アプリのリテンション率が約2倍に!テレビ東京ビジネスオンデマンドの事例
ビジネスオンデマンドでは、2018年5月に行ったアプリのリニューアルに伴い、KARTE for Appを導入いただきました。 今回は、KARTEを導入した背景や導入後の施策、ビジネスオンデマンドが考える顧客体験、これから実現したいことを、同社 ビジネス開発部 主事の長谷川晋介様にお話を伺います。
「失敗を失敗」だと認識し、素早いPDCAサイクルを柔軟にまわせるようになった――。
テレビ東京が手掛ける有料動画配信サービス「テレビ東京ビジネスオンデマンド(以下、ビジネスオンデマンド)」。「WBS(ワールドビジネスサテライト)」や「ガイアの夜明け」など同社の経済報道番組をPCやスマートフォンで手軽に見ることができ、ビジネスマンを中心に約7万人に利用されています(2018年11月現在)。そんなビジネスオンデマンドでは、2018年5月に行ったアプリのリニューアルに伴い、KARTE for Appを導入いただきました。
今回は、KARTEを導入した背景や導入後の施策、ビジネスオンデマンドが考える顧客体験、これから実現したいことを、同社 ビジネス開発部 主事の長谷川晋介様にお話を伺います。
施策に対する、効果検証が十分にできていなかった
―最初に、ビジネスオンデマンドの特徴を教えてください。
月額500円(税別)でテレビ東京の経済報道番組が見放題となるサービスです。2013年3月に始まり、Webブラウザ版やスマートフォン/タブレット向けアプリ、テレビデバイス向けアプリを提供しています。
サービスの特徴は、通勤や休憩のすきま時間でも見られるように、倍速再生やお気に入り番組の最新放送回をすぐにチェックできることです。学習欲が高かったり、年収が高めのビジネスマンの利用が多いですね。地域別に見ると、関東や大阪、名古屋の方が中心となっています。
―長谷川様は、ビジネスオンデマンドにおいてどのような役割をされていますか?
サービス全体のグロースを担当しています。もともと前職では、インフラエンジニアだったので、テレビ東京に転職した当初もその延長線上の仕事をしていました。
しかし、サービスを詳しく調べてみると、データが足りなく、「今日は何人入会したか」も分からない状況だったんです。「これはまずい」と思い、経験はありませんでしたがプロモーションや会員獲得するための施策を始めるなどをして、今の役割に落ち着きましたね。
ビジネス開発部 主任の長谷川晋介様
―グロースハック全般の施策は自主的に行われていたと。
システムを改修するだけでは、ユーザーが増えないことは分かっていたので、ゼロから学んで会員数を増やすための施策もいろいろと試しました。ただ成果が出たこともあったのですが、なかなかうまく進められなかったですね。リソースが限られていたのもあり、新しい機能を実装したとしても、効果の検証が十分にできていませんでした。
―KARTEを導入されたのも、そういった背景があったからなのでしょうか?
はい。特に2018年3月末に行ったリニューアル後は、大きな課題を解決して、次に向き合うべき課題の優先度を決められないという壁に当たりました。また、明確にKPIを定義できていなかった中で、開発した機能がどの程度成果に結びついたかが分からなくて。
そのため、ユーザーの分析をして、課題の発見から施策まで素早くPDCAサイクルをまわすためのツールが必要だと感じていました。展示会や勉強会でツールを探してみて、エンジニアやデザイナーが少なくても機能が使いやすそうと思い、KARTEの導入を決めましたね。
ビジネスオンデマンドのイメージ
サービスを成長させるために行った2つのアプローチ
―実際にKARTEを利用されてみて、最初はどのように感じましたか?
最初は全然うまくいかなくて。ユーザーを理解できていないと、全部失敗してしまいますね(笑)。1回目の施策で成功するとは思わず、一つひとつに発見があり、それを根気強く繰り返すことで、ユーザーを理解することが最初の重要なプロセスと思いました。
―具体的にどのようにKARTEを活用されたか、失敗した施策も含めて教えてください。
ビジネスオンデマンドはサブスク型のサービスなので、グロースさせるには「新規会員の登録数を増やす」「既存会員の退会数を下げる」という2つのアプローチがあります。
新規会員の登録数を増やすためには、まず番組コンテンツをより効果的に訴求しなければいけないと考えました。そこで、アプリ初回起動時のチュートリアルが終わったタイミングで、オススメの放送回を表示して会員登録を促しました。しかし、実施前のコンバージョン率が6.7%だったのに対して、オススメ放送回を訴求してからは5.6%へと下がってしまったんです。
―そのときは原因をどのように分析されましたか?
単純にオススメした放送回がユーザーに刺さらなかったと思いましたね。そこで、オススメ放送回のパターンを増やして、A/Bテストを実施してみました。しかし、そこでもポップアップを表示しなかったユーザーの方が、会員登録に至る割合が高くなったんです。
そこで、KARTEのユーザーストーリー画面でポップアップ表示をしたユーザーの動きを分析してみると、多くのユーザーが表示後にバッググランドへ遷移していたことが分かりました。
番組コンテンツの訴求に関する施策結果
―ポップアップ表示そのものが逆効果になっていたということですね。
はい。この結果をもとに、チュートリアル後に訴求したとしても、アプリで何ができるかを知らないユーザーにとって、ポップアップ表示は邪魔になると仮説を立てました。
そして、ポップアップの表示場所や表示タイミングを2回目にするなど改善を加えたところ、未実施だったユーザーよりも実施したユーザーの方が会員登録率が約1%高くなったんです。
―失敗はしつつも、改善のサイクルを早く柔軟に行われているのが印象的です。
これまでは施策を行ったとしても、ユーザーからのフィードバックが分からない状況がほとんどでした。しかし、KARTEを導入したことによって、「失敗を失敗だ」と認識することができ、素早いPDCAサイクルをまわすことができるようになりましたね。
―他にも取り組まれた施策はありますか?
既存会員の退会数を下げるためのアプローチとして、利用率の低い機能を訴求する施策を行いました。ビジネスオンデマンドは動画視聴がメインですが、無料会員向けに番組コンテンツの魅力を届ける記事コンテンツも用意しています。この機能は利用率は低いものの、閲覧してもらうことで、翌日以降の継続利用につながるのではないかという仮説がありました。
そこで、KARTEを活用して記事閲覧機能の訴求をしたところ、記事コンテンツを見たユーザーの翌日におけるリテンション(継続)率は、実施前が32%だったのに対して、実施後には60%まで上がったんです。利用率が低い機能でも、ユーザーの価値になるものであれば、適切に訴求をすることで、リテンション率の向上が見込めることが分かりましたね。
記事が無料で閲覧できることを訴求するポップアップ例
※その他、テレビ東京様が行った施策の詳細や資料は、2019年4月に私たちが開催した「KARTE Friends Meetup -App」のレポートで紹介しています(記事はこちら)。
セレンディピティ的な顧客体験を届けていきたい
―今後、KARTEをどのように活用していきたいと考えていますか?
個別のタイムラインやアンケート機能などを活用して、ユーザーの利用の仕方をもっと可視化できればと思っています。先ほどお話しした記事コンテンツの訴求をしてみて分かったのですが、そもそもアプリ内にある機能をユーザーにうまく伝えられていないんですよね。
これまでのテレビは、番組コンテンツを出せば多くの人が見てくれるという状況にありました。そのため、作り手にはクリエイター気質で、一つひとつの文言にこだわる人が多い。それ自体を否定はしませんが、面白い番組を作れば見てくれるという世界が崩れつつある中で、どのようにマーケティング的な考え方を導入していくかは、テレビ業界全体が抱える課題です。
―テレビ業界全体としても、ユーザーとの向き合い方を変える必要が出てきていると。
博報堂DYメディアパートナーズが発表している「メディア定点調査」によると、生活者のメディア総接触時間は2018年の396.0分から、2019年に411.6分と大幅に増えていて。実は「テレビ」も増えてはいるのですが、圧倒的に「携帯/スマホ」の伸びの方が高い。
どのようなシーンで利用しているかというと、朝のアラームで起きて、寝転がりながらスマホを見て、通勤途中やランチタイム、帰った後も自分の時間の確保として見る。つまり、一日中。お茶の間でテレビを囲んで見ることは、ほとんどなくなってきたということです。
そのような人たちが、どのような気持ちで、何を見たいかに合わせたサービスを提供していかなければ、絶対に利用してくれません。ビジネスオンデマンドにとっての解が明確に見えているわけではありませんが、今後KARTEを活用して分析できたらと思っています。いずれデータがたまってきたら、プロデューサーと協力して番組作りにも生かしていきたいですね。
―ビジネスオンデマンドとして、長期的に実現していきたい顧客体験はありますか?
ビジネスオンデマンドのユーザーは、エンタメというよりも学習目的で利用する方が多いです。そのため、番組コンテンツを細切れに提供して手軽に学べたり、検索しやすいUIにしたりなど、ユーザーをサポートする機能を追加していきたいと思っています。
その一方で、これまでテレビが届けてきたセレンディピティ(偶然の出会い)的な顧客体験も届けていけたらなと。Webにはさまざまな選択肢があるので、何が正解かはまだ分かりません。AIを活用したレコメンドも違うし、プッシュ通知も何か違うなと。まずはリテンション率を上げて、アプリがユーザーにとって生活の一部となるよう取り組んでいきたいです。
―最後に、長谷川さんが今後取り組んでいきたいことを教えてください。
コンテンツビジネスにおいて、どのような施策をすれば見てもらえるかという文脈作りは、今後さらに重要になると思います。テレビ局はコンテンツが豊富にあるので、ユーザー体験を最適化していくことは、ビジネスオンデマンドに限らず挑戦していきたいです。