D2Cとは?顧客と企業の関係性を密にしたビジネスモデルとその事例

企業と顧客の新しい関係性を作り出し、今注目の「D2C」。 事例を紹介しながらD2Cとはどのようなビジネスモデルで、なぜ注目なのか解説します。

企業と顧客の新しい関係性を作り出している「D2C」。

海外のみならず、日本でも「D2C」が注目され、事例も登場してきました。今回は事例を紹介しながら、「D2C」とはどのようなビジネスモデルで、なぜ注目なのかを解説します。

D2C(Direct to Consumer)とは?

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「D2C」とは「Direct to Consumer」の略で、企業が自ら商品を企画・製造し、自社の独自の販売チャネルで、直接顧客に販売するビジネスモデルのことです。ビジネスモデル自体は過去にも存在していましたが、近年、アパレル業界や美容業界を中心にD2Cの事業が増えてきています。

D2Cの特徴には、以下の4つが挙げられます。

  • すべてを担う
  • 自由度が高く、変化できるポイントが多い
  • 顧客からのフィードバックを得やすい環境にある
  • PDCAを早く回せる

一般的には、商品がユーザーの手元に届くまで、自社商品を中間業者に委託し、小売店に並べて販売します。D2Cの場合、企業が自社で一貫して直接顧客に商品が届けられるまでの過程をすべて担います。ECサイトなどで注文を受けた後に、独自の流通網や宅配便で顧客の自宅に届けられる場合が多いですが、その他にも、体験型のショップに商品が送られ、試着などをした上で購入するモデルもあります。すべてを一貫して担うことにより、その他の利点が生まれます。

すべてを担うことから、D2Cは他社の事情に左右されることが少なく、サービスや商品に対して柔軟に調整できます。そのため、自分たちのこだわりを反映したプロダクトアウトなもの作りが可能になります。商品を直接顧客に届けるため顧客からの声を商品やサービスに反映しやすく、PDCAも素早く回せるのがD2Cの特徴です。

SPAとD2Cの違い

D2Cと類似しているビジネスモデルとして挙げられるのが「SPA」です。SPAは「Speciality store retailer of Private label Apparel」の略で、企画から製造、販売を一貫して自社ですべてを行う業態のことを指します。有名なブランドでは「ユニクロ」や「Gap」、「ZARA」などが挙げられます。

D2CとSPAの違いは、最終的に顧客に商品を販売、流通する際の違いだと言われています。D2Cは、自社運営のECサイトを軸にしており、比較的事業として立ち上げやすい。一方のSPAは、店舗を軸にしており、店舗の開設などのコストがかかりやすくなっています。

D2Cブランドでも実店舗を展開しているケースもありますが、初期はECサイトをメインで事業をスタートし、事業が軌道に乗ってきたらポップアップストア等で実験的に実店舗に挑戦し、その後常設店を展開するという方法をとることが多くあります。また、店舗自体も単なる商品の販売場所ではなく、顧客に商品を体験してもらう、顧客とのコミュニケーションをとるなど従来の店舗とは役割が異なっているケースが多く見られます。

D2Cという言葉には、「Consumer」という言葉が入っているとおり、顧客のためにどう商品を作り、届けるかを中心に考える顧客中心のビジネスモデルだと言えます。

D2Cが盛り上がる背景

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D2Cが盛り上がる背景として、以下の3つが挙げられます。

インターネットを通じて直接企業と顧客が繋がる

インターネットの普及により、企業が顧客と直接コミュニケーションできる機会は増えています。起業して間もないスタートアップでも顧客と直接やりとりができるようになり、かつ商品の販売もECを立ち上げることで直接可能になっています。これまでは直営店の運営等が、企業と顧客の接点づくりのためには必要でしたが、インターネットによって直接企業と顧客がつながるようになったことがD2Cの誕生を後押ししています。

人々の消費行動の変化

一方で、消費者側にも変化がおきています。ECが登場し、人々がECで商品を購入することも珍しいことではなくなるなど、消費行動が変わっていきているのです。。店頭で試着をしたり、見かけた商品をその場でスマートフォンで調べたりして、店舗では買わずにECで買うといった購買行動も増えてきています。こうした消費行動の変化に、ECを中心に商品を売るところからスタートするD2Cはフィットしています。

企業と顧客の新しい関係性が生まれる

D2Cの盛り上がりをさらに押し上げた要因として、企業と顧客の新しい関係性が生まれていることにあります。企画の段階で顧客との接点を持ち、商品企画にフィードバックをもらうなど、関係を構築しながら製造・販売を進めるブランドも出てきているのです。

また、複数の背景が合わさった特徴的な変化が、クラウドファンディングを用いたブランド立ち上げです。すべてのD2Cに当てはまるわけではありませんが、クラウドファンディングを使ったブランドの立ち上げも珍しいことではなくなりました。クラウドファンディングの登場により、プロダクトの開発に必要な資金を従来より手軽に集めることができると同時に、プロモーションやファン獲得が同時に可能になったといえます。

アパレルからサブスクまで。ブランド力を高めたD2Cの事例

D2C企業は、その世界観から販売方法までオリジナリティーの高いものが見られます。ここでは国内・海外合わせて9つの事例をご紹介します。

作り手の顔が見れるメリットがある|BASE FOOD

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参照:BASE FOOD

「主食をイノベーションして、健康をあたりまえに」をミッションに掲げ、手軽においしく、体にいい主食の開発・販売を手がけるベースフード株式会社は「BASE FOOD」を展開しています。現在提供しているのは、1食で1日に必要な栄養素の3分の1が摂れるのが特徴であるパスタとパンです。

ウェブサイトやスマートフォン等を通して、自社運営のECサイトでの定期購買がメインとなっています。また、D2Cモデルによって、食品において重要な「作り手の顔が見える」という安心感が実現できる特徴があります。

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顧客とのコミュニケーションを通じ商品へフィードバック|Minimal

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参照:Minimal

カカオ豆の仕入れ、選別、成形などチョコレート製造工程のすべてを自社工房で行うBean to Bar Chocolate専門店「Minimal」。「最小限で作るチョコレート」をコンセプトに掲げています。

チョコレート業界では、一般的に商社が仕入れた原料のカカオ豆を、一次加工メーカーで、材料の生地を作り、そこからショコラティエやパティシエの人たちが二次加工します。しかし、Minimalでは、この流通構造の全てを自ら担い、カカオ農家とも直接取引を行なっています。

4つある店舗では、試食などを通じ、近い距離で顧客の反応を見ることで、商品の分析や開発に役立てています。また、SNSを通じて顧客に向けたメッセージの発信や店舗では定期的なワークショップの開催などを行なっています。

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オンラインとオフラインの融合に成功|FABRIC TOKYO

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参照:FABRIC TOKYO

ビジネスウェアのカスタムオーダーサービス「FABRIC TOKYO」は、D2Cモデルを国内でいち早く採用しました。まず、ショールーム型の店舗で採寸を行い、ここでのサイズの採寸データをクラウド上に登録、あとは必要になった時にFABRIC TOKYOの専用ページから、欲しい商品を選択・注文し、商品はご自宅まで配送されます。

これまでのオーダーメイドやカスタムメイドのスーツといえば、高価で、購入にも手間のかかるイメージがありました。ですが、FABRIC TOKYOでは、店舗で採寸さえ行っていれば、データをもとにオンラインですぐに注文できるスマートオーダーシステムで、ストレスなく欲しい時にいつでも自分にぴったりのスーツが購入できるのです。

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【海外事例】D2Cモデルの先駆者|Warby Parker

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参照:Warby Parker

ニューヨークにて、2010年からメガネとサングラスの販売をスタートした「Warby Parker」は、世界で初めてD2Cのビジネスモデルで成功したと言われています。創業時から自社でデザイン・製造し、低価格でハイクオリティなアイウエアを購入することができます。

Warby Parkerでは、好きなアイテムを最大5つまで無料で5日間借りることが出来きます。どの商品が似合ってるか迷ったら、ハッシュタグ #WarbyHomeTryOn を付けてSNSに投稿するとWarby Parkerからアドバイスが届いたり、ECサイト上でライブチャットで相談にのってくれたりするサービスもあります。

ミレニアルズからの支持を得ることに成功し、2015年には『Fast Company』誌上で最もイノベーティブな会社として評価されています。

【海外事例】トータルデザインされた透明なブランディング|EVERLANE

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参照:EVERLANE

2010年に創業したカジュアルウェアブランド「EVERLANE」は、アパレル業界において非常に革新的な思想を持っています。「Radical Trasnparency : 徹底的な透明性」と掲げた信念に基づいて、商品の原価、材料費、労働費、輸送費などのコストの内訳や、製造工場のリアルタイムの様子をECサイト上で誰でも確認できます。

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参照:EVERLANE

セールにおいても「Choose What You Pay」と名付けて顧客が3段階から価格を選ぶことができ、最も高い値段を選んだ場合「製造費や物流費のみならず、私達が成長する為の資金も含んでいます。ありがとう!」とポップアップが表示されるほど、その世界観を徹底的に実現しているのです。

【海外事例】スーツケースの販売から旅を提案|AWAY

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参照:AWAY

スーツケースブランド「AWAY」は、1000人以上の旅行者の声を元に、機能、デザインを形にした顧客目線の製品を生み出し、2015年の創業から2年半で50万個を売り上げました。

製品の取っ手付近には充電バッテリーが内臓され、移動中でもデバイスの充電でき、洗濯物専用の収納袋や衣類を圧縮できる機能などが設けられています。また、壊れてもお店で無償で修理してもらえる生涯保証サービスもつけられています。

【海外事例】世界観を統一した場を提供するための体験トレーラー|Casper

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参照:Casper

2013年から寝具・マットレスを販売する「Casper」は、創業3年目にして200億円の売上を達成する急成長を見せました。当初はECサイトでの販売に特化していたものの、「Casper」の世界観をより深く顧客に理解してもらうためには自社で店舗を開く必要があると考え、2018年からは自社の製品をすべて体験できる実店舗を展開しています。

「AWAY」と同様に買い替え頻度が低い商品を取り扱っているため、オフラインとオンラインを融合させて顧客情報を管理したり、ハイクオリティな雑誌『WOOLY』を発行したりと、顧客との定期的な接点の創出に力を入れています。

【海外事例】デンタルケアの新しいエコシステムを提案|Quip

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参照:Quip

電動歯ブラシの定期購入サービス「Quip」は、2014年に創業して2018年11月時点で累計販売数100万人を突破しました。3ヶ月ごとに歯ブラシと歯磨き粉が届く定期購入コースを事業の中心に据え、コンパクトでスタイリッシュなデザインが人気です。米国歯科医師会とのネットワークも活用し、デンタルケアの新たなエコシステムを提案しています。

顧客との関係性を重視するD2Cの本質

D2CはECサイトからスタートしたものの、多くの企業がオンラインでは完結させずにオフラインも有効活用しています。顧客との関係構築と世界観の体験にこだわった上で成長を模索することが、D2Cの本質と言えるでしょう。

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