コスメブランド「THREE」が顧客基盤を一新 店舗・EC・アプリで生み出す、パーソナルな顧客体験
日本発のグローバルブランドとして存在感を高めるコスメブランド「THREE(スリー)」。店舗、オンライン双方のタッチポイントを持つTHREEにとって、顧客コミュニケーション基盤のアップデートは、どのような意味があるのか? THREEを展開するACROの久保田氏と、KARTEを提供するプレイドの内山氏に話をうかがった。
日本発のグローバルブランドとして存在感を高めるコスメブランド「THREE(スリー)」。洗練されたシンプルなデザインと成分にこだわり抜いた製品群を取り揃え、性年代問わず、多くのユーザーに支持されている。そんなTHREEでは2024年、従来使っていたCDP、MAをフルリプレイスする形で、顧客コミュニケーション基盤として「KARTE」を導入。一つのツールで統合的に顧客コミュニケーションを管理し、顧客体験価値の最大化を目指しているという。店舗、オンライン双方のタッチポイントを持つTHREEにとって、顧客コミュニケーション基盤のアップデートは、どのような意味があるのか? THREEを展開するACROの久保田氏と、KARTEを提供するプレイドの内山氏に話をうかがった。
(この記事は、翔泳社「MarkeZine」で2024年11月7日に公開された記事を転載しています)
天然の精油を軸に、様々な商品を展開する「THREE」
今回は「THREE」が顧客コミュニケーション基盤を一新するという大きな決断を下した背景にあった課題意識と、刷新の先に描いている顧客体験の理想像についてうかがっていきます。最初にこれまでの簡単なご経歴含め、現職でどのような業務やミッションを担っているのかをお聞かせください。
久保田:まずTHREEというブランドについて簡単に紹介します。THREEは 天然の精油を配合したスキンケア と、一人ひとりのお客様自身の美しさを引き出す モードなメイク という二つの要素を掛け合わせたブランドです。スキンケアやメイクなど、それぞれに特化したブランドが多い中、異なる要素を総合的に提供するブランドとして、幅広い種類の商品を展開しています。2023年11月からは、精油のみで香りを構成したフレグランスの展開も開始しました。香りを軸とした様々な商品をお客様にお届けすることを目指しています。
THREEの商品ラインナップ(一部)
久保田:その中で私は現在、ストラテジーとCRMという二つの領域を担当しています。ストラテジー領域では、データ分析を通じたマーケティング支援を、もう一方のCRM領域では、各顧客接点における関係性強化の仕組みづくりを担っています。各チャネルでの既存のお客様へのコミュニケーションや来店機会の創出などを行っています。
株式会社ACRO マーケティングDiv CRM・ストラテジー チーム マネジャー 久保田貴晴氏
内山:私はTHREEで活用いただいているCXプラットフォーム「KARTE」を提供しているプレイドで、セールスマネージャーとして、主に 化粧品企業の顧客体験(CX)向上 を支援しています。前職では、約10年間大手化粧品メーカーのマーケティング部門に所属し、戦略プランニングや社内の関係者との調整に携わってきました。そこで培ってきた事業側の視点を活かしながら、KARTEの導入・活用の支援を行わせていただいています。
デパコスブランドでも高まる、EC・アプリの重要性
THREEでは、実店舗のほか、ECやアプリも展開されています。実店舗を持つデパコスブランドにおけるECやアプリの意義をどう捉えられていますか? 近年のデパコスブランドが置かれている市場動向などを含めて教えてください。
内山:私からは市場全体の話をします。コロナ禍以前、高価格帯化粧品市場の成長は 百貨店でのインバウンド需要 に大きく依存していました。しかし、コロナ禍により状況は一変。多くのブランドは 国内の既存顧客の重要性 を再認識しました。継続的なブランド成長のためには、既存顧客の購買履歴や嗜好といったカスタマーデータを蓄積し、顧客をより深く理解する必要がある といってよいでしょう。
コロナ禍では デジタル化も加速 しました。これまでカウンターでの丁寧な対面接客を強みとしていたブランドも、紙ベースの顧客管理からデジタルシステムへの移行を迫られました。結果として、ECは顧客との継続的な関係を維持するための重要な接点 となっています。
株式会社プレイド Sales&Origination Sales Manager 内山正信氏
久保田:紙ベースの顧客管理では、お客様とのコミュニケーションも店舗内に閉じたものになり、複数店舗を展開するブランドでは課題がありました。顧客情報を一元管理することで、ブランドからの一貫したサービス を受けられるようになります。
内山:一方でデジタルの顧客管理としてたとえばアプリに注目する場合、アパレルなど多くの業界ではアプリは 会員カードの代替 として活用されています。しかし、化粧品業界ではその取り組みはまだそれほど一般的ではありません。化粧品はアパレル製品よりもさらに消耗品としての性質が強く、使い切り期間があります。そのため、顧客の 継続的な利用を促す ことが非常に重要であるにもかかわらず、アプリを活用した顧客管理や継続購入の促進がまだ十分に浸透していないのが現状です。
店舗・EC・アプリで生み出す「THREE」のブランド体験
では、そうした背景もある中、THREEのマーケティング戦略全体の中におけるECやアプリの位置づけ、役割について教えてください。
久保田:THREEは百貨店を中心とした事業展開をしており、売り上げの大きな割合をリアル店舗が占めています。その中でECは商品を購入していただく場としての役割に加え、お客様に商品情報を閲覧いただき、実店舗への来店を促すカタログ 的な要素も大きいと考えています。また、店舗接客ではなかなか伝えきれない、商品の背景や作り手の想いなどもコンテンツを通じて伝えることが可能です。
アプリは、2019年よりスタートしました。月間利用者数としては約10万人となっています。現在は、店頭の会員管理機能 が一つの軸となっており、お客様が店頭に来店された際、アプリでバーコードを提示いただくことで、過去の接客履歴を参照しながらサービスを提供しています。これにより お客様を深く理解する ことが可能になり、適切な商品を提案できると考えています。さらに、新商品の発売情報や商品の背景、作り手の想いをお知らせする情報伝達ツールとしても活用しています。
「THREE」アプリ
実店舗やEC、アプリがある中で、THREEが理想とする顧客体験とはどのようなものですか?
久保田:一人ひとりのお客様が求める情報を適切なタイミングで届ける、パーソナライズした体験 です。過去の購入履歴に基づいて、購入した商品と関連する商品が発売される際にはいち早くその商品をお試しいただけるサンプルをお渡ししたり、商品開発の背景などより深い情報をお知らせしたりといったきめ細やかな接客が体験の質を左右すると思います。一律の情報提供を行う形では、お客様の好みや関心と合致しない場合も出てきてしまうと考えています。
チャネルごとの部分最適の弊害を感じ、KARTE導入を決定
理想の顧客体験を追求するにあたって、課題はありましたか?
久保田:アプリのプッシュ通知、メールマガジン、LINEなど、それぞれのチャネルでツールを個別に導入・運用していたため、社内での情報共有や統一的な運用が難しく、連携が図りにくい と感じていました。また、各ツールで配信の結果を同じ基準で比較できない 点も課題でした。
さらに、情報管理の観点からも問題がありました。各ツールで顧客情報を個別に保持するということは、情報の管理が難しくなり、個人情報管理のリスク も高まります。また、ポイント制度など新たな制度やサービスを導入する際も、すべてのツールに個別に情報を追加しなければならず、開発工数が増大する懸念もありました。
これらの課題を解決するためには、個別最適ではなく、全体で見ていく必要があります。そのためには顧客コミュニケーション基盤を一新し、ツールを一つにまとめることが有効だと考え、KARTEを導入することにしました。一度データを連携すれば、すべてのチャネルで施策を実行でき、アプリ向けやメールマガジン向けといった個別開発の必要がありません。トータルで開発コストが少なくすむところもKARTEに決めた大きな理由のひとつです。
パーソナライズした顧客コミュニケーションを実現
KARTEを使った具体的な取り組みの成果をお聞かせください。
久保田:パーソナライズしたコミュニケーションの実現が最大の成果だと考えています。たとえば、特定の商品を購入いただいたお客様に対して、使用方法の案内や使い切るタイミングでの次の提案など、一連のステップコミュニケーションを効率的に行えるようになりました。お客様が本当に求める情報を適切なタイミングで届けられる 基盤が整いつつあると実感しています。
久保田:また、メールマガジンにおいても、お客様に合わせた情報を届けることで、リアクションに直接結びつく、より効果的なコミュニケーションが実現できています。
そして、各ツールの成果を可視化し、比較できるようになりました。メールマガジンとアプリのプッシュ通知の効果を、同一の画面上で一覧化して確認できるようになっています。これまでは、設定に手間を取られて実施するだけで精一杯だったのですが、A/Bテストなども簡単に実施できるようになり助かっています。次のアクションをより迅速かつ効果的に計画・実行できるようになりました。
配信レポート画面。メール・アプリプッシュ通知のクリック数や配信後のCV数が横並びで比較できるようになった
他のメンバーの反応はいかがですか?
久保田:KARTEはツール活用に苦手意識を持つメンバーも含め、各メンバーが自らマニュアルを参照しながら操作を学べるほか、チャットサポートも非常に的確な回答を提供してくれます。部署異動などがあってもスムーズに引き継ぎできそうです。
このように設定や運用に関する習熟のトレーニングコストを抑えられたことで、結果的に顧客体験の向上により力を入れることができています。
業界専門チームが支援 KARTEで目指すCX向上
久保田:私たちがKARTEで成果を出せているのは、何よりご自身が 化粧品会社で経験を積み、業界のマーケティングに精通している内山さんを中心に支援体制を組んでいただいていること が大きいです。業界の事情と企業の状況把握に基づいた提案により、話をスムーズに進められることはもちろん、私たちの課題に適した支援を受けられています。
たとえば、ECを改善するとなった際、通常であればEC上での売り上げを最大化するための施策について提案されがちです。ですが、先述の通り、THREEの売り上げの大部分はリアル店舗が占めており、いかに店頭で商品を体験していただけるか、オンライン接点によってどう店頭に来ていただけるか が重要なんです。そのため、EC上での売り上げを最大化するだけではブランド全体の課題は解消されません。そういった事情をわかったうえで、ブランド体験全体を考えた提案をしていただけるのは非常にありがたかったです。
内山:そうおっしゃっていただけると、私としてもすごく嬉しいです。プレイドでは化粧品やアパレルなど 業界ごとに専門のチーム を組み、各業界の特性に合わせた提案やノウハウを蓄積する体制を整え、お客様の 事業全体を考慮した顧客体験の価値最大化 を支援しています。支援の際もこちらがご用意したメニューありきではなく、お客様との会話を大切にしながら一緒に作っていくという意識を持っています。
THREEの皆さまをはじめ化粧品に携わるマーケターの多くは日々お忙しく、内部環境の分析だけでも大変な状況かと思います。そんな皆さまへ、業界の先進的な事例の紹介やネットワークの構築など、社外の情報や知見を幅広い視点からご提供する、顧客体験の向上に関する相談窓口的な存在になりたいと考えています。
久保田:私たちも引き続き、お客様に適切な情報を届けるための戦略を加速させていく予定です。そのためにKARTEを活用して、顧客理解をさらに深めていきたいと思います。