「達成すべきCXから逆算してDXとEXを設計する」事業者向けECモノタロウの顧客体験を支える「3X」の視点とは #exp_liveout
事務用品や工具などの間接資材を提供する事業者向けECサイト「モノタロウ」は、10年連続で前年比売上20%増を達成するなど、顧客から熱い支持を集めています。「モノタロウ」を運営する株式会社MonotaRO 執行役 CTO/CMOの久保 征人氏、データマーケティング部門 CXプロデュースグループ グループ長 米島和広氏、同部門 EC基盤グループ グループ長 普川泰如氏が登壇し、その良質な顧客体験を支えるDXとEXの取り組みが共有されました。
2020年9月29日に開催された「Experience LIVE OUT」では、顧客にとっての価値を高めるCXと「DX(Developer Experience / Digital Transformation)」および「EX(Employee Experience)」という、「3つのX」の連環に取り組む企業から、実践と背景にある思想が語られました。
Keynote Sessionには、事務用品や工具などの間接資材を提供する事業者向けECサイト「モノタロウ」を運営する株式会社MonotaRO 執行役 CTO/CMOの久保 征人氏、データマーケティング部門 CXプロデュースグループ グループ長 米島和広氏、同部門 EC基盤グループ グループ長 普川泰如氏が登壇。
同社は、10年連続で前年比売上20%増を達成するなど、顧客から熱い支持を集めています。その良質な顧客体験を支えるDXとEXの取り組みが共有されました。
絶え間ないスケールアップが「CX向上サイクル」を生み出す
「『資材調達ネットワークを変革する』という企業理念を掲げる当社では、データとテクノロジーを活用し、顧客の利便性向上に努めてきました。商品を探し購入、手元に届くまでの時間と労力を最小化する。それが、顧客に届けたい価値です」と久保氏は話します。
事業者向けに間接資材を提供するECモノタロウ。商品数は現在1,800万点を超える
顧客に価値を届けるために同社が掲げるのは、「スケールアップによるCX向上サイクルの構築」です。
久保氏「顧客数を継続的に伸ばすスケールアップこそが、顧客の価値につながると私たちは考えています。モノタロウでは、一顧客あたりの平均購入金額は年々増加しています。売上が伸びれば、そこから生まれた利益を再投資でき、取引商品種類や在庫点数を増やすことに繋がります。
結果として、多様な商品を豊富に取り揃えられ、顧客が望んだ時に望んだ商品を手に入れやすい状態を作ることができます。そして、それはさらなる新規顧客の獲得や、既存顧客の売上向上に繋がります。これを我々は『スケールアップによるCX向上サイクル』と呼び、その実現を目指しています」
顧客、商品、トラフィックなど、ビジネス上多くのデータが入手可能です。沢山のデータを上手く使い、より良いCXに繋げることができれば、それもさらなる新規顧客の獲得や、既存顧客の売上向上に繋がるのです。
このような考え方によって、よりよい顧客体験を作っていくため、モノタロウでは「スケールアップ」に着目し、サービスを成長させてきました。
CX、DX施策を連動させ、シームレスな顧客体験を実現
しかし、「スケールアップを通したCX向上サイクルの構築」の実現のためには、あるハードルがありました。普川氏はそのハードルについて、こう語ります。
普川氏「モノタロウでは、現在1,800万SKU(※)もの商品を扱っています。手動で顧客体験を最適化しつづけるのは難しく、自動で最適化できる状態をつくる必要があります。また、私たちは『スケールアップを通したCX向上サイクルの構築』を目指しており、取扱商品種類や在庫点数は今後も増え続ける予定です。さらにパーソナライズにより個別の顧客毎にCXを最適化するためには、さらに大量のデータを取り扱える必要がありました。そこで取り組んだのが、継続的なスケールアップに耐えうるDX基盤の構築でした」
(※)受発注や在庫管理を行うときの、最小管理単位。同じ種類の商品でもサイズや色が違えば、別々にSKU数をカウントする。カラー展開が3種類、サイズ展開が3種類の商品でであれば9SKUとなる。
こうして始まったのが、2017年の新システム基盤構築プロジェクトです。同プロジェクトではある課題が浮き彫りになったと普川氏は振り返ります。
普川氏「開発チームがエンジニアのみで構成されていたため、CXの観点が薄れ、開発生産性やマイクロサービスアーキテクチャなどにフォーカスしたリプレースの取り組みになってしまいました。その結果、一定の工数をかけてもプロジェクトの方向性が上手く定まらず、、結局半年ほどでプロジェクトは一旦停止しました」
この結果を受け、同社ではシステム基盤構築の目的を再整理。原点に立ち返り、目的はあくまで「顧客により大きな価値を届けること」と定義した上で、再度プロジェクトを開始しました。
普川氏「具体的には、全社で同一データを見られるようにシステム基盤を構築しなおしました。つまり、データサイエンティストやマーケターなど異職種であっても同じデータを見られるように環境を整えたんですね。これによって社内で共通認識が持ちやすくなり、CX、DXで一貫した施策やシームレスな顧客体験を実現できるようになりました」
こうしたDX基盤の整備は、現在モノタロウにおける顧客体験の向上につながっています。例えばサイト上で「手袋」と検索した場合、求めているのが医療用手袋なのか、製造業用手袋なのかは顧客の業種によって異なります。そこでデータを活用し、商品の表示順を自動で調整しています。他にも、正式名称ではなく業界用語(通称)で検索してもヒットするようにするなど、顧客がより早く、より簡単に求めている商品にたどり着ける状態をDX基盤の整備を通して実現したのです。
質の高い顧客体験を実現するために、組織体制を変革
より強力なCX向上サイクルを構築するために、同社が取り組んだのはDX基盤の整備だけではありません。同時に注力したのが、EX向上施策でした。その理由について、米島氏はこう説明します。
米島氏「以前まで弊社では、販売戦略を立案、実行する『マーケティング部門』と基幹システムの構築や整備、顧客データの分析や活用を行う『IT部門』が分かれていました。そのため、部門間で連携をとる際に生じる負荷や、部門間での優先順位の食い違いによる煩雑さが課題視されていました。
その結果、CX向上に関する施策の精度があがらず、改善スピード感も遅くなるといった課題も生じていた。つまり、低いEXが低いCXにつながる悪循環が生じていたのです。こうした状況に鑑みて、顧客に価値を届けるにはEX改善も急務だと考えるようになりました」
そこで取り組んだのが「顧客への提供価値の向上」を主眼においた組織体制の変更でした。具体的には、データマーケティング部門とIT部門に再編。在庫システムや物流をはじめとする基幹システムはIT部門に切り出し、それ以外のCX向上につながるデータの蓄積と活用、販売戦略の立案や実行はデータマーケティング部門で一括して行うようにしました。
米島氏「組織体制の変更により、同一部署にプロダクトマネージャー、エンジニア、データサイエンティスト、マーケター、UIUXデザイナーという異なる専門性をもった職種が集まりました。また、各専門職を集めた「プロデュースチーム」を複数作り、専門家同士がうまく連携ができるようにプロデューサー(一般的にはプロダクトマネージャー)職も配置しています。これにより業務負荷が軽減し、EXが向上しました。それに伴い、CX向上施策の精度が上がり、施策実施までのスピードも早くなりました」
さらに、組織の再編に加えて、コミュニケーションが活発になるようにするための制度設計等にもあわせて取り組んだそうです。
同社では、創業当初より、従業員がメールで「業務で得た学び」や「感じている課題」について週1回報告を行う週報制度も導入しています。週報制度であれば他社でもよく行われているように思いますが、同社の取り組みは少し異なると米島氏は言います。
米島氏「当社の週報制度の特徴は、従業員全員が直属の上司だけでなく、社長や全部門長にも送付する点にあります。例えば、執行役 CTO/CMOの久保のもとには毎週全従業員からの報告が届くわけです。これは従業員が感じている課題にいち早く気づきEX向上に結びつける狙いもありますが、情報を一挙に集めCXに関する課題に気づくためでもあります。包括的な視点からCXの課題を分析する上でも重要な役割を果たしています」
DX、EXは、最終的にはCX向上のための手段である
モノタロウの顧客体験を支えるDX、EXについて語られてきた今回のKeynote Session。最後は、CXとDX、CXとEXの連環を考える際のポイントが久保氏から語られ、締めくくられました。
久保氏「DX推進、EX向上はそれ自体が目的なのではなく、最終的にはCX向上のための手段であると考えています。顧客への価値の提供を一番の目的として、それに紐づく形でDXとEXを考える。これがCXとDX、CXとEXの連環を考えるうえで最も重要な指針になるのではないでしょうか」
Keynote Sessionに続き「Experience LIVE OUT」では、CX、DX、EXという3つの体験に取り組む様々な企業における実践が語られました。各セッションのレポートも順次公開されていますので、ぜひご覧ください。