り組んだのは、ドットエスティのカスタマージャーニーの作成です。プレイドのカスタマーサクセス担当の協力も得ながら、実現したいジャーニーを整理しました。

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具体的には、顧客の「来訪」から「使う」までを5つのステップに分けて、各ステップにおける顧客の「気持ち」と「ペイン」、サイトにおける「接点」と「施策」を整理しました。

藤田さん「まずは、お客様の気持ちとペインから洗い出しました。たとえば、来訪フェーズでは『あの商品がほしい』というお客様の気持ちに対して『実際、何のブランドがあるのかわかりにくい』といったペインが想定できます。

続いて、サイトの接点についてはドットエスティのサイトやアプリに搭載している機能や配信しているメールなど、お客様がサイトを訪れるきっかけになり得るものはすべて書き出しました。

ツールや成果などを問わず、過去から現在までに行った施策をくまなく洗い出しました」

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完成したジャーニーを眺めてみると、顧客が商品をカートに入れた後の施策が少ないことが見えてきました。そこに改善の余地があると考えたチーム。以下のような施策を考案・実行していきました。

ドットエスティでは5W1Hに沿って施策を整理しており、イベントでも各施策の5W1Hとともに概要を共有してくれました。

カート落ちのフォロー施策

一つ目は、カートに商品を入れたままサイトを離脱した顧客に、ポップアップでカート画面を案内する施策です。

  • いつ:顧客の来訪時に
  • どこで:サイトのトップ画面
  • 誰に:カートに商品をいれたまま離脱した顧客
  • 何を:「お買い忘れはございませんか?」 「カート内に商品が残っています」
  • どうやって:ポップアップでカート画面に遷移させる

KARTEでポップアップのクリエイティブのABテストも実施。結果として、片方のクリエイティブではクリック率も14.4%を達成しました。これまでKARTEで実施したポップアップ施策の中でも、特に高い数値となったそう。

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購買後のアプリダウンロード・クーポン訴求

二つ目は、サイトでの購入完了後に、アプリのダウンロードやクーポンの訴求を行う施策です。

  • いつ:購入完了したタイミング
  • どこで:購入完了の画面内
  • 誰に:
    ①会員登録をしているが、アプリの利用がない未DL者
    ②アプリを利用しているが、LINE未連携の顧客
  • 何を:
    ①買った商品をアプリですぐに確認!今すぐDL
    ②次回使える500円クーポンをゲット!
  • どうやって:ポップアップからストア・LINE連携ページに遷移

アプリのダウンロードを案内するポップアップは、クリック率が1.5%と結果は奮わずでした。一方、LINE連携によるクーポンを案内するポップアップはクリック率が5.7%に。前者よりも良い反応が得られました。

藤田さんは「『次回のお買い物で使える』という訴求が、お得にお買い物をしたい方に届き、クリックにつながったのでは」と仮説を立て、引き続き施策の検証を続けているそうです。

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藤田さん「このようにお客様の体験や行動を線で捉え、それに沿った施策アイデアを考案できるようになりました。ジャーニーを見ているとアイデアはどんどん湧いてきますので、対象となるお客様の規模や実装工数などによって、施策の優先順位を決めることも意識しています」

また、個別の施策だけでなく“線”の体験を意識して施策を行うために、KARTEのカスタマージャーニー設計機能「Journey」にも注目しているそう。Journeyは、複数の施策が連動した体験全体を俯瞰しながら、各施策を設計・実装、検証できる機能です。

参考記事:”点”で考えていた接客を”線”でつないで考えられるように。KARTEの新機能「Journey」が目指す接客体験

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JourneyなどのKARTEの機能を駆使しながら、上田さんと藤田さんが目指すのは「データと体験を“線”でつなぐこと」です。

上田さん「ドットエスティでは、Web接客以外にも複数の取り組みや施策を行っています。これらを、お客様がサイトを訪れて商品を購入するジャーニーのなかでどう位置づけ、よりよい体験を実現していくのか。体験全体の“流れ”を大切にしたいと思っています。

そこで鍵になるのはデータだと考えています。レコメンドやWeb接客、メール配信など、それぞれのデータを連携することで、よりお客様の理解も進み、適切な接客を提供できるはずです。

データと体験を“線”でシームレスにつなぎ、お客様一人ひとりのニーズを捉え、それらを超える接客を届けていきたいです」

施策に対する顧客の“戸惑い”に気づき、ケアする大切さ

続いて登壇したのは株式会社ZOZOの坂間譲二さんです。ZOZOでは2018年からKARTEを導入。複数の部署で活用、プロモーション施策だけではなく、カスタマーサポート施策もKARTEを使って実施しています。

坂間さんの所属するプロモーション部の顧客戦略ブロックでは、ファッションEC「ZOZOTOWN」でのKARTE活用に加えて、部署を超えた運用も統括しています。

運用のミッションとしては「KARTEの特性を最大限に活かし『最適なお客様』に『最適なタイミング』で『最適なコンテンツ』を提供することで、サイト内でOne-to-Oneコミュニケーションを強化する」を掲げています。

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顧客戦略ブロックでKARTE活用を率いる坂間さんは、少し前にテスト的に検証したプロモーション施策からの学びを共有してくれました。

ZOZOTOWNでは、2022年の秋にスポーツ系アイテムを購入した顧客にポイントを10%還元するキャンペーンを実施したそうです。

坂間さん「過去の分析から『今まで買ったことのないカテゴリ』の商品を購入したお客様は、LTVが向上するという傾向がわかっていたため、普段購入しないカテゴリを探すきっかけを届けたいと考え、キャンペーンを企画しました。

また、ポイントを還元することで、お客様に再びZOZOTOWNを訪れ、お買い物をしてもらえたらという狙いもありました」

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結果として、キャンペーンにエントリーして条件を達成した顧客は、想定していた通りに獲得したポイントを使い、一定期間内での購入回数は増加したそうです。

一方で、キャンペーン期間中にエントリーした顧客全体の購入状況を見てみると、比較対象の顧客グループと比べ、想定に反して購入が伸び悩んでおり、意欲はあったものの途中で購入を断念してしまう顧客も一定数いた状況だったとのこと。

坂間さんは、「キャンペーン内容の一部がわかりにくく、お客様に戸惑いを与えてしまったかもしれない」と考え、施策の流れを顧客の目線で振り返りながら「戸惑いポイント」を洗い出していきます。

坂間さん「施策の流れは、お客様がサイトに来訪した際にKARTEバナーでキャンペーンの訴求を実施。遷移先のページにて、エントリーの案内と、キャンペーン内容の説明を表示しました。

キャンペーンの適用条件は、『エントリーボタンを押してエントリーした後、期間中に対象商品(スポーツアイテム)を1点以上購入で後日10%分のポイントを還元する』というもの。

まずお客様が戸惑ったポイントだと想定したのが、キャンペーン対象商品である『スポーツアイテム』とは何かがわかりづらかったのではないかという点です。また、気になる商品がキャンペーン対象商品なのかをページ内で確認する方法についても、より丁寧に案内できたかもしれないと感じました。

他にも、対象商品と対象外商品の併せ買いに関するキャンペーン条件など、お客様が戸惑い可能性があるポイントはいくつか挙げられるかと思います。

今回はテスト実施ということで開発工数を少なく実施することを優先したという背景がありましたが、改めて、戸惑い可能性があるポイントを丁寧に潰した上で実施する重要性を感じました」

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坂間さんは検証の結果から、施策に対する定量的なデータだけでなく、主にマイナス体験を検知するという意味で、定性的な情報や顧客の声を聞くことが必要であると実感したと言います。

坂間さん「お客様が戸惑っているかもしれない可能性を、素早く検知して改善できれば、お客様の購入体験をさらに向上することが出来ると考えます。

そうした戸惑いは、ページビューやクリック率といった定量のデータだけでは、把握が難しく、想像するしかない部分もあります。『戸惑っている』や『わからない』といった、お客様の定性的な情報を取得できれば、より実態に近い形でお客様の反応や状況をキャッチアップできるのではないか。それがキャンペーンや施策の精度、その先にある顧客体験を高める上で重要なのではないかと思ったんです」

「Moment Reaction」で、その“瞬間”の顧客の反応を知る

坂間さんが顧客のリアルタイムの反応や状況を把握するために、有益なのではと期待しているのがKARTEの「Moment Reaction」です。

Moment Reactionとは、表情のアイコンをタップするだけで、顧客がどう感じたのかを表明できる機能です。接客を受けたとき、コンテンツを読んだとき、商品を購入したときなど。さまざまな“瞬間”の顧客の反応を知ることができます。回答された内容はSlackなどでチームに共有することも可能です。

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参考記事:Moment Reaction(β版)機能をリリースしました

坂間さん「キャンペーンの配信と合わせて、モーメントリアクションで簡易サーベイ
を実施し、お客様の反応を社内に共有する仕組みをつくりたいと考えています。

そうすれば、お客様が戸惑いを感じた場合に、すぐに検知し、必要に応じて問題点を解消できる。仮にキャンペーン中に改善が完了できなくても、次回の実施時には確実に問題点を潰すことができます」

坂間さんは、「プロモーション施策には企業目線で『あれを伝えたい、これをやりたい』という思いが先行しがちですが、そこに『お客様の体験を悪くする要因がないか』という視点を持つことと、それを確かめる仕組みを作ることが大事ではないか」と話します。

坂間さん「ポイント還元など、お客様にとってお得なプロモーション施策を行うと、基本的には売上の向上など一定の効果は出ます。ただし、定量的な数値だけを見ていると、実際は一部マイナス体験を引き起こしているのに、それに気付かず上手くいっていると錯覚してしまうケースもあります。より実態に近い状況を把握するための仕組みを整えるというのは、顧客体験の質を高めるうえで非常に大切なのではないかと考えています」

KARTEの習得や部署横断での利用。チームに活用を広げるコツ

セッション後の質疑応答の時間では、チームでのKARTE活用が話題に上りました。

アダストリアの藤田さんは「1年間でどのようにKARTEの使い方を学んだのか?」という質問に対し、3つの方法を紹介します。

藤田さん「一つ目は、上田さんの施策を参考にして、設定の仕方などを学ぶことです。そこから他社のサイトやアプリのクリエイティブや訴求の仕方も参考にしながら、施策をアレンジするようになりました。

二つ目は、施策を立案するための考え方を学ぶことです。先ほどご紹介した「5W1H」を取り入れて、施策を考えていきました。むやみに施策を行っても効果にはつながりませんから。そもそもの施策の目的や解決すべき課題の捉え方、考え方についても磨いていくよう心がけました。

最後に、プレイドさんのサポートも存分に活用しました。隔週で定例を実施し、施策についても沢山アドバイスをいただいたので、随時取り入れていきました。加えて、KARTEのサポートサイトやCX Clipに掲載されている導入事例には目を通し、業界問わず活かせる部分がないかを常に考えるようにしていました」

藤田さんの活用をサポートする側の上田さんは「『お客様を見ること』の大切さを伝えること」と「エンパワーして任せること」を意識していたそうです。

上田さん「藤田も私と同様に店舗で働いた経験がありますし、そもそも私たちだっていち消費者。自分自身が『体験してよかった』と思う接客は、積極的に取り入れるようにアドバイスしていました。もちろん自分だけの視点に偏らないように、ECサイトに常設しているお客様アンケートの声も常に見るよう伝えていました。

その上で、藤田によく話していたのは『本当にお客様に迷惑がかからないことだったら基本的に何でもしていいよ』ということ。チャレンジする気持ちを失ってほしくないと思っていますし、KARTEは気軽に仮説検証を回せることが強み。『やりたい』と考案してくれた接客は、まず一回やってみようかと背中を押すよう意識していました」

続いて、ZOZOの坂間さんには「部署横断でKARTEを活用する際に、どのように施策の質を保っているのか?」という質問が挙がりました。

坂間さんは「今後もっと質を上げていきたいと考えている」という前提で、現在の取り組みについて教えてくれました。

坂間さん「まず私を含め、以前から活用を推進してきた担当者の知見を共有したうえで、活用方法や設定についてレギュレーションを設けました。

最初から全員に、タグやイベントの設定などの権限まで渡してしまうと、それぞれがやりたいように施策を配信して、収拾がつかなくなる可能性がありますから。最低限のレギュレーションを定めるのは重要かと思います。

また、月に一度、活用に関わるメンバーが集まって、実施した施策の成果や翌月に行う施策の共有を行っています。互いにナレッジも共有できますし、施策について懸念や問題点がないかも、その場で確認できます。

加えて最近では、弊社の品質管理部のメンバーにも定例に参加してもらっています。品質管理部はサイトやアプリの仕様や機能について、リリース前やリリース後にバグや不具合が生じていないか等のさまざまなチェックを行う部署です。

こうした複数のチェック体制を設けることで、活用の幅を広げつつも、ベースのクオリティを維持できているのではないかと思います」

坂間さんは、施策の質向上に向けて、今後はナレッジの共有にも力を入れていきたいと話します。「プレイドさんの意見はもちろん、今日ここにいらっしゃるKARTE Friendsの皆さんの事例も参考にできたら嬉しいです」と会場に呼びかけていました。

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セッションと質疑応答の後は交流会の時間!アパレル業界のKARTE Friends同士、KARTE活用の取り組みや施策について、情報交換や議論が盛り上がっていました。

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プレイドでは、アパレル業界の知見豊富な専門のカスタマーサクセス担当が、KARTEの活用をサポートする体制を整えてきました。今後も、サイトやアプリでの体験向上はもちろん、事業課題の解決も見据えて、支援を拡充していきます。アパレル業界のKARTE Friendsとの交流機会もつくっていく予定ですので、ぜひ次回の開催も楽しみにしていてください!

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登壇資料

株式会社アダストリア

株式会社ZOZO

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