Event Report

「なぜCXが重要なのか」試行錯誤の末に見出したPeachの答えとは

本記事で取り上げるのは、2012年に国内初のLCC(Low Cost Carrier)として「Peach」の運航を開始したPeach Aviation株式会社、経営企画室マーケットプロモーション部の永澤拓氏が登壇されたセッションです。

2019年11月11日、「KARTEでできること」を「ユーザーの体験価値」に落とし込むための思考を学べるカンファレンス「KARTE CX Conference 2019」を開催しました。

「KARTE Session」では、KARTEを導入する4社をゲストにお招きし、各社の最新事例を通じて、KARTEを使ってどのようなCX(顧客体験)を実現しているのか、事例やその裏にある思考を語っていただきました。

本記事で取り上げるのは、2012年に国内初のLCC(Low Cost Carrier)として「Peach」の運航を開始したPeach Aviation株式会社、経営企画室マーケットプロモーション部の永澤拓氏が登壇されたセッションです。

「CXってなんですか?」
「CXはマーケティングにおいて重要ですか?」

自身も悩んでいたというこの2つの問いかけから、永澤氏のセッションはスタート。KARTEをデータプラットフォームとして活用し、マーケティング戦略をアップグレードしようと試行錯誤する中で得られた気づきとは、どのようなものだったのでしょうか。

サイトでのパーソナライズを実現するためにKARTEを導入

永澤氏 「PeachがKARTEを導入したきっかけは、データを活用すべしという機運の高まりを受け、活用可能なデータ基盤の構築が必要になったことでした。そこで、『顧客データが散在していて別々にしか活用できない』というようなよくある課題に加え、『全ての顧客に対して画一的なコミュニケーションしかとれていない』『アップセル/クロスセルを行える環境がない』などの課題を解決すべく、ツールの導入が検討されました」

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Peach Aviation株式会社 経営企画室マーケットプロモーション部 永澤拓氏

ツール導入にあたっては、複数のツールを検討。いくつかの条件のもと、比較検討を重ねていったそうです。

永澤氏 「目的は、データを活用してマーケティング活動をいわば”アップグレード”すること。そのために、これまで散在していた顧客データ群とアクセスデータを統合してデータベースを構築する、そのデータを分析可能な状態に可視化する、そしてデータに基づいてパーソナライズされたコミュニケーションを実現する。この3つの条件をもとに複数のツールを検討しました」

検討の結果、2019年8月に「KARTE」を導入したのです。複数の候補からKARTEを選んだ理由は、メールを中心としたコミュニケーション強化よりもサイト上でのコミュニケーションを強化することを重視したからだと、永澤氏は語ります。

永澤氏 「一般的に、メールを通じたコミュニケーションは、既存顧客へのアプローチ手段です。しかしウェブサイトでのコミュニケーションを強化できれば、新規顧客にも影響を与えることが可能です。また、2012年の運航開始以来、ウェブサイトが大きくは改修されることなく運用されてきたこともひとつの理由でした。

一般的にLCCはカウンターでの有人販売を行わないため、サイトは顧客との重要な接点となります。Peachも例外ではなく、Web経由でのチケット購入がかなりの割合を占めているため、サイトにおける顧客体験を高めていきたいと考えていました。その点を考えたときに、KARTEが最適なツールだなと考えました。外部委託ではなく自社運用が可能で、もともと使っていたデータベースとの相性も良いといった要因も意思決定を後押ししました」

既存のデータベースとWebサイトを軸にしたKARTE運用

Peachでは、データ統合の「KARTE Datahub」も導入しています。PeachにおけるKARTEの主な使い方は、「Hub-CDP(ハブ・カスタマーデータプラットフォーム)」の構築とウェブサイトの拡張だと永澤氏は語ります。

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永澤氏 「まず、Hub-CDPですが、KARTEのコア機能とDatahubを組み合わせて、既存の購入データや会員データ、アクセスデータを統合、いわゆるCDPの機能を持たせています。ただ、メインのデータベースはもともと使っているデータベースを用い、そこからシームレスにKARTEとデータ連携。統合・加工して書き戻す仕組みとしています。KARTEを、データを利活用するためのハブにしているということです。

もう一つの使い方がサイトの拡張です。これまでのPeachのサイトは静的で、全ての顧客にはほぼ同じコミュニケーションをとっている状態でした。KARTEを使うことで、開発コストをかけて変更を加えなくても、ユーザーに合わせたコミュニケーションが可能となりました。その結果、ユーザーサポートやCVRの改善につながっています」

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KARTEの使い方についての話があった後は、永澤氏からKARTEを利用した具体的な施策、事例の話に。

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永澤氏 「実施しているキャンペーンの対象期間・対象路線を検索した未購入ユーザーに対してキャンペーンを案内した事例です。これは、未実施時に比べてCVRがなんとプラス134%と2倍以上になり、キャンペーンを知らずに離脱しそうになっていたユーザーをうまく購入に繋げることができました。

他にも、未販売期間の航空券を検索したユーザーに、販売開始のお知らせを受け取れるメルマガ登録へ誘導するポップアップを表示した事例です。この施策は、KARTEのアンケート機能で購入せず離脱しそうなユーザーにその理由を聞いたところ、検索した期間がまだ販売されていなかったと回答したユーザーが一定数いたことから実施したものです。

この施策のCTRは10〜15%と通常のメルマガ登録の告知に比べて非常に高く、ユーザーのニーズにマッチしたコミュニケーションができたのではないかと思います」

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CXとは「目的地に至るまでの道の通りやすさ」

試行錯誤しながらKARTEを運用したことで、セッションの冒頭で会場に投げかけた「CXってなんですか?」「CXはマーケティングにおいて重要ですか?」の問いに対する答えが永澤氏の中で見えてきたと言います。

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永澤氏 「ウェブサイトにおける顧客体験とは、”目的地までの通り道の歩きやすさ”だと考えるようになりました。Peachの場合、ユーザーは移動手段を求めているだけなので、必ずしも航空券の購入はPeachからである必要はありません。

そう考えると、Peachのウェブサイトはユーザーにとって目的に至るまでの一つの通り道でしかなく、その道が歩きにくい、つまりウェブサイトが使いにくければ別の道を探すでしょう。だからこそ、ウェブサイトが使いやすければそのままただ通り抜けて購入してもらいやすく、使いにくければすぐに離脱してしまう、ということだと考えました」

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永澤氏 「また、整備された道を歩いても『歩きやすいな』と意識することはほとんどありませんが、凸凹で舗装されていない道は『歩きにくい』とすぐ感じるし、別の道がありそうならそちらを歩きますよね。歩きやすさよりも歩きにくさ、つまり『使いにくさ』のほうが意識され、購入に影響するのです」

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永澤氏 「例えば、Peachでは、『使いやすさを追求するよりも使いにくさを改善する』施策として、購入フォームに改善を加えました。入力漏れでつまずいてしまうことが多かったページで、できるだけユーザーがスムーズに購入手続きを完了できるよう、あらかじめ『すべて入力必須項目のため、お手数ですがすべての欄にご記入ください』と購入プロセス内の痛点を事前にポップアップで案内するようにしたのです。その結果、それだけのことでも安定してCVRがプラス10〜15%になりました。

ウェブサイトにおける顧客体験とは劇的で目新しいものである必要はなくて、スムーズに通り過ぎられればいい。一方で、購入の場面において直接的に影響を与えるからこそ、顧客体験がマーケティングにおいて重要だと腑に落ちました」

起点は常にユーザーにあり、手段は後からついてくる

サイトにおける顧客体験とは、目的地までの通り道の歩きやすさ。そして、歩きやすさを実現するためには、生身のユーザーへの理解が欠かせない、そう永澤氏は語ります。永澤氏自身、ユーザーを知らないことへの強い危機感を抱いたそうです。

永澤氏 「KARTEを運用していたら、なぜこの人は1ヶ月後に同じ条件で検索したのか、なぜ今このような動きをしたのか、疑問ばかり浮かんできました。ユーザーの行動が可視化されたことで、ユーザーのことを全く知らなかったのだと痛感しました。データを見てもユーザーの行動を説明できないことに気づいて、危機感を覚えたんです」

そしてKARTEを導入する前に実現したいと考えていた、統合顧客データベースやパーソナライズコミュニケーションは、言葉だけが一人歩きしてしまっていたのではないか。理想的な状態を考えるあまり、ユーザーを置き去りにしているのではないか。危機感を覚えた後、永澤氏は顧客の視点に立って考え直そうと思い立ったそうです。

永澤氏 「いつ誰に、どのようにパーソナライズしたいのか、その結果として何を実現したいのか。その戦略を立てるためには、まずユーザーを深く理解しなくてはなりません。データは、それを読み解くための材料でしかない。この原理に立ち返って、ユーザーを起点に考えようと思い直せたことこそが、KARTEを導入した一番大きな変化ではないかと思っています」

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何よりも重要なのは、ユーザーを深く理解し、状況に合った施策を実行していくこと──永澤氏は「地に足を着ける」ことの重要性を語り、40分にわたるセッションを締めくくりました。

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