CX Story

クルマのサブスクだけではなく人生を豊かにするプラットフォームへ。KINTOが拓く新たな移動体験|Experience Insights #15

「自動車サブスクだけの会社ではなく、『移動のよろこび』を創造する、モビリティプラットフォーマーを目指す」と語るのは、副社長執行役員の本條聡さん。人とクルマの関係や顧客のニーズの変化をどのように捉えてサービスや体験を創ってきたのか。本條さんとモビリティマーケット事業プロジェクトリーダーの北村武さんに話を伺いました。

「人とクルマの新しい関係を提案する」ため、2019年にトヨタファイナンシャルサービス株式会社(トヨタ自動車の100%子会社)と住友商事株式会社グループの出資のもと設立されたKINTO。自動車のサブスクリプションサービス『KINTO ONE』に加え、2021年4月には新たに『モビリティマーケット』を開始。キャンピングカーによるワーケーションやオフロード走行体験、クルマでしか行けないローカル旅など、様々な移動体験を届けています。

「自動車サブスクだけの会社ではなく、『移動のよろこび』を創造する、モビリティプラットフォーマーを目指す」と語るのは、副社長執行役員の本條聡さん。人とクルマの関係や顧客のニーズの変化をどのように捉えてサービスや体験を創ってきたのか。本條さんとモビリティマーケット事業プロジェクトリーダーの北村武さんに話を伺いました。

人生を豊かにし、幸せを量産し続けるために

設立時のリリースで、KINTOは「人とクルマの新しい関係を提案する」と書かれていました。背景にどのような顧客のニーズや業界の変化があったのでしょうか?

本條:まずは、クルマへの愛着や憧れを持たない若いお客様が増えてきたことです。

クルマは馬車に代わる利便性の高い移動手段として誕生し、日本では戦後にモータリゼーションが起きました。当時、多くの人にとって、良いクルマに乗ることはステータスであり、夢でもありました。

それが、都市部を中心に公共交通機関の発達やカーシェアリングの普及などもあり、機能的にも、情緒的にも、クルマを魅力的なものと感じない人が増えた。いわゆる若者のクルマ離れと言われる状況ですね。

さらに業界的には、GAFAに代表されるIT業界の新規プレイヤーが、自動運転技術や各種モビリティサービスを引っ提げて自動車業界に参入。自動車メーカーも製品の品質だけでなく、クルマや移動を軸にしたサービスで勝負しなければ、生き残るのが難しくなっていきます。

こうした変化のなかで、トヨタが掲げる「幸せの量産」を実現するために、「自分のクルマはいらないかな」と思っている方にも、人生が豊かになる、幸せになる体験を伝えていきたい。そのために新しいサービスを打ち出さねばと生まれたのがKINTOでした。

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本條聡 ほんじょう・さとし
KINTO副社長執行役員 CSO 総合企画部部長。東京大学工学部卒業後、住友商事株式会社に入社。パートナー企業の合弁事業4社を立ち上げる。その後、同社の経営企画を経て2019年4月、現職に就任。中長期視点での事業開発やパートナー戦略を推進している。

KINTOでは、これまでどのような体験を創ろうと取り組んできたのでしょうか?

本條:まだ探り探りではありですが、ビジョンとして描いているのは「一人ひとりの『移動』に『感動』を」です。 ニーズに合わせて、移動のよろこびや楽しさを感じられる体験を創りたいと考えています。

そのために、私たちはお客様がクルマを手に入れるタイミングだけでなく、その前後も含めてコミュニケーションし、関係を築く必要があると思っています。

これまで自動車メーカーは、クルマを作った後、お客様とのやりとりや関係構築は、販売店に大きく依存していた部分があります。KINTOでは、お客様とつながり続けるからこその、サービスや体験を実現していきたい。 そのベースとしてサブスクリプションサービスやモビリティマーケットがあると捉えています。

一つのクルマを購入して所有するだけでなく、定額制で利用する、出張先や旅先でレンタカーやカーシェアリングも使うなど、クルマにまつわる幅広い選択肢を提供していきたいと考え、取り組んできました。

顧客と世の中にまだ知られていない移動体験の媒介をする

まさにモビリティマーケットでは、シェアサイクルの旅や超小型電気自動車でのドライブ、カーコーティングなど、移動やクルマを軸にさまざまなアクティビティを提案していますよね。このサービスが生まれた経緯についても伺えますか?

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本條:前提として、移動のよろこびや楽しさを届けるプラットフォーマーとして、体験の選択肢を増やしたい、お客様の人生を豊かにしたいという考えがあります。

KINTOの月額利用料には、車両の代金に加えて保険料や車検代も含まれていますが、そこに「移動のよろこび」もコミコミにしたい。

そのうえで、モビリティマーケットは元々「KINTOを選んでよかった」と満足してもらうため、KINTOの契約者向けの特典として企画をしていました。例えば、旅行やアウトドアなど、クルマに関わるアクティビティを予約できたり、割引を受けられたりするものですね。

ですが、提携先に広く声をかけていくと、想像以上に沢山の企業に協力してもらえました。提携先を眺めたときに「せっかくならもっと多くの方に使ってもらえないか」「モビリティマーケットからKINTOに興味を持つ人も出てくるのでは」といった期待が湧いてきまして。クローズドではなく、開かれたサービスとして立ち上げるに至りました。

北村:まだ世の中に知られていない移動のよろこびを知ってもらう手段になればと考えています。ちょっと体験するのに勇気が必要なところを、私たちが後押ししたい。お客様に「こんなに便利だったんだ」とか「やってみたら意外と簡単だな」といった気持ちになってもらえたら嬉しいですね。

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総合企画部 CX推進チーム 北村武 きたむら・たけし
旅行代理店を経て、株式会社KINTOに入社。モビリティマーケットの運営に携わる。

実際に利用された方からの声などで印象的なものなどはありますか?

北村:キャンピングカーをレンタルされたお客様から「意外と安くて驚いた」という声はよく聞きますね。借りると高いのではないかと思っている方が多いようなのですが、1日1万円台から使えるんです。

また、カーコーティングを利用した方からは、「クルマがキレイになって、お出かけが楽しみになった」という声もいただきました。カーコーティングはモビリティマーケットで一番使われているプログラムの一つなのです。

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なかなか知識やきっかけがないと、体験するのに勇気が必要なところを後押しするという役割は、一定果たせているのではと感じています。

そうしたアクティビティを申し込めたり、旅行やアウトドアの予約・割引を受けたりできるサービスとなると、他にも複数の選択肢があるなかで、どのようにサービスを構想していったのでしょうか?

本條:おっしゃる通り、大手の旅行サイトと安さや利便性で争うのは難しいですから、別の路線でいこうと考えていました。構想の初期は、キャンピングカー貸出や京都の自転車旅など、色々なキャンペーン企画を実施。参加した人への意見からニーズを探っていきました。

その結果を見つつ、提携先の大手旅行代理店の方から「紹介しきれないニッチで魅力的なものが沢山ある」と話を伺ったり、古民家でおばあちゃんの手作りすき焼きを食べるツアーなど、独特な旅行サービスを提供しているベンチャー企業『byFood』と出会ったりもして、最終的には「知る人ぞ知るサービスの提案」に価値があるのではという考えに至りました。新しい移動体験をモビリティマーケットが媒介し、お客様に「こんなのあったんだ!」と楽しんでもらえたらいいなと構想を練っていきました。

顧客の声を聞くだけでは不十分。言葉の奥にあるニーズまで捉えていく

モビリティマーケットに限らず、日ごろ顧客のニーズを捉えるために、どのようなことを実践されていますか?

本條:仕組みを完全に確立できているわけではないのですが、継続的にお客様の声を直接聞くことは、力を入れてきました。お客様の契約から利用開始、解約時に入力いただくアンケートもそうですし、1年ほど前からカスタマーセンターを内製化し、自分たちで運営しています。

カスタマーセンターはお客様の声を聞く重要かつ貴重な接点だと思っています。だからこそ、ニーズを的確にすくい上げ、応えられるようにしたい。

例えば、問い合わせで自動車保険の仕組みを聞かれたとします。そこで単に仕組みを答えるだけではなく、お客様が何を検討し、どう迷っているのかを理解し、役立つ情報があれば合わせて共有するなど。一歩深めた対応に向けた改善やニーズ把握のために、内製化が必要だと考えました。

また、アンケートやカスタマーセンターに届いた声をサービス改善に活かしていくために、気づきや次のアクションを議論する定例会議を月次で実施。定例の内容などは、トヨタ自動車で顧客満足度向上を担うチームにも共有しています。なかなか直接お客様の声を聞く機会は少ないため、色々と気づきが生まれていると聞いています。

KINTOのなかで、実際に顧客の声から得た気づきや、そこからサービスに反映した例などはありますか?

本條:頻繁にいただく質問として「月額利用しているクルマを自分のものにできないですか?」というものがあります。

これ難しいのが「自分のものにしたい」からといって、一生使い続けたいかと言うと、そうでもなくて、掘り下げてみると「今気に入っているクルマに、もう少し長く乗りたい」だったりする。それで3年プランに加えて、5年プランや7年プランを導入しました。

フォード社のヘンリー・フォードは、顧客は欲しいものを知らない、といった趣旨の言葉を残しています。馬に乗っている顧客は「もっと速い馬が欲しい」と言うが、そこでより速い馬を探すのではなく、「もっと速く、安全に快適に移動したい」というニーズを見出したから、フォードの自動車事業が生まれたんですよね。

お客様の声も同じで、本質的なニーズを掴むことが重要なのだと思います。 私たちも日々細かくトライしながら検証を重ねているところです。

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他に検証している仮説などはありますか?

本條:先の話とも関連しますが、今って慣習的に車検が乗り換えタイミングになりやすいんです。

けれど、本来なら人生のフェーズや子供の成長に合わせて、好きなときに乗り換えられる方が良いじゃないですか。例えば、赤ちゃんが生まれたからミニバンにしたい、小学生の子どもとキャンプに行きたいからSUVにしたい、あるいは単純に新型のほうが安全性能も優れていて、カッコいいから乗り換えるとか。

そういった体験を、まずはKINTOから届けられないかと考えていて。2020年5月には、契約から一定期間が経過した後はいつでも車種を乗り換えられる『のりかえGO』をリリースしました。

顧客に合わせて進化し続ける体験、多様な選択肢を

今日お話を伺っていて、モビリティマーケットにあるような「移動のよろこび」を感じられるアクティビティはもちろん、柔軟な契約期間や乗り換えタイミングの最適化など、クルマにまつわる体験のバリエーションが広がっていくイメージが湧きました。

本條:そうですね。もちろん、あらゆる人のニーズ全てに応えるのは不可能ですが、契約プランや申込み方法、支払い方法なども含め、なるべく選択肢を増やしていきたいですね。

また、少し別の広がりの話で言うと、利用者の年齢も幅を広げていけたらと思っています。これまで、基本的には若者に向けて設計していましたし、そこは期待通りに届いています。一方、シニア層にも利用してもらっていて、一定の手応えを感じています。

というのも、KINTOは免許返納が理由なら、中途解約金など不要でクルマを手放せます。「あと何年乗れるかわからないから買い替えはちょっと…」という方でも、気軽に新しいクルマに乗り換えられる。 10年前と今のクルマだと安全性能も全然違うので、悲しい事故なども防ぎやすくなるはずです。「免許を返す可能性もあるから」と諦めず、あらゆる世代が、新しいクルマの性能を享受できるようにしたいですね。

では最後にKINTOとして、今後チャレンジしていきたいことがあれば教えてください。

本條:よりお客様一人ひとりに合わせた「クルマにまつわる体験」を、さらに充実させていきたいと考えています。KINTO自体はクルマのサブスクですが、月額制でクルマを使ってもらうためにこのサービスを立ち上げたのではありません。お客様の多様なニーズに応えるモビリティサービスを幅広く扱うプラットフォーマーになるための一環として、KINTOというサービスがあります。

より手軽にクルマを利用できるようにするサービスとしてのKINTO、クルマにまつわる楽しい体験を提供していくモビリティマーケット。まだ発表できるものはありませんが、これらに続けて、「人とクルマの新しい関係を提案する」ために必要なサービスを立ち上げていく予定です。

また、お客様に合わせてクルマ自体を進化させていくチャレンジもしています。KINTOで利用できる『GRヤリス”モリゾウセレクション”』は、運転の癖や走行データに合わせて、搭載されたソフトウェアを最適化していくプログラムを提供します。

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これまで、自動車は基本的に一度買ったら乗り換えるまで、そのまま同じ。新たな装備や機能は、買い換えるまで体感できませんでした。ですが、今後はお客様が使い続けるほど、体験が進化する。 もっと便利に、楽しくなる体験を創っていきたい。お客様と継続的につながっているKINTOだからこそできるし、やるべきことであると考えています。

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