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膨大なコンテンツと多様な顧客、最適な出会いを創るには?日経電子版によるリテンションの思想と実践|Experience Insights #11

膨大なコンテンツと多様な顧客、最適な出会いを創るには?日経電子版によるリテンションの思想と実践|Experience Insights #11

16th Mar, 2021

丹羽 亮人

丹羽 亮人

にわ・りょうと

株式会社日本経済新聞社 デジタル事業 デジタル編成ユニット マーケティンググループ データアナリスト

2017年に日本経済新聞社に入社。全社的なデータ分析能力の底上げ教育を実施し、100人ほどのデー タ人材を輩出。現在は日経電子版顧客のリテンションを促進すべく、データドリブンに施策設計、実施・モニタリングするなどend2endに活動中。
小宮山 司

小宮山 司

こみやま・つかさ

株式会社 日本経済新聞社 デジタル事業 デジタル編成ユニット 編成グループ モバイルアプリチーム ソフトウェアエンジニア

2019年に日本経済新聞社に入社。入社後は日経電子版アプリ / 紙面ビューアーアプリの開発を担当。現在はリテンションチームのマネジメントを主に行い、各種施策の開発やソフトウェアエンジニアの視点でのレビューも行う。

新聞業界において、競合に先駆けてデジタルシフトに取り組んできた日本経済新聞社。2010年に創刊した電子版の有料会員は75万人を超え、その成長を下支えするエンジニア組織の内製化や表示スピードの“爆速化”プロジェクトも話題を呼びました。

同社は、2019年に職種横断型のリテンションチームを組成。多様な顧客を深く理解し、より役立つ情報を届けるサービス改善に取り組んできました。月額4277円とメディア関連のサブスクリプションサービスのなかで高めの料金設定にも関わらず、2021年1月時点で解約率は1.5%以下を誇ります。

いったいどのように顧客を知り、目的達成を助け、利用を続けてもらうよう関わってきたのでしょうか。リテンションチームのマーケターの丹羽亮人さん、エンジニアの小宮山司さんにお話を伺います。

年齢も、環境も、目的も多様な「目的達成」を支援

日経電子版では顧客の体験をどのように捉えているのでしょうか?

丹羽:前提として、日経電子版をご利用のお客様は、日々のニュースを確認したいニーズはもちろんのこと、お客様独自の利用目的に応じた情報収集を行うニーズもまた存在します。

例えば、投資資産運用の情報を求めている人であれば銘柄の投資判断をするため、就活生であれば企業研究を行うためといったように目的に資する良質な情報を効率的に得られることが、日経電子版の価値でもあります。

その価値を使い始めから実感できる体験を届けることが、日経電子版の価値向上にもつながると思っています。

リテンションチームではそうした価値向上にどのようにアプローチしてこられたのでしょうか?

丹羽:もっとも重要なのは、「目的達成に必要な情報が不足なくお客様に届くこと」。そして、その体験によって得られる価値が「価格に見合っている」と思い続けていただくことです。

例えば、ゲームアプリでユーザーにコインを付与して「嬉しい」と感じて継続してもらうといったインセンティブ設計とは違って、「お金を払う価値がある」と判断してもらう必要があると捉えています。

目的達成に必要な情報を不足なくお客様に届けるのために、リテンションチームではどのようなことに取り組んできたのでしょうか?

丹羽:一言でいうと、膨大なコンテンツと多様な目的の組み合わせを最適化することですね。

日経電子版では、毎日およそ1000本以上のコンテンツが更新されており、その分類の幅も広いです。朝刊・夕刊の記事、電子版限定でトップページ配信している記事、「ストーリー」と呼ばれる話題のトピックを取り上げる記事、あとは企業情報などもあります。

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お客様の目的も、ビジネスパーソンが市場分析や競合調査に利用する、就活生が情報収集に活用する、投資・資産運用の情報源としてチェックするなど、多岐に渡ります。

また目的だけでなく、経済系のニュースへの慣れも多様です。現在の日経電子版は20代から30代の若年層の方も多く、なかには経済ニュースに触れるのが初めての方もいます。一方、日経を長年購読してきた方もいらっしゃいます。

さらに複雑なのは、お客様がコンテンツを読む環境も様々であること。日経電子版にはスマホ・タブレット向けで、横書きの記事レイアウト「日経電子版アプリ」、新聞と同じ紙面レイアウトで表示する「紙面ビューアー」の2種類のアプリ、加えて「日経電子版ブラウザー版」があります。

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コンテンツ数も膨大で、お客様の目的やニュースへの慣れ、読む環境も多様。となると、お客様が目的やニーズに沿った環境設定を行いコンテンツを閲覧する難易度はどうしても上がってしまうんですよね。

顧客目線でのプロダクト改善に加え、記者もお客様に届けたい一心で記事を書いているのに、出会いが最適化されていないと最大限の価値が届けられません。だからこそ、膨大なコンテンツと多様な目的の組み合わせによる最適化が必要であり、それがリテンションチームの役割であると捉えています。

良き案内役となるために、顧客を深く理解する

実際に施策を行うにあたって、多岐にわたる顧客の目的をどのように整理されているのでしょうか?

丹羽:2017年に社内のマーケターを中心に「お客様の目的にどういうパターンがあるのか」について有料会員を対象に調査を行ったんです。

約2、3年がかりで整理した結果、おおよそ3グループに分類できるという結論にいたりました。ビジネスパーソンが「仕事・業務」の情報収集に利用するパターン、就活生や若年層が経済を学ぶなど「自己啓発」のために利用するパターン、主に年配層が「投資・資産」に利用するパターンです。

この分類は、リテンションチームだけでなく社内の分析や施策においても活用されてきました。とはいえお客様の目的やニーズは常に変化するものですからアンケート調査やヒアリングも定期的に行っています。

顧客の目的やニーズを把握した上で、どのように適切なコンテンツと出会えるように支援されているのでしょうか?

丹羽:2019年にリリースした「カウンセリング機能」では、アプリのダウンロード後に、電子版の利用動機や利用状況をたずね、おすすめの機能や環境設定を提案しています。お客様の目的を理解した上で「最低限、このコンテンツや機能にはたどりついてほしい」というものを案内する機能と位置づけています。

いわゆるオンボーディング機能なのですが、私たちは案内役としての意味も込め、「カウンセリング機能」と呼んでいます。携帯電話を契約するときなどに、ショップ店員さんが利用ニーズに合わせて初期設定をサポートしてくれるようなイメージですね。

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こうしたオンボーディングの機能は、答えるべき質問が長すぎると顧客にとって負担になる一方、短すぎると必要な情報を十分に得られなかったりと、バランスが難しそうですね。

丹羽:そうですね。やはり提供者目線だと無限に聞きたいことが増えていきますから。絞りに絞って、必要最低限の3問に落ち着きました。

1問目の「利用の動機」は、どのアプリ、どのコンテンツを案内するか切り口を見つけるため。2問目の「過去にどれくらいの頻度で日経に触れていたのか」は、すでに触れている方には余計な案内をせず、一切触れていない方には「新聞そのものの読み解き方」などを親切に案内するため。3問目の「電子版か紙面ビューアーのどちらを希望するか」は、お客様に最適な環境で閲覧してもらうための質問です。

小宮山:丹羽の言う通り、お客様にとって負担にならないことは非常に重要だと思っています。正直、今の3問でも鬱陶しいと感じる方はいるかもしれないなと感じます。

将来的にはお客様が質問に答える手間をかけずとも、アプリ内での行動ベースで最適なコンテンツや環境設定を提案する機能も実装したいですね。

例えば、日経電子版には、気になるキーワードを登録すると関連ニュースを一覧できる「Myニュース」という機能があります。もし、同じキーワードで何度も検索しているのに、そのキーワードを登録していない人がいたら「Myニュースに登録しませんか?」と提案するなど。よりお客様にとって負担の少ないやり方を検討していきたいです。

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それを提案してもらえたら顧客としてはありがたいですね!ちなみに「カウンセリング機能」を始めてから、顧客の行動などに変化はありましたか?

小宮山:施策の非介入群と比較し、登録後の3ヶ月継続率が4、5ポイントほど改善しました。

特に「日経電子版アプリ」だけでなく、「紙面ビューアー」や「日経電子版ブラウザー版」を利用するお客様が増えました。また週次での来訪日数の増加にも貢献しました。

お客様が目的やニーズに合った環境を選び、必要なコンテンツと出会いやすくなったことが、継続率の向上にもつながったのではと考えています。

「カウンセリング機能」のほかに、必要なコンテンツとの出会いを支援するために行っている施策などはありますか?

丹羽:お客様に合わせたおすすめ記事を、平日の昼頃に注目記事プッシュ通知で配信しています。

配信する記事は、日経IDの勤め状況や業界、年齢によってセグメントを設定し、送り分けています。お客様の開封率や遷移率をチェックしながら、記事選定のアルゴリズムを日々改善しています。

カウンセリング機能とは別のアプローチで、お客様の目的やニーズへの理解を深め、コンテンツとの出会いを最適化できればと考えています。

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スピーディーかつ自由度高く、改善を回せる環境づくり

日経電子版のように膨大な量のデータを扱うサービスにおいて、施策のPDCAを回していくのは簡単ではないと思います。組織体制や仕組みの面で、工夫されていることはありますか?

小宮山:日経電子版を担当するデジタル編成ユニットでは、スピーディーかつ柔軟に改善を行うため、2013年から開発チームの内製化とアジャイル開発への移行に取り組んできました。

2019年からはOKR(※)の導入も進めていて。日経電子版としてお客様に提供すべき価値や事業目標を、有料会員の新規獲得数や継続率などの指標に分解し、それらを達成するための職種横断型のチームを設けています。私たちの所属するリテンションチームも、その一つです。

※ 組織や個人の成し遂げたい「目標(Objective)」と、それが達成できているか判断する「主な指標(Key Results」)」を明確にし、業務の効率化・質向上を行うためのシステム

目標達成するための施策などは基本的にチームに任せられています。内製化によって社内で素早く柔軟に改善を回せるようになり、OKRによって更に自由度高く施策を行える体制が整ってきたと感じています。

継続率の向上を目標に施策をチームで行う上で、継続率以外にはどのような指標を追っているのでしょうか?

丹羽:来訪日数や有料会員限定機能の利用率、エンゲージメント指標などを1週間単位で追っています。

日経電子版は月額会員制なので、継続率だけだと施策の効果を1ヶ月単位でしか評価できないんですよね。それだと評価に時間がかかりすぎてしまうので、代替指標と並行で見ています。

なかでも有料会員限定機能の利用率は、継続率との相関が高いことが分析でわかっているので、代替指標のなかでも特に重視しています。

リテンションチームはどのようなメンバーで構成されているのでしょうか?

小宮山:丹羽含めてマーケターが3名、コンテンツマーケティングを担っている記者が1名、エンジニアの私、以上の5名ですね。全員が他の業務と兼務している状態です。

全員が兼務かつ、少人数のチームで施策を回すのは、大変ではないですか?

小宮山:施策を複数並行して進めることもありますが、基本は3ヶ月間で重要度の高い施策を1つか2つに絞って細かい改善を回していくので、そこまで大変ではないですね。

あと、施策の内容やスケジュールなどは基本的にチームで調整できますし、いわゆる社内調整や承認にかかるコストも少ないです。

社内調整や承認が必要なときも、デジタル編成ユニットはマネジメント層も含め「素早くトライしてラーニングを重ねることに価値がある」と捉えているのでスムーズに進みます。

顧客の体験を向上させるには、そのための取り組みを担う従業員の体験(Employee Experience)や、ディベロッパーの体験(Developer Experience)への働きかけも重要だと言われます。まさにそれを実践されているのだなと感じました。

小宮山:そうですね。いちエンジニアとしても、企画から実装まで社内で完結でき、マーケターや他の職種のメンバーとも連携しやすく、非常に開発を進めやすいです。

私は前職で、自社プロダクトを内製開発をしているWeb系企業や事業会社にいたのですが、その頃と比較してもスピード感は大差ないと感じます。また、開発環境はとても恵まれており、最新のマシンで快適に開発をすることができています。

あと、エンジニアでもマーケターでも、職種を問わずデータドリブンな意思決定に慣れているのも驚きましたね。日経電子版の利用状況や会員属性をリアルタイムで閲覧できる専用のダッシュボードもあり、社内でデータ活用を進めるための環境が整っています。

丹羽:マーケターという立場からも開発が内製化されているのはありがたいですね。

特にリテンション施策は「キャンペーンをすれば何万人増える」といった新規顧客獲得の施策よりも、不確実性が高いと個人的に感じていて。アジャイル的にスピーディーに仮説検証を回しながら、施策の精度を高めていける環境があることは非常に重要だと思います。

行間を読み、顧客に的確な情報を届ける存在へ

最後に日経電子版の顧客にどのような体験を届けていきたいか、今後の展望を教えてください。

小宮山:日経のお客様には月額4277円という決して安くはない料金を支払っていただいています。日経に登録した瞬間、アプリをダウンロードした瞬間から「価格に見合った体験」を届けていきたいと考えています。

冒頭にお話した通り、お客様の目的は多種多様であり「こういうお客様にはこの訴求がバチっとハマる」といった単純な解があるわけではない。今後も仮説検証を重ねながら、理解を深めていきたいです。

丹羽:まさに解がないからこそ、油断すると提供者視点で「あれもこれも」と施策を増やしたくなってしまうと思うんです。でも良かれと思った施策も積み重なれば、お客様にとっては「鬱陶しいコミュニケーション」になってしまうかもしれない。

特に日経電子版で、それは絶対に避けなければいけないなと思っています。カウンセリング機能は初期設定の案内役でしたが、継続的にお客様とお付き合いしていく上では「行間を読んで必要な情報を届けてくれる」コミュニケーションも求められると考えます。「秘書」や学生であれば「マネージャー」、ビジネスパーソンなら「優秀な部下」に当たるかもしれません。日経電子版がお客様にとって頼りになる存在と感じてもらえるような体験を創っていけたらと考えています。

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