Event Report

私たちは、顧客と価値を共創する時代に生きている──企業が持つべきCX・DX・EXの「3X」の視点

KARTE CX Conference 2020のKeynote Sessionでは「3つの視点から紐解く、顧客と価値を共創する時代―CX・DX・EX」と題し、グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 執行役員 流通事業本部長の塩入賢治氏、株式会社Emotion Tech 代表取締役の今西良光氏、そしてプレイド代表の倉橋が登壇。

倉橋 健太くらはし・けんた
株式会社プレイド 代表取締役CEO
大学を卒業後、楽天株式会社に新卒入社。楽天市場におけるWebディレクション、マーケティング、モバイル戦略、広告戦略等、多岐にわたる領域を担当し、楽天市場事業の成長に貢献。 2011年にプレイドを創業。2015年3月にCXプラットフォーム「KARTE」をリリース。EC・人材・不動産・金融など幅広い業種で導入が進んでおり、サービス開始から5年でのべ68億ユーザーを解析。国内有数のSaaSスタートアップとして、圧倒的な成長を続けている。主な表彰として、デロイトトーマツFast50 2018 第3位、Forbes Cloud/SaaS Ranking2018 4位、他。
塩入 賢治しおいり・けんじ
グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 執行役員 流通事業本部長
Google Cloud Japanにて小売・流通業界における事業を統括。BEA Systems, IBM, Accenture などの外資系 IT 企業でのミドルウェアや IT プラットフォームの営業・ビジネス開発を経て、Google Japan に Google Cloud Platform ビジネスの立ち上げから参画。現在はエンタープライズ領域における Google Cloud の事業展開を推進。
今西 良光いまにし・よしみつ
株式会社Emotion Tech 代表取締役
新卒で日立製作所に入社しITシステムの営業に従事した後、ユニクロに入社。自らの経験の中でサービスの現場におけるマネジメント課題を痛感。課題解決の為、早稲田大学大学院に入学してCX・EXに関する事例や論文を研究し、2013年にEmotion Techを創業。CX・EXの分析に関する独自の手法を開発し特許を取得。HRアワード2018最優秀賞、HRテクノロジー大賞優秀賞、Japan Venture Awards 2020審査委員会特別賞等受賞。

新型コロナウイルス感染症の影響により、もともと進行していたデジタルシフトがより一層加速しています。環境が大きく変わる中で、企業はユーザーの体験価値を創出するために、どのように思考し、実践していくべきなのでしょうか。

2020年7月15日に開催された、CX(顧客体験)に取り組むプレイヤーたちの最新事例を学ぶカンファレンス「KARTE CX Conference 2020」は、KARTEを活用する企業やパートナーのプレゼンテーションを通じて、KARTEで実現するCXの最前線と可能性に触れる向き合う機会となりました。

Keynote Sessionでは「3つの視点から紐解く、顧客と価値を共創する時代―CX・DX・EX」と題し、グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 執行役員 流通事業本部長の塩入賢治氏、株式会社Emotion Tech 代表取締役の今西良光氏、そしてプレイド代表の倉橋が登壇。

CXを実現する上で欠かせないEX(Employee Experience)、CXとEXの基盤を支えるDX(Digital Transformation/Developer Experience)の3つの視点から、企業は顧客と価値をどう共創していけるかを考えました。

次の時代に求められるCXを考えるために、DXとEXを考える

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まずは倉橋がカンファレンス全体のテーマ、キーセッションでのテーマについて紹介。KARTEは2015年のリリース以来、成長を続けており、この1年は新機能のリリースをはじめ、様々なアクションをとってきました。

そんなKARTEがこれからを考える際に無視できないテーマが「DX」です。もともとこの言葉は、2004年にスウェーデン ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面で良い方向に変化させる」というコンセプトとして生まれました。国内でも2018年に経済産業省によって詳細に紹介されて以来、話題になる機会が増えています。

倉橋「DXは、単にシステムを導入するという話ではなく、自社価値を社会に提供するために、どのようにデジタルを組み込み、ユーザーに良い体験を届けていくのか。それに取り組むために必要なものだと認識しています。こうした流れはユーザーのニーズと強くつながっているものだと捉えており、やはりCXの向上を目的とすることが重要になってくると考えています」

CXは、商品やサービスの「価格」や「機能性」といった物理的な価値だけでなく、それらを通して得られる「満足感」や「喜び」というような感情や経験の価値も含めた概念です。CXは昔から存在する概念ですが、今はデジタルの浸透によって、 企業と顧客の関係性の構築の仕方が変化し、それに伴ってビジネスそのものも変化しています。「次の時代に求められるCXとはなにか?それを本日は考えていきたいと思います」と倉橋は語ります。

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倉橋「なぜ、CXが重要になってきているのでしょうか。それは、かつては企業の提供価値が顧客の求める価値を上回っていたのが、様々な変化によって価値のバランスが逆転してしまったことがあります。

生じている変化は、モノやサービスの飽和、相対的な価値の下落による『便益のデフレ』。モノから体験やプロセスなどのコトに価値が移る『豊かさのシフト』。事業環境へのテクノロジーの実装が遅れる『技術的負債』。コロナや災害等による急激な変化がもたらす『新様式』などが挙げられます」

こうしたCXが重要になる変化の中で、CXを提供するために必要なEX、そしてその基盤を支えるDX、これら3Xの時代にどう向き合っていくべきなのかを考えなければならないと伝えて倉橋のセッションは終了。塩入氏にバトンをパスしました。

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時代に合わせてCXを変化させるための鍵は「データ」

塩入氏は、新型コロナウイルス感染症によってより重要度が増したDXについてどのように捉えているかを共有してくださいました。

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塩入氏「Googleではコロナ禍におけるDXのあり方について、3つのフェーズで捉えています。従業員の安心安全の確保が重要だった緊急対応フェーズ。事業の維持継続を考える収束フェーズ、そして『New Normal(新常態)』への適応、変革を目指すフェーズです。New Normalのフェーズにおいて、新しい世界を予測して、その世界に向けてイノベーションを起こしていく必要があると考えています」

New Normalな世界において、生活様式、行動様式、消費行動は変わっていきます。人々が変化、多様化していくなかで、企業はどのように適応していけばいいのか。そのために最も重要なのが「データ」だと塩入氏は語ります。

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塩入氏「Googleは、これまでにも生活様式、行動様式、消費者行動パターンの変化を的確に捉え、新しいサービスを生み出してきました。これを可能にした一番の源泉がデータです。Googleが身に着けたデータを集積する力、分析する力、インサイトを生み出す力を、さまざまなテクノロジーを通じて提供しているのがGoogle Cloudです」

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Googleが培った技術を、企業向けに提供している具体例として、新型コロナウイルス感染症の流行に合わせて立ち上がったサービス「AI問診Ubie」や、ZOZOが提供するサービスでの利用例が紹介されました。

Ubieは、AIで事前に問診を受けた上で病院の診察を受けられるサービス。Googleが持つクラウドとAIを合わせて活用したことで、新型コロナウイルス感染症によって生じた行動様式の変化に素早く対応してサービスを立ち上げられた事例です。

ZOZOが提供するECサイト「ZOZOTOWN」では類似アイテム検索機能にGoogle Cloudが使われており、ファッションアプリ「WEAR」では髪型別にコーディネートを検索できる機能などにGoogle Cloudの技術が使われています。

いずれの事例も、顧客に利便性を提供するサービスやアプリですが、データがなければ実現しないもの。よりよいCXを提供するためには、データをうまく活用していくことが必要不可欠です。

塩入氏「技術を活用して、CXを変えるようなサービスを提供するためにはデータが重要になりますが、データだけでは課題解決につながりません。顧客の変化をいかにつかみ、データを分析し、企業としてアクションするのか、を考えなければなりません」

データを基に、CXとEXの関係性を可視化する

最後に登壇した今西氏は、「顧客と価値を共創するために必要なEXとは?」をテーマにお話されました。まず、20年以上前からサービス業の領域で語られてきた「サービスプロフィットチェーン(SPC)」という概念の紹介から始まりました。

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今西氏「SPCからわかるのは、企業から従業員へのサービス品質が上がると従業員満足度が上がり、従業員から顧客へのサービス品質、顧客満足度が連動して上がった結果、企業の成長と収益につながるということ。つまりEXとCX、収益は連関していて、EXの向上が企業の好成長につながっていきます」

このSPCが可視化された事例として、今西氏はファーストフードの「Taco Bell」の例に触れました。Taco Bellが離職率が高い店舗と、EXが高く離職率が低い店舗の売上を比較したところ、離職率が低い店舗は離職率が高い店舗と比べて売上が2倍、利益でいうと約55%違うという結果が出たそうです。

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日本でも一部企業ではEXとCXが相関するという結果が出ていますが、EXとCXを関連付ける取り組みは国内ではまだまだ浸透していません。この要因として、今西さんは「ブラックボックス」になっていることを課題として指摘。

今西氏「これはEXも、CXも、収益も、それぞれ無数の要素によって構成されています。どの要素を改善すると、最終的に収益につながるのかがわかりにくいため、EXに投資しにくい状況にあると考えています」

ここで今西氏は、国内の携帯販売会社がデータを活用しながらEXの改善に取り組んだ事例を紹介。

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今西氏「この会社では人事課題として高い離職率があり、採用コストが嵩んでいました。データを活用してEXを分析したところ、EXの重要な指標である『従業員の社内評価(eNPS)』に最も影響していたのが『仕事のやりがい』さらに分析を進め、やりがいに影響していたのが『商品知識』だと判明したのです。

商品が複雑で知識の獲得が追いつかず、思うような接客ができないことが退職の原因になっている。そこで知識をキャッチアップするための研修を取り入れたところ、離職率が低下。それだけではなく、EXが向上したことで顧客からの評価につながっていた『待ち時間の声かけ』が起こるようになりました。その結果、顧客からの評価も上がり、クロスセルやアップセルなど収益向上にもつながりました」

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経営者の視点から「収益を上げること」を考えていくと、「待ち時間の声かけ」が重要だというCXの観点での課題にはたどり着きます。ただ、経営者がこの課題の解決について考えると、改善への打ち手が「オペレーションの変更」になりやすいと今西氏は語ります。

EXの視点まで持っていれば、先ほどの事例のようによりよい結果につながる打ち手を考えられます。そのためには、データを拠り所にして、施策たちを「つなげて」「可視化」することが重要です。

今西氏「ポイントはCXを単体で捉えるよりも、企業収益とEXをつなげて考えること。そのためにはデータを使って全社視点で成長のためのドライバーを見つけ出し、改善実行していくことです。EX、CXをどうマネジメントしていくのか。CXに求められる要素が急激に変化しつつある今こそ、SPCの概念が重要なのです」

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CX・DX・EXを連携させ、時代に合わせた価値を提供し続ける

DX、EX、そしてデータ。これらがCXにつながっていきます。不確実で不可逆な変化に対応していくために、CX、DX、EXを連環させる視点を持つことは、次の時代にあったサービスを提供していく上で大切なです。

CX、DX、EXの3つの関係を紐解いたキーノートセッションから「KARTE CX Conference 2020」は始まりました。KARTEの導入事例や、連携機能などについて語られた各セッションのレポートも、随時公開していきます。ぜひご覧ください。

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