ミツカンのDXはボトムアップが実現の鍵:CXプラットフォーム「KARTE」の真価

2018年11月、ミツカングループは、10年後のありたい姿として「ミツカン未来ビジョン宣言」を発表。さらに同社は、2019年3月「デジタル戦略本部」を設置。本部長を務める 執行役員 CDOの渡邉英右氏と、PLAIDのSales Director、仁科奏氏にミツカンが狙うDXについて聞いた。

※本稿は、2019年10月23日にDIGIDAYで公開された記事の転載です。

昨年215周年を迎えた食品メーカーのミツカングループも、デジタルシフトに大きく舵を切った。

ミツカングループ(以下、ミツカン)は2018年11月、10年後のありたい姿として「ミツカン未来ビジョン宣言」を発表。それに伴い翌年3月、グループ全体のデジタル改革を推進する「デジタル戦略本部」を設置した。その本部長に任命されたのが、(株)Mizkan Holdings 執行役員でCDO(チーフデジタルオフィサー)を務める渡邉英右氏だ。2018年11月にミツカンへジョインした渡邉氏は、日本マクドナルドのマーケティング本部 上席部長として、同社のデジタル改革をリードした経験を持つ人物である。

「企業のDXを推進するためには、現場で働く社員のみなさんから、デジタル活用への理解を得ることが必要不可欠だ」と渡邉氏は強調する。「彼らだからこそ知る、変革のヒントを共有してもらいながら、少しずつでも変化を起こすことが、ミツカンのDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現する鍵だと考えている」。

DXを達成するため、まずは社員のデジタル理解を深めるところからはじめたミツカン。その改革にひと役買っているのが、PLAID(プレイド)が提供しているCX(Customer Experience:顧客体験)プラットフォーム「KARTE(カルテ)」だ。KARTEは、専門的な知識がなくても、簡単に自社サイトやアプリのCX改善を行うことができる。結果、それを使う社員のデジタル活用への理解も深まるのだという。

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向かって左から、ミツカンの渡邉氏、PLAIDの仁科氏

同じ目線で想いを伝える

「ミツカン未来ビジョン宣言」で同社が掲げているのは、「人と社会と地球の健康」「新しいおいしさで変えていく社会」「未来を支えるガバナンス」という3つのビジョン。(株)Mizkan Holdings 代表取締役会長である中埜和英氏は、公式サイトにて「昨今のデジタル化をはじめとした激しい環境変化の中では、現状の延長線上で考えるのではなく、10年後のありたい姿を描く必要がある」と述べている。

宣言の発表とほぼ同じくして、デジタル化を推進しようとしている同社にジョインした渡邉氏は「企業としてDXに意識は向いていたものの、その道に精通した人材は不足していた。また、社員の多くが、デジタルに対してハードルを感じているように見えた」と、当時を振り返る。
そこで同氏は、社員との直接的な話し合いや、国内外の現場への訪問を実施。DXがもたらすビジネス的なメリットや、業務効率化による働き方に関するメリットを伝えることで、デジタル活用への理解を深めてきた。「会社のみなさんと一緒に、ミツカンの事業を変革していきたいと考えている。そのためには同じ目線に立ち、直接想いを伝えなければならない」。

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「同じ目線に立った、細かなコミュニケーションこそ、理解を得る鍵だ」と渡邉氏。

「デジタルの利便性」を体感

デジタル活用への理解を深めるためには、社内でデジタルに触れる機会を増やし、心理的なハードルを下げていかなければならない。そのためにはまず、特別な知識がなくとも使いやすい、優れたUI・UXを持つツールで、「デジタルの利便性」を体感するのが有効である。
そこで、力を発揮しつつあるのがKARTEだ。このマーケティングプラットフォームを利用すれば、自社サイトに来訪した顧客のあらゆるデータを分析し、その行動や感情を可視化できる。また、専門的な知識がなくても、ポップアップやチャットなど、思いついた施策を直感的に実施でき、顧客に寄り添った体験も提供できるのだ。
「そもそも、良いCXを提供するには、EX(Employee Experience:従業員体験)を改善することも、ときには必要だ」と、PLAIDのセールスディレクター、仁科奏氏は説明する。「今回の例でいえば、KARTEによってデジタルへの敷居が低くなれば、構えることなくデジタル活用やマーケティングに接することが可能になる。その結果、事業のDXが進む」。

KARTEは、顧客体験を変えようと銘打っている製品だ。KARTEであれば、特別なスキルがなくても、さまざまなCX改善を行うことができる。このような体験を重ねていくことで、社員のデジタル活用への不安が、少しずつ払拭されているという。

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「KARTEは、EXの向上にも寄与できる」と強調する仁科氏。

もっと気軽に、解像度高く「顧客理解」を

現在ミツカンでは、同社の歩んできた歴史に触れ、今を感じ、未来につなげる施設「ミツカンミュージアム(以下、MIM)」の公式サイトに、KARTEを導入している。サイト来訪者に対して、KARTEを通して、来館体験の有無や居住地、MIMを知ったきっかけなどを問う、アンケートを実施しているのだ。なお、質問項目はサイト来訪回数や来訪者の属性によって、出し分けているという。
ミツカンの商品は、主に小売店経由で販売されるため、エンドユーザーである顧客とミツカンが、直接つながることは難しい。そんな状況において、顧客とダイレクトな接触を持てるMIMは、ミツカンにとって貴重な場だ。そこで、KARTEを利用し、ユーザー一人ひとりを解像度高く可視化することで、顧客理解を深めようと考えているという。

「MIMの施設は、少々アクセスしにくい場所にある。そのことから、実際に訪れてくれる顧客は、ミツカンへのロイヤルティが高い層ではないかと考えられる」と、渡邉氏は語る。「また、訪問者の居住地域を見ると、MIMのある中部地方以外も多く、ミツカンブランドへの信頼の高さは全国区であることがうかがえる」。
こうした事実を知ることは、自分たちの自信になる。それとともに、アンケート回答者への商品情報の提供など、次の打ち手を考える際にも、KARTEは非常に役立つという。

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MIMの入り口。愛知県のミツカン本社に隣接している。

「未来ビジョン」達成に向けて

MIM公式サイトでのこうした事例を受け、ミツカンでは、同サイト以外にもKARTEの導入を検討している。具体的には、レシピコンテンツのレコメンド最適化に活用することもできるのではないかと考えているという。
「人の嗜好がはっきりと出るレシピコンテンツは、来訪者の趣向だけでなく、タイミングなど細かな要素を踏まえてレコメンドしなければならない」と、仁科氏はこの取り組みについて語る。「そのため、一般的なシステムでは、レコメンドのロジック調整が難しいために、なかなか対応ができない」。
しかしKARTEを利用すれば、ふと思いついた施策でも、簡単に試すことができるため、検証の回数も増える。そのため、より人間味のある顧客理解に基づいた、豊かな体験の提供が可能になるのだ。

「現在、KARTEを使うサイトを増やしていくことを含め、より広い分野でのデジタル活用に向け、着実に進歩していると実感している」と、最後に渡邉氏は述べる。「まずは、現場のメンバーから自発的に『デジタルでこれをやりたい』という意見が出てくる、そんな環境を目指している。今後も、全社的な業務と事業のDXを推進し、『ミツカン未来ビジョン宣言』の実現に邁進していきたい」。

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