ユーザーを深く理解し、アプリ利用の習慣化につなげる施策を発想。サントリーウエルネスのKARTEシリーズ活用

サプリメントやスキンケア商品などを製造・販売するサントリーウエルネスは、ユーザーの健康行動を促進するアプリ「Comado(コマド)」を提供し、顧客のウエルネスの実現を目指しています。KARTEシリーズの導入背景や活用の様子、ユーザー理解の歩み、今後の展望などを伺いました。

サプリメントやスキンケア商品などを製造・販売するサントリーウエルネスは、ユーザーの健康行動を促進するアプリ「Comado(コマド)」を提供し、顧客のウエルネスの実現を目指しています。

ユーザーがComadoの利用を継続し、健康行動を習慣化するためには、適切なタイミングでアプリの利用を促す必要があります。そのためには、多様なユーザーに対する深い理解や、パーソナライズしたコミュニケーションが不可欠。

同社は、こうした顧客とのコミュニケーションを実現するためにKARTE、KARTE DatahubRightSupport by KARTE (以下、RightSupport)などのプロダクトシリーズを導入。ともにユーザー行動を理解するプロジェクトも実施しました。

今回、サントリーウエルネス サービス事業部 吉野 奈那子さんとDX推進部 坂元 謙介さんに、KARTEシリーズの導入背景や活用の様子、ユーザー理解の歩み、今後の展望などを伺いました。

顧客の健康行動の習慣化をサポートし、ウエルネスにつなげるアプリ

まず、貴社の事業について教えてください。

吉野:
弊社は「ひとりひとりの『生きる』を輝かせる~体と肌と心のつながりを通じて~」というミッションを掲げています。その実現のために、お客様一人ひとりの健やかで、美しく、心豊かな毎日を「ウエルネスライフ」と表現し、その日々を送るお手伝いをしています。

サントリーウエルネスは、サプリメントやスキンケア・ヘアケア、健康グッズなどさまざまな商品をラインアップし、お客様一人ひとりにあった「ウエルネスライフ」の実現のためにお届けしています。それに加えて、2023年9月に商品をご購入のお客様に提供を開始したのが会員向けサービス「サントリーウエルネスクラブ」です。

この「サントリーウエルネスクラブ」のひとつの特典として、会員向けに無料で提供している健康行動アプリが「Comado(コマド)」になります。Comadoでは、日々の生活の中で簡単に取り組める健康行動の習慣化をサポートするために、毎日の健康行動をチェックする健康習慣機能や、5分からできるフィットネスレッスンの配信、健康に関するクイズや占いなどさまざまなコンテンツを提供しています。

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Comadoは、どういった経緯で開発することになったのでしょうか?

坂元:
これまでは、お客様と当社の主な接点は、商品の購買とお問い合わせ時の電話やメール程度で、年数回程度に限られていました。そのため、お客様の日常に溶け込むような、接点を毎週持つことができるサービスを開発することになりました。

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サントリーウエルネス DX推進部 坂元 謙介氏

Comadoはどのようにサービスを提供してきたのでしょうか。

吉野:
Comadoは、2022年10月にテスト版をリリースし、2023年9月に本リリースしました。本リリースに合わせて、サントリーウエルネスクラブにて、商品のご購入や毎日の健康行動でたまったポイントをさまざまなサントリー商品の割引に使えるポイント制度が導入されました。

Comadoでは、サントリーウエルネスの商品を定期購入いただいている方にむけて、Comadoで健康行動を記録いただくとポイントが貯まる機能を提供しており、これは私たちがお客様の「ウエルネスライフ」を応援したいことを示す機能にもなっています。本リリース以降、ユーザー数は着実に成長し、本リリースから1年でダウンロード数は60万人を突破しました。

どのような方がComadoのユーザーなのでしょうか?

吉野:
ユーザーはシニア層の比率が高く、これは当初から目指してきたことが結果につながっています。また、ダウンロード数は想定以上に伸びていまして、サントリーウエルネスのお客様は健康への関心が高く、健康のための活動を継続しているお客様が多いため、Comadoのようなアプリを求めていたのではないかと考えています。

Comadoのアクティブユーザーのなかにはサントリーウエルネスの商品が好きで、定期購入をされている方も多くいらっしゃいます。ただし、定期購入の契約期間の長さはあまり関係なく、契約期間が短い方もユーザーになってくださっていますね。

お2人が所属している事業部は、それぞれどのような役割を担っているのかを教えてください。

吉野:
私はサービス事業部に所属していて、坂元はITプロダクト推進部に所属しています。2つの部署で連携しながら、モノとサービスの両面からお客様のウエルネスの実現を目指しています。

サービス事業部では、サービスの提供を通してミッションの実現やお客様のウエルネス実感を高めることを目指しています。Comadoの企画だけでなく、サントリーウエルネスの商品を購買したお客様に対して、サントリーホールでのコンサートへの招待や「ザ・プレミアム・モルツ」のオンライン工場見学など、サントリーならではの体験を無料で提供する企画もしています。

坂元:
ITプロダクト推進部は、デジタルでの業務プロセスの進化やアジリティの高いシステム開発によるビジネス実現を行っています。

吉野:
サービス事業部はビジネスの観点で実現したいことを企画し、デジタルの観点で実現に取り組むのがITプロダクト推進部という役割分担になっています。

最初はアプリのオンボーディングやリテンションのためにKARTEを導入

ComadoにKARTEを導入した際の流れはどのようなものだったのでしょうか?

坂元:
サントリーウエルネスのECサイトでKARTEが導入されていたこともあり、そのつながりでComadoでも利用することになったようです。当初は、アプリにプッシュ配信の仕組みを実装するのには時間がかかるため、プッシュ通知を送るためのツールとしてKARTEを導入したと認識しています。

吉野:
私たち2人が入社したのは、KARTEの導入が決まったタイミングと同時期。導入が決まってからは、イベント設計などは2人で連携して担当していきました。

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サービス事業部 吉野 奈那子氏

坂元:
最初は、お客様に送付できる情報はとにかく送ろうと考えて、セグメント設計をしていました。アプリ訪問ユーザー全員に一律で、とにかくプッシュ通知をしようと考えていたんです。当時は、カスタムイベントなどの概念はあまり理解できていなかったですね。

少しずつ、KARTEを使ってポップアップなどの接客施策を試していくなかで、「このタイミングで接客したいよね」という視点や意見が出てくるようになりました。そのアイデアを実現するために、カスタムイベントなどの設定を考えるようになっていきました。

吉野:
初期はポップアップを出そうにも仮説がありませんでした。まずは、ユーザーのオンボーディングやリテンションのためにプッシュ通知をどのように配信するかを考えて、設定していました。

定量的にユーザーを理解し、習慣化の施策アイデアを発想する

ユーザーに対する仮説は変化していったのでしょうか?

吉野:
Comadoは健康行動の習慣化を促すためのアプリなので、アプリインストール直後の習慣化モチベーションが高いであろう初週にいかにアプリ利用を習慣化してもらうかが大事ではないか、という仮説を持って、ジャーニーをつくっていました。

ただ、本当にユーザーの習慣化にとって、初週が大事なのかは確かめられておらず、仮に仮説が正しいのだとしたら、どのように施策に落とし込めばいいのかがつかめていない状態。より深くユーザーを理解したいとなったときに、プレイドさんに協力してもらって進めたのが「ユーザー理解プロジェクト」です。

「ユーザー理解プロジェクト」について教えてください。

吉野:
ユーザーの習慣形成に至るまでのプロセスや行動に対する解像度を上げ、各フェーズで実施すべきコミュニケーションを設計できるようになることを目指して実施したプロジェクトです。プロジェクトは大きく3つのステップに分かれています。

まず、KARTEが計測したアプリログに対する定量分析を行いました。習慣形成に至るまでのフェーズを作成し、各フェーズにおける重要行動や離脱ポイントを把握。そのうえで、n1分析用ユーザーリストを作成しました。

続いて、当社のメンバーとプレイドさんのメンバーとでKARTEのユーザーストーリー機能を活用したn1分析を実施し、示唆を出し合いました。出てきた示唆を集約し、それをもとにコミュニケーション戦略や戦術を設計しました。

定量分析はプレイドさんに対応してもらったので、私たちの負担はKARTEのアプリのログデータを渡すくらいでしたね。

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吉野:
プロジェクトは、KARTEの施策を担当するCRMチームで推進しました。CRMチームの規模は社員が1人、パートナー2人ほど。加えて、開発担当にもプロジェクトに入ってもらい、出たアイデアを実現できるかどうかを相談して決めていきました。

KARTE Datahubを導入していたものの、CRMチームのケイパビリティ的にも、リソース的にも、しっかりとデータ分析ができていませんでした。今回、プレイドさんに分析の相談をして、短期間のプロジェクトにもかかわらずアウトプットまで出してもらえて非常に助かりました。

ユーザー理解プロジェクトを通じてなにか発見はありましたか?

吉野:
定量的なデータからもアプリインストール直後の「初週が大事」ということが確認でき、仮説が正しかったことが検証できました。初週のなかでも、特に「初回起動からの4日間」が大事であることもわかりました。以前からどのような状態を「習慣化ができている状態」とするのかはチームでも議論していたのですが、データの分析を通じて「習慣化できている状態」の定義が可能になり、離脱の兆しもつかめるようになっていきました。

ユーザー理解プロジェクトを通じてわかったことは、施策にも反映していきました。たとえば、Comadoは幅広い機能を提供していますが、初期に複数の機能に触れてもらったほうが、継続につながりやすい傾向があることがわかりました。そこで、まずは多くのユーザーにご利用いただいている毎日の健康行動を記録する健康習慣機能をポップアップで案内したのち、よいタイミングを見計らって、他の機能もポップアップで通知します。そうして他の機能にも触れると継続につながりやすくなり、数字としても成果が出るようになりました。

他には、2〜3日間アプリから遠のくと、ユーザーが戻ってくる確率が下がることも明らかになりました。もともと、仮説はありましたが、データで証明されました。データで裏付けられたので、やったほうがいいと考えていたアイデアを実行することにし、アプリから一定期間離れる前に、リテンションのためのプッシュ通知でお知らせをするようになりました。

チーム全員で仮説を考え、出てきた施策のアイデアをA/Bテストで試して、PDCAを回しながら改善を繰り返していきました。

ユーザー理解プロジェクトなどを経て、KARTEで実施する施策に変化はありましたか?

吉野:
プッシュ通知が効果的かどうかのチェックは早めに実施でき、寄与度が大きいことがわかりました。ただ、プッシュ通知は送るとブロックされる可能性もあります。どこまでリスクを考慮しながら、プッシュ通知をするかは試行錯誤しています。

通知の頻度やタイミングなどの検証も?

吉野:
配信の頻度やタイミングは、初期はいろいろと変えながら試してみて、現在は落ち着いてきています。通知回数は週3日、土曜の夜にはフィットネスの案内を通知しています。フィットネスはまとまった空いた時間に身体を積極的に動かしたい人が好むコンテンツなので、いろいろな時間帯を試した結果、土曜の夜がもっとも結果が出たのでその枠で定着しています。それ以外のコンテンツを通知するタイミングや回数は流動的ですが、基本は朝の時間のCTRが高いため、朝に送付することが多いですね。

Comadoの軸となるのは健康習慣機能なので、利用し始めたタイミングでお客様に健康習慣機能が定着するようにといろいろと試行錯誤しています。たとえば、前日に習慣を達成しているかどうかで通知の仕方を変えています。他には、励ましたり褒めたりする内容のメッセージをお送りするとCTRが高くなります。

現在、これまでの試行錯誤のなかでわかってきたことをジャーニーとしてまとめている段階です。健康は1日では実現しません。習慣を続けることで、身体や心が変わってくる。そうしてウエルネス実感にたどり着けるのですが、それは一朝一夕ではできないので、その前提でプロダクトを磨いています。

KARTEを導入して開発なしで仮説検証ができるように変化

開発の観点からKARTEに対する認識は変化しましたか?

坂元:
変化しましたね。今では、KARTEは重要な役割を担っています。以前であれば、施策を実現していくためには、常に何かしらの開発が必要でした。とはいえ、施策は仮説に基づくものなので、試してみたら効果がなかった、ということもあります。仮説段階の施策のためにコードに手を加えていたら、施策を止める際にも再度開発が必要になってしまいます。その状態では、不要なコードが残り続けると、開発する上でのノイズになってしまうこともある。開発側としてこれは大きな悩みでした。

KARTEを導入してしばらくして、CRMチームが実行したい施策はほとんどKARTEだけで実現できるということがわかってきました。コードに手を加えずに仮説検証ができるようになり、検証のために不要なコードが残ることもなくなりました。

先ほど話に出た初週のオンボーディング改善も、現在はコードに手を加えて本実装していますが、その前にKARTEでいろいろと仮説を試しているんです。コードを書かずに、KARTEで検証をしてから本実装に着手する流れになっていて、必要な開発案件に集中できるようになりました。

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吉野:
開発リソースが逼迫していると、なにか開発を依頼してからリリースまでに数ヶ月かかるということも珍しくありません。KARTEをつかえば、開発に依頼することなく、私たちが実行したい施策はすぐにリリースができるようになりました。

すぐに行動に移せるようになると、アイデアも生まれやすくなり、チームにも「とりあえずやってみよう」という空気が生まれてきました。まずは試してみて、だめだったら次のアイデアを試そう、と。

定期的に施策の結果を振り返る会議を実施していて、なぜうまくいったのか、なぜ結果が出なかったのか、を話し合っています。起案して、すばやく試して、結果が出たら振り返り、ドキュメントにも残して、試行錯誤の過程が社内に残るようになっています。

初期はオンボーディングの目的でKARTEを使っていたとおっしゃっていましたが、その後、使い方に変化はありましたか?

吉野:
変化しています。最近のテーマは「パーソナライズ」ですね。もともと、ユーザー向けのプッシュ通知やポップアップは、一律で配信していました。ユーザーの利用状況に応じて、コンテンツを出し分けたり、メッセージ内容を変えたりと、いろいろと試してみています。

坂元:
Comadoは多機能なので、すべてのユーザーが同じように使うわけではありません。そのため、お客様のニーズに応じて、提案や接客を変える必要があります。アプリのダウンロード数は増えてきたので、次はパーソナライズが課題ですね。

こうしたパーソナライズも、きちんと開発して実装しようとすると、かなりの時間がかかります。まずはKARTEを本実装前の位置づけで使ってパーソナライズの施策を試してみて、その効果をKARTEで計測しています。

吉野:
パーソナライズする際の軸としては、「ペイン」を検討しています。ひざのお悩みを抱えた方であれば、「ロコモア」という商品を買うなど、どの商品を購入しているかによって、お客様がどんなペインを抱えているかも変わります。

アプリでも、こうしたペインに紐づいたおすすめの健康習慣コンテンツを提案しています。ひざのお悩みを抱えているお客様に、そのペインにあったコンテンツを出すと、CTRが高いという結果も出ているんです。お客様のお悩みポイントであるペインを軸にパーソナライズしたコンテンツをお客様におすすめしていけるようにしたいですね。

また、Comadoは趣味などの興味関心に基づいたコンテンツも多いので、ペインに加えて趣味嗜好と掛け合わせて、パーソナライズした情報をお届けしていけるようにしていけたらとも考えています。

ヘルスケアのアプリとしても価値を高められている実感

ユーザーからの声やフィードバックはありますか?

吉野:
問い合わせ窓口宛てや、KARTEのアンケートでたくさんのお声をいただきます。「足が痛くて病院にもいけなかったけれど、Comadoを使っていたおかげかだいぶ楽になった」というお声が届いたときは、「Comadoをやっていてよかった〜!」と感じましたね。

コールセンターでのお客様のサポートは弊社が以前から注力していることもあり、喜びのお声を伝えるためだけの目的でお客様から電話をいただくこともあります。電話をいただいた際に、オペレーターがComadoのレッスンをおすすめすることもあって、コールセンターも一緒になってお客様のウエルネス実感のために働きかけをしています。

坂元:
最近では、Comadoの使い方に関する問い合わせ数も増えていて、同じ内容の質問が何度も寄せられることもあります。同じような質問は、問い合わせの前に解決できるようにしたいね、という話になってRightSupportも導入しました。コールセンターの業務を楽にするために、お客様の問い合わせ前の体験もよくすることに取り組み始めました。

Comadoに対して社内からもポジティブな声はありますか?

吉野:
初期は、社内でもあまり理解されない活動だったように思います。最近では、お客様とのひとつの接点であり、競合との差別化をはかるためのチャネルとして認識されるようになり、活用の相談も増えています。

坂元:
私たちの会社は顧客向けデジタルサービスを開発して運営した経験がなかったので、ここまでの規模感のアプリが提供できてきたのは一定社内からの評価にもつながっていると思います。
アプリを始める際にも、「メーカーがつくるアプリの基準を超えろ」という話は出ていました。アプリ単体の価値でも、他のヘルスケアアプリなどの競合に勝てるものを目指して開発を進めてきたので、現状の社内からの評価はありがたいですね。

多様な顧客に向けて、パーソナライズしつつも一貫したコミュニケーションを

最後に、今後の展望について教えてください。

吉野:
私はComadoアプリの集客も担当しています。お客様にとっての「ウエルネスライフ」は多様であり、アプリに求めるものや、どれくらい利用したいのかもさまざまです。アプリをさらに伸ばすためには、こうした多様なお客様のニーズに対応しなければなりません。アプリの入り口である集客施策からアプリ内のCRM施策まで、一気通貫したコミュニケーションを、パーソナライズしながら提供していけるようにしたいですね。

坂元:
Comado上で実施したCRM施策で得られたデータを、全社で活用できる仕組みを作りたいと考えています。Comadoを顧客接点の一つとして位置づけ、他の顧客接点と合わせて得られるデータをすべて統合します。そして、顧客一人ひとりに最適なコミュニケーションを、複数の接点を活用して実現できる仕組みを構築したいと考えています。

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