顧客をどう理解し、その課題を汲み取るか。KARTEのデータを活用した「顧客戦略」の立案と実践

近年、顧客理解や顧客戦略についての注目が高まっています。サービスやウェブサイトのCX(顧客体験)を向上するには、顧客をしっかり理解し、顧客に適切な施策を行うことが必要です。注目を集める「顧客戦略」について、プレイドのCXストラテジストの藤井が解説します。

こんにちは、プレイドのCPU(CX Planning Unit)という組織でCXストラテジストを務める藤井陽平です。普段は企業の顧客戦略の設計や、顧客体験のプランニングを担当しています。

本稿では「顧客戦略」についてお話をしていきます。顧客戦略とは「どの顧客に何をするか、その方針を決めて、実行に落とし込むこと」と定義しています。どのような商品やサービスでも、マーケティングにおいて基本になる考え方ですが、デジタルによる最適化、数値の可視化が進んだ今、顧客戦略の正しい立案とそれに基づく施策の実施が難しくなっている気がします。

なぜ、顧客戦略の実行が難しくなってしまうのか、正しく実行するためのポイントは何なのか、順を追って解説していきます。

「顧客戦略」とは?

戦略とは、目的達成のための方向性を定めることですが、「顧客戦略」は中でも顧客にフォーカスした取り組みです。本稿では、顧客戦略を「どの顧客に何をするか、その方針を決めること」と位置づけます。

書いてみると当たり前のように思われるかもしれませんが、商品やサービスを提案・訴求するとき、意外に「どの顧客に向けているのか」がぼやけてしまうケースは少なくありません。

顧客像を設定していたとしても、それが実態とかけ離れていたり曖昧だったりすると、アプローチの切り口もピントがずれたものになります。結果、どんな施策を打っても効果を出すのは難しくなります。また、「どのような顧客に届けるか」を定めていても、デジタルの接点では条件に当てはまる顧客を行動データなどから抽出する必要があります。顧客を正しく抽出できなければ、そもそも施策を実行に落とし込めない、あるいは実行しても効果が出づらくなってしまいます。

このような状態だと良い体験の創出は難しくなります。顧客戦略は、CX(顧客体験)を重視する以上、マーケティングにおいて欠かせない考え方だといえます。

顧客データを活かして顧客分析すると、ユーザーが今どんな行動に困っているのかという顧客課題や、まだ満たされていない潜在的な顧客ニーズを知ることができます。顧客課題の解決や、ニーズに合わせたプラスアルファの提案が、選ばれ続ける商品やサービスの構築につながります。

具体的に、顧客戦略は次の3つの要素に分解できます。

  1. どの顧客に
  2. 何をするか
  3. 方針を決め、実行に落とせる状態にする

それぞれのステップで必要なアクションを提示すると、次のようになります。

  1. 顧客理解
  2. 課題設定
  3. 方針決定
customer strategy 1

まず、どの顧客を主な対象とするかを見極めるために、顧客理解を徹底することが最初のステップです。まだ商品やサービスを認知しただけ、会員登録をしただけの潜在顧客から、ロイヤル顧客まで、顧客層全体の分布やその行動を把握し、分類します。

次に、何をするかを、顧客の課題を見つけることで策定します。顧客理解と課題設定は両輪で、精緻に顧客を理解してこそ、どのような課題を解決すると喜ばれるのか的を絞って抽出できます。

そして最後のステップで、課題を達成するための具体的な方針を立て、実行に落とし込める状態にします。これは、たとえば業界の特性や顧客の習熟度、外部環境や競合などによってかなり変わるので、本稿では深くは触れませんが、前述のように顧客理解と課題設定が曖昧だと方針もずれてくるので注意が必要です。

なぜ「顧客戦略」が重要になっているのか

「顧客戦略」は、そもそも良質なCXを構築する上では不可欠な考え方だと述べました。顧客戦略を作る上で必要な顧客分析・戦略設計は難しくなっていると思います。

大きな背景にあるのは、デジタルの一般化です。デジタルマーケティングの発展により、マーケティングは著しく進化しましたが、一方でリスクも生まれているのです。

デジタルマーケティングにおける主なリスクを、3点挙げてみます。

1.最適化のリスク

最適化は、デジタルマーケティングの大きな強みのひとつです。たとえばA/Bテストを繰り返せば、より効果が高い施策はどちらなのかを高速で判断でき、リソースを集中させて効果を最大化できます。これは非常に効率的な方法ですが、AとBで比較してAが選ばれたとき、結果が出なかったBに注意を払うことはほとんどありません。

「なぜ、顧客はAを選び、Bを選ばなかったのか」の分析を怠ると、ニーズを置き去りにしたまま最適化が進んでしまいます。結果だけを見て、顧客を見ていない事態が起こるのです。その場合、重要な顧客理解の機会を見失い、施策が行き詰まる可能性があります。

2.効果測定のリスク

効果測定も、いわばデジタルマーケティングの強みです。効果が定量的なデータで見えやすく、比較検討や絞り込みの客観的な根拠になります。しかし一方で、やはり結果ばかりに目がいきがちです。なぜこのような結果になったのか、顧客体験における課題や要因が見えにくくなるのです。

3.猪突猛進のリスク

1や2とも関連しますが、こうしたデジタルマーケティングの現場では、どうしても目の前の数値に気を取られ、視野が狭くなることが多くなります。クイックに試せることもあって、思いついた施策をどんどん展開していくと、全体の方針を見失うこともあります。それを「猪突猛進のリスク」と表しました。

集計・計測の精度が上がっているからこそ、結果に目が行き、全体観を見る機会を失いがちです。木を見て森を見ずな状態になっているのです。現状、どのような課題にフォーカスしていて、このタイミングでは何をすべきなのか、全体のシナリオを整理することが大事です。

customer strategy 2

デジタルの便利さゆえに生まれている3つのリスクを解説しました。これらのリスクを負わないためにも、顧客戦略を正しく描く必要があります。

顧客戦略を明確にしておけば、今現在の顧客動向が理解でき、どんな課題を解決すべきか整理でき、そしてアクションの優先順位を決めることができます。顧客戦略は、デジタルマーケティングの領域だからこそ大事になってくると考えています。

customer strategy 3

加えて、特にデジタルマーケティングにおいては、「どの顧客にどのようなニーズがあるのか」といった企画方針を定めるためWHOの設定に加え、具体的に「どの顧客に施策を届けるのか?」という施策を実行するためのWHOの設定も重要です。本稿では詳しく触れませんが、デジタルの場合は施策を実行に落とし込み、PDCAを回すことがより重要であるため、二つのWHOが必要になります。

customer strategy 4

顧客戦略立案のポイント1:購入額だけでなく体験軸で見る

ではここから、顧客戦略をつくるポイントについて解説していきます。

冒頭で紹介した顧客戦略の3要素「顧客理解・課題設定・方針決定」のうち、方針決定は個別事情に大きく左右されると述べました。そのため、今回は顧客理解と課題設定におけるポイントを挙げていきます。

前提として、顧客理解では「俯瞰した全体像を理解する」というマクロの視点が重要になりますが、課題設定では「特定の顧客層の課題を抽出する」というミクロの視点が求められます。鳥の目で見てから虫の目で見る、といったイメージです。これらをまず念頭に置いていただけたらと思います。
その上で、3つのポイントを詳説します。ひとつ目は、「ユーザーランクだけではなく体験ランクでも課題を捉える」ことです。

一般的に、顧客層全体の分布をみるときは、購入金額やLTVなどを指標とすることが多いと思います。このような分類を本稿では「ユーザーランク」と表記します。これに対し「体験ランク」は、ユーザーの行動や状態による分類を指します。

以下は、ユーザーランクと体験ランクによる整理を表にまとめたものです。

customer strategy 6

縦軸は、LTVや購入金額などのビジネス深度です。これが一般的にユーザーランクといわれるもので、もっとも深度の高いランクAのユーザーから未購入のユーザーまでを分類します。これはよくある手法で、多くの場合はこのランクごとに課題を探索したり、方針を考えたりします。

たとえば、ある商材でランクAを月額1万円以上購入、Bを5000円以上、Cを3000円以上と設定して分類したとします。Cのユーザーが相当数いるがAが期待より少ないとき、なぜAが増えないのか、どうしたらBやCのユーザーがより多く購入してAになってくれるかを考えていくと思います。

ですが、このような購買額のみを軸とした分類から示唆を発見するのは難しいです。なぜなら、売上の軸から顧客の行動を想像することは難しいからです。

そこで、体験深度と称した横軸を加えます。これはユーザーが商品やサービスを体験し、価値を感じていくプロセスを、いくつかの行動に分解したものです。

体験に注目すると、たとえばランクCのユーザーは「月間来訪数、商品回遊、見ている商品・カテゴリーのいずれも(AやBと比較して)少ない。かつ、セールキャンペーンへの参加が高い」といった行動の特徴が見えてきたりします。すると、ランクアップしてもらうために、ユーザーにどのような体験をしてもらえるといいのか、打ち手も見当がついてくると思います。

体験深度による顧客理解の例

先ほどの例では、体験深度を、主に次の4つに分けています。ここは、できる限りサービス特有のユーザーのサイト行動(〇〇機能を活用、マイページで〇〇の登録をする、〇〇ジャンル商品をカートに入れる、)を入れることがベストだと思います。

1.チェックイン(認知・理解)
2.チェリーピック(試し買い)
3.機能への満足(ハレ買い)
4.ロイヤルティ(推し買い)

体験の軸を入れるメリットは、ユーザーの継続性を見ることにあります。縦軸は金額ベースですが、横軸は金額だけではわからない、サービスを体験するプロセスにおける顧客の課題を見つけることができます。縦軸の金額ランクによって横軸の行動がどのように変化するのかを参照することで、「どうすれば価値を感じ、使い続けてもらえるのか?」を考えられます。

特にウェブサービスでは、継続性が重要です。この視点を一覧にし、視覚的に把握することがポイントです。

たとえば、縦軸のランクCで、横軸・体験深度2と3の枠に注目してください。2の試し買いまでは利用しているけれど、次のハレ買いまでは行きついていないことがわかります。ハレ買いとは、ギフト利用やキャンペーン・記念日など特別なシーンでの買い物と位置づけています。

今、表では「ランクC・ハレ買い」に「×」がついています。どうしたら、このランクで試し買いからハレ買いに移行してもらえるのか、その要因を定量的あるいは定性的に深掘りしていくのです。

customer strategy 5

そもそもこの表をどのように見いだすかというと、顧客の行動データから分析していきます。
たとえば「ランクC・試し買い」が〇になっていることの理由をデータで見るとすると、入会キャンペーンや初回割引の利用量を定量で確認すれば、どの程度到達したかを確認できます。しかし、その後に離脱傾向がとても多かったら、「ランクC・ハレ買い」は×になります。

あるいは特別なシーンでの購入を踏まえて、平日ではなく土日に購入する、といったことが「ハレ買い」とされる商材なら、土日の購入量も判断材料にしてもいいでしょう。このように、商材に合わせていくつかの判断軸で、それぞれのマス目を埋めていきます。そうして一覧にすると、どこに課題があるのかがわかります。

顧客戦略立案のポイント2:ロイヤルユーザー起点で比較する

では、2つ目のポイントを解説します。1つ目の「購入額だけでなく体験軸で見る」では、体験軸を発見するフォーマットを紹介しましたが、2つ目では顧客の課題を見つけるために「深く掘る」方法を紹介したいと思います。

customer strategy 7

課題の見つけ方には、いろいろなパターンがあります。中でも簡単でおすすめしたいのは、「トップラインアプローチ」と呼んでいる、最上位ランクとその他のランクを比較する方法です。前出の表において、ロイヤルティの列のランクAとそれ以外でいくつかの指標を比べます。たとえば来訪行動のパターンや購入率、購入カテゴリーの差などです。

購入額のランクを比較すると、ランクごとの課題を発見しやすくなります。仮にランクCの顧客はAよりも休日の来訪頻度が低いことがわかれば、「ランクAの顧客が何に価値を感じ、休日に来訪しているのか」「なぜランクCの顧客はそれを感じられていないのか」など、定性データと定量データを参照しながら、ランクCの顧客の抱える課題を探っていきます。

顧客戦略立案のポイント3:定量で傾向を、定性で要因を分析

3つ目のポイントは、具体的にどのような分析で課題を設定していくのかについてです。それには、定量分析で傾向をつかみ、定性分析で要因を探ることが有効です。

customer strategy 8

それぞれの分析で、フォーカスすべきことを挙げておきます。

定量分析

1.売上軸
2.行動軸
3.関与軸

定量分析では、ロイヤルユーザーと比較して、全体もしくは特定のランクのどこに課題があるのかを把握していきます。まず1の売上軸は、全体売上だけでなく、クロスセルやアップセル、つまり合わせ買いやカテゴリー横断の購入が起きているかどうかといった具体的な買い方まで見ていきます。これを把握することで、買い方における課題を見つけることができます。

次に2の行動軸は、サイトにするパターンの把握です。滞在時間や、探索的にサイトに来ているか、あるいは短い時間での指名買いなのか、といったことを抽出します。また、1回の来訪ではなく少し長いスパンで見たとき、定期的に来訪して情報を探しているかどうかなどもわかります。購入頻度に比べて来訪頻度がかなり高いと、情報を探す目的が大きいとか、習慣化しているなどがいえると思います。

そして3の関与軸は、言い換えると「どれくらいサービスを使いこなしているか」という軸です。たとえばお気に入り登録の有無、レビューの活用状況などから判断できます。体験軸で「どのフェーズの人がどの機能をどの程度使っているか」を分析することで、お気に入り機能を案内するなど、この後の方針が見えてきます。

定性分析

1.継続理由
2.習慣化トリガー
3.初回体験
4.離脱理由

定性分析では、基本的には定量分析で見いだした課題について、どう改善できるかをロイヤルユーザーの成功要因から深掘りしていきます。4つ挙げましたが、特に注目したいのは2と3です。

2の習慣化に関しては、使い続けるようになったきっかけは何か、リピーターが必ず使う機能は何か、といったことを見ていきます。また、3の初回体験の分析からは、印象として何を残していく必要があるのかなどを見ることができます。

定性分析では、以下のようなフォーマットを用意することをおすすめしています。見るべき視点を事前に設定し、行動データを見ながら想像を巡らせます。

customer strategy 9

行動データの宝庫である「KARTE」の活用

ここまでお話してきた分析は、いずれもプレイドの提供するCXプラットフォーム「KARTE」を使って実践できます。KARTEでは、ウェブサイトやアプリの行動データや自社システムのデータによるマクロな定量分析と、一人のユーザーの1回の来訪、1セッションを細かく把握する定例分析の両方を行うことができます。

また、本稿の顧客戦略のポイント1として解説した図では、縦軸の顧客ランクと横軸の体験深度の両方とも、KARTEで得られるデータをもとに作成しています。

customer strategy 10

特に顧客戦略の策定においては、性別や年齢などの顧客データ、購入金額や購入した商品などの購入データに加え、行動データを参照することが大切です。行動データから、顧客が商品やサービスを体験し、価値を感じる流れを知っておくことで、「どの顧客に何を届けるのか」をより精緻に設計できるからです。

特にKARTEでは、「お気に入り登録」や「商品購入」といったサービス利用の行動だけでなく、その前後で閲覧したページやサイトでの回遊などの行動もデータで把握できます。そのデータを顧客戦略や方針に反映できるので、策定した顧客戦略をアクションに落とし込み、実行するまでをKARTEで完結させることも可能です。

customer strategy 11

実際にKARTEを活用して、顧客戦略を立案・実行されている事例もあります。生鮮品の産直EC「ポケットマルシェ(以下、ポケマル)」です。同サービスを運営する雨風太陽さんは、分析にあたって4万強の行動データを取り扱い、個別のユーザーストーリー(個別のユーザーの行動を1セッション単位で詳しく見ることのできるKARTEの機能)では16名、計3240日分を対象としました。

戦略策定は、データをもとに顧客を知ることから

顧客戦略を正しく立案するための第一歩は、今の顧客動向を理解することです。ビジネス軸だけでなく体験軸から顧客の全体像を捉え、どのような課題を解決するべきか整理し、最後に方針を設定、実行できる状態に落とし込む。そうしたステップを踏んでいくことが重要です。

顧客戦略とは、特にウェブの領域、デジタルマーケの領域だからこそ大事になってきます。自社の商品やサービスの顧客に向き合い、そのデータを精緻に分析して「顧客戦略」の立案に、ぜひトライしてみてください。

TSIが全社に横展開する KARTE成功事例集【15選】無料配布中!

SHARE