自転車を通じたスタッフと顧客の信頼関係が強み。店舗とオンラインの体験をつなげる(ワイズロード様)

全国に32店舗を展開するスポーツ自転車専門店「ワイズロード」は、自転車への深い知識を持ったスタッフによる接客と、購入からアフターサービスまで一貫したサポート体制を強みに、一人ひとりに最適な自転車を提案しています。これまでオフラインで発揮してきた強みをどのようにオンラインに反映していったのか。そして、店舗とオンラインの理想的な関係を代表鳥居 恵一郎さんに伺いました。

株式会社ワイ・インターナショナルは、全国に32店舗を展開するスポーツ自転車専門店「ワイズロード」を運営しています。2019年頃からはECサイト(ワイズロードオンライン)に注力し始め、2021年2月にはKARTEを導入。ECサイトでは、自転車はもちろん、自転車パーツやサイクルウェアなど3万点を取り扱っています。

同社は、自転車への深い知識を持ったスタッフによる接客と、購入からアフターサービスまで一貫したサポート体制を強みに、一人ひとりに最適な自転車を提案しています。これまでオフラインで発揮してきた強みをどのようにオンラインに反映していったのか。そして、店舗とオンラインの理想的な関係を代表取締役社長 鳥居恵一郎さんに伺いました。

「お客様に安全に自転車を楽しんでほしい」購入前後の体験でのこだわり

自転車を安全に楽しんでもらえるように、購入前からアフターフォローまでを徹底しているワイズロード。一人一人に最適なバイクを選んでもらうことを徹底的に意識し、「乗り心地を試してから選びたい」というニーズに向き合い、 各店舗には常設の試乗車を用意し、その数は約200台。大規模な試乗会も定期的に実施しています。初心者、中上級者問わず、豊富な専門知識を持つスタッフとともに、最適な自転車をじっくりと選ぶことができます。

技術サービス専門の部門である「Y’s Tech」による購入後のメンテナス体制も充実。また、初心者から中上級者まで自転車を楽しんでもらうため、YouTubeチャンネル「Y’s Road TV」で情報発信を続け、「TEAM Y’s Road」という走行会や練習会を開催しています。

鳥居「私たちは創業123年の歴史の中でずっと『自転車を通じて地球を救う』を理念として掲げています。自転車というのは、地球に最も優しい乗り物だと考えています。近年、『脱炭素社会』や『カーボンニュートラル』といった言葉が聞かれるようになり、我々の理念が時代の流れと重なってきていると感じます。

しかし、『地球環境にやさしい』という側面だけで理念を追求しているわけではありません。自転車に乗る人の安全性へのアプローチも重視しています。ワイズロードが、目の前のお客様にどの自転車を提供するかを細かく見極め、購入後のサポートに力を入れるのも、すべては『お客様に安全に自転車を楽しんでほしい』という一心です」

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代表取締役社長 鳥居 恵一郎

スタッフと顧客は“師弟関係”にも。オンラインと店舗で生み出す顧客との関係

ワイズロードは、実店舗での確かな接客、サポート体制に取り組みながら、オンラインにも力を入れてきました。 新型コロナウイルスの影響により、ECでの売り上げが急増。在宅ワークが増えた社会変化による自転車需要の増加も追い風となりました。

ワイズロードが、オンラインで「強み」として打ち出したものは、実店舗と変わらないものでした。

鳥居「自転車が好きで、膨大な知識を持つスタッフが『目の前のお客様に、最適な一台を提供したい』という思いで接客をしています。そうした接客こそがお客様にとっての価値であり、ワイズロードへの信頼へとつながっている。

オンラインに力を入れていく中でも、その関係性は変えることはしません。店舗では、師弟のような関係ができているのをよく目にします。スタッフが自転車のことを教えているうちに、お客様がどんどんハマっていって、『もっと教えて下さい!』みたいな関係になっていく。オンラインになったとしても例えば、スタッフが書いたブログを読み、その内容をきっかけにワイズロードを知り、購入していただいたお客様も多くいます。

自転車が好きで、自転車のことを発信したいというスタッフは多く、こうした強みを最大限生かせるように現在は、ECにもブログ機能を持たせようと準備を進めています」

スタッフが持つ知識や思いを生かし、サービスとして形になったケースもあります。「バイオレーサー」と呼ばれるワイズロード独自開発のフィッティングシステムは、一人の社員の発案が起点でした。

鳥居「現在はマーケティングマネージャーを担当している社員が始めた『バイオレーサー』は、お客様の股下・胴・腕などの長さを測り、サドルの高さ・前後位置・角度、ハンドルの高さ・ステムの長さなど、最適な自転車の『サイズ』と『ポジション』を知ることができる機能です。

サイズが合わない自転車だと、乗り心地が悪いだけでなく、ときには怪我をする恐れがあります。これも『お客様に適切な自転車を買ってほしい』という思いからはじまりました。現在は、自転車競技選手のフォーム改善のためにも使用されています」

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評価の改定や会議の設定により「オン・オフ、どちらの売上か」の議論がなくなった

ECの利用者数が急増しても、「実際に乗ってから選びたい」というニーズが多く存在する自転車という商品。ワイズロードは、ECで発注後、近くの店舗で試乗・購入するClick&Collectの仕組みを採用しました。

しかし、Click&Collectの取り組みが始まると、いくつかの問題が生じました。人口が多くアクセスしやすい都心の店舗での受け取りが増え、郊外の店舗が保有する在庫を移動させるケースでは「店舗対店舗」の対立が。また、「店舗は受け取るだけ。ECの売上なのではないか」という「EC対店舗」の対立構造が生まれ始めたと言います。

鳥居「ECの売上は、誰の成果なのかが曖昧になりやすく、ECの売上が伸びるにつれ、そうした声が聞こえていました。しかし、これは社内の問題であり、最も大事なのは、どこで購入しようともお客様がよい購入体験ができていること です。

『オン・オフ、どちらの売上か』を気にせず、スタッフがお客様に向き合えるようにしたいという背景から、オンラインストアと実店舗の垣根を超えて 購買意欲を創出し CX(顧客体験)の最大化することをOMOマーケティングという言葉で定義し、評価の制度などを変えてきました。 例えば、評価の仕組みについては、ECのインセンティブ設計を調整、ECの評価には『実店舗へどれだけ貢献したか』を組み込んでいきました。

また、OMOマーケティングの有効な施策を提案したスタッフには社長賞を授与する制度を策定。これは、スタッフ一人ひとりが、店舗とECをつなぐことを“自分ごと”として考えてもらうためですね。

現在、OMOマーケティング会議には、デジタルマーケティングやPR、イベント、購買部などのメンバーが参加しています。店舗とECでの体験が分断しないようにするのが主な目的です」

全員がOMOマーケティングに積極的になれる組織づくりと、社内で余計な対立の生まれない評価基準を両輪で整えていったワイズロード。 「スタッフがどれだけお客様のことだけを考えられるか」が重要だと鳥居さんは語ります。それが、店舗でもECでも変わらない顧客体験を作ることにつながっていく。そのため、顧客と向き合う以外の業務を減らす取り組みも進めていると言います。

鳥居「例えば、ERP(統合基幹業務)システムを強化し、在庫状況がリアルタイムで可視化されるようになりました。現場で労力のかかっていた発注作業がずいぶん楽になったと聞きます。その他にオンラインでは、KARTEも活用しています。KARTEでは、様々なオン・オフラインのデータに基づいて、ECサイト上でコミュニケーションをとることができるので、店舗とECをつなぐ強い武器だと感じていますね。

最近では、『バイオレーサーイージー』をKARTEで実現しました。お客様が身長のデータを入力することで、自分に合う自転車を知ることができます。今後もオンライン上でお客様が商品を探しやすくするために、KARTEでそれぞれに合わせた提案などもしていきたいと思っていますね」

様々な自転車へのニーズに、“人”を感じるオンラインでも応えたい

スタッフがお客さんに向き合えるために障害となるものはなくし、スタッフの強みはとことん生かしていく。 そんなワイズロードは今後、どのような顧客体験を目指していくのでしょうか。

鳥居「もともとワイズロードはロードバイクを中心に売っていました。それが『ワイズらしさ』と感じる方もいるかもしれないですが、今は自転車と言っても、さまざまなニーズがあります。街中を快適に走れるクロスバイクが欲しかったり、アウトドアが好きな人が持ち運びができる折りたたみ自転車が欲しかったり。楽しく安全に乗ってもらう責任と自覚を持ちながら、自転車を楽しむ人を増やしていきたい。

店舗では、自転車を受け取れることとスタッフとのコミュニケーションを今のまま続けていきたいと思っています。ただ、オンラインでも『ワイズロードの接客を受けた』と感じていただきたい。 ブログでスタッフの顔が見えるように、もっともっと“人”を感じる体験が必要になってきます。オンラインの充実が、自転車を楽しむ人を増やすことにつながると信じて、尽力していきます」

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