オンラインでも「一人ひとりに寄り添った上質な接客」を——CXのデジタル変革に挑むコスメデコルテがKARTEを導入した理由
コーセーのハイプレステージブランド「コスメデコルテ(DECORTÉ)」 。2023年8月の公式オンラインブティックリニューアルと同時に、KARTEを導入して取り組む「OMOによるパーソナライズされた接客」について伺いました。
株式会社コーセーのハイプレステージブランド「コスメデコルテ」は、2023年8月、公式オンラインブティックのリニューアルを敢行しました。リニューアル方針の一つが、店舗で実現してきた、コスメデコルテらしさを活かした「パーソナライズした接客」をEC上でも実現することです。KARTEを活用した顧客属性の分析や顧客行動の可視化に取り組み、一人ひとりのユーザーに洗練された接客を提供しようとしています。
今回お話をうかがったのは、ブランドの事業戦略を検討するDECORTÉ事業部 事業戦略推進課の福本典氏、KARTEを含むECサイト運用を統括する、コーセープロビジョン株式会社(KPV) ダイレクトビジネス室所属の山久保純氏。同ブランドが築き上げてきた「DECORTÉ品質」を守り、進化させるための「デジタル変革」の流れ、公式オンラインブティックのリニューアルの背景とKARTE導入の狙いに迫ります。
こだわりの「DECORTÉ品質」はそのままに、若い世代にもアプローチできるブランドへ
まずは、お二人の所属と役割を教えてください。
福本:私はDECORTÉ事業部の事業戦略推進課に所属し、主にブランド側の観点で公式オンラインブティックの戦略立案と運営を担当しています。
山久保:その戦略を受けて、公式オンラインブティックの運用全般を担うのが、私が所属するコーセープロビジョン株式会社(KPV) ダイレクトビジネス室です。私は公式オンラインブティックの運営リーダーとして、さまざまな施策の検討、共に運営を担うパートナー企業への依頼、結果の分析を担当しています。
お二人が運営を担っているコスメデコルテとは、どのようなブランドなのでしょうか。
福本:コスメデコルテは1970年に誕生したブランドです。ブランド名は「cosmétique(化粧)」と「décoration(勲章)」を融合させた造語で、コーセーの創業者である小林孝三郎の「真実の高級品をつくる」という哲学からこのブランドが生まれました。
「真実の高級品」とは、品質・肌効果・至福のひとときをお届けする独自の官能・接客・デザイン・パッケージの使い心地の良さに至るまで、すべて“高級”であるべきだという信念を表し、それを社内的には「DECORTÉ品質」と表現することもあります。
特に接客は「DECORTÉ接客」と称し、店頭に立つビューティコンサルタント(BC)のカウンセリングは体系的に整理されており、認知、分析、提案のフェーズごとに、取るべきアクションを共有。また、クレド(心構え、行動指針)を持って、お客さま一人ひとりの肌悩みやニーズに合わせ、きめ細かく対応するパーソナライズされた接客を行っています。
株式会社コーセー DECORTÉ事業部 事業戦略推進課 福本典 氏
ブランドの誕生から50年以上が経っても、こだわりは変わらないんですね。
福本:そうですね。しかし、変えてきたものもあります。もともとは40代以上の女性からの支持が厚いブランドでしたが、世代や性別の区別なく、多様なお客さまとの新しい接点をつくるべく、2018年にマーケティング戦略を強化しました。
「DECORTÉ品質」はそのままに、若い方でも手に取りやすいデザインや価格帯の商品を展開したり、男性にも興味を持っていただけそうなキャンペーンを展開したりしたことで、顧客層が大きく広がりました。
ブランドの「あるべき姿」を保ち続けるためのデジタル変革
2021年から取り組まれているデジタル変革も、時代に合わせたブランド戦略の一つでしょうか?
福本:おっしゃる通りです。背景には多様なお客さまとの接点が増えたこと、そして昨今の生活スタイルの多様化に加えてコロナ禍も重なり、「時間や場所を選ばずにパーソナライズされた接客を受け、化粧品を購入をしたい」というニーズが高まったことがあります。
ただ、デジタル変革には大きく2つの懸念がありました。1つ目は、これまでブランドを共に育てくださった、大切なパートナーである流通各社の皆様にも貢献できるような取り組みにできるかということ。
2つ目は、「オンライン上で『DECORTÉ接客』を実現できるかどうか」。オンライン上では化粧品特有の繊細な「色」や「質感」が伝えづらいですし、従来の対面接客と比較して顧客満足度を上げるのが難しいという懸念がありました。
懸念もある中、いかにデジタル変革を推進したのでしょうか?
福本:「この時代における、お客さまにとってのベストな体験とは何か」を考えたとき、オフラインとオンラインを融合させた顧客体験、つまり「顧客体験のOMO」が不可欠だと思いました。2021年6月に制定したブランドの中期ビジョンである「DECORTÉ Grand Design 2026」では、OMOを見据えた顧客接点の再構築について整理しています。
そして、2021年9月に公式オンラインブティックを開設すると同時に、オンラインカウンセリングサービス「DECORTÉ Personal Beauty Concierge(PBC)」をローンチ。即時対応のテキストチャットカウンセリングと事前予約制のビデオカウンセリングを用意し、商品の検討からカウンセリング、購入までの流れを公式オンラインブティック上で完結できるようにしました。
DECORTÉ Personal Beauty Concierge(出典:コスメデコルテ パーソナルビューティ コンシェルジュ)
顧客IDを統合することで、「連続的な」接客を提供
それから2年経った2023年、公式オンラインブティックをリニューアルしました。リニューアルのポイントを教えてください。
福本:一番のポイントは、予約不要のビデオカウンセリング(クイックビデオカウンセリング)をPBCでスタートしたことです。商品の使い方やメイクの色味など、テキストでは分かりにくい内容についても映像で詳しく知ることができますし、予約をする必要がない為、気になった時すぐに専属のビューティコンサルタントと会話ができるのが特長です。
右下にチャットカウンセリングの接客が表示されている(コスメデコルテ公式オンラインブティックより)
また、一部店舗ではPBCを活用したオンライン接客をご案内しています。「商品の使い方を知りたい」といったご要望への対応は、オンラインでも可能です。そうすることで、店頭での待ち時間は削減されますし、顧客体験の質が高まると考えています。
他にリニューアルしたポイントはありますか?
福本:2023年9月から店舗と公式オンラインブティックのID統合を進めています。もともと、オフラインで収集したお客さまのデータとオンラインで集めたデータは別々に管理されていました。さらに、チャットでのご相談の場合、ご相談内容と個人情報の紐付けができておらず、「誰からどのようなご相談が寄せられたか」のログを残せていなかったのですが、クイックビデオカウンセリングができたことで、カウンセリング後に任意でIDを発行、個人との紐付けが可能になりました。
また、従来は店舗ごとにIDを発行していたため、同じお客さまがA店とB店を利用している場合、一人のお客さまに対して2つのIDが存在していました。このような重複したIDを統合することで、どこの店舗でも、公式オンラインブティックでも、一人ひとりのお客さまに対して連続性と一貫性のあるパーソナルな接客を提供できるようになったんです。
店舗と公式オンラインブティックの2つのチャネルによってお客さまとの接点を増やし、その接点ごとの顧客満足度を高めることができれば、ブランドの成長だけでなく流通各社様への貢献にも繋がると考えています。
A/Bテストを繰り返し、ツールの使い方と顧客行動への理解を深める
公式オンラインブティックのリニューアルに合わせて、KARTEを導入していただいたとうかがっています。
山久保:はい。先ほども触れた「DECORTÉ Grand Design 2026」では、オフラインのみならず、オンラインでのお客さまとの接点の「質と量」を高めることを掲げています。ブランド価値を高め、お客さまとの永続的な関係を構築するためには、オンラインブティックでもこれまで培ってきた「DECORTÉ接客」を提供できるよう、アップデートする必要がありました。
そして、KARTEがあればオンラインでも「DECORTÉ接客」を実現できると考えたんです。KARTEはサイト上のお客さまの行動を分析し、セグメントごとに施策を出し分けすることができるため、公式オンラインブティック上でパーソナライズされた接客を実現するのに適していると思いました。
また、「KARTE Datahab」を使えば、KARTE経由で取得した情報を既存のシステムに繋ぎ込むことができ、OMO推進につなげることも可能です。わかりやすいUIだからこそ、EC運用歴が短い私でもやりたいことができそうだと感じ、導入に踏み切りました。
コーセープロビジョン株式会社 ダイレクトビジネス室 山久保純 氏
どのような体制でKARTEを運用しているのでしょうか?
山久保:福本が在籍しているDECORTÉ事業部の事業戦略推進課が、KARTEの運用方法を含むプロモーション戦略の全体像を描いています。そして、KARTEに関しては私たちが要件定義をし、設定や実装などの運用面は株式会社mtc.に委託。KARTEのオフィシャルパートナーなので、とても安心感がありましたね。mtc.さんや事業部と連携しながら、結果の分析とPDCAを回す部分を担っています。
KARTEの導入プロセスで印象的だったことはありますか?
山久保:思った以上にすんなり導入できたという印象が強いです。公式オンラインブティックのリニューアルのプロジェクトが本格的に動き出したのは、2023年1月頃。その少し前からプレイドさんとは、やりとりしていましたが、正式に発注したのは5月だったと思います。そこから約4ヶ月でKARTEはじめKARTE Datahub、KARTE Blocksといった複数プロダクトの導入が完了しました。
大規模なツール導入は会社としても久しぶりでしたが、運営や設定を委託している企業もプレイドさん経由で紹介していただき、初期の環境構築からセキュリティ面の対応、施策の設定までがスムーズに完了しました。
営業の方のレスポンスが早く、かつ契約フェーズや機能ごとに専門の担当者の方が丁寧に対応してくださったことも助かりました。
ありがとうございます。現在はKARTEをどのように使っていますか?
山久保:もともとあった「こういうお客さまはこういう情報を求めているのではないか」という仮説をもとに、いくつかのA/Bテストを頻繁に実施し、仮説の検証を進めながら、KARTEへの理解を深めている段階です。
具体的な施策の一つとして、お誕生日の方にメッセージが書かれたポップアップを表示するかどうかのA/Bテストがあります。「データによって情報を出し分ける」というKARTEの基本を理解するために実施しました。結果は算出中ですが、表示した方が良い数値が出るのではないかと考えています。
他にも、商品を単品で購入される方に向けて、定期購入を提案するポップアップを表示するA/Bテストも実施。結果はまだ出ていませんが、定期購入はLTVへの影響が大きく、売上のインパクトにつながる重要な施策だと考えています。
また、顧客属性によってキャンペーン情報を出し分けています。初回訪問の方に公式オンラインブティックのメリットなどを伝えたり、特定の商品の購入履歴がある方に限定のキャンペーンを掲載したり、他にも「カートに追加した商品に応じて、関連したおすすめ商品を出す」など、情報の出し分けをしています。
「DECORTÉ Grand Design 2026」で掲げている「顧客接点の『質と量』の向上」を実現するためには、KARTEならではの顧客データを活用して、顧客理解を深めることが重要だと考えています。もともとあった仮説をKARTEで検証し、結果を見ながらお客さまの行動への理解を深めていくことで、今後はデータに基づいて新たな施策を考案したいと考えています。
EC上の顧客体験を磨き、顧客ロイヤリティの向上を狙う
KARTEを導入してみて、ECサイト運用の取り組み方に変化はありますか?
山久保:A/Bテストを実施する習慣ができたのが大きな変化です。以前は施策を実施する前後での比較のみで、パターン別の仮説検証はできていませんでした。現在は、複数パターンをテストして比較するのが当たり前になっていますし、すべてのパターンに関して仮説を立てて検証しています。
また、併用している「KARTE Blocks」も大きな変化をもたらしてくれました。KARTE Blocksは、通常のCMSでは実現できない「このページのここだけ直したい」といった細かい改善が可能です。
これまでは小さな改善でも場合によっては申請が必要だったので、諦めるか、進めるにしても時間がかかっていました。素早く修正ができるKARTE Blocksは「痒いところに手が届くツール」だと思っています。
福本:KARTE導入によって、事業戦略の議論にも変化がありました。従来は感覚や経験則に頼っていた部分も、クリアな顧客データを見ながら戦略を判断できるように。顧客理解の精度が高まるにつれて、打ち手の精度も高まっていくことを期待しています。
今後、ブランドとして注力していきたいことを教えてください。
福本:公式オンラインブティックのローンチから2年が経ち「コスメデコルテを初めて知ったきっかけがECだった」というお客さまも増えています。そうした方々にも店舗を訪れていただき、オンラインとオフラインの両面から、よりブランドに対するロイヤルティを高めていきたいと思っています。
そのためには、公式オンラインブティックも店舗も、単に「商品を購入できる場」ではなく、コスメデコルテの哲学や世界観、こだわりを伝えられる場にしなければなりません。そのためにも、まずは公式オンラインブティックの機能改善を進めて、顧客体験を向上させたいと考えています。そして、ECも店舗も関係なく、お客さまのロイヤルティを高めていくのがブランドとしての当面の目標です。
山久保:これまでは公式オンラインブティックに新規訪問してくださった方に2回目、3回目とリピートしてもらうことを重要視していましたが、これからはロイヤル顧客を増やし、維持することも重要になってきます。KARTEの新機能であるユーザータイプ分析(β版)の活用なども検討しながら、長く愛され続ける公式オンラインブティック、ブランドでありたいと思います。